[先天]あなたは問題児だ。   作:赤坂 通

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第十三話『激怒』

 ───南側で白天使と再会するついでになんやかんやしてから早数ヵ月。

 あなたは日々、黒天使欠乏症に悩みながら過ごしていた。

 白天使と遊びながら、たまに街中で開催されているギフトゲームを淡々と処理する日々。

 はっきりいってする事がないのだ。

 専ら駄弁りながらたまに遊んで居た白夜叉が居なくなって暇なのだ。

 なんでも東側であなたが星に変えた変な怪物達の件絡みで箱庭の上層に旅立たれてしまって暇なのだ。

 白天使が色々しでかした例の一件の後だとかに軽く会う機会もあったし、最後にと手合わせもさせてもらえたがやっぱり殺していけないとなると本気も出せやしない。

 消化不良、不完全燃焼。そんな気分がずっとあなたに付きまとっているのだ。

 

 そんなあなたの下に舞い込んだ……わけではないのだが、あなたを抜いて勝手に北側でなにやら面白い事が起きそうな話があると先日、白天使が伝えてきた。

 あなたが知らぬ間に妻の黒天使に教え込まれたという何やらよくわからない技術が白天使にはあるらしいだが、それで知ったとのことだ。

 白天使七不思議の一つである。『知らぬ間に変な情報を仕入れている』。

 

 箱庭に来る以前から持っていた技術の様なのだが、白天使の冒険者カードには何も追記されていないしずっと疑問なのだ。

 確かにカードに乗らないちょっとした技術というものは幾らでもある。だからこそ考えても仕方がないだろうと思って放置しているが。

 とりあえず、出立の日に勝手にあなたもついていくことにした。

 当日に冷や汗を流している黒ウサギの姿があったからまぁ事前に知って多少の準備を出来たという事だけ喜ばしく思っておこう。

 おそらく、適当に理由を付けてちょっと遠くの地味なギフトゲームに行くから本拠で待っていてください的な事でも言って置いていくつもりだったのだろう。

 

 白天使のファインプレーだ。

 

 詳しい事は何もわからないが、まぁ久々の遠出だ。楽しむことにしよう。

 いざ出ようとした時には皆から全力で、居残っていてくれと頼まれたがあなたに何も伝えずにハブいた皆が悪い。

 

 それに南で奇しくも手に入れてしまった大金がある。

 残されたとしても付いていくことは容易い。

 

 そんなこんなあって、今あなたは北側の五四五四五外門の煌焔の都という街を暖かく照らす、ペンダントランプとやらの上でプチ状態になっている白天使をもちもちぷにぷにぷるぷるしている。

 キチンと人間の姿になる様に姿変えの技術を使ってリうはずなのに何故かはわからないが白天使はたまにプチの姿に戻るのだ。本人の意思で出来るらしいがどうやっているのかはまったくわからない。

 

 

 これまた白天使の七不思議の一つである。『知らぬ間にプチの姿になる』

 

 

 ここに来ていきなり七不思議が出てきたが、これ以上七不思議はないと思う。

 思うだけであるかもしれない。これから増えていくつもりだ。

 それよりも不思議なことがあったから聞いてほしい。

 この煌焔の都に来る際に境界門を使ったのだが、その境界門から出てきて一歩を踏み入れた時にあなたは……。

 

 

 

 

 

 運命の鼓動を感じたのだ。

 

 

 

 

 

     *

 

 

 

 

 

 ───ある冒険者が箱庭に訪れたのと同時刻。冷たい風の吹き荒ぶ雪原。

 

 

「……ここは、どこなのかしらね」

 

 横で二つにまとめた薄紫色の髪を持ち、朝焼け空のような緋色の瞳をした一人の少女が背中から生える黒い翼をはためかせて遥か上空からゆっくりと箱庭の世界へと降り立っていた。

 何処にも生命の気配を感じないほどの極寒の大地。辺り一面が純白に染まり吹雪が絶えず吹き続けている。

 だが、少女にとっては吹雪など些末な事であった。実際に、少女は身震いの一つも起こす様子はない。

 

「はぁ。ご主人が変な手紙を読んだから……」

 

 服装は軽装もいい所。この極寒の地で生きられるような装備には見えない。

 武装も精々淡い青色の風を纏う短剣一つだけだ。

 

 意に介する事もなく、一つ嘆息を零して肩を竦めながら少女は少し辺りを見渡して少し遠くにある、吹雪に隠れて見えない筈の箱庭をその目に見据えながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 ───赤い壁のトンネルを抜けた先。

 

「……ここの人たちは弱いのね。まぁ全員強い世界の方が珍しいのだけれど」

 

 見えた赤いレンガの街並みを眺めた少女は一人呟いた。

 迷いなく歩く姿はとてもではないが数分前にこの世界に来たとは思えない足取りだった。

 色々な店先を冷やかすように歩き、辺りの男共がその少女に目を奪われていく。

 可憐、というよりは美貌というべき美しさを兼ね備えた少女はつまらなそうに目を細めながら歩き続ける。

 

 誰かを探すように辺りを見回しながら歩いた少女は、暫らくして黒髪の少女に声をかけられた。

 

 

 

 ───……。

 

 

 

 ──……。

 

 

 

 ─……。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

 運命の鼓動。

 というと、レシマスの時の様な何かが起こるのだろうか。

 もう遥か昔の事であまり覚えていないが、 まぁ今更何が起ころうとあなたの障害にはほぼならないだろう。

 それこそ、神々が一斉にあなたに襲い掛かる事態でも起こらない限り。

 襲い掛かってきても大体返り討ちにできるのだが。あなたの愛しの女神様を除いて。

 

 思い返してもレシマス攻略は楽しかった。……はずだ。

 吐きそうな程に自身の強化に勤しんだはずだが、今となっては懐かしいとしか思えない。

 当時は……どうしていたのかあまり思い出せない。

 妻の黒天使も白天使もいなかったはずだからまぁどうでもいい思い出もちもち……。

 プチ状態の白天使のモチモチ加減は最高でおじゃるな。

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 まぁきっとどうでもいい思い出だろう。あぁそうに決まっている。

 レシマス……それこそ忘れていた時にふと攻略するようなネフィアだ。きっとどこかの誰かはレストランか何かと間違えるくらいには皆も忘れているだろう。

 胡坐をかいたあなたの足の間でだるんと伸び切って垂れた目をしたプチ状態の可愛い白天使のもちもちすべすべ……。

 

 

 

 

 

 

 ぷにぷに……。

 

 

 

 

 

 この……この、すべすべ加減。

 ……やはりプチは最高だと思うのだ。

 全員、家族に一匹プチを入れるべきだろう。たまに人間を食い殺したりするが。

 

 黒ウサギがハリセンで叩いて何処に登っているのだと怒ってきているが割とどうでもいい。

 黒ウサギもぷにぷにすべすべもちもちしてはいかがだろうか。

 

 おそるおそる手を出したら秒で黒ウサギも落ちた。髪が桜色に染まって興奮状態だ。

 

 流石だ。ちょっと怒っている黒ウサギ程度なら秒で陥落できる流石の魅力だ。

 あなたも同じだけの魅力がある筈なのだが何故だろう。

 考えると悲しくなりそうだから止めておこう。まぁあなた程度では白天使や妻の黒天使の美しさに勝てる気は到底ないのだが。

 

 さて、白天使もぼちぼち元の姿に戻りたいだろうし街の散策に出かけよう。

 ぴょんとペンダントランプから飛び降りて白天使のクッションになって一回死───……、

 

 

 

 

 

 

 ───……んでから散策に出かけようと思ったのだがあなたが這い上がるまでの数十秒の間に白天使がどこかに行ってしまったようだ。

 契約の魔法をつい使い忘れてしまった。最近この世界でも死が当然の様になってきた気がする。

 主能力も下がらなければ装備を失う事も無く、最近は這い上がるというよりは立ち上がる程度には時間の経過も無く蘇れるようになってきた。

 もしかしたら死んでその次の瞬間には蘇って戦闘続行なんて言う、契約の魔法がいらないレベルの復活が出来るようになるかもしれない。

 この世界で培った這い上がり技術の向上だろうか。何故今更起きたのかは定かではないが。

 

 ひとまず、白天使の放浪癖は昔からの癖だからまぁいいとしよう。何かあればあなたは秒で駆け付けるだけだ。

 あなたは飛鳥や耀、黒ウサギに付いていくことにしよう。

 とりあえずこの北側で黒ウサギたちが何をするつもりなのかまったくわからない。

 だからこそ楽しいのだが。

 

 

 

 

 

     *

 

 

 

 

 

 ───時を遡ること、半年以上。箱庭北側。ある宿屋の一室。

 

 

「それで? 私に用ってなにかしら」

「警戒しないでって言おうと思ったけど、警戒しないのかー。私はリン。あなたは?」

 

 黒髪の少女───リンとやらに声をかけられ付いていった部屋には彼女の、リンの姿しか見えない。

 リンからは殺気や警戒心も感じないが、はたして何の用なのか。

 見た限りでは、武装はベルトのナイフのみ。

 

 

「……まぁいいわ。気にする程ではないわね。私は      よ。それで?」

「      ちゃんねー。話をせかさないでよー。もっと友好関係をね? ね?」

 

 

 リンの口調は軽いが目は笑っていない。黒い翼の少女を値踏みする目だ。

 実力差を図っているのか、それとも。

 少女にとっては相手にする程の存在ではない。彼我の実力差は明らかに少女に軍配が上がる。

 

 

「下らない用なら私は優先すべき事があるからここでサヨナラよ」

「あっ、そう。じゃあ本題に入っちゃうね。私たちに付いてこない? 三食宿付きお風呂あり着替えありスリルあり。どう?」

「……やけに好待遇ね。ハジメマシテの私に何故かしら?」

 

 

 警戒の目をやや強め、腰の短剣に手を添えつつ少女は尋ねた。

 

「ちょ、ストップストップ! 警戒しないでよ。単に      ちゃんが強い上にコミュニティに所属していないみたいだから、戦力としていいかなー? なんて思っただけ!」

「ふぅん。……コミュニティ、所属。戦力……」

 

 リンの言葉の端々を切り取り、リンの仕草や部屋の窓を見て壁を見て目を閉じ、記憶を辿り答えを出す。

 

 

 

「この街を襲う上での戦力収集……いえ、違うわね。襲う事は確定していて別戦力だから、今後の為の戦力収集って所かしら? お断りよ。あなた達に構っている時間はないもの」

 

 

 

 肩を竦め。ため息を一つ吐いて至極つまらなそうな顔でほとんど完璧な答えに至った。

 僅かな言葉の端々だけで思惑のほとんどが当てられたリンが一瞬戸惑うのも仕方がないだろう。

 全くと言っていい程、答えに至れる情報なんて出していないのだ。

 

「……ぉ、ぉおぅ。えぇと、その。それってどういう思考回路で?」

「風が教えてくれたわよ。この宿の周り、50-100m圏内に伏兵が3人……。仕草と、薄い警戒。私を値踏みする様な目に、この街で行っていた事。あとは私が見た街の光景から考えて、って所かしら?」

「……う、うーん、その。正直お手上げ、かな。全部忘れて立ち去るか、味方になるか。どっちにする?」

「あら、面白い言い方ね。まるでそっちに主導権がある様な物言い。ふざけないで頂戴」

 

 同時に、互いにナイフと短剣に手を掛け、一迅の風が迸る。

 

「───ッッ!?」

「そういった言葉が言えるのは、私の方なのよ」

 

 リンのベルトに刺さっているはずのナイフは全て床に転がり、蒼く輝く刀身に風を纏った短剣が首筋に突き付けられる。

 まったくと言っていい程見切れなかった。刹那より、更に短い時間。

 全ての武装を外され、ギフトの発動すら封じ込まれた。

 

「え、えぇと」

「ま、お遊びはここまでにしましょう。そっちを手伝うのは吝かではないわ。代わりに私の方も手伝いなさい」

 

 ほぼ見えない仕草で短剣を仕舞ってぶっきらぼうに言い放った。

 まだこの世界に付いてよくわからない現状、宿と飯が保証されるなら十分だろう。

 

 

 

 

 ───……。

 

 

 

 ──……。

 

 

 

 ─……。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

 で、この男はミンチにしていいのだろうか。

 黒ウサギたちをてくてくと歩いていたら突然現れた五月蠅い男が口汚くあなたを罵ってきたのだ。

 あなたは懐から片手斧を取り出しながら、ミンチにしていいか飛鳥に尋ねた。

 また例の南瓜 of 糞野郎と再開してしまったのも相まって殺意がビンビンだ。

 南瓜はまぁ話が分かる奴だから多少は溜飲が収まるが、それでも南瓜というだけであなたにとってはミンチにするに値する。

 

 

 とりあえず、ミンチにするのは駄目らしい。

 あぁ、こんな時にあの長棒があれば……。

 

 

 以前、退廃の風に呑まれた際に長棒が折れた剣に変換されてしまったのだ。とても悲しい。

 いつかまた作り直さなくてはいけなくなってしまったのだ。俄然やる気が出てきた。

 暇つぶしがまた一つ増えたのだ。喜ばしい事として受け取っておく。

 

 いざ使ってみれば不殺武器としてはとてもいいアイテムだったが故に、今となっては斧や剣を使うしかなくなっているのが現状だ。

 不殺と言ってもたまにコラテラルダメージが入ってしまったりするのだが。

 コラテラルなのであなたの所為ではない。ノースティリスならきっと平気だったはずだ。

 

 なのであなたは悪くない。あなたに罪はない。

 遠い記憶の彼方から抗議の声が聞こえるが聞こえない。口煩い男はとりあえずローキックをかまして転ばせておいた。

 二度と立てないようにしてやりたかったが、もっと口煩くなりそうだから止めておこう。あぁ殺せれば黙らせられるのに。

 

 この後、飛鳥がなんでも造物主の決闘───遥か以前に行われていたのはペストによって中断されたお祭り───に参加するらしい。

 前は耀が参加していたが、今回はどうなるのだろう。

 とりあえず行く気はない。前回のを見た限り、あなたの欲求を満たすような展開は起こりえないだろう。

 

 南瓜に暇なら展示回廊に行くといいと言われたからそこら辺のカフェで時間を潰すことにした。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

 カフェを探して歩いていたら展示回廊に辿り着いてしまった。だが展示回廊の前に丁度良くカフェがあった。

 これが運命力というものだろうか。

 

 

 ……カフェの奥の方にペストの姿が見える。ちら、とあなたの姿を確認して嫌なものを見たようにパチリと目を閉じていた。

 そこはかとなく妻の黒天使の動きと似せるのを止めて欲しい。あなたの精神衛生上よくない。動悸が激しくなってきた。

 

 ペストが端っこに陣取っていたので出来る限り反対側に行くように席を取ってから人気商品らしいタルトを口に含んで、自分で作った方が美味しいな……などと思いつつ、出先の料理だしこんなものかと諦めてもそもそと食べて調理法を考えておく。

 

 こちらの世界の料理はあなたも知らない料理が多くてレシピが増えてとてもありがたい。

 帰ったら色々と再現してみようと思う。

 モリモリと色々な食べ物を注文しては食べていると、何処からか薄く歓声が聞こえた。

 

 もしや、造物主の決闘だろうか。

 始まっているとは思わなんだ。まぁどうでもいい。

 

 あらかた注文し終え、食べ終えたあなたが席を立つと同時に街中に破砕音が響き、地鳴りがした。

 

 

 タイタンだろうか? タイタンが暴れているのだろうか? 

 ワクワクしてきたが日常だからどうでもいい事だ。放っておこう。

 違う。ここはノースティリスではない。

 

 

 ため息をしてから剣を取り出し、震源地であろう闘技場に向かうことにした。

 震源地の方に向かおうにも騒ぎが大きすぎて人がごった返していて面倒だ。本当に行く先々で面倒事を起こさないでほしい。

 ノイエルの祭りを堪能しようと思った矢先に巨人が解放された様な気分だ。ムカつく。

 

 面倒くさいからとのそのそと歩いていたら一層大きい地鳴りが響いて闘技場を中心に街中に罅が走っていく。

 近くの展示回廊も潰れていくし、建物も軒並み崩れていった。

 

 

 …………。

 

 

 帰っていいだろうか。行ったら間違いなく面倒くさい未来しか見えない。これか。これが運命の鼓動の原因か。

 こんなものに運命の鼓動を感じなくていいのだが。良心から言わせてもらう。

 

 クルリと反転して立ち去ろうとしたその時。

 

 あなたはいつも浮かべている笑みを、浮かべていた面倒くさそうな苦笑に似た笑みを消して牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 聞き覚えのあるどころの騒ぎではない大きな大きな泣き声が。

 

 

 

 

 数えるほどしか聞き覚えの無い、本当の泣き声が聞こえた。

 

 

 

 

 予定変更だ。速度全開・本気装備全開で行かせてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白天使を泣かせたウジムシは誰だ───……! 

 

 




赤坂です。
急 展 開 。
はい。いつかサイド側も描かれると思います。
一人の主観だと秒で物語が進むんだよね、それ一番言われてるから。

というか遅れたな……17日ぶりの投稿でしたね……。
最近お絵描きに目覚めたのが原因でしてね……
あ、白天使置いておきます(白目)


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