第一話『第一部メインクエスト開始』
あなたは、ノースティリスの冒険者だ。
神々には遥かに届かぬが、それでも常人より永い時を生き、間違いなくノースティリスの最強の一角だ。
底も見えぬ暗き穴「すくつ」で暴れ回り。手慰み程度にハンマーを育て。脱税の為に強化されすぎた衛兵に追われ。妻となって久しい黒天使とその子供達と共に演奏虐殺パーティーを開催し。ノースティリスに訪れて以来信仰を捧げ続けた露出癖という次元を超越した格好の敬愛する女神様に手合わせを願った結果弓で射貫かれ。「ポンコツ!」を願って嘲笑い、その後実際にポンコツを降ろし完膚無きまでに叩き潰しミンチにしてポンコツの祭壇をポンコツの死体で乗っ取り嘲笑う。
そうして飽きる事無く世界を遊び倒していある日、あなたの足元に不思議な手紙が転がってきた。
★≪箱庭への招待状≫
見たこともないアーティファクトだ。
妹の日記のようなものだろうかと拾い上げて鑑定してみる。詳細にはこう書いてあった。
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それは *あなた* に向けて送られた手紙だ
それは紙で作られている。
それは読んだ者を箱庭に送る。
一度開けば消滅するよくある手紙の一つ。この手紙が送られてくるという事は高名な冒険者という事だろう。読んだ者を楽しませる事は確かだが、読んだ者が帰ってきた事例はない。
~よくある手紙名鑑~
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躊躇いもなく中を開いた。見たことがない固定アーティファクトだ。なにが起こるか不思議でならない。
箱庭というのが何かはわからない。送るとあるが、恐らくはネフィアか依頼の類いの移動した先だろう。もしくはムーンゲートの先のような世界かもしれない。
どちらにせよ、暇つぶしにはちょうどいいだろう。
あれこれ考えながら中身を読んで反省した。やはり未知のものにぶつかっていくのは間違いのようだ。
死んだ方が遥かにマシだろう。死んだなら所持金と所持物の一部を落とすだけだ。
家族、友人、財産、世界。その全てを捨てて箱庭に来いとは一体何なのだろう。
あなたには悩み多き異才などない。少年少女という歳でもない。いや冒険者カード上は少年少女というべき歳だが。
そもそも才能を試すなら「すくつ」で十分事足りている。何処までも深く潜れば敵はドンドンと強くなっていくのだ。
大抵の場合、自作の魔法属性メテオで消し飛ばせるが。
あなたは何処までいこうとただの冒険者で、ノースティリスに密航してきただけの平凡な生まれの凡人だ。
膨大な時間を捧げ根性と努力で廃人へと至っただけだ。異才の悩みなどない。
強いていうならエーテル病が悩みだが、これは異才ではなくただの病気だ。
そもそも大事な妻の黒天使や子供達、同じ廃人の友人達、あなたの生涯を費やして集めたアーティファクトや神器、無駄に集めた剥製を飾った博物館を捨てるなどそれこそ「埋まる」事を選んだときしかありえないのだ。
そんなあなたの怒りに反して体は上空4000mに放り出されていた。あなたの全く見知らぬ空の彼方へと。
あなたの脳裏をふとよぎったのは、かつてムーンゲートの先の部屋一杯に居た幸運の女神様が一斉に「うみみゃあ!」と叫ぶ姿。つまりはまず間違いない死。
階段から転落して死ぬ事もあるノースティリスの冒険者が上空4000mから落ちたらどうなってしまうのか。想像に難くないだろう。
出来上がるのはあなたとあなたが敬愛する女神様の口癖と同じ「ミンチ」だ。
落ちるあなたの周囲に三人ほど同じように叫んだり笑ったりしている少年少女がいるが、まぁ仕方がないだろう。
駆け出しの頃だったらこの段階で冒険者になったこと、生まれてきた事を悲しんでいる事だろう。
とはいえ幾度となく自身の屍を築いてきたあなたには死ぬことなど今さらなことで、どうせ死んだところで這い上がるだけだ。ステータスが多少落ちたところで動じはしない。多少面倒だが上げなおせばいい。
あなたは周りが狂人を見る目で見てしまう程に几帳面で、廃人と呼ばれるようになった頃には潜在能力のポーションを量産して祝福して飲み続け、常に主能力は*Superb*。
技能の潜在値も全て最大の400%を維持しているのだ。全てが上限の2000に到達して久しいし、使い道が無くなってプラチナ硬貨も溜まり続けているが。
と、色々と考えていたら遂に死ぬときが来たようだ。
ぶつかる前にダメ押しのテレポートでも唱えてみればよかったなと、もう少し死に抵抗すべきだったかもしれない。どうでもいいが。
落下している途中で水の膜に数度ぶつかったが落下速度が全く落ちない。ダメージ判定が発生していて地味にどころか悲痛な叫びをあげるほど痛い。
あなたは川に落ちた。
*
最後の一瞬でせめてもの抵抗として契約の魔法を唱えておいて正解だったかもしれない。
落ちている事が理解出来ている上に、落ちたら死ぬことが分かっていればどうとでもなるのだ。
それにしても割合や%ダメージはどうにも好かない。防ぐ手段はあるが理由あって頼りたくないし、他の手段として耐性やらPVやらDVやらを上げることで防げたり回避できるというなら幾らの金でも時間でも積むことだろう。
現実は残酷ではあるが。
こんな召喚方法をした世界に一矢報いなければ腹の虫が収まらない。
核がいいだろうか終末がいいだろうかメテオが良いだろうか。それともポンコツを血溜まりに沈めるか。
ポンコツを殺すのはとりあえず確定でいいだろう。
機械弓は弓とついているから弓の部類なのだ。異論は認めない。死ぬがいいポンコツめ。加速加速加速……。
なんて馬鹿な事を考えていると、あなたと同じ様に落ちて何故か生きている、周りの少年少女達があなたに目を向けていることに気が付いた。どうやら自己紹介を求められているらしい。話を聞いていなかった。
馬鹿正直に名乗るのもつまらないと、あなたの家のメイドが我が家に勝手に名付けた名前の「あえげ仁」と名乗ってみた。
……どうやら不評のようだ。普通に名乗るとしよう。
しっかりと名乗り直したものの、彼らの目線が若干冷えたものになっている。それなら何故聞いたとミンチにしたくなった。
ゴミみたいな弱さの少年少女を叩き潰すのは楽しい。もちろん勝てるかわからない強敵との死闘も楽しいのだが。
「目隠しして座っていても勝てる」少年少女らなど敵ではない。結局ミンチになればどれも一緒だ。
というか、いい加減一体どういう状況なのかそろそろ説明がほしい。
あのクソ緑ですら起きあがったあなたに即座に説明をしたというのにどれだけ放置するのだろう。
説明をしないなら帰るだけなのだが。
上空から呼び出されたという事は帰り道は同じく上空だろうか。ムーンゲートも見当たらないし、階段も、部屋の出口も見当たらない……。
待ってほしい、これでは帰れないのだが。
死ぬか帰還の魔法を唱えるか、あるいは脱出か、それらで帰れるのだろうか。
しかし見たこともないアーティファクトの効果だ。帰れない可能性がある。
周りの三人も同じ考えに至ったのかわからないが、茂みに隠れていた人……人?
ウサギの耳が生えているあたり野ウサギと遺伝子合成を行ったであろう人、そんな誰かのペットを捕まえていた。
囲んでウサ耳人で遊び倒しているがふざけている場合ではないだろう。
あなたは自分のいつもノースティリスで行っている、自覚のある問題行動の数々を棚に上げて対処に向かった。
あなたはやるべき時にはやる人なのだ。
助け出した、というよりは場を収めてとりあえずウサ耳人からいろいろと説明を受けた。
爆殺した緑髪のエレアやチリンチリンと五月蠅かった妖精よりも丁寧な説明に感動を覚えつつ、あなたなりに噛み砕いた説明にしてみよう。
まず、あなたは箱庭と呼ばれる異世界に来てしまっているようだ。
ムーンゲートの先とはまた違うという事も理解できた。
というのも、説明の途中でペット達につけていた紐を引っ張ってみたがあなたの仲間は姿を現さなかったし思えば聴診器の反応が無い。
仲間がいなくなったのは少し悲しいが、割といつも死んだりなんだりでいなくなっているから今さらだという感じもする。
それに、あなたの仲間たちはあなたがいない程度で堪える様な軟弱な者達ではない。
この程度で動揺するなら、遥か昔から今まで一緒に旅などしてこれないだろう。
運が良いのか悪いのか判らないが、ウサ耳人の説明通りならこの世界は≪神々の遊び場≫とのことだ。
それならきっとノースティリスの神々もいるだろう。
敬愛する女神様に会うことが出来ればあるいは帰還に関してはどうにかなるかもしれない。相談したら馬鹿なことを言うなとミンチにされそうな気もする。
それよりもポンコツを殺せる可能性がある方が嬉しい。ポンコツがいることを喜んだような感じになってしまった。死んで敬愛する女神様に懺悔しなければ。だがポンコツの死体でポンコツの祭壇を乗っ取る方が懺悔になりそうだ。よし。
とはいえ未知の神々と手合わせできるのかもしれないというのも喜ばしい事だ。
見知らぬ神の剥製やカードが手に入る可能性があるし、何よりあなたの強さを確かめられる。
そろそろ数万に届くかなと思っているすくつを潜るあなたはいい加減既知だらけの敵に退屈していたのだ。
この世界ではどうやら桁数が低い程強い者が多いらしい。
今あなたがいるのが7桁。最高が1桁。だが実質は2桁が最強らしい。
他にも、箱庭内で行われているゲーム……依頼の様なものだろうか……に参加するのにコミュニティ……ノースティリスでいうギルドだろうか……というものに入る必要があるなどなどetc……正直どうでもいい。
いい暇潰しになるな、と伝えたところウサ耳人がなにやらホッとした顔をしていたがどうしたのだろう。
殺されるとでも思っていたのだろうか。それなら早く逃げた方がいいだろうに。この珍しい珍生物の剥製やカードが欲しいのだ。
まだ道案内などに使えるから殺さないが。
どうでもいい余談だが、金髪の少年がなにやら決め台詞らしきものを吐いていた。
死亡フラグだと嘲笑ってミンチにしてみたくなった。やや世界を舐めている態度が見えるから這い上がった後いい感じに羞恥の顔をしてくれそうだ。
*
やや時間が経ち、あなた達は森の中を歩いていた。金髪の少年が早々に離脱を決めていた。
あなたが単独行動をとるならまだしも、そこまで強くも無い少年が単独行動を始めるのは死亡フラグと言う物だろう。
一体あの少年は幾つの死亡フラグを建てるのだろう。殺してみたくなってウズウズしてきた。
駆け出し冒険者の様に身の程を教えて上げなければ。このままではきっと少年の黒歴史になってしまうだろう。それはそれで嘲笑えるが。
箱庭はアクリ・テオラと形状が少し似ているかな、と少し思った。とはいえ規模が違うし、なによりポンコツの根城と比較しては箱庭が可哀想だ。
ちょっと殺意が沸いたが気にするほどの事でもないだろう。
門を通ると小さな子供が駆け寄ってきた。あなたは犯罪ではないにしても、雪玉を投げつけてこない限り子供を殺すつもりはない。雪玉を投げつけられるといちいち足を止められて面倒なのだ。
農村の何処からだろうとあなたを見つけ出して付きまとってくる銀髪の子供は食料だから違うが。
ウサ耳人がようやく少年が居なくなったことに気づいて、怒りながら探すために去っていった。
早くウサ耳人は本名を教えてほしいところだ。呼びづらくてしょうがない。
黒ウサギという自称は黒天使とやや語感が似ているし本名ではないはずだ。少なくともあなたはそう思っている。
妻の黒天使だって、黒天使は種族名の様なもので本名は別にあるのだ。彼女もあるに決まっている。
ジンと名乗った子供に付いていきながらキョロキョロと話も聞かずに辺りを見回していたら気が付いたら喫茶店に着いた。
そこまで高いお店な気もしないがあなたの肥えた舌を満足させてくれるのだろうか。
適当に注文を済ませたところで少女の片方、春日部と呼ばれた少女が猫と話せることが分かった。
パルミアの北側にヤバい猫好きが居た気がしないでもないが『その類の人』なのだろうか。
下らない事を考えていたらピチピチスーツの変人が遠くからこちらを見て、しばらくして近寄ってきた。あなたに変な格好で近寄ってくるとは怖いもの知らずなのだろうか、剥製にしたくなる。
どうやらピチピチスーツの変人はあなた達を勧誘に来たらしい。それもジンという子供の所属するコミュニティを扱き下ろす説明で説得にかかってきている。
状況が、名が、旗が。そのどれもが足りないのがジン少年のコミュニティの現状らしい。
なんといえばいいのだろうか。ステータスも足りない、呼ばれる異名も無い、名声も無い。そんな状態で冒険者やっています。といえばいいのだろうか。
冒険者とも言えない状態で冒険者やっています。の状態のコミュニティというかなんというかウンヌン。詳しいことはどうでもいい。頭が痛くなる。
あなたの頭の中で駆け巡った謎の例えはさておき、どうやらピチピチスーツは嘘は言っていないようだ。嘘をいっていたらカードを回収しているところだが。
そんなことよりピチピチスーツが致命的に似合っていない方が正直気になる。話が欠片も入ってきていない。
服装似合ってませんよ。装備の更新時期では。とかなんとか適当に伝えて煽ったら青筋を浮かべて怒りだした。
このピチピチスーツ、面白い。
ミンチにするのは少しだけ待ってやろう。
──あなた自身は所属などどうでもいいと考えている。
所属によって便利不便が変わったりはあるのだろうが、本質はほとんどかわらないのだろう。
寝泊りに関しては霊布製重さ0.0sの幸せのベッドを持ち歩いてるし野営は数えられない程行ってきている。
食糧だって一、二年は遊んでも暮らせる量を四次元に蓄えているし、最悪死ねばいい。それで治る。
最低限の身分証明が出来ればあなたにとって他の大抵の事はどうでもいいのだ。
身分証明ができなくても名声を高めればいいだけだが。
弱小コミュニティがなんだというのだろうか。あなたが冒険者を始めた時は吐いて捨てる程いる雑魚共より弱かったのだ。
弱小どころか蟻のフンだ。蟻のフン。今は巨人すら息を吹きかければミンチに出来るが。
魔王がどうとか言っているが、ティリスの神々よりも強いのだろうか。すくつ万桁階層の主より強いのだろうか。
どんな敵が来ようとあなたは簡単に負けるつもりはない。むしろかかって来いと叫ぶだろう。あなたは強敵をミンチにすることが好きなのだ。
あなたがもし負けるのであれば、幾百、幾千、幾万回の死と這い上がりのトライ&エラーで勝ち筋を探し出すだけだ。
それに弱小や雑魚と侮られていた方が倒したときに楽しそうだ。
などなどの理由もあり、やんわりとピチピチスーツの申し出を断った所ピチピチスーツは何故か怒り出してしまった。
飛鳥と呼ばれていたあなたと同じ様に落下していた少女の一人がピチピチスーツに命令形で話しかけたところ、ピチピチスーツが動けなくなっていたが何をしたのだろうか。
呪いの言葉だろうか。だが行動停止の様な呪いの効果は見た事が無いが。
飛鳥という少女が色々とピチピチスーツに問いただしたところ、あなたの眼から見てもピチピチスーツが犯罪者だということがわかった。
子供を食い殺したことはどうでもいいしあなただってやってるが、一般女性を殺すことは犯罪だ。カルマがほんの少し下がる。それもかなりの数を殺っているようだ。
一通り質問が終わったようで、再びピチピチスーツが動けるようになると、なんとあなた達に向けて襲いかかろうとしてきた。
中立の生物なら心優しいあなたは気が向いたり弓が間違って向かない限り殺さないが、範囲攻撃に巻き込んできたり殴りかかってくるなら敵と見なして即ミンチだ。
面白い格好だし、面白く殺してやろうと思ってどのようにミンチにするか顎に手を当てて悩んでいたら春日部という少女が取り押さえていた。
良い仕事だ。ミンチにしやすい。
と思っていたが……いや、待って欲しい。何故飛鳥少女はギフトゲームで決着をつけようなどと言っているのだろう。このピチピチスーツのカルマ値はあなたの目から言えば-50位だろうか。どう見ても全国指名手配だ。問答無用に殺して良いはずだ。あなただってガード達に問答無用に襲われる位なのだから。
あなたとして思うところはあるものの。
結局、あなたは彼女達の意思に従うことにした。
郷に入っては郷に従えという言葉もある。
この箱庭でどこまでやらかして良いのかがわからないというところもある。仕方が無いが今回は譲ろう。
あなたは場の流れに合わせるのが得意なのだ。空気をちゃんと読む大人なのだ。
その後、再び現れたウサ耳人は不思議な苗を携えていた。即座に鑑定の魔法をかけてあなたは興奮した。
★≪水樹≫
使用できるアーティファクトだ。
大気中の水分を集め、水を生み出す樹だ。
そう、【水】だ。
実際そこまで必要としているわけではないが、大量に手に入るというなら話は別だ。この水樹は何としても欲しい。
必要なときに必要な量がなくて手に入れに出掛けるのが面倒とも言う。
マテリアルを集めるのもしんどい。
水樹に関しては後で回収するとしよう。
……また話を聞きそびれてしまった。どうやら移動するようだ。付いていこう。何をしに行くのだろうか。この先にも貴重なアイテムがたくさんありそうだ。
あなた達がついたのは、ラーナという温泉街に存在する建築によく似た建物だった。川に落ちた体を温泉で暖めてくれようと考えてくれたのだろうか。
勝手にご満悦になったあなたはくるしゅうないと、呟きながら店員によって下げられつつある暖簾を潜ろうとした。
なぜか店員が仁王立ちして止めてきたが知ったことではない。
敵意を向けてきているが割とどうでもいい。今、あなたはご満悦なのだ。多少の愚行は笑って許そう。
あなたがやんわりと押し通ろうとしたところ店員から即座に攻撃が飛んで……きかけた。
店員の攻撃は寸前で止まった。おそらく被我の力量差に気づいたのだろう。
「目隠しして座っていても勝てる」店員などあなたと戦って勝ち目などないのだ。
……まぁ、レベルが強さに直結するわけでは無いが、それでも廃人たちはレベルが上がれば上がる程に強さを増していくからレベルが高くなければ強くないのだろうとあなたは考える。
万単位、それこそ十万単位などのレベルまで来ているから正直当てにはならないのは確かだが。どれも雑魚に見える。
──さて、ここまで箱庭という世界を歩いて見て来て思うのは、レベルが欠片も高くないということだ。
具体的なレベルまではわからないが、それでも強い者はレベルが高いものだ。
あなたのおふざけ全開の装備群でも赤子の手を捻るより簡単に倒せる。小指で軽く捻ればミンチだ。
さて、そんなあなたの探知が現在この和風建築の中にちょっと強い雰囲気を感じ取っている。
「あなたを正面から殺せるかもしれない存在がいる」と。
風呂屋に居るというのが驚きだが、あなたを殺せそうな雰囲気漂う超上存在といえども風呂には入るだろう。
紳士であるあなたは風呂屋で戦う気は無いが、向こうがその気なら応じるつもりだし出てきたなら出てきたでこちらから戦う意思を向ける。
あーだこーだと外野が五月蝿い中、あなたが改めて暖簾を潜ろうとした時にそれは向こうから飛び出してきた。
これ幸いと殺意をぶつけて喧嘩しようと思ったが、相手が凄い笑顔だったので一瞬反応が遅れてしまった。
とても騒がしい上になにより普通の人間でも反応目視できる程の鈍い動きなので遊んでいるのだろう。
故に放置しておいたが、黒ウサギが絡まれたようだ。俗にいうダル絡みという奴だろうか。黒ウサギが *きもちいいこと* をされそうになった。
特筆するほどの事では無い。あなたにとっては至って普通の事だ。
伊達や酔狂で長年生きていない。あなたはその方面でも遊び倒しているのだ。金を貰う方だが。
そのまま超上存在に招かれるまま建物の中に入った。
どうにも戦うタイミングを逃してしまった。後でいいタイミングを見つけて殴りかかろう。
どうやら彼女? はこの風呂屋のオーナーのようだ。これはきっと最上級の風呂に招かれるのだろう。
ほくほくとした顔で中に入ったが、和風の部屋に通されただけだった。あなたとしては早く風呂に入りたいのだが。
──風呂は、と尋ねたところ笑われた。そういう事のために来たわけではなかったようだ。
黒ウサギが戦々恐々としていた。
なに、あなたはあなたの勘違いによって醜態を晒しただけだ。
とりあえずこの怒りは発散させてもらおう。
喧嘩を売るタイミングだろう。それにどうやら、目の前の超上存在は噂の魔王らしい。
つまり全力で叩き潰して問題ないということだ。倒せるなら倒してみろ、と目の前の存在も言っている。
ならば挑むのみ。なに、見たことの無い技で殺されたなら殺されたで面白いではないか。
あなたの眼前に広がる世界が様相を変え、あなたは世界の変遷を目撃した。
世界が変化を終えて、あなたの目の前に広がったのは太陽の沈まない白い大地だった。
あなたは四次元ポケットから魔法威力向上方面に鍛え上げた生きている剣とすくつ用の全力時の装備を取り出した。
太陽の沈まぬ白夜の地平。
白く染まったその世界であなたはニコニコと優しい笑顔を携えて対峙する。
超上存在の名は「白夜叉」
相対する廃人は「あなた」
相対する二人以外は全ての者が下がる。
それが正しい。だが、それでも足りないというのが本音だ。
あなたが加減も容赦も無く本気を出せば、あなたの意思とは裏腹に周囲の全てを消し飛ばし、悉くをミンチにする。
ノースティリスの各地もそうして何度滅んだことだろう。
あぁ、それでも知ったことか。
今はただ、久方ぶりの強敵との出会いに。敬愛する女神様にただひたすらに感謝を捧げよう。
開戦の鐘が鳴り響いた。
あなたは、常人であれば瞬きひとつの間すら与えない速度で駆け寄る白夜叉を、かたつむりの鈍い這いずりを見るような目で眺めつつ、始めた。
敬愛する女神様に祈りを捧げて力を授かる。一時とはいえ、女神様を自らの体に宿す。あとは簡単だ。加速の魔法を唱えるだけ。
現在の白夜叉の速度は、あなたの目測ではおよそ1500だろうか。
普通であれば相当の努力の果てに手に入る速度だ。一般人の通常の速度である70の20倍近い速度とは恐れ入る。
大抵の普通の者達であればまず勝てないだろう。
普通であれば、だ。
忘れてはいけない。普通の人は廃人とは呼ばれない。
ノースティリスにおいて廃人と呼ばれる者はまず間違いなく全員が全員、速度を含め悉くのステータスは最大の2000に到達しているのだ。
そして、あなたもまた廃人と呼ばれる身。
あなた自身はちょっとした技術で見えない様に翼と脚を隠してはいるが、狙って特定のエーテル病を発症している。
そして、エーテル病は発症者のレベルがあがればあがるほど、エーテル病による効果は増加していく。
醜い顔はより醜く、重い甲殻はより硬く、翼や蹄を持つものはより。速く。
加速の魔法や憑依、装備諸々含めれば約70000にあなたの速度は到達する。
常人のおおよそ1000倍だ。
相手が1000秒をかけて、つまりは16分をかけて移動する距離を一秒で移動する速度。
ノースティリスの廃人の間では『速度一万問題』なる問題があるそうだが、あなたにとってはどうでもいいことだ。
速度の差、というものはどこまでも理不尽なもので恐ろしくついた速度差のある戦いというものはもはや勝負にすらなりはしない。あなたはポンコツを瞬殺するのが趣味なのだ。
趣味が高じて、廃人に至った。
最速とは、あなたの代名詞だ。これだけは誰にも渡しはしない。
……まぁ、黒天使曰く『平行世界のノースティリスの廃人達にはあなた以上の廃人は沢山いる』そうだが。
少なくともあなたの世界ではあなたが最速だ。それでいい。それで十分だ。
関わりを持つことすら出来そうにない平行世界の有象無象など知ったことか。可能性だけなら幾らでもある。考えていてはきりがない。
さて、意識を戻そう。
白夜叉との勝負は一瞬。
瞬き一つすら許さぬ程に圧倒的な、歴然とした速度の次元の戦いの決着は……
……着こうとしたところで終わりを告げた。
加速の魔法詠唱後に即座に四次元から持ち替えたあらゆる属性の追加ダメージを徹底的に付けた近接攻撃特化の生きている首狩り武器による連撃が彼女の首を切り飛ばすより先に、あなたの敬愛する女神様の声があなたの脳裏に響いたのだ。
剣を振り抜こうとした体勢のままピタリと時がそこだけ止まったかのようにあなたは固まり、恍惚とした表情のまま固まったあなたの顔面に白夜叉の拳が見事に勢いよく突き刺さったが、あなたの体力は100も削れていない。
あなたはそのまま剣を手放し、戦闘放棄を宣言して負けた。
それでいい。それがベストだ。
女神様があなたに戦うなと命じたのだから。
女神様曰く、白夜叉は女神様のお茶飲み友達だったようだ。
これは数百回死んであなたのミンチの山を捧げて詫びなければいけないだろう。
知らなかったとはいえ、女神様の友人に手をかけようとしてしまったのだから。
滂沱の涙を流して何処かに自身の首を吊ろうしているあなたを全員が止めているが止めないで欲しい。
あなたは死んで詫びなければいけないのだ。
白夜叉があなたに、それならば茶のお菓子をくれれば許すと言ってくれた。
それで許してもらえるなら安いだろう。女神様もあなたにそれで白夜叉が納得するなら、とそうするように命じてきた。
それならばと、向こう数百年くらい分のお菓子を今後捧げていくとしよう。
それはそうと、急に通信が出来るようになったのは何故だろう。
そう思い、装備を見直したところ箱庭に来たときは作業用の装備で、いつものすくつ用装備でなかったため【神が発する電波をキャッチする】エンチャントが外れていた。
通りで声が届かないはずだ。最近あまりにも気が抜けていた上に付いているのが当然だった所為で忘れていた。
女神様に謝罪しつつ、帰る方法を尋ねてみた。
……直接会いにくれば帰らせられる、とのことだった。
聞いたところ、目の前の白夜叉は二桁との事。
箱庭で女神様が何処にいるのかはわからないし、尋ねても教えてもらえなかったが白夜叉で2桁なら女神様はもうオーバーフローの果てにマイナスまで行ってるのではないだろうか。
1桁が最高だというのはわかっているが、実際にあなた自身の目で見てみないと強さがわからない。
それがどのくらいの高みなのかはわからないが、あなたが対処できない程の超級の存在など極一握りだろう。
女神様を探すことに……探すことになるのだろうか? 今も電波が届いてはいるのだが。
帰り道の心配はいらない気がする。
とりあえずは、この世界を堪能してみよう。
そうときまれば、Let's 異世界観光の時間だ。いつだって退屈を殺すのは未知なのだ。
あなたは、いまや箱庭の冒険者だ。
どうも赤坂です。
elona作品でのクロスオーバーが少ないと思ったんですよ。ええ。
触発されたともいうのですが。
ぼちぼち書いてた作品を投稿していくスタイル。
誤字脱字は多分結構あるんじゃないですかね。
そこまでプロット練ったりしてないんで流れがおかしい所もあるでしょう。
もしかしたら直っていくかもしれない。
とりあえずこの作品は気分で書いてるので更新凄く遅いと思うのでご注意を。
ではでは。
2019/6/20
・★≪箱庭への招待状≫のアイテム説明を加筆。よりElonaらしく整形。