[先天]あなたは問題児だ。   作:赤坂 通

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第十四話『レシマスを攻略しているときに何度も脳裏を過ったアレはなんだったのだろう』

 ───およそ一時間後、椅子に座りカツカツと地面を足で叩きながら不機嫌に明確な殺意を垂れ流しながらぶつぶつと呪詛を口から溢すあなたの姿があった。

 白天使に手を上げたなら3000倍の力で叩き返して、それでは足りないから追加で5000倍は凄惨な目に会わせる。そういう強い意志があなたを突き動かしている。

 

 

 そもそも白天使はほとんど泣かない強い子だ。

 

 

 白天使が泣くということはそれ相応の事が起きた、あるいはされたという事になり家族に手をあげる=問答無用で抹殺と伝えてあるあなたのコミュニティの奴等の仕業の可能性も出てくる。

 信じてたり、友人に裏切られたりすれば流石のあなたも少しは怒る。

 白天使と妻の黒天使に、悪ふざけで下半身を埋められて顔に落書きをされた時などあなたですら少し怒ったのだから。

 一時間程度前に現場に着いた時には白天使に怪我はほとんどなかったが服のお尻の所が汚れていた。汚れの付着具合から見て間違いなく尻餅をついた形であり、いくら白天使が元々プチで幼女気質な所があるとはいえ白天使のステータスは準・廃人級でありバランスを崩して転ぶことはほとんどないのだ。いやまぁ、速度がつきすぎて躓いて転ぶことはあるのだが。自分の行動により、あるいは不注意により尻餅をつくようなことはここ数百年見たことがない。

 敵におどかされてつくことはあったし、それで泣くこともあった。つまりは、そういうことだろう。

 

 

 

 あなたはここに宣言する。

 犯人は、絶対に後悔させてやる。

 

 

 

 

 絶対に、犯人は埋まるまで許すつもりはない。

 ぶちぶちにしてあらゆる絶望と恐怖のパーティーを開いてやろう。

 ……絶対にだ! 

 白天使に手を上げた愚か者は絶対にブチブチにして八つ裂きにしてやる……。

 いつだったかに建てた、ポンコツを殺すまで殺さないなどという誓いなどもはや知ったことではない。

 そもそも、あなた程度の建てた勝手な誓いのために白天使に対して行われた蛮行を何故見過ごさなければならないのか。

 何故手を抜いて殺さないなどという行動にでなくてはならないのか。

 あなたの建てた糞みたいな何の価値も意味もないゴミの様な誓いなど丸めてポイだ。

 

 あなた自身の事で家族より優先することなど存在しないのだ。

 女神様関連であればかなり悩むことになるのだが。

 

 ……そういえば、最近女神様の御声を頂戴していない気がする。

 気紛れな女神様だから、まぁ今はあなた以外のなにかに傾倒していらっしゃるのだろう。

 あなた程度の為に今まではわざわざ時間を割いて下さっているのだから、まぁ求めるものでもないだろう。

 女神様の寵愛を最も授かっていると自負するあなただからこその安心だ。

 

 さて、そんなあなたの心情などどうでもいいのだ。

 今、行われているのは魔王連盟とかいうよくわからない連中の対処についての話し合いだ。

 犯人は連中の中にいるようだが……。

 ペストがかつて参加していたらしく、あなた以外殆ど戦力外と言い放っていた。

 あなたとしては、犯人さえ叩き潰せればそれでいいから犯人以外に興味は欠片もない。

 

 極論、白天使や妻の黒天使、敬愛する女神様に不貞な事や蛮行を働かない限り犯人以外にあなたは現状では何もするつもりはない。

 

 

 攻撃してきたら無論、反撃するが。

 

 

 

 現場に居合わせた者からの証言として、赤と青の服を着て、任意の位置に無詠唱でテレポートする変態が犯人ということは判明している。

 あとはぶちのめすだけだ。

 あなたはいつも浮かべている笑みを消して、その時をただ待ち続ける。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

 ───北側。いつかの展示回廊。

 

 

「あら、やっぱりやられてるわね」

 

 薄暗い展示回廊に気配の一つもなく現れた黒い翼をその背から生やした少女は薄く笑いを浮かべて当然の結果を見るように呟いた。

 

 凄惨な。あるいは、弄ばれたというべきか。

 

 背骨から下半身にかけて、骨が砕け地面に突き刺さった状態の斑模様の服の少女。ペストが。

 顔面が見る影もないほどに潰され、あり得ない角度まで首が曲がり上半身が捻れた姿で倒れる美女だったもの。ラッテンが。

 幾度か顔面を地面に叩きつけられた跡の横に折れ曲がった足だけを出して地面に埋まっている男。ヴェーザーが。

 

 それぞれ、呻き声をあげながら動けずにいた。

 黒い翼の少女が、小さな声で癒しの魔法を掛けながらそれぞれを助け起こしていく。

 首もとを掴まれ地面から引き抜かれ、体の傷を治されたペストは愚痴を漏らすように呟く。

 

「……やっぱりっていうなら最初から教えなさい」

「あら。私は伝えたわよ。『もし私のご主人に出会ったら諦めなさい』って」

「対処法がないじゃない。あの化物」

 

 一度目は気持ちの悪い、おぞましい狂喜を孕んだ笑顔で殴り飛ばされた。

 二度目の今回は、『おもちゃを見つけた目』で見られ笑顔で遊ばれた。

 

 そのどちらもが、気が付いた時には終わった後で、終わった後にされたと理解が出来たのだ。

 時を止められたと考えてもいい程の一瞬の出来事なのだ。

 脳裏に浮かぶのは一瞬だけ見えた貼り付けたような笑みだ。

 

 何より、先日試した時点で判明していた事として、この少女にはペストの死の風が通用しないのだ。

 それはつまり彼女がご主人と呼ぶ、この少女よりも強いというその人物も風が通用しないという事。

 

 

「……そうね。対処法、というわけでもないけれど。試してみたいことはあるわ。ご主人に、あなたの風が通用するようにする為の手段が」

 

 

 

 本人曰く「病気になるだけ。死にはしない。ご主人もこの様子なら効かないんじゃないかしら」との事。

 触れただけで死をもたらす風を如何にして防いでいるのか。

 少女は推測ながらも答えを持っているようだが、それは教えてもらえなかった。

 

「ご主人は強敵の方が燃えるの。あなたを強くする事はご主人の暇つぶしにちょうど良いわ」

 

「……捨て駒扱いね」

 

「どれだけ強くなろうとご主人には勝てないもの。さっ、始めましょう?」

 

 

 勝ち目がないからこそ、1%でも可能性に賭けるしかないのだ。

 そもそもに、現れるとは思っていない化物との遭遇なのだから。

 

 

 

 

 

 ───……。

 

 

 

 

 

 ──……。

 

 

 

 

 

 ─……。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

 あなたの、あなたによる、あなたの為の、犯人捜しの会議が終わった。

 対策も糞も無い。速度全開で首を刈って終わりだ。

 テレポートという事もあり、ベルや洗礼者系と戦うことを思えばいいだろう。

 逃げられる前に血祭りに上げる。逃げられたら逃げられたで探して追い詰めて血祭りに上げる。

 

 今回の戦いはかなり大規模な戦いになるとかなんとか。

 様々なコミュニティが動員され、対魔王での戦いに挑む様だが。

 まぁどうでもいい。白天使を泣かせた犯人をぶちのめして血祭りに上げて後悔させられたらそれでもうあなたは満足だ。

 全身を対すくつ用装備で固め、サンドバッグ、復活の書を筆頭とした様々な遊び道……拷問器具を用意しておいた。

 

 決戦前のステータス確認をしておこう。

 いつも通りの基礎の2000並びに装備や各種バフのブーストによる桁越えの数値。

 おや、速度が若干上がっている。いつの間に上がったのだろうか。

 各種技能値の所は……変化なし。

 最近確認していなかったが称号は増えているのだろうか。というか通知すら起きていない気がする。

 ……変化なし。効果欄にも箱庭に来てからの変化以降は何も起きていなかった。

 これくらいだろうか。速度が上がっていることがうれしい。

 

 あと何か確認し忘れがあるだろうか……ジャーナルを確認しておこう。

 日記を開いて確認してみるも何も変化なし。

 まぁ後はどうでもいいだろう。多分もう何も忘れていることはない筈だ。

 

 女神様と交信でもしておこうか。

 いや、お手を煩わせるのも億劫だ。止めておこう。

 

 ちなみに、当の本人の白天使はもにょもにょしたような悲し気な顔で、現れるであろう怪我人の対処に回るようだ。

 白天使が落ち込んでいる。継続しているという事はかなり心に傷が残っているようだ。

 

 

 報復をさらに50000倍しておこう……。

 

 

 丁度、死亡フラグ少年と黒ウサギの所に見慣れない白髪の子供が来ているし、そろそろ開戦だろう。

 

 そう思って剣の柄を強く握った所、あなたは吐き気を催す邪悪の気配を感じて首を気配の方に向けた。

 

 あぁ。感謝すべきか、あるいは当然と思うべきか。

 妻の黒天使も、白天使の為に動いてくれたようだ。

 

 

 あなたはこの世界について殆ど何も調べてはいない。あるがままに今まで通り動いて違いがあったら適宜覚えている程度だ。

 気にせずにいつも通り過ごすことも多いが、あなたがはっちゃけて遊ぶ裏で妻の黒天使が色々と便宜を図って動き回ってくれるのだ。

 本当にありがたく思う反面、それに報いることが出来るようあなたも妻の黒天使の期待には応えるのだ。

 おそらく妻の黒天使の事だ。この世界の法則やらルールやら。ノースティリス、ひいてはイルヴァの大地とこの箱庭世界との差を調べたり箱庭世界独特のルールなどにも精通したのだろう。

 今の今まで感じる事の無かったこの憎い気配。数百年数千年と続く憎悪があなたの心の奥深くから湧き上がるのを感じる。

 あぁ久しぶりの感覚だ。一体何ヵ月ぶりの感覚だろういつもいつもいつもいつもいつも毎年必ず殺して殺して殺して殺してそうやって過ごしてなおゴキブリの様に湧いて出るクズ共の親玉の気配を強く強く感じるこの世界は女神様や他の神共の気配がとても強い世界だ神々の遊び場たる箱庭という世界なのだから当然というのもあるがやはりゴミクズの気配もずっと薄く感じていたのだそれはかなり遠い気配でありノースティリスでも感じる似た気配だからと常日頃から意識するなどという意味不明な行為に出る事無く過ごしていたというのに今強く感じるという事は要するに妻の黒天使が何かをしたのだろうおそらくはあなたが狙う対象を絞りやすくする為あるいは白天使を泣かせた不届き者を間違えるなという合図あるいは不届き者にポンコツと同程度の殺戮の嵐を吹かせろという合図そういうことか白天使に手を上げたソイツはかつてあなたの白天使を傷つけたポンコツに類する何かなのだろうだとすればあなたが手を抜く理由はないそもそもにあなたの愛する家族に手を出すという事自体が手を抜いて戦う理由を消し去るのださらに理由が増えるというならばあなたはあなたの全力を以て叩き潰す事にするのだあぁ憎い憎い憎いあのクズ共がいなければあなたもあなたの家族ももっともっとずっと穏やかな旅路をしていた筈なのだあらゆる旅路の中にクズ共が現れてあなた達の道を阻むのだこの箱庭世界を見渡して殆ど存在することのない機械という存在をかつてのあのモフ達の様に手を出して生命を歪めるに飽き足らず遥か昔にあなたの家族にまで手を出してあなたはあなたの技術を磨いてその憎き傷跡を残らない様に本人の姿にも残らない様にと治す事が叶わなかったからせめて見えない様にと涙を流して謝って謝ってそれがあなたを終わらせない理由の一つになっていつまでもいつまでもあなたとあなたの家族をこの生に縛り付ける楔になってあぁふざけるなあなたは縛られる事などあってはならないのだあなたは風の声あなたは風なのだ妻の黒天使が長い長いあなたの意識の眠りを起きるまでずっと見守ってずっとずっとあなたを守る為に戦い続ける羽目になってあなた如きの為に妻の黒天使を縛り付ける羽目になって白天使をあなたという存在に縛り付ける事になってポンコツさえあのクズさえ存在しなければあなた達はあなた達はあなた達はずっとずっとあぁならばあなたは応えよう妻の黒天使の意思に応えようポンコツに類する存在は血祭りに上げてこの世から消し去って見せるだからあなたは牙を剥いて憎悪を垂れ流し周囲の人々が意識を手放す程の殺意を世界に解き放ってこう叫ぶのだ。

 

 

 

 

 

 ───ミツケタ。

 

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

 

 ───南側。いつかの大樹。

 

「……あら、白天使じゃない」

「んー? あ!      おねえちゃん! みつけたー!」

 

 ズビシッ! と少女に向けて指をさす幼女の姿。

 少女としてはみつけたと言いたいのはこちら側だと言いたげな顔で苦笑した。

 北側の騒動の後、南側に移動して怪我を直して回る白い天使の様な幼女。というよりまさに白天使の名前を聞いて探し回ったのだ。

 

「こんなところにいたのかー!」

「こっちのセリフよ白天使。なんでこんなところに来てるのよ。危ないじゃない」

 

 白天使特有の放浪癖の性で探すのに手間取り、大樹の天辺の葉の上にいるところを見つけたのだ。

 本当に何故こんなところにいるのか。というよりどうやって上がったのか。

 白天使に翼はない。確かに浮遊装備を付けているものの、精々井戸に落ちたりしないための装備だ。

 こんな高さまで上がれる能力はない。

 

「おりれなくなったー!」

「……。まぁいいわ」

 

 白天使の腋に手を通して抱き上げて翼をはためかせながらゆっくりと下へ降りる。

 

「ごしゅじんはー?」

「……まだ合流できないわ。少なくとも私は。もう少し調べたいことがあるの」

「しらべものー?」

「えぇ。調べものよ。それと、ちょっとした約束もあってあまり自由には動けないのよ」

「やくそくはだいじー! いえー!」

 

 腕の中でもぞもぞと暴れる白天使を抑えながらふわりと地面に降り立ち、白天使に耳打ちする。

 再開できたとは言え、これ以上自由行動の時間はない。

 

「私は、もしもの時は助けるつもりだけど。何でも助ける事は出来ないわ。だから、自分で自分を守ったり誰かを守る術を教えておくからなんとかしなさい。便利な世界ねこの箱庭は。ギフトが本当に便利」

 

「まもるー! じこぼうえいだー!」

「……どこまで何が可能かはまだ分からないわ。でも私たちは間違いなく同じギフトを持っていて使えるはずよ。だから、もしも『何かをしたいと思って力が足りない』そう思った時は使いなさい。後はギフトが何とかしてくれるわ。──ーこう言うのよ」

 

 

 

 

≪Eternal League of Nefia 起動≫と。

 

 

 

 ───……。

 

 

 

 

 

 ──……。

 

 

 

 

 

 ─……。

 

 

 

 

 




赤坂です。
実質ダブル主人公みたいな状況に……。
終わりが見えてきたけれど、まだまだ終わるつもりはないのでね。

ではでは
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