リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ   作:ロンギヌス

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お待たせしました。
エピソード・アビスの6話目が更新です。

前回投稿した嘘予告ですが、感想欄やメッセージボックスで「書いて欲しい」と仰る方達が予想してたよりも多くて個人的に凄くビックリしています。
何、そんなに見たいのか君達は!?

なお、実際に書くかどうかは本当に未定なので何とも言えません。

それはさておき、エピソード・アビス第6話をどうぞ。












とあるシーンのBGM:Covert Coverup









エピソード・アビス 6

『決めるのは今すぐじゃなくても良いわ。でもなるべく、自分がどうするべきか答えを出して頂戴ね。私はいつでも待ってるから』

 

『……管理局を潰して、お前はどうする気だ?』

 

『決まってるじゃない……私は私だけの居場所を作りたい。ずっと昔から、それは変わらないわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうは言われてもな」

 

その日の深夜。空港から立ち去った二宮はその後、アパートに帰還するなりソファに寝転がり、溟から聞いた話を頭の中で順番に整理していた。彼女の素性、過去、そして目的……特に一番最後は、二宮にとってもスルーはできない事柄だった。

 

(ひとまず、あの女が何を目的に動いているのかは理解できた……問題は、あの女が目的を果たした先に、一体何があるのか……)

 

「まぁ~た1人で考え事してる」

 

「!」

 

二宮の顔に向かって、複数枚の資料が放り捨てられる。考え事をしている最中にいきなり資料を顔面に叩きつけられた二宮は小さくドゥーエを睨みつけるも、ドゥーエも同じように睨みながら二宮を見下ろしていた。

 

「いきなり何をする」

 

「何をする、じゃないわよ。いきなり帰って来たと思ったら何の説明もせずに、急に調べ物をしてくれなんて言われたら誰でもイライラするに決まってるでしょう」

 

「……それもそうだな」

 

それは確かにドゥーエの言い分が正しい。二宮は1人勝手に納得しながらソファから起き上がり、ドゥーエから渡された資料を1枚ずつ確認し始める。

 

「で、結局どうしたのよ? 帰って来て早々に例の連続殺人事件の詳細と、管理局の設立から現在に至るまでの経歴を一通り調べてくれだなんて」

 

「確認しておきたくてな。あの女の言っていた話が本当かどうかを」

 

「あなたが会ったっていう例のライダー? あなた、そいつと一体何を話して来たのよ」

 

「あの女に誘われた。共に管理局を潰さないかってな」

 

「は? ちょ、何それ!? そういう大事な事は早く言いなさいよ!!」

 

「耳元で喋るな騒々しい」

 

ドゥーエの文句は容赦なくスルーし、二宮は彼女に用意して貰った資料に目を通していく。彼でも読みやすいように日本語で翻訳されている複数の資料の中、彼が最初に読み始めたのは溟が起こしている連続殺人事件の発端となった局員の殺人事件について。

 

(時空管理局顧問官のガレア・ヴィンセクト氏……自宅にて、全身を鋭利な刃物らしき物で切り刻まれた状態で死亡しているところが発見された……これが例の事件か……)

 

表向きは謎の殺人事件という形でニュースになっているこの事件。しかし地上本部勤務のドゥーエが密かに管理局のデータベースにハックして入手した情報が、その資料では詳細に語られていた。

 

(! 奴隷の情報も書かれている……なるほど、ここは真実と見て良さそうか)

 

溟が嘘を付いてはいない事はこれでひとまず理解できた。しかし二宮からすれば、本当に重要な要素となるのはそんな事件の情報ではない。彼は次の資料に目を向け、書かれている内容を素早く読み込んでいく。

 

「……無知ってのは悲しいもんだな」

 

「?」

 

二宮がさりげなく呟いた小さな一言は、ドゥーエ以外に聞き取る者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ北部、管理局陸士315部隊本部隊舎。その応接室にて……

 

 

 

 

 

「ぬ、ぐうぅぅぅ……ッ……貴様、何者だ……!?」

 

「誰でも良い。あなたを消しに来た」

 

血の流れる右肩を押さえ、1人の男性局員が壁際に追い詰められていた。それと相対するシャドウは、右手に構えているクロウフェザーから滴り落ちる血を見据えた後、左手に構えていたもう1本のクロウフェザーを男性局員の眼前に向ける。

 

「わ、私を殺したところで、お前に一体何の得があるというのだ……!!」

 

「私の邪魔者が消える。それだけで充分」

 

「きさっ……がぁ!?」

 

シャドウがクロウフェザーを振るった瞬間、掻き切られた喉元から血を噴き出した男性局員がその場にドサリと倒れ伏し、ピクピク痙攣する以外の行動が取れなくなる。シャドウは目の前のターゲットが死に行くのを見届けてから、クロウフェザーに付着した血を周囲に振るう事で綺麗に払う。

 

その時……

 

「これでまた1人……ッ!」

 

「失礼します」

 

応接室の扉をノックする音と、女性局員の声が聞こえて来た。シャドウはすぐさま天井の全ての蛍光灯に向かってクロウフェザーを連続で投げつけていき、蛍光灯が次々と割られていくと共に部屋全体が真っ暗になっていく。

 

「!? 何や……!?」

 

蛍光灯の割れていく音を聞き取った女性局員―――八神はやては部屋の中の異常を察知し、すぐさま扉を開けて部屋に突入。はやての視界には、シャドウの姿が真っ黒いシルエットとして映り込んでいた。

 

「何者!?」

 

「フッ……!!」

 

はやてが行動する前に、シャドウは窓から切り取っていたカーテンを大きく広げ、はやての視界を遮る。そしてカーテンが床に落ちる頃には、既にシャドウは窓を介してミラーワールドに突入しており、彼女の前から姿を消してしまっていた。

 

「今のは一体……ッ!! エレバス部隊長!?」

 

真っ暗な部屋をデバイスの光で照らす中、はやては部隊の研修で世話になった事がある上官の男性局員が倒れている姿を発見し、すぐさま駆け寄っていく。その時、はやての目の前に1枚の黒い羽根が舞い落ちて来た。

 

「ッ……黒い羽根……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これでまた1人……!」

 

陸士315部隊本部隊舎から少し離れた位置の高層ビル。人の通りがない路地裏の窓ガラスから飛び出して来たシャドウは変身を解除し、溟の姿に戻って急いでその場を離れて行く。

 

(ライダーである私達にとって、管理局は邪魔な存在でしかない……目的を果たす為にも、組織その物を滅茶苦茶にしてやる……!!)

 

彼女からすれば、管理局に所属する人間は誰であっても敵でしかない。かつて管理局の人間によって苦痛を与えられ続けた彼女の心は既に、管理局に対する復讐の憎悪で支配されつつあった。

 

「私は必ず成し遂げる……管理局への復讐を……!」

 

その為なら、相手が誰だろうと殺す。どいつもこいつも、自分を苦しめたあの男と同じだ。今さっき殺したばかりの男性局員だって、あの男と同じに決まって……。

 

「決まって……」

 

『わ、私を殺したところで、お前に一体何の得があるというのだ……!!』

 

あの時、男性局員が見せていた顔。あれは死ぬ事に対する恐怖ではなかった。得体の知れない敵を前に、自分が屈する訳にはいかない。そんなブレる事のない覚悟と信念が、あの男性局員の目には強く宿っていたような気がしていた。

 

「ッ……違う……私は……!!」

 

こんな事で迷っていてはいけない。誰が悪人であれ、誰が善人であれ、己の目的を果たす為には、管理局に属する人間はこの手で徹底的に始末していく他ない。溟はそう自分に言い聞かせ続けた……言い聞かせなければ、善人を殺す罪悪感に押し潰されてしまうから。

 

「管理局は邪魔な存在……そうだよね、二宮さん……!」

 

自分と同じく、管理局を敵視している眼帯の青年。彼なら自分と利害が一致している。彼なら自分の想いがどれほどの物なのかを理解してくれる。

 

「早く来て、二宮さん……あなたと一緒なら、私は……ッ……!」

 

今はこの場にいない()が、なるべく早く答えを示してくれる事を信じて。溟は誰にも見つかる事がないように、自分の身を隠しながら暗闇へと姿を消していく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、なるほど。そういう訳だったのね」

 

「……何がそういう訳なんだ?」

 

一方。その二宮はと言うと、早く事情を話せと文句を言い垂らし続けていたドゥーエが鬱陶しく感じ、早く彼女を静かにさせる為に事情を一通り話し終えていた。話を聞き終えたドゥーエは納得したかのような口調で呟き、二宮は手にした資料に目を通しながら会話を続ける。

 

「要するに、あなたと同じ(・・・・・・)だったって訳ね」

 

「何?」

 

「だってそうでしょう? あなたもその娘も、子供の頃に両親を事故で失って、それなのに周りの誰からも気にかけて貰えなかった孤独で哀れな人間って事じゃない。何か間違ってるかしら?」

 

「……孤独で哀れ、ねぇ」

 

ドゥーエが告げた言葉に、二宮の眉が僅かに反応する。しかしドゥーエはそれに気付かないまま話を続ける。

 

「で、あなたはどうするの? もしかしてその娘と手を結ぶつもりかしら?」

 

「……それを聞いたところでどうする?」

 

「あなたが取る行動次第じゃ、私の任務にも支障が出てしまいそうだから聞いてんのよ。私がドクターの命令で動いている事、忘れて貰っちゃ困るわよ」

 

「そんな事は言われなくても理解はしている……安心しろ。お前が俺の答えを聞く意味はない」

 

「……それはどういう意味かしら?」

 

ドゥーエの表情から笑みが消えるが、二宮はそれすらも意に介さない。この自分1人で物事を推し進めて行こうとする二宮の行動は、彼と手を結んでいるドゥーエからすれば、何だか自分だけ一方的に除け者にされているようにも感じて気に食わなかった。

 

「ところでドゥーエ。集めた資料はこれで全部か? 他には何もないだろうな?」

 

「何よ。今度は人がやってあげた仕事にケチ付ける気?」

 

この不愛想な男は、一体どこまで自分を苛立たせれば気が済むのだろうか。返事次第では全力で睨みつけてやろうかと考えるドゥーエだったが……

 

「上出来だ。これだけの資料をよく集めてくれた」

 

「……!」

 

次に返って来た答えは、ドゥーエの頭を軽めに撫でる二宮の優しい手つきだった。全力で睨む準備を整えたばかりのドゥーエは思わず呆気に取られ、資料を持って玄関に向かって行く二宮の後ろ姿を見据えた。

 

(嘘……アイツが、私を褒めた……?)

 

今まで褒めるなんて行動をしてこなかったのに、どうして急にそんな事をやってくるのか。彼に撫でられた頭を右手で触れながら、ドゥーエは二宮の後ろ姿をちょっとだけ睨みつけた後……仕事を褒めて貰えた事に少しだけ嬉しさも感じ、おかげで内心はかなり複雑な気分だった。

 

「何よ、普段は素っ気ない癖して……調子が狂うじゃないの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……取り敢えず、あの馬鹿をさっさと見つけなきゃなぁ」

 

そんなドゥーエを他所に、玄関を出てアパートから出ようとしている二宮は、ドゥーエから貰った資料を折り畳んで懐に収め、どこかに向かおうとしていた。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

「……はぁ」

 

そんな彼の耳に、またあの金切り音が聞こえて来た。二宮は小さく溜め息をついてから振り返り、付近の駐車場に停められている車の窓ガラスに映り込んでいるオーディンと相対する。

 

『こんな夜遅くに、一体どこに向かうつもりだ……?』

 

「今の内に済ませたい用事があるだけだ……そういうお前こそ、野崎溟の事を何故今まで黙っていた?」

 

『あの女はお前の事を探していた。そう遠くない内にお前もあの女と出会う事になるだろうと思い、私からは敢えて何も言わなかった』

 

「……あ、そう。それで? 何故あの女を今まで放置していた?」

 

『地上本部の邪魔者を始末するのには利用できるかと思っていたのだが、彼女は少し目立ち過ぎた……彼女の暴走を利用するのはやめておけと、私からも()には忠告したはずなのだがな』

 

「何……?」

 

オーディンがさりげなく告げた、まるで自分は反対していたかのような口ぶり。そこに第三者の意志を感じ取った二宮が反応するも、オーディンはすぐに話題を切り替えてしまった。

 

『それよりもだ。二宮、お前はこれからどうするつもりだ。あの女とも手を結ぶか?』

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言葉通りの意味よ。私もあなたと同じ、天涯孤独の身となった人間って訳』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溟が二宮に対して言った言葉。それが脳裏に思い浮かんだ後、数秒間だけ目を閉じていた二宮は目を開き、目の前のオーディンに向かって言い放つ。

 

「……俺の答えは、最初から1つだ」

 

『ほぉ……?』

 

「この際だ。お前には今の内に言っておこう」

 

二宮がオーディンに告げた言葉。

 

それを聞いた時、オーディンは少しだけ驚くような反応を見せる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

 

 

 

「さて……」

 

ミッドチルダ北部。溟がいるであろう第8空港まで向かうべく、二宮はアビスに変身した状態でライドシューターに乗り込み、ミラーワールドを介して空港まで移動していた。空港に到着した彼はライドシューターを降り、崩落している階段の前まで到着する。

 

「待ってたわ、二宮さん」

 

「……あぁ」

 

二宮の予想通り、階段の前ではシャドウが足を組んで座っている姿があった。アビスの到着を待っていた彼女は立ち上がってその場を移動し、アビスも崩落している階段を軽々と跳び超えてからシャドウの後に続き、初めて彼女と素顔で対面した部屋に着くと同時に変身を解除する。

 

「あなたなら来ると思ってたわ。答えが出るまでもう少し時間がかかると思っていた、私の予想は外れちゃった訳だけど」

 

「無駄に長く考えるよりも、さっさと結論を出した方が良いだろうと思っただけだ」

 

「流石ね……さぁ、あなたの答えを聞かせて。私を手を組むか、組まないか」

 

「その前に聞かせろ」

 

答えを示す前に、二宮は溟にある質問をする事にした。

 

「野崎溟。お前は管理局を潰し、邪魔者を潰した後……そこからどうしたい?」

 

「昨日も言ったはずよ。私は私だけの居場所を作りたい。その為なら、私の邪魔をする奴は誰だろうと潰す。私とあなたの力があれば、それを実現する事だって不可能じゃない」

 

「……その為に、お前は俺と共にいたいって事か?」

 

「えぇ、その通りよ。もはやそれ以外の人間なんて必要ない。私にはあなたがいればそれで良い」

 

「……そうか」

 

溟の答えを聞き、二宮は何かに納得した様子でウンウンと頷いた後、改めて答えを示す事にした。

 

「ねぇ、早く聞かせて。あなたの答えを」

 

「わかった、答えるとしよう。野崎溟……これが俺の答えだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスゥッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

殺気がした。

 

素早く身体を反らした溟の前を何かが通過し、近くの壁に勢い良く突き刺さる。見てみると、それはアビスラッシャーがいつも構えている長剣であり、罅割れている窓ガラスからはアビスラッシャーとアビスハンマーが唸りながら溟を睨みつけていた。

 

『『グルルルルル……!!』』

 

「ッ……どういう事……!?」

 

「俺がお前と組むだと? 冗談じゃない……」

 

壁に刺さっているアビスラッシャーの長剣を抜きながら、二宮は冷たい目付きで溟を見据える。それはまるで獲物を見つけた鮫のようであり、視線の合った溟が僅かに一歩後ずさる。

 

「ただでさえ目立ち過ぎているお前と、何故俺が手を組まなきゃならない? 俺にとってはデメリット以外に何もありはしない」

 

「なっ……何を言ってるの? 管理局が邪魔なのは、あなただってそうでしょう!? なのにどうして―――」

 

「管理局を潰したい。お前は確かにそう言ったな」

 

壁から引き抜いた長剣を向けながら、二宮は淡々と言い放つ。

 

「考えてもみろ。あれだけ規模のデカい、いくつもの世界に進出しているような組織だぞ? どれだけ深い闇を懐に抱えていようとも、その管理局が100年近くもの長い年月を経て、この多くの次元世界の平和を保ち続けて来たのも事実だ。たかが数人のライダー(・・・・・・・・・・)だけで潰せるほど、状況は甘くない」

 

管理局も一枚岩ではないが、ライダーとて決して万能ではない。数人のライダーと巨大な組織が正面からぶつかるような事になれば一体どうなるか……二宮はその答えが既に分かり切っていた。

 

「そんな管理局が相手だからこそ、俺はやり方を変える事にした。管理局を潰すのではなく……管理局を裏から利用していくやり方にな」

 

「!? まさか、管理局と手を結ぶつもり!?」

 

「まだ気付かないか? 俺と組んでいるオーディンが何故、この世界にやって来たお前にミッドチルダや管理局の情報を与えてくれたのか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴が何故、あんなにもこの世界の情報に詳しいのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……まさか……」

 

溟は気付いてしまった。

 

確かにオーディンは、ミッドチルダの文化や管理局の内情について自分に詳しく教えてくれた。そのオーディンがどうして、そんなにもこの世界についての情報に詳しいのか……考えられる可能性はただ1つ。

 

 

 

 

 

 

管理局の中に、オーディンに情報を与えた人物がいるという事。

 

 

 

 

 

 

「あなた達、既に管理局の人間と……!?」

 

「あくまで一個人(・・・)だがな……が、それに気付いたところでもう遅い」

 

時間切れになったからか、二宮の持っていた長剣が粒子となって消滅。それを確認した二宮は拳をパキポキ鳴らしてから、自身のカードデッキを取り出す。

 

「オーディンからの命令でな。どうやらお前は、うちのクライアント(・・・・・・・・・)を怒らせるような事をしてしまったらしい……確実に始末しろとの事だ」

 

「ッ……あなたはそれで良いの!? 管理局に挑まないで、こそこそ隠れてやり過ごすなんて……!!」

 

「俺には俺の計画がある。これ以上、お前に引っ掻き回される訳にはいかないんでね」

 

「……口で言っても無駄って事かしら……?」

 

「よくわかってるじゃないか」

 

溟は二宮を睨みながら、カードデッキを握り締める力が強まっていく。二宮も彼女に対して見せびらかすように自分のカードデッキを構える。こうなればもう、やる事は1つである。

 

「後悔するわよ……私を怒らせた事」

 

「後悔するかどうかは、お前の実力次第だ」

 

2人は罅割れている窓ガラスの方に向かい、2人同時にカードデッキを突き出す。それにより、窓ガラスに映り込んだベルトが実体化し、2人の腰にそれぞれ装着されていく。

 

この時、溟は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

横目で見ていた二宮が、ほんの小さな笑みを浮かべていた事に。

 

 

 

 

 

 

「変し―――」

 

ドガァッ!!

 

「あぐぅ!?」

 

溟が変身ポーズの構えを取ろうとした直後。彼女の真横に立っていた二宮が右足を上げ、彼女の横腹を力強く蹴りつけたのだ。思わぬ不意打ちを喰らった溟は真横に薙ぎ倒され、近くの黒焦げた木箱に叩きつけられて木箱が音を立てて破損する。

 

「ぐっ……あなた……!!」

 

「俺が律儀に待つと思ったか……変身」

 

その一方で、二宮は倒れている溟を見下ろしながらカードデッキをベルトに装填し、アビスの姿に変身。左腕のアビスバイザーを撫でる仕草をした後、苦悶の表情で横腹を押さえている溟の胸倉を掴み、その場から無理やり立ち上がらせる。

 

「くっ!?」

 

「来い」

 

溟の胸倉を掴んだまま、アビスは窓ガラスに飛び込んでミラーワールドに突入。飛び込んだ先の部屋で溟をその場に放した後、彼女に向かって容赦のない回し蹴りを繰り出し、溟は屈んで回避してから改めてカードデッキを正面に突き出した。

 

「ッ……変身……!!」

 

拳を振るおうとしたアビスを蹴りつけた後、溟は横腹の痛みで僅かにフラつきながらも、カードデッキを持った左手と右手を正面でクロスさせたポーズを取り、素早くカードデッキをベルトに装填。シャドウに変身すると同時にクロウバイザーを正面に振り上げ、アビスが振り下ろして来たアビスバイザーとぶつかり合う。

 

「あなたは私の気持ちを裏切った……絶対に許さない……!!」

 

「裏切っちゃいないさ。俺がいつ、お前を裏切る為に手を結んだ(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

「ッ……黙れぇ!!!」

 

≪≪SWORD VENT≫≫

 

仲間になってすらいないのに、協力も裏切りもありはしないだろう。そんな主旨の挑発が入ると同時に、シャドウのクロウフェザーとアビスのアビスセイバーが激突し、金属音が部屋中に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

暗躍する者と復讐する者の戦い。

 

 

 

 

 

 

その火蓋が今、この場に斬って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




変 身 妨 害

……龍騎と言ったらこれだと思っている作者がここにいます←
原典では浅倉がやっていた事を、今作では二宮がやってのけました。敵が目の前で変身しようとしているのを待ってあげるほど、二宮は優しくありません。

そして今回判明した、二宮とオーディンの背後にいるクライアントの存在ですが……第1部ストーリーの第17話「不死鳥、降臨」にて、オーディンはこう言っていました。

『我々は管理局の手を借りるつもりはない(・・・・・・・・・・・・・・・)
(※管理局に所属している“一個人”の手を借りないとは言ってない)

『時空管理局は、信用するに値しない(・・・・・・・・・)組織であると判断した』
(※信用はしないけど“利用”はできる)

……まぁ、要はそういう事です。
オーディンが非常に回りくどい言い方をしている為、この辺りはわかりにくかったかもしれません。作者にとっての反省点の1つですね。

さて、次回はアビスvsシャドウの対決。

暗躍者と復讐者……その戦いの行く末や如何に?

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