「とりあえず、おんしは……その、
「知り合いじゃなくて、女神様と信者の関係よぉ」
「いや、この先におるのは女神じゃ……今はそういう事でいい? まぁよいが……縋り付くのをやめい!」
先程まで握っていた無骨な剣を地面に無造作に放り捨て、白夜叉の腰に縋り付くヴェルニスを振り払おうとしながら片耳に手を当てたまま誰かと会話する白夜叉。
先程の太陽と見紛うばかりの閃光と言い、自信満々だったヴェルニスの即座降参と言い。外野は全くと言って状況に付いていけていないが、十六夜がひとつ溜息をついて白夜叉へと歩みよりヴェルニスの首を掴んで引き剥がしながら声をかけた。
「で? この不毛な戦いはこいつの降参による負けでいいとして俺らのゲームはどうなるんだ?」
「ん? ああそうじゃった……ん、あやつがおったはず」
耳から手を放した白夜叉が二度手を叩いて鳴らした。同時に彼方の山脈から甲高い叫び声が響く。
「試練に丁度いい奴がおるでな。そやつに任せよう。私はヴェルニスとやらとこの謎の声の先の相手を……」
「謎の声じゃなくて女神様の御声よぉ?」
「その
「だめよぉ白夜叉に許してもらわないと女神様に怒られるものぉ。呆れられるのはいいけど怒られるのは嫌よぉ敵対するかもしれないものぉ」
「話の通じん奴だの。腰に縋り付くなといっておろう! とりあえずおんしらは試練をクリアしたらまた声をかけい!」
ズルズルと腰に縋りつくヴェルニスを引きずりながら大股で白夜叉は離れていき、入れ違いに鷲と獅子を掛け合わせたような鳥が現れる。
引きずられる光景と鷲獅子を横目にやや頭の痛そうな顔をしながら十六夜は皆の方へ体を向けた。
自由奔放に生きている故に頭を痛ませる事自体、十六夜には最近は無かった気とするが体は慣れた調子で頭を痛ませてきた。
ストレス性の頭痛だろうか。それにしてはあまりにも慣れきった痛みにも感じる。
原因は分からずとも十中八九、あの地球住みとは思えないヴェルニスが原因だろう。それならば深く悩む必要もない。
そもそもに十六夜は慣れ親しんだ地球を離れ。新たな世界、未知の生物。おおよそ地球では理解出来ないような物が溢れかえる箱庭に来ているのだ。
頭痛の一つもあってしかるべきかもしれない。
(……妙な既視感がある気もするが気のせいって事にしとくか)
謎の頭痛は放っておけばいいだろう。少しずつ痛みも引いてきた。
それよりも、ぞんざいに与えられた試練についての白夜叉への文句を考えておくべきだろう。
*
「突然届いた手紙を
『そうは言っても仕方ないじゃない? はぐれたものははぐれたのよ。私がいるのは箱庭の外は寒くて、中は赤い街。壁も建物も赤が基調ね。どこらへんかわかる?』
「外が寒くて赤いなら、まず間違いなく北側の何処かじゃな。こっちのコレが落ちたのは箱庭の東側の端も端。二一〇五三八〇外門というところじゃ」
『そう。そっちには歩いていける距離なのかしら? それとも移動手段が別に何かあるのかしら』
「そうじゃな、こっちに来るにしてもそちらに行くにしても境界門を使うしかないかの。こちらは東側でも北側よりの場所ではあるが距離が距離での。980,000kmといったところかの」
声の先にいる彼女は北側の街に落ちたようだった。現在の場所さえ特定できてしまえば白夜叉ならばすぐにでもヴェルニスを連れいていく事も出来る。
外門の桁を調べてもらえばそれで終わりだ。
とはいえ聞きたい事は尽きない。どうやって声を飛ばしているのか、そもそも地球から来たのかどうかすら怪しい。
そう思うものの、腰に縋りつくヴェルニスがあまりにも鬱陶しい事この上ない。
「女神様と何を話してるのぉ? 箱庭の北側に女神様がいるの? 帰り方知ってるかしらぁ」
『980,000km……そこそこ面倒な距離ね。そこの馬鹿ご主人の質問への答えは誤魔化しておいてちょうだい。そうね『直接会いに来れば帰れる』とかなんとか』
「……直接会いに来れば元の世界に帰れるかもしれないそうじゃ。いや実際は帰る手段はもっと」
『黙ってなさい。真実なんて語っても無意味よ。ご主人に理解なんて出来ないから。この世界に居もしないルルウィ神を探させてウロウロさせておけばいいわ』
この声の主は、ヴェルニスをご主人と呼ぶ割にはあまりにも扱いが酷い気がした。
「白夜叉ってどれくらい強いのかしらぁ?」
「私か? 私は箱庭4桁のコミュニティの〈サウザンド・アイズ〉の幹部。箱庭四桁の実力者じゃな」
「コミュニティじゃなくってぇ、白夜叉自身のぉ」
「……二桁。箱庭席次第十番」
「女神様の桁はマイナス突入してるわねぇ……オーバーフローしてないとおかしいわぁ。女神様は元気そうかしらぁ?」
『驚いたわ。ご主人がランク付けを理解できてるなんて。とりあえず、私にそこまでの力は無いのは確かよ。ご主人の言う女神様、ルルウィ神なら有り得たかもしれないけれど』
「……………………うむ。元気そうじゃ」
ヴェルニスが何を考えているのか全くこれっぽっちも理解出来ない。言動が本能と直結しているタイプの馬鹿なら箱庭にもごまんといるがそれともまた違うタイプの馬鹿だ。
遥かに厄介な問題児に絡まれた気しかしない。確かに白夜叉も箱庭三大問題児などという不名誉な通り名をつけられていたりするものの他の問題児よりはマシな方だと自負している。
根本的に話が通じないヴェルニスに、女神と呼ばれている神ではないはずの声の主。下手に力を持っている分放置すると言うのも怖い。
神ではないと本人も言っているこの とやらはヴェルニスの召喚に巻き込まれて召喚され、主人と呼ぶヴェルニスと……ヴェルニスとどうなったのだったろうか。
「んむ……?」
ふと、気がつく。この謎の声は確かに先ほどの戦闘後に名乗ってくれた。だというのに名前を呼べない。頭に名前が思い浮かぶこともなかった。
名を奪われ、名前の所有権を持つ者にしか呼べないのとも違う。
霊格が不安定な者は
そもそも、箱庭に来たばかりの者が既に名を奪われたとも思えない。
召還直後に魔王の手でギフトゲームに引きずり込まれ、名をピンポイントで奪われた可能性は無くはないがありえない。
それならそれで少しは何か堪えているはず。
色々な考えが頭を過り、そして消えていく。
(いや、違うの。そもそも私は耳なんぞに手を当てて
今いるここは白夜叉の持つゲーム盤の中だ。隔絶された世界に干渉出来る存在など限られている。
先程まで誰かと、何かを話していた気はする。だがそれが誰かがわからない。少なくとも知り合いではないはずだ。
誰だったのだろうか。疑問だけが白夜叉の頭を埋め尽くす。
何かしらの干渉を受けている。あるいはギフトによるものか。だが今この場で白夜叉に対して何かしらの攻撃を行える者などヴェルニス位の物だ。
明らかに異常事態だ。警鐘が白夜叉の中で鳴り響いている。
ヴェルニスが無意識化でギフトを行使している可能性もある。
それが縋り付く、というよりは『体に触れる事』で起こるのではとも思いつくが、半ば本能的に『ソレは違う』と頭が叫んでいる。
『 』
「……のぅ、ヴェルニス。女神様の名前をお主の口から教えてもらえんかの」
「女神様と友達じゃなかったのかしらぁ?」
「いや……友人の信者のお主の口から改めて聞きたくての」
「わかったわぁ愛する女神様の名前を広めるのは信者の役目だものねぇ。女神様の名前は『ルルウィ様』よぉ」
『 』
見知らぬ女神の名前。何処かで聞いた覚えもない。
白夜叉の記憶の片隅にすら引っ掛かる事はなかった。
「……なんじゃろうなこの妙な違和感は」
「何ぶつぶつ言ってるのぉ?」
「いや、名前についてではないのだがの……なんといえばよいか。ひとまず私がわかる事と言えば、ひたッッッッッッッッッすらに面倒くさい事が起きているかもしれないという事じゃな!」
『 』
「面倒なのはいやねぇ」
気にする程の事でもないのだろう。記憶に残らない程度の事だったということ。
ちょうど向こうの少年少女ら三人の試練も終わったようだ。
ヴェルニスとのいざこざは置いておこう。ルルウィとかいう女神とは知り合いということにしておけば何かと便利に使えるだろう。
『 』
騙すようで悪いが、下手に力を持った馬鹿に度々襲われるのは流石に堪える。
というより、元々離れてヴェルニスに女神について聞くだけだったというのになぜこんなにも時間がかかったのだろうと僅かに思いつつもヴェルニスを引きずって白夜叉は皆の元へと戻っていく。
*
戻ってきた白夜叉は鷲獅子と二言、三言話し合った後に皆と向き直した。
「よりによってギフトの鑑定とはの……専門外の上に無関係もいいところのなのだが仕方あるまい」
ううむ、と唸り困ったように白髪を掻き上げる。
ちら、とヴェルニスの顔を見た後に三人の顔を見つめた。
「ヴェルニスに関しては素養とかいう次元の話じゃないし、ちょっと引く位鍛え上げられておるのはわかる。自分でもそれは把握しておるだろう? 他の三人も素養は高いが……何とも言えんの。自身のギフトについてはどれくらい把握しておる?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「ギフトってなぁに?」
「うおおおおおい? 確かにおいそれと語ってよいものでもないが、それでは話が進まぬではないか! それと黒ウサギ、ヴェルニスにもキチンと箱庭については説明したのだろうな!?」
「ヴェルニスさん、皆さんと一緒に説明しましたよね!? 頷いて返事もしてくれてましたよね!?」
黒ウサギがヴェルニスに向けて問うが本人はニコニコしたまま返事すらしない。上の空で返事をしていたということだろう。
困り果てたように白夜叉は頭を掻く。
「そうじゃなぁ……改めて説明するなら、ギフトは神や悪魔等の修羅神仏や星から与えられる一種の”能力”とでも思ってもらえればよい。鑑定はより詳しく自身に宿るギフトについて知る為にやるで……そうじゃな。新人祝いも兼ねてコレを贈ろう」
白夜叉が手を二度叩くと四人の前に様々な色をしたカードが現れた。
逆廻十六夜の前にはコバルトブルーのカードが。
久藤飛鳥の前にはワインレッドのカードが。
春日部耀の前にはパールエメラルドのカードが。
ヴェルニスの前にはアメジストバイオレットのカードが。
そのカードを見て黒ウサギは興奮したように叫んだ。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「冒険者カード?」
「違います! というかなんで皆さんそんなに息が合ってるのです!? このギフトカードは顕現している恩恵を収納できる超高価なカードですよ! 他にも───」
「収納用のアイテムってところかしらぁ?」
「ざっくり簡単に言ってしまえばそんな所です! 超素敵アイテムなんです!」
「見ればわかるが、お主らに宿るギフトの名がそこに刻まれておる。そのカードの正式名称は<ラプラスの紙片>。全知の一端を秘めたカードじゃ。鑑定は出来ずとも名前から正体を推測するのは簡単じゃろう。本来はそこにコミュニティの名と旗印も刻まれるはずだが<ノーネーム>じゃからの。味気ないのは許せ。文句は黒ウサギに言うがよい」
ギフト名が刻まれた簡素なカードを各々が見つめる。
そんな中、どことなく怪訝な顔をしたヴェルニスが白夜叉に声をかけた。
「ねぇ白夜叉ぁ? これ壊していぃ?」
「壊れておったか? 流石に不良品は無いとは思うが……というか今お主何といった? "壊していい"? もしや"壊していい? "と言ったの か!?」
「別に壊れてなかったからやっぱりいいわぁ」
「……ギフト名に心当たりが一切無い。もしくは何かエラーでも吐いたのかの?」
やや疲れ気味の様子でヴェルニスのギフトカードを見せてもらう。
ギフト名を見た白夜叉もまた怪訝な顔をする事になった。
驚くというわけでもなく、ただ単に不思議なギフト名がそこには表記されていた。
「<称号保持者>に……なんじゃこれは? <えろな>?」
「称号に関してはわかるからどうでもいいんだけどぉ。その<えろな>? っていうのがよくわからなくてぇ」
「ふぅむ。英語名での表記は珍しい物でもないが、大抵の場合対応言語に翻訳されると思うしの。この<えろな>……<Elona>なんたらかんたら、という言葉が略称という可能性は?」
「うぅん……どうかしらぁ。えいご? が何か知らないけどぉ、昔聞いたことあるものだとぉ」
「≪Eternal League of Nefia≫とかかしらぁ?」
「…………ッ!」
特に何を言うわけでもなくやや怪訝な面持ちで自身のギフトカードを見ていた十六夜の頭に、鈍い痛みが走った。
額が破裂するのではと思わず錯覚する程の激痛に思わず手を当て、頭を振る。
「……どうかしたの?」
「あら、頭痛かしら」
「……───いや、なんでもねぇ。大丈夫だ」
衝撃に耐えかね足元がふらついた十六夜にやや心配そうに二人が声をかけてくる。
二人には特に何も異常は起きていない様子だった。だとすればやはりこの痛みは十六夜にだけ起きているのだろう。
ギリギリと脳を締め付ける様な痛みは残っているが二、三度頭を振って無理やり立ち直る。
(ヴェルニスが言った瞬間……そのタイミングで痛みが来た。ってことは)
「箱庭に来て色々と起きましたから、きっと疲れによるものかもしれません。白夜叉様! そろそろよろしいでしょうか?」
「んむ? そうじゃな。まだ聞きたい事も尽きぬが……また後日でよかろう。時間はあるしの」
痛む頭を回転させて働かせるが、結論が出るよりも早く黒ウサギが白夜叉へと声をかけた。
白夜叉が二度手を叩くと同時に世界は再び白夜叉の私室である和室へと変わっていた。
「ひとまずおんしらのコミュニティの本拠に戻って休むとよい。小耳に挟んだが<フォレス・ガロ>に喧嘩も売っておるようだしの」
「うっ……申し訳ないのデス……」
「よいよい。あやつの言動。いい加減目に余っておった。存分に戦うとよい。箱庭のルールに慣れる上でも妥当じゃろうて」
「……白夜叉も気付いてたの?」
「おんしらがやらねば、数日以内にでも私自ら手を下してやろうかと考えてはおったが何分、証拠が足らんくての」
「ちょうど良いタイミングだった感じかしら」
「余程の事がない限り、地元の問題は地元で解決した方がコミュニティの成長にも繋がるからの……余程の事だったからこそいい加減手を下そうと考えていたがの」
「じゃあ、なおさら捻り潰して後悔させてやらないといけないわねぇ」
ワイワイと話しながら白夜叉の私室を離れ、暖簾の下げられた店先に移動した。
別れの言葉を告げる前に、白夜叉は真剣な顔で黒ウサギ達を見た。
「……ところで。今さらだが一つ聞かせてくれ、おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」
「名前とか旗の事か? それなら聞いたぜ」
「それを取り戻す為には<魔王>と戦わねばならんことも?」
「聞いてるわよ」
「……それで良いのだな? 全て承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」
「魔王って捻り潰してミンチにしてもいいんでしょぉ? 楽しそうじゃなぁい」
「楽しそう、で済む話ではないのだがの……そこの娘二人はもう少し力をつけておくがよい。魔王と戦うとなればおんしら二人はまだまだ力不足じゃ。小僧も、ヴェルニスも。言われずともわかっておるだろうがギフトゲームに慣れておかねば、簡単に
力不足と言われた飛鳥と耀の二人はムッとするが反論する事は出来なかった。
白夜叉の助言は物を言わせぬ威圧感があった。
知は力なり。いつの世も、力があるだけの馬鹿は知恵ある者に利用される。
四人はまだ箱庭に来て一日と経っていない。だというのに明日には既に初戦が控えているのだ。
「……ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次はあなたの本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」
「私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い」
「今度、さっきのお詫びにお菓子持っていくわぁ」
「そうじゃなぁ、黒ウサギのチョコレートがけが食べたいの」
「「「「よしわかった作ろう」」」」
「嫌です! というか黒ウサギは食べ物じゃないですし食べ物を粗末に扱わないでください!」
「馬鹿なことを言うでない黒ウサギ! 私が黒ウサギの体から滴るチョコレートを一滴でも溢すとでも!?」
怒る黒ウサギ、笑う白夜叉と問題児達。
店を出た五人は無愛想な女性店員に見送られて<サウザンドアイズ>二一〇五三八〇外門支店を後にした。
どうも赤坂です。
令 和 初 投 稿
改めて色々と設定を練りに練ってたら一月経ってました
とりあえず当面必要そうな設定を、超今更練り終わりました
今後の私の執筆速度が速くなるといいですね(希望的観測)
ではでは。