東方キャラを病ませたい   作:ぬいカス

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第4話

 

 

 それから五日の時が流れた。

 

 霊夢の熱は平常へと戻り、体調も快方へ向かったが、○○は未だに博麗神社に留まっていた。理由は一つ。霊夢が○○から離れようとしないからだ。

 

 ○○はこの間ずっと、霊夢と一緒に居た。霊夢が一人で歩くことすら困難な状態だったのだから仕方がない。

 食事や排泄など生活に必要な事は、可能な限り全て面倒を見た。その甲斐あってか、霊夢は徐々に元気を取り戻していった。今ではすっかり以前の調子を取り戻したように見える。

 

 しかし、それは表面上の話だ。内面では以前とは大きく異なる変化が起きていた。

 霊夢は○○に対して甘えるようになった。○○が少しでも離れようものなら、悲しげな顔をして袖を掴む。そればかりか○○の姿が見えなくなると不安げな声を出し、泣き出してしまう事もあった。

 ○○は困った。どうすれば良いのか分からないのだ。こんな状態の少女を放っておくわけにもいかず、結局、霊夢と過ごす日々が続いている。

 

 ○○の霊夢への印象は、最初は大人びた少女という感じだった。十代半ばという年齢を考えれば、かなり背伸びをしているように感じる。

 実際、彼女は子供っぽいところがあるのだが、○○の前ではそれを見せないようにしていたと今は分かる。彼女が時折見せる幼い言動や行動は演技ではなく、素なのだと。○○は霊夢との短い付き合いの中でそれを理解していった。

 

 

 ○○が霊夢と過ごしている間、魔理沙が何度か神社を訪れた。霊夢を心配して様子を見に来たのだろう。だが霊夢に追い返されてしまい、ろくに会話をする事が出来なかった。

 霊夢は魔理沙を敵視しているらしく、彼女が訪れると露骨に不機嫌そうな顔になった。

 

 ○○は帰ろうとする魔理沙を霊夢に気付かれないようにして呼び止め、霊夢の事を聞こうとした。魔理沙は○○の事を未だ怪しんでいたが、会話をしていく内に徐々に打ち解けていき、警戒心を解いてくれた。

 

 そして魔理沙は霊夢の素性を○○に教えてくれるようになる。

 魔理沙が言うには、この数日間で霊夢の様子がおかしくなったのだと。○○は首を傾げた。

 おかしいと言われても、普段の霊夢としか接していない彼にはピンとこない。○○は素直に疑問を口にする。

 

「俺から見た限りじゃあ、いつも通りだったと思うけど……」

 

「お前はそうかもな。でも私は違うんだよ」

 

「どういう意味なんだ?」

 

「私と霊夢って、他の誰よりも付き合いが長いんだぜ? 異変解決とかで一緒に行動する事も結構あったからな。異変が終わったら終わったで宴会したりもしたし。それで、霊夢の性格もある程度分かってるつもりだ。霊夢は誰に対しても平等に接する。博麗神社の巫女として当然の事かもしれないけどさ。でも……あんな風に誰か一人だけに懐くような真似はしなかったはずだ。それが、突然お前にべったりとくっつくようになって、私が邪険に追い返されるなんて……正直、訳がわからないぜ」

 

 ○○は黙って話を聞いていた。確かに言われてみると、霊夢が自分に対する態度は変わっているように思える。距離感が近すぎるというか、まるで恋人に接するような……。

 

 そこまで考えて、○○は頭に浮かび上がった考えを振り払う。霊夢と自分は、まだ出会って数日の関係なのだ。それに歳も一回り以上離れている。自意識過剰にも程があるだろう。

 そう自分に言い聞かせ、○○はこの話題を打ち切る事に決めた。

 

「引き止めて悪かったな。色々教えてくれてありがとう」

 

「いやいや。まあ、あんたがまともな人だって分かったからいいよ。この前は、変に疑ってごめん」

 

 魔理沙はそう言って、○○に向けて右手を差し出した。仲直りの握手を求めているようだ。

 ○○はその手を握り返す。魔理沙の手は温かく、柔らかかった。

 

 その時、○○は背後に異様な気配を感じた。振り返ると、そこには霊夢がいた。彼女は無言のまま二人を見つめている。

 ○○は魔理沙との握っていた手を離す。霊夢は二人の側まで歩み寄ると、魔理沙を睨み付けた。

 

「何をしているの」

 

 霊夢の声は今まで聞いた事がないくらい冷たかった。魔理沙は怯えた表情を浮かべながら答える。

 

「な、何だよ急に。ただ話をしていただけだろ?」

「ふぅん。二人で仲良くお喋りしていただけなのね」

「……そうだぜ」

「そう」

 

 霊夢は短く答えると、いきなり魔理沙の右手を掴んで引っ張った。

 魔理沙はバランスを崩して倒れそうになるが、なんとか持ち堪えて踏み止まる。

 

「何すんだよ! 痛いじゃないか!」

 

 霊夢は無言で魔理沙の腕を捻じり上げた。少女の力とは思えないほど強く、魔理沙の顔は苦痛で歪む。

 

「あぎっ!? いっ……!」

 

 魔理沙は腕を引き抜こうとするも、全く歯が立たない。それどころか更に強い力で締め上げられていく。

 霊夢はそのまま腕を引っ張って、境内にある木々の奥へと連れ込もうとする。

 その光景を見て、○○は慌てて霊夢を止めに入った。

 

「おい、霊夢。一体どうしたんだよ」

 

 霊夢は○○の言葉を聞いて動きを止める。そしてゆっくりと○○の方へ振り向いた。

 彼女の顔は笑顔だった。しかし目は全く笑っていない。鳥肌が立つような恐ろしい形相だった。

 

「○○さん、少しだけ待っててね。すぐ終わるから。ちょっと、二人きりで話がしたいの。大丈夫、すぐに終わらせるから」

 

 霊夢は○○に優しく語りかけるように言うと、再び魔理沙の方を向いた。

 ○○は言葉が出なかった。目の前にいるのは自分の知っている霊夢ではない。そんな気がしたのだ。○○が何も言えないでいる間に、霊夢は再び魔理沙を連れて森の中に入って行った。

 

 ○○は呆然と立ち尽くす。

 しばらくして我に返り、急いで霊夢の後を追おうとした。

 しかしその時、森の中から霊夢が姿を現した。魔理沙の姿はない。霊夢だけが一人で戻ってきたようだ。○○が声を掛けようとする前に、霊夢が口を開いた。

 

「ごめんなさい。待たせちゃって」

 

 先程の事が嘘のように、いつも通りの口調に戻っている。○○は戸惑いながらも彼女に質問を投げかけた。

 

「……あの子は?」

 

 ○○の問いに対して、霊夢は微笑んだまま答えない。代わりに別の事を言った。

 

「ねえ、○○さんの手を見せてほしいの」

 

 霊夢はそう言って○○の右手を掴む。○○は反射的に手を引こうとしたが、霊夢の力が強すぎてビクともしない。

 ○○は仕方なく霊夢の要求に従う事に決めた。彼は自分の手の平を上向きにして差し出す。

 すると霊夢はその手を取って、指の一本一本をじっくりと見始めた。

 ○○は緊張しながらその様子を眺めていた。

 彼女はしばらく黙っていたが、やがてポツリと言った。

 

「手を洗いましょうか」

「……え?」

 

 ○○は思わず拍子抜けしてしまった。

 霊夢は有無を言わさず、○○の右手を掴んだまま歩き出した。行き先は手水舎だった。○○は抵抗する事も出来ず、されるがままに付いて行くしかなかった。

 

 博麗神社にも手水舎が勿論ある。○○は霊夢に連れられて、そこへとやって来た。以前にも来たことがあったが、その時とは状況が大きく違っている。

 

「はい、どうぞ」

 

 ○○は霊夢に手渡された柄杓を使って水を掬うと、左手の甲にかけようとした。

 しかしその瞬間、○○の左手首が何者かによって掴まれる。同時に鋭い痛みを感じた。

 

 見れば、霊夢が一連の行為を止めるように手首を強く握っていた。○○は驚いて彼女を見る。

 霊夢は何も言わず、ただ笑みを浮かべて○○を見つめているだけだった。○○の背筋に冷たいものが走る。

 

「そっちじゃないでしょ?」

「……いや、左からで合っているはずだが」

「違うわ。○○さんの体の中で汚れているのは、右手だけよ」

 

 霊夢は優しい声で言いながら、○○の手首を握った手に力を込める。この少女の体からは想像できないような強い力だ。

 ○○は霊夢の顔を見た。彼女は相変わらず笑顔のままである。しかしそれはどこか不気味で、恐ろしくもあった。

 

「わ、分かったから、手を離してくれないか……」

「ええ」

 

 そう言うと、霊夢は素直に○○の左手を解放した。○○は観念して、霊夢に言われた通りに柄杓を左手に持ち替えて、水をすくった。そしてそのまま右手を清める。

 

 ○○は今になって、ようやく霊夢の意図を理解した。先程、魔理沙と握手した手が右手だった。霊夢はそれを見て、洗わなければならないと判断したらしい。

 しかし、魔理沙の手が特別汚いとまでは思わなかった。そもそも、霊夢が何故そこまでこだわるのか理解できなかった。

 

 ○○は霊夢の行動について考えようとしたが止めた。考えて分かる事ではなさそうだからだ。それよりも、早くこの場所を離れたかった。これ以上霊夢と一緒に居ると、何か良くないことが起こりそうな気がするのだ。

 ○○は手を洗い終えて霊夢の方へ振り向くと、なるべく感情を抑えつつ話しかける。

 

「なあ霊夢」

「んー?」

 

 霊夢は首を傾げて返事をする。○○は少し迷ったが、思い切って話を切り出した。

 

「俺さ、ここに来て六日目じゃないか。そろそろ里に帰らないと駄目だと思うんだよ」

 

 ○○の言葉を聞き、霊夢の表情から笑みが消える。

 霊夢はゆっくりと○○に近づくと、彼の目を覗き込むようにして言った。

 

「どうして? ○○さんは私と一緒に居るのが嫌になったの?」

 

 霊夢の声音には抑揚がなく、平坦だった。○○は霊夢の目を見ると、彼女の瞳の奥底には得体の知れない闇が広がっているように感じられた。

 ○○は慌てて視線を外す。

 

「いや、そういうわけじゃなくてだな……」

 

 ○○は言葉を選びながら、慎重に話すことにした。

 

「別に霊夢が嫌いって訳じゃない。ただ、いつまでも此処に留まってばかりいるのは良くないと思うんだ。俺は人里で暮らす身だし、あまり長く家を空けているのもまずいだろ? それに、霊夢の看病が必要だったからとはいえ、大人の男と少女が二人きりで一つ屋根の下というのは……な? 霊夢も元気になった事だし、一旦帰ろうと思っているんだよ」

 

 最後の方は若干早口になりながらも、何とか最後まで喋る事ができた。

 ○○は霊夢の様子を窺う。彼女は俯いたまま黙っていた。霊夢が何も言わないので、○○は不安になる。

 

 しばらく沈黙が続いた後、霊夢が顔を上げて○○を見た。その瞳には光が宿っておらず、まるで虚空を映しているかのようだった。

 

「……また、私を置いていくの? また、私を一人にするの? 私はずっと待っていたのに。私の側に居てくれる人を。でも、やっと会えたと思ったら、あなたは私から離れようとするのね」

 

 霊夢は○○の目を見つめたまま、独り言のように呟く。

 ○○は思わず一歩下がった。目の前の少女の様子が明らかにおかしい。先程までとは別人に見える。霊夢の雰囲気が変わったことで、境内の空気まで変わったような気さえした。

 霊夢は○○の反応など気にしていない様子で、淡々と続ける。

 

「ねえ、どうしたら私と一緒に居てくれるの? 何が欲しいの? お金なら好きなだけ持っていけばいい。お酒だってあるわよ。美味しい料理も作ってあげる。何でも言って。私ができることは全てやる。私の体を好きにしてもいいの。あなたの言うことに従うし、逆らうつもりもない。だからお願い。どうか側にいて」

 

 霊夢は一気にまくし立てると、○○に向かって手を差し伸べた。○○は呆然としていたが、すぐに我に返ると、霊夢が差し出してきた手を乱暴に払いのけた。

 乾いた音が響く。霊夢は払われた自分の手をじっと見ていたが、やがて○○の方へ向き直った。そして、再び彼に近づこうとする。

 

「や、やめろ!」

「きゃっ!」

 

 ○○は反射的に霊夢を突き飛ばした。

 霊夢はよろめき、地面に尻餅をつく。しかし、すぐに立ち上がってもう一度彼へと歩み寄ろうとした。

 

 ○○は怯えていた。霊夢に対してではなく、彼女から発せられる異様な気配に対してである。

 今、目の前にいる少女は人間ではない。そんな気がしてならなかった。

 

 霊夢が人間離れした力を持っている事は知っている。だが、今の霊夢はそれだけでは説明できない何かを感じさせた。○○は本能的な恐怖を覚えた。この場に留まるのはまずいと判断し、逃げ出すために駆け出そうとする。

 

 次の瞬間、霊夢が○○に飛びかかった。

 突然の出来事だったため、○○は反応が遅れる。彼はそのまま押し倒され、馬乗りにされた。○○は抵抗しようとしたが、身体が金縛りにあったように動かせない。

 

「何で逃げようとするの? 何から逃げようとしているの? 何でそんなに怯えているの? どうして?」

 

 霊夢は○○の顔を覗き込みながら尋ねる。その表情は相変わらず無感情だったが、声音からは狂気じみた執着心が感じられた。

 ○○は必死にもがくが、全く歯が立たない。彼の上に乗っている霊夢は微動だにしないままだ。

 

「そんなに暴れないで。○○さんを傷付けたくないの。大丈夫。お願いだから怖がらないで。何もしないから。ただ、私とずっと一緒に居てほしいだけなの。それだけよ。それなのに、なんで分かってくれないの?」

 

 霊夢は悲しげに目を伏せて呟くと、ゆっくりと顔を上げた。

 ○○は霊夢の瞳を見て戦慄を覚える。彼女の瞳は赤黒く染まっていた。そこには光が無く、底なし沼のようにどこまでも続いている。まるで深淵のような瞳だった。

 霊夢は無言のまま○○の頬に手を当て、愛おしそうに見つめる。

 

「ああ……私の気持ちを分かってもらうには、どうすれば良いのかしら? こんな時、どんな風にしたらいいの? ねえ、教えて……」

 

 霊夢は○○の耳元に口を寄せ、囁きかける。その言葉一つ一つが呪いとなって○○の心に絡みつき、侵食していく。

 それから正面へと向き直り、吐息がかかる距離まで顔を近づけると、○○の唇を奪った。

 

「んっ!?」

 

 ○○は目を見開く。一瞬、何をされているのか分からなかった。数秒後、ようやくキスされているのだと気づく。

 

「ふっ……ちゅぷっ。れろぉ……うぅんっ」

 

 霊夢は口づけをしながら、○○の頭を撫で回していた。○○はどうにか引き剥がそうとするが、霊夢はびくりとも動かない。

 ○○は呼吸が苦しくなり、酸素を求めて口を開けた。すると、すかさず霊夢は自分の舌を○○の口内にねじ込む。

 ○○の口内に侵入した霊夢の舌は、彼のそれと絡まった。彼女の唾液が○○の喉奥に流れ込んでいく。○○はその甘美さに脳髄の奥が痺れるような感覚を覚え、全身から力が抜けていった。

 

「あむっ……ちゅうっ。じゅっ。はぁっ……○○さんの唾、美味しいわ。もっとほしい……」

 

 霊夢は○○の顔を抱き寄せ、さらに深く接吻をする。互いの粘膜が擦れ合う度に背筋に快感が走り、頭が真っ白になっていった。

 

 しばらくして霊夢は○○の口から自分のそれを離す。二人の間に銀色の糸が伸び、やがて切れた。

 霊夢は○○と繋がったままの視線を外す事なく、再び彼に問いかける。

 

「はあ、はあっ……うふふ。○○さんの顔を見ていたら、体が勝手に動いちゃった。口付けって凄いのね。初めてだったけど、癖になりそうだわ。胸がきゅっと締め付けられて、鼓動が強くなって、息苦しくて、身体が熱くなるの。でも不思議。全然嫌じゃない。むしろ心地良くて、いつまでもこうしていたい気分になるの」

 

 霊夢は微笑みながら言うと、今度は軽く触れるだけの口付けをした。○○の思考能力は完全に奪われており、何も考えられない状態だった。

 

「好き。好きなの。○○さんが好き。大好き。好きが溢れて止まらないの。もう抑えられない。止められないの。私分かったわ。この気持ちが恋だって。これが人を想うことなんだって。今まで恋とか愛なんてくだらないと思ってた。何の価値も無いと思っていた。だけど違った。私はあなたに出会って本当の意味で恋を知ったんだと思う。そして今、その感情が爆発するのを感じたの」

 

 霊夢は○○の手をとって、そのまま自身の胸に持っていき、手のひらを押し付けた。服越しだが、○○の手に柔らかな膨らみの感触が伝わる。

 

「分かる? 私の心臓の音。あなたのことを思うだけでドキドキして、嬉しくて、楽しくて、頭がおかしくなりそうなくらい幸せな気持ちになれるの。こんな気持ちになったのは生まれて初めてよ。○○さんも同じでしょ?」

 

「……違う、俺は」

 

「嘘つき」

 

 霊夢はそう言うと、○○の胸に自身の胸を重ねるようにしてうつ伏せになった。二人の顔の距離は鼻先が触れ合いそうになるほど近くなる。

 霊夢は○○の目をじっと見つめたまま、彼の手を握りしめていた。彼女の荒い吐息が顔にかかり、○○の体温が上がる。上気した少女の表情は妖艶さを帯びていて、思わず見惚れてしまうほどだった。

 

「ほら、感じるでしょ。私達の心音は同じ間隔で動いてる。私たちの心は繋がっているのよ」

 

 霊夢の言った通り、○○には自身のものと霊夢のもの、二つの心臓の鼓動が重なっているように感じられた。どちらの音も早鐘のように鳴っている。まるで共鳴しているかのように。

 

「隠しても無駄。誤魔化せないわ。本当は分かっているんでしょう? ○○さんも私のことが好きだって。だから、あんなにも私に優しくしてくれたのよね。素直になれないのは、ただの照れ隠しだものね。大人な所を見せようとして無理しているのよね、うふふっ。そういうところも含めて全部大好きなの。○○さんの全てを愛してるわ。もちろん○○さんの全てが欲しいの。魂も体も心も、○○さんの全てを独占したいの。他の誰にも渡したくないの。○○さんはずっと私の側に居てくれるわよね。永遠に離れることは無いわよね。約束してくれるわよね。ねえ、答えて。ちゃんと○○さんの口から聞きたいの」

 

 霊夢の言葉は切実だった。彼女は○○にすがるような視線を向ける。○○はそんな彼女を突き放すことはできなかった。むしろ受け入れたいという想いが強くなる。

 

「……俺は、いや……俺は霊夢が好き……なのかもしれない。そう、なのかも。分からないけど、でも、俺が霊夢を好きなことは間違いないはずだ。……あ、ああ?」

 

 言葉にしてみると、自分の気持ちがよく分からなくなる。本当に自分は霊夢のことを好きになってしまったのか。それとも何か別の理由があるのではないか。○○は混乱していた。

 しかし、それでも霊夢への好意を否定することはできない。脳が溶けてしまいそうなほどの熱と幸福感に包まれている。霊夢への愛おしさが爆発しそうだ。もはや○○は冷静ではなくなっていた。

 

「そうよ。○○さんは霊夢が好き。霊夢が大好き。霊夢を心から愛している。なら何も問題はないじゃない。だって私たちは両思いなんだから。お互いが好き合っているんだから。○○さんは私のことだけを考えていればいいの。私のことだけを好きでいれば良いの。私があなたを守ってあげる。私があなたを愛するわ。私があなたに尽くしてあげる。私があなたを支えてあげる。私はあなたの、ただ一人の味方よ。絶対に裏切ったりしない。これから先、何があっても変わらない。いつまでも一緒にいるの。もう離さない。一生、死ぬまで、死んでからも、生まれ変わっても、この世界が終わるまで、永久の時まで、私は○○さんと一つになるの。二人で幸せになりましょう。二人だけで幸せになるの。他は何も要らない。邪魔をするものは全て排除する。私にはそれだけの力がある。人間、妖怪、神、霊、どんな存在であろうと敵じゃない。そして、○○さんは私だけのもの。私以外の存在は○○さんにとって害悪でしかない。私だけが○○さんの唯一の理解者。私だけが○○さんの全てを受け入れることができる。だから、安心して。私と一緒なら何も怖くないから」

 

 霊夢は○○に再び口づけをする。それは誓いのキスというよりも、呪いに近いものだった。彼女の言葉は○○の心に絡み付き、決して解けないように縛りつけるのだ。

 

 ○○は抵抗できなかった。霊夢の言葉を聞いているうちに、彼女が自分の事をどれだけ思ってくれているのかを痛い程理解させられた。霊夢から向けられる愛情は、もはや狂気的と言っていいほどの激しさを持っていた。だが、○○はそれを不快だとは思わなかった。むしろ心地良いと感じてしまった。それほどまでに霊夢は真剣なのだ。霊夢は本気で自分を求めている。ならば自分もそれに応えなければならないと思った。もう霊夢を恐れる必要はない。

 

 ○○は霊夢を抱きしめた。

 すると霊夢は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑った。

 ○○と霊夢は互いに強く抱き合ったまま唇を重ね合う。互いの唾液を交換し、舌と舌とを絡ませ合い、熱い口付けを交わし続ける。

 しばらくして、霊夢はゆっくりと顔を離すと、○○の耳元で囁いた。

 

「……ずっとこうしていたいけど、外だと落ち着かないから、神社の中に入りましょうか。そこでいっぱい、仲良くしましょうね」

「……ああ」

 

 二人は手を繋いだまま、境内の地面を踏み締めながら歩いていく。霊夢の表情は幸せに満ち溢れていた。彼女の心は一片の隙間なく○○への愛で埋まっていて、○○以外の事を考える余裕など無いのだろう。

 それが良いのか悪いのか、○○には分からなかった。むしろ、そんな事を気にする必要はないのだ。自分は霊夢を愛し、霊夢に愛される。それだけを考えていれば、それで……。

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