自由落下すると死ぬあなたはとても歯がゆい気分で降りていた。
高い所に陣取る理由が分かった気がする。廃人を封じるのは高さだろう。この世界において落下は強敵だ。
駆け降りようにも、階段のように足を滑らせた時点で膨大なダメージと契約の魔法のストックの減少、それを割り切って受け入れたとしても回復やら何やらで貴重な時間がそこそこ経過してしまう。
結局あなたが開幕でしたのは一発屋の一撃程度だったということだ。
一発屋の影響で会場が木端微塵に砕けているが気のせいだ。コラ……コラテなんとかだろう。
あなたがやっとの事で地面に着いた頃にはギフトゲームは一時中断されてしまっていた。なんでもギフトゲームに不備がある可能性があるとか黒ウサギの声が響いていた。
そんなのはどうでもいいから血みどろの殴り合いをしたい。
あなたなら不備があろうと全て真正面から破って殺し……もとい殴り倒してみせる。
不備など関係ないだろう。あったらあったで主催者側の失態だ。あなたは微塵も気にしないので続けて欲しい。
あぁ、めんどくさくなってきた。ポンコツはどこだ。殺戮の渇望が止めど無く湧いてくる。一度ミンチにしてしまえばあとは楽になるというのに。
……さてはエーテル病だろうか。殺戮への飢えの症状だろうか。ずっと昔からちょこちょこ発症してはいるものの、いい加減付き合いが長いから気に留めていなかったのだが。悪化したのだろうか。
ポンコツ限定での発症というのは気持ち悪いのでエーテル抗体を飲むかどうか少し悩んだ。
今のままでは一緒に羽や蹄が治ってしまう。一度わざと何かを発症しなければ……。
とはいえどうしても殺戮の飢えが収まらない。やはり一月以上もミンチをほとんど見ていないのが原因だろう。
この一ヵ月程、本来なら数万単位のミンチを見るはずが見てないのだ。
ギフトゲームが中断されたなら、と展示場に向かって歩きながら願いの魔法を唱えて麗しの女神様にお願いをしてみた。
女神様……。ポンコツが殺したいです……。
自分で見つけなさい。という端的で簡潔でとても有難い御言葉を頂いた。
滂沱の涙を流しながら感謝しておいた。有難い御言葉だ。
スッとした気分で展示場に辿り着いたあなたは立ち入り禁止の札や紐が切られているのを見つけた。
アレだろうか。テープカットだろうか。展示場オープンしました。的な。
いや、数日前から開かれてるはずだからそれはない。なぜ今更それが行われるのだろう。
ふと冷静になりつつ。不思議だな、と首を傾げながらもあなたは入っていった。
*
明かりが一切付いていないがあなたの眼では問題ない。いつも暗いネフィアの底で戦っているあなたには暗闇など敵ではない。
盲目状態になったらなったでメテオを唱えるだけだ。
展示物が撤去されているなどと言われていたがまぁ方便だろう。ちらほらと何かがあったような跡だけで何も置いていない展示スペースがあるにはあるが全て飾られたままだ。事件というのは泥棒だろうか。
そのまま進むうちに広間に着いた。天井の高い広間になっており、なにか大きな展示物が置いてあったような跡がある。
中央に一つでかでかと展示用のスペースが取られているから丸わかりだ。
展示品の看板には『制作:ラッテンフェンガー 作名:ディーン』と書いてある。
この大きさの展示物とはなんだったのだろう。抽象的な作品名でなくこの大きさを取るところを見るに像だろうか。
この箱庭の著名な人物の像だったのかもしれない。だとしたら一目見てみたい気持ちもする。
あなたがウロウロと歩き回りあらかた見尽くしたところで入口の方から数人の声が聞こえてきた。
誰だろうか。ここは今おそらく立ち入り禁止区画だろう。衛兵かもしれない。
とりあえず★≪ハデスの兜≫を被っておこう。透明ならバレないはずだ。
この兜、意外と便利かもしれない。濡れたら即座にバレるだろうが。
入ってきたのはあなたが殴り飛ばした魔王とおぼしき三人組だった。あのゴーレムはどうしたのだろう。
入口が狭いから通れなかったのか。
まぁどうでもいい。とりあえずまた殴り飛ばしておこう。
そう思って長棒を取り出しつつ近づいていくと、斑ロリがぎゃあぎゃあとあなたの事を五月蠅く罵っていた。
やれ開始前に殴りかかるな、やれ主催者として格好がつかない、やれ予定が狂った、やれ交渉すら上手く通らない。
全部あなたの所為にされていた。
最後の交渉に関してはあなたの知った事ではない。死亡フラグ少年があなたを交渉材料に使ったのだろうか。
……ここ最近、どうにも死亡フラグ少年。あなたを制御する方法がないか。制御することが不可能なら不可能なりに使い道がないのか。そういう事を小賢しくも考えているように思える。
あなたはあの程度の雑魚に御されるほど落ちぶれてはいないのだが。今度お灸を物理的に据えておこうか。
今度死ぬことが決定した死亡フラグ少年はともかく目の前の三人で遊ぼう。
あなたは微笑みを湛えながら兜を脱いだ。
三人が恐ろしい物を見る目であなたを見てきた。ははは。愉快愉快。
長棒を握って手をぺしぺしと叩きながらさらに距離を詰めていく。ぬちゃぬちゃしていて気持ち悪い。なんでこんな物をあなたは作ってしまったのだろう。反省して今度は別の弱い武器を作っておこう。
またしても斑ロリがぎゃあぎゃあと喚いている。
やれ相互不可侵のはずだ、やれなんでここになんでいるだ、やれ手を出したら違反だ。そんな風に何か喚いているがあなたには関係ない。
掃き掃除で床の目の端っこに残った塵程にどうでもいい。意外と気になる気がする。細かい所まで綺麗に掃除しなくては。
ゴミがまた一つ消える事に喜ぶルミエスト北の清掃員を思い出しながらもあなたは長棒を振りかぶった。
あなたはあなたのギフトの効果の一部を既に把握している。この一月で見つけた成果の一つだ。
何の遠慮もせずに殴りかからせてもらう。あなたは遠慮をしなくてもいいのだ。そういうギフトとだけ説明しておこう。
詳しい事はよくわからないが、あなたはルールだなんだというちんけなものに囚われる必要はない。
斑ロリは頭の上から叩いて地面に突き刺しておいた。
地面のじんわりとした温かさと共に雑草の気分を味わうといい。
麗しき女神様よりも露出の少ない痴女はけしからん乳を横からはたいてから顔面を面白い感じに陥没させておいた。前が見えなさそうだ。
どこかで聞いた歌の様に乳をもぎたかったが、もいだらそのまま殺してしまいそうだから止めておく。……バルンバルンしよる。ワァオー。
軍人は……とりあえず足払いを掛けて平安京エイリアンの刑でいいだろう。
意図せず足が地面から生えたような姿になったが……まぁ何の問題もない。どこかの有名な一族の足のようにも見える。気のせいだ。
一連の作業を文字通り光速で終えてからあなたは死亡フラグ少年や白夜叉と話の擦り合わせに向かう事にした。
さすがにここまで魔王達が弱いとは思わなかった。実質初めての魔王戦はとてもつまらなそうだ。
今のあなたには殺しが出来ない以上これ以上する事もない。
あなたはその場を後にした。
*
以上の諸々を会場で黒い霧かなにかに覆われて動けない白夜叉に話しておいた。
かなりドン引きされたうえに、状況を何も知らないまま絹糸の上を全速力で走る様な真似はやめてくれと伝えられた。
あなたとしては全速力ではなくティラノサウルスに乗って走ってる気分なのだが。
とりあえず安心してほしいと伝えておいた。あなたは何の問題も起きないと思ってやった行為なのだ。何か問題が起きても発覚する前に握りつぶすだけだが。
それと、そもそも頼み事があってこの祭りに連れてきたはずなのだが、と愚痴をいわれた。
そういえばそうだった。昨日の夜にふと思った忘れていたというのはこれだったか。
依頼を受ける前だからすっかり忘れていた。ジャーナルにしっかりメモっておいてほしい。どうせ見ないが。
あなたの予想ではきっと魔王が現れた時の対処要員だと思う。
率直にそうなんだろう。と聞いたら返答に困っていた。図星のようだ。
だったらあなたの先程までの行動は咎められる理由がないはずだ。魔王は叩き潰していい。それを叩き潰して遊んだ。
文句を言われる筋合いがないではないか。あなたは悪くない。
実際、あなたが本気で戦うなら二秒もいらない戦いだ。あなたが殺戮行為を是としていたらもう終わっている。最初の接敵時点で三人+1体の首を刈って終わりだ。
あらゆる生物は首を刈れば死ぬ。全ての世界の共通のルールだ。おお諸行無常。
あなたは自重するつもりはない。手加減するつもりもない。あらゆることに本気で取り掛かり全力で遊ぶだけだ。
あなたがノースティリスでしていたことと何も変わりはない。
白夜叉が腐った食べ物を食べてしまった時の様ななんともいえない渋い顔をしているがどうしたのだろうか。胃が痛いのだろうか。
最近、よく渋い顔をあなたの周りの知り合いに見る。もしや何かの病気だろうか。
ほ、ほぎー。とか言われたらちょっと本気で辺り一帯を灰燼に帰すまで滅ぼすのだが。
祝福された聖なる癒し手ジュアのポーションが荷物の底に入っていたから飲ませておこう。病気退散。
黒い霧に触ろうとするとなんかパリパリと地味に痛いし弾かれた。投げたら貫通しないかと思い投げたら邪魔な黒い霧にポーションが当たって砕けた。
これも弾かれたようだ。むかつく。破壊したくなってきた。
ちょっと全力を出してもいいだろうか。白夜叉なら大抵の攻撃では死なないと思うし、あなたが本気をだせばイけると思う。
イの字が逝の気がする、と白夜叉が叫んでいるが、あなたでも苦戦しそうな相手だ。あなたの一撃程度ではきっと死なないだろう。多分。きっと。おそらく。
ちょっと剣を抜いて、ワーッとやって、パパパッと斬って、終わりだ。その程度なら平気だろう。
まぁその剣が本気と書いてマジと読むレベルの一発屋の剣なのだが。いい加減強化しようにも強くなりすぎてもはや一回血を吸われたら死ぬまで吸われるまで育てたあなたの古い剣の一本だ。
ちょっとシャレにならないレベルで重くした大剣の全力振り一本、ポンコツを一撃で叩き斬る攻撃を見せて差し上げよう。
魔法の方がダメージは出るが、あっちは本気で冗談では済まないので使わない。もし貫通したらついでの威力でも100000%以上の確率で殺してしまう。
万が一にも地味にレベルを上げただけの魔法の矢などでは破ってもつまらない。この状況でのっぺりとした終わり方はしたくない。
ニヤニヤした顔で仕方ないから物理でとか呟くな、と叫んでいるが……まぁきっと空耳だろう。
口笛を吹いて誤魔化しておいた。
神々も絶賛する演奏技術による無駄に上手な口笛でも誤魔化されないと叫んでも空耳は空耳だ。
満面の笑みで全力であなたは剣を振り下ろした。
カキンッと阻まれた。なるほど。欠片もダメージの入らないこの反応から察するにきっとすくつの階段のように不思議なバリアで塞がれているのだろう。
そうかそうか。だったら仕方ない。あなたにはどうしようもない。全存在にダメージを通せるといってもあくまで敵対出来る存在だけだ。物やバリアは殺せない。
白夜叉がマジでグッジョブ箱庭……と天を仰いでいるが破れないものは仕方ない。また今度白夜叉には直接事故を起こそう。おっと。口が滑った。
あなたは、味方に敵がいると叫ぶ白夜叉を背にその場を立ち去った。
あなたにとって味方として扱うのは妻とその子供達だけだ。
女神様はもはや敵や味方といった次元の問題ではない。
さて、白夜叉にとっての味方とは誰の事だろう。
どうも赤坂です
ではでは(即座)