おおよそ一週間ほどで再開された箱庭南側<アンダーウッド>で開催される収穫祭。
白天使が走り回って怪我人や重症の者達をひたすら回復させて回った結果、そこそこ早く復興が終わった。
あなたも手伝いがてら病気になった者に祝福ポーションを投げつけまくっていたというのもある。
本来であれば依頼の期間と被っていた為参加出来ない筈だったが、魔王の襲撃やなにやらで依頼が期間半ばで完了扱いとなりあなたは参加する事にした。
ちなみにあなたが勝手に参加する事にしただけであり、黒ウサギその他に参加を許可されたわけでは無い。
本拠の警護はまぁいいだろう。どうせ報酬も無ければ名声も上がらない。
ついでで受けただけの依頼でもない『ただの頼み』だ。
そんなことより家族であるプチの白天使と一緒に祭りを謳歌して笑顔にするのが一番大事だ。
所々に壊れた跡などが見えるがそれでもお祭りは始まっている。
白牛のチーズ焼きなどとても美味しい。
くるみナッツの詰め合わせ、とかいうよくわからない物をポリポリと食べながら歩き回る。
珍しい物が沢山売っているから祭りはやはり好きだ。
白天使も太陽すら暗闇に見える程眩しい笑顔でもっちもっちとチーズ焼きを頬張っている事だし世界も平和だ。
ここに黒天使もいたらあなたも今世紀最大最高の笑みでいられるのだが。
なんやかんや色々が終わった後のお祭りの解放感は凄く好きだ。
レシマス攻略が終わって当面のすることが無くなった時もよくノイエルのお祭りに顔を出したものだ。
まぁ当初はお土産屋の物を買う程お金は無かったのだが。
今でもあの値段設定は桁を一つ間違えているのを疑っている。
……ふと、収穫と言えば。最近収穫の魔法を唱えていなかったことを思い出した。
魔術師の収穫。唱えれば空からお金やらいろいろ降ってくる魔法。
様々な魔法を実験している際には戦闘に関係ないなら、となんとなく放っておいたがはたして。
十中八九間違いなくノースティリスのお金が落ちてくると思う。ただの勘だが。
神託やら願いやらが置き換わっているから万が一が有り得るが、九割近い魔法がそのままの効果なのだ。だとしたら魔法使いの収穫もと思うが考えるのが面倒くさくなった。
唱えてみた。魔法強化の生き武器は抜かずに。
箱庭のお金が降ってきた。
<サウザンドアイズ>発行の「金貨」が10,838枚。降ってくるのは一回だけのようだ。
そんなことはどうでもいい。即座に仕舞った。これはダメだ。人をダメにする。大金とかいう単位ではない。
東側では境界門の起動に1枚。
あなたが無造作に金庫に報酬やら換金したお金を叩き込んでいるから蓄えはあるとはいえ。
今の今まであなたがちょろちょろとギフトゲームや白夜叉やら様々なコミュニティから頼まれる依頼を色々こなしてギフトを売り捌いたりなんだり色々やりまくって半年で稼げて50枚ちょっと。
それが一瞬で、たった一回唱えるだけでゴミの様に手に入る。魔法強化武器を持って唱えたら、おそらくさらに。
今までの地味な苦労とは。
そう思う事請け合いだし、なによりバレたら間違いなく多方面に怒られる。主に白夜叉。
というか、なぜ<サウザンドアイズ>発行の金貨がピンポイントで落ちてきたのだろう。たまたまか。
見なかったことにしておこう。四次元ポケットにでも突っ込んでおいて、たまに豪遊するくらいでちょうどいいじゃないか。
うむ。そうしよう。
考えるのが面倒くさいともいう。怒られるのも面倒くさい。
棚からぼたもちだ。お祭りで豪遊しておこう。それでいい。
*
白天使を伴って屋台をひたすら巡って荒らして回っていたらなんだか面白い催し物を見つけた。
なんでも、斬る! 焼く! 齧る! の三工程の食事が取れる豪快な催し物だ。
あなたは度重なる食べ歩きで満腹なのだが、白天使はいかがだろうか。
「まだすいてるー!」
よし、GO。お金は気にしなくていい。
そう思ったものの、先払い形式で以降食べ放題お手頃価格という親切設計。
先に耀が飛び込みで喰い荒らしている姿があるのも特徴的だろうか。
元々プチだったとはいえ、今では速度も余裕で2000に到達し装備でさらに強化されてるお陰で白天使は速度も足りている。
つまり目にも止まらぬ速度で食べられるし、姿は幼女なれど中身はプチという特性もあり実質体全体が胃袋みたいなものだ。
沢山食べて耀に勝ってもらいたいものである。
勝者は白天使だ。それは間違いない。
白天使が参加して食べ荒らしを始めたら料理人たちが悲鳴を上げ始めた。
当然だ。耀と白天使のダブルコンボで速度は2倍どころか3倍以上だ。
耀が負けじと更なる加速をかけている。
加速の魔法が他者にかけられたら白天使にもかけるのだが。如何せん、あなたの自作の範囲加速魔法では耀まで加速させてしまう。
料理人の速度が負け始めたからあなたも手伝う事にした。
負けて来たからと言って手を抜くような人々には見えないが、それでも食事提供の速度を維持する為に白天使に渡される肉が手抜きにでもなろうものならあなたは料理人たちをシバキ倒してしまいそうだ。
というか、ダブルコンボの影響で料理が出てくるのを白天使が待つ状況になるのが許せない。
それなら、あなたも協力すればいい。
ノースティリスの冒険者として有り得ないくらい穏やかな発想だ。
もはやあなたではない誰かなのではないかと疑われる程だろう。
あなたの料理技能は世界最高峰クラスだ。
如何なる料理であろうと一回調理工程を見れば理解できるし、より上手く作る自信がある。
家族に出す為の料理だ。久しぶりに本気を出させてもらおう。
コミュニティのご飯に満足感を得られなかったときに手慰み程度に気を抜いてまったりと料理していたりしたが、今回はそんな気の抜けた料理など行わない。
すべては愛する家族の為に。
あなたの持てる全力を注ぐつもりだ。
耀はどうでもいい。
そんなことを考えていたら向こうからあなたの所属するコミュニティと食事をする耀を非難する声が聞こえた。
意地汚いとか残飯を漁っていそうとか、貧相とか。
駆け出し冒険者じゃあるまいしあなたは最近はそこら辺の展示物をつまみ食いなんてしていない。貧相……確かに耀も白天使も一部貧相な所はあるがそれはそれ、これはこれだ。
つまるところ外野の発言は間違いだらけだが、まぁ白天使を罵倒しているわけではないし、実際どうでもいい。
そう思っていたものの。
突然だが報告させてもらう。
急に現れた変な糞男の顎が弾けて空を飛んだ。
流石のあなたも驚きである。
気が付いたらあなた達を非難する男の顎があなたの見事なムーンサルトによって千切れ飛んだのだ。
つい、ぶっ殺してしまったようだ。
いや、絶望に近い叫び声をあげているからまだ死んでいないとは思うが。
これが噂の「「ブッ殺す」と心の中で思ったならッ! その時スデに行動は終わっているんだッ! 」と言う奴か。
後で追撃であと二回ほど頭の側面に往復キックを叩きこんでやろう。四回やったら死んでしまうと思う。
白天使に対してゴミクズが汚らしい吐息で気持ちの悪い事を言い放つからそうなるのだ。
インガオホー。
俳句とやらはいらない。率直に言おう。
死ね。
あなたがまだ律義に不殺を誓っているから助かった命だ。正直、白天使の為なら誓いを破るのもやぶさかでない。
絶叫を上げているし、死んで無いだけマシだろう。声の出ない薄汚い口で永遠に懺悔し続けるといい。
まぁ殺して後悔させてやってもいいのだが。
……なるほど。妙案だ。殺そう。
そうだ。そうだろう。確かにそうだ。どうしようもないゴミ屑など生かしておく価値がないはずだ。
ポンコツと同じレベルのみじめなブタなど生かしておく方が世界への冒涜というものだ。
なにせこの南側の戦いで最も活躍し貢献したのは間違いなく白天使だ。あそこまで大混戦だった戦いで驚愕の死者0名という記録を叩き出したのも全ては白天使が走り回って治癒の雨をばら撒いたりしてくれたおかげだ。
耀やあなたや、あなたの所属するコミュニティが罵られる分にはどうでもいい。その程度ならあとで反省するまでシバき倒すだけだ。
死んでいなければ治してみせる。
そう言って駆け回り、走り回り。
回復魔法を幾度も幾度も唱えてあらゆる怪我を癒していった。
命に関わる怪我であろうと立ち上がって野を駆ける犬のように走り回れるまで一瞬で回復させ。腕が千切れていようが足がもげていようが、取れた部位さえ其処にあればどれだけ時間が経っていても繋げて治してみせたのだ。千切れた部位が腐り落ちているとかそんなのも関係ない。繋がったなら元通りまで戻せる。
お陰で、祭りの会場を歩いているだけで白天使に沢山の人が感謝の声をあげたりしていたのだ。
そんな大活躍の白天使になんという口をきいているのだ。まったく。
「ほひたのー?」
騒ぎなど何も感じていない様に肉を口一杯に頬張りリスの様にぱんぱんに膨らませた白天使があなたを見ていた。
転がって声すら上げられなくなりピクピクと痙攣して蠢いているゴミをもう一度蹴り飛ばして彼方に吹っ飛ばしながらあなたはあなたの大事な家族に笑みを返した。
何も気にする必要はない。ただゴミを処分しただけだ。
*
───その後何が起きたかと聞かれると色々あった。
どちらに非があるかと聞かれたら相手だ。先に声をあげたのだから。
面倒くさい絡みは激怒を招く。
身をもって証明した彼に拍手を送る必要はないから石を投げよう。
顎が粉砕され原型を無くすほどに顔が壊れ、最後に追い打ちの様に蹴り飛ばされて四肢がバキバキになり背骨もへし折れ満身創痍だった男はサラに治療を頼まれた白天使に回復された。
あなたとしてはそのまま自然の法則として野垂れ死にして貰った方が心地いいのだが、他ならぬ白天使が認める良い人の頼みだ。指示には従っておこう。
糞ゴミ男の従者含めあなたが再起不能なレベルの致命傷を与えたものの、回復したのだから喧嘩両成敗と言う事にして不問に処す。というあなたにとって当然の結果になった。
相手の心にトラウマが刻み付けられたがどうでもいい。
相手が本気でキレている。知った事ではない。本当に面倒くさい。
こんなゴミに時間を取られたくない。
めんどうになったあなたが決闘(一方的なリンチ)で決着をつけてはどうだろうか、といつもの蠢き謎の粘液が滴る長棒を取り出しながら伝えたところ。
*
次の日、解説席に座るあなたの姿があった。
あなたは今、黒いビキニ姿……白夜叉指定のもの……で座っているのだが、誰得だろうか。
不思議と観客の一部が拝んでいるが、崇拝や信仰は女神様に送って欲しい。
なんなら祭壇と女神様の像を出すから信仰はそちらでどうぞだ。
それよりもあなたの膝に座り斑梨の氷菓子をシャリシャリと齧る白天使の、息が白く凍えるほど寒い朝、陽の昇る前に水上に咲く夜明けの花の様に可憐で美しい白いワンピース水着の姿を滂沱の涙を流しながら拝むといい。
あまりの可愛らしさに姿を見たあなたが鼻血を垂れ流しながら白目を剥いて倒れた程だ。
下着姿と何が違うのかという話だが、日の下で誰かに魅せるために仕立て上げられた服装というのが違いだろう。
ノースティリスでは水着は見たことがなかったからまさかの相乗効果でノックアウトされてしまった。
いや、何処かにはあるという話は聞いたことがあるがこれまで見たことはないから、あなたでは知覚できない次元にあるのだろう。
あなたの着ている、というより着させられたこのビキニもあなたより黒天使の方が似合うだろう……。
黒天使のあの肢体にこの黒ビキn……いけない。興奮してきた。出血を通り過ぎて大出血だ。鼻血が止まらぬ。
話を戻そう。
あなたが解説席にいる理由だが、結局ギフトゲームで決めるというなんともつまらない結果にされてしまったのだ。
決闘は決闘だが、あなたは戦わない。
あなたが参加したらロクな事にならないと判断した白夜叉に解説の仕事を請け負わされた。
そもそも決闘を行う場もレースという話だし、あなたが参加したら二秒で終わる。
いや、二秒もいらない。
あなたが走れば速度全開なら0.1秒で終わる。
騎馬が必要との事だが、ヘルメスの血なら数千本あるのだ。
そこらの馬に投与すれば速度2000まで簡単に仕立てあげられる。
まぁそういう諸々を防ぐ為だろう。
解説の仕事開始だ。せめて解説で遊ぼう。
さて、試合開始。
まず挙げられる点としては、参加者の女性陣の中で一人だけ鎧姿の味気ない女性がいる。
つまらない。とてもつまらない。
参加者で騎馬を借りる者、女性限定だが、は水着着用が必須なのだ。
そうでなくても着ていて欲しい。
あなたも着せられているのだから。
須らく水着を着るといい。あなたに向く観客の視線がウザイ。
そのほんの少しでも別の人に向けられるならそれが一番だ……白天使に向けて邪な視線を向けている観客の目玉に氷菓子の一部を叩き込みながらそう思った。
だから、これはただの八つ当たりだ。
あなたはここに誓う。あなたはよからぬ事をたくらむ者なり。
開始の合図と共にあなたは自身の速度を全開にし、加速の魔法を唱えて世界の流れる時間からズれた。
あらゆる悪戯を全てを終えてから悠々と解説席に戻り、 いたずら完了! と小さく呟いてから魔法を解き速度を戻した。
同時に参加者のかなりの数が叫び声を上げ、観客の男達の多くが悲鳴を上げ、ごく一部あなたの悪戯から生き残った男達と白夜叉が歓喜の叫び声をあげる。
曰く、鎧姿のなんかすげぇ奴がすげぇ水着になって水着をすげぇ斬り裂いている、と。
具体的には、鎧姿の女性が武器を取り出し他参加者の水着を斬り捨てたのだ。
男女関係なく参加者のほぼ全ての水着を斬り捨てた。
その直前にあなたがその鎧姿の女性の鎧を窃盗して、水着を代わりに着せたのだ。
つまり、観客から見れば。
鎧姿の女性が一瞬で水着に着替えて他の参加者の水着を斬り捨てたのだ。
自己顕示欲の塊にしか見えない事だろう。水着を着る者は一人でいいと言わんばかりの行動だ。
まぁ本人は仮面の下を真っ赤に染めている事だろうが。
あなたもあなたで、自己顕示欲の塊ですかねー。と解説を入れて煽っておいた。
余談だが、着せた水着は白夜叉があなたに昨晩着せようとしてきた過激なVである。
黒天使に着せたいが、たぶん似合わないからここで使っておく。
久々に気持ちのいい悪戯が出来たあなたは満足である。微笑みが絶えない。
最近、魔法の効果が変わってきてるのか時間停止に近い行動が出来るようになってきているお陰だろうか。
解説が参加者に手を出してはいけないなんていうルールはない。
だから何の問題もない。
あと、仮面は装備ではなかった。黒天使の翼の様な見た目の固定なのだろう。
あなたの窃盗の及ぶ範囲ではない。そもそもアレを取ったらアイデンティティの喪失だ。
飛鳥の騎馬が水着を斬り捨てられる事なく、そこそこの速度で駆け出した。
死亡フラグ少年が一石を投じて防いだのだ。
つまらないことはしないで欲しい。
その後、なんか津波を起こしながら殴り込みをかけた変人などが現れたがなんやかんやあって飛鳥、つまりはあなたのコミュニティが一位でゴールした。
スタート以降は特に何も面白みも無かったので、なんやかんやで〆させて欲しい。
なにせ最初の悪戯以降、解説のあなたは速度が足りないと言うだけだったのだ。
何か尋ねられても、すべて速度が足りない。
亀がのっそりと歩く姿に対して同じ速度の次元の者が、右足の出し方が芸術的だ。何て言っても、あなたにとってはちんぷんかんぷんだ。
本当に速度が足りなくて見ててつまらない。
それこそまるで、アリの行進を見ている気分だ。
とにかく速度が足りない。
精進して欲しいものだ。
斑梨のジュースをシャリシャリと飲みながらあなたはそう思った。
赤坂です。
少し遅れました。
とりあえず働かざる者食うべからずの回を次にやります。
また番外です。このタイミングが一番かな、と。
諸々の番外編はまた今度って感じで。
超高速で物語が進む事進む事……。
開始当初から打って変わって、
ここ最近はおおよそ1~2話で一巻分の内容がほぼ毎回終わるとは思わなんだ。
ではでは。