リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ   作:ロンギヌス

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ジオウ第15話、一気に物語が動き出しましたね。
取り敢えず気になっているのは、某オーバーロードの声を出しているカッシーンですよ……「我は忠実なしもべ」とか言われても全く信用できねぇ!!

それはさておき、オーマジオウの圧倒的チートぶりに戦慄しながら、続きのエピソード・アビスをここに投下しておきます。

ちなみに戦闘曲はまたあのBGMです。
おかしいな。龍騎本編では使われていないのに、アビス戦で使ってみると何故かしっくり来てしまう……何故だ?←

それではどうぞ。











戦闘BGM:Covert Coverup









エピソード・アビス 7

『二宮さんには、家族はいないの?』

 

『……急にどうした』

 

高見沢逸郎を葬った後……私は彼にそう問いかけた事があった。

 

『これだけ広い家なのに、二宮さん以外には誰も住んでいない……家族はどうしてるんだろうって、少し気になっただけ。ここには家族の写真がちゃんと置かれてるのに』

 

『それをお前が聞いてどうする』

 

『良いじゃない。聞いたって別に何かが減る訳でもない』

 

『……物好きな奴だな』

 

私が棚の上から手に取った写真立てを突き出してみたところ、彼から「面倒臭い奴だ」と呆れたような目で見られたのはよく覚えている。その彼が私にこう語った。

 

『ここには俺しかいない。家族は全員、俺がガキの頃に事故で死んだ』

 

『ッ……二宮さんも、家族を……?』

 

『周りに俺を助けてくれる奴は誰もいなかった……その時から俺は悟ったよ。人間は皆、自分を一番可愛がる生き物だという事がな』

 

『……それで、二宮さんも1人に?』

 

『だから何だ? それを聞いたところで、お前の事情が何か変わる訳でもあるまい』

 

『それは……そうだけど』

 

彼の話を聞いた時……私は彼に憐れみの感情を抱いていた。

 

戦いに勝ち残れば、叶えたい望みを叶えられるのに。

 

それに縋ろうとしない彼の考えが、私にはもったいなく感じた。

 

この時、私が何故彼に対してそんな事を思ったのか……それは私にもわからなかった。

 

ただ1つだけ言えるのは……同じ境遇の彼に、親近感のような何かを少なからず抱いていた事。

 

それだけは確かだった。

 

そんな私は、今―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィンッ!!

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「フンッ!!」

 

ミラーワールドでの戦い。空港内を移動した2人は崩落した階段を飛び降り、地面に着地すると同時に武器を激しく交わし合っていた。アビスがアビスセイバーを振るい、シャドウが2本のクロウフェザーで攻撃をいなし、互いに一歩譲らぬ戦いを繰り広げている。

 

「ッ……いずれ後悔するわよ……この私と手を組まなかった事を!!」

 

「お前なんかの為に何故俺が後悔しなきゃならん? 面倒臭い」

 

「!? くっ……!!」

 

振り下ろされて来たアビスセイバーをクロウフェザーで受け止めるシャドウだったが、その直後にアビスが右足でシャドウの腕を蹴り上げ、彼女の手からクロウフェザーが手離される。シャドウは慌てずアビスの回し蹴りを回避し、クロウバイザーをアビスに向けようとしたが……

 

「ぐ、うぅ……」

 

「随分痛そうだな」

 

「うあぁっ!?」

 

クロウバイザーを構えた直後、腹部の痛みでシャドウがよろめいた。アビスはその隙を見逃さず、左腕のアビスバイザーから放つエネルギー弾でシャドウの右肩を狙い撃ち、撃たれたシャドウは後ずさりながらもクロウバイザーにカードを装填する。

 

≪GUARD VENT≫

 

「ッ……ああぁっ!!」

 

「!! チィ……!!」

 

シャドウが召喚されたクロウレジストを左腕に装備し、飛んでくるエネルギー弾を防御。その後もエネルギー弾を防ぎながらアビスに突っ込み、アビスも射撃をやめてすぐにアビスセイバーをクロウレジストに叩きつけ、力ずくでクロウレジストを叩き落とす。

 

「往生際の悪い奴だな」

 

「私は死なない……あなたにこの私は殺せない!!」

 

≪TRICK VENT≫

 

「! おっと」

 

カードが装填された瞬間、アビスと対峙していたシャドウが2人に分裂し、そこから更に4人、8人へと分裂して増えていく。8人のシャドウが一斉にアビスに襲い掛かり、アビスは目の前のシャドウを蹴りつけてからアビスセイバーを真横に振るうが、周囲にいたシャドウの分身達は素早く下がって攻撃をかわし、1人の分身がアビスの右腕を蹴りつけてアビスエイバーを弾き飛ばす。

 

「ッ……俺を倒してでも、管理局を潰したいのか?」

 

「それが私の復讐よ……あなたを倒してでも、私はこの手で管理局を潰す!! それが私の覚悟!!」

 

「あぁそうかい……ッ!!」

 

シャドウの分身達が構えたクロウバイザーの射撃をしゃがんでかわし、アビスも同じようにアビスバイザーを向けて2人の分身を確実に撃ち抜いた。それによって2人の分身がその場で消滅するが、シャドウの分身達は現時点でまだ6人も残っている。

 

「無駄よ!! たった1人しかいないあなたに、この私は倒し切れない……!!」

 

「確かにその通りかもしれないな……だが!!」

 

飛びかかって来た1人の分身がクロウバイザーで殴りかかり、アビスもそれをアビスバイザーで受け止めてから掴み合いになる。

 

「お前は1つ、見落としている事がある」

 

「何を……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がいつ、1人で(・・・)お前を倒すと言った?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪SPIN VENT≫

 

「うらぁっ!!!」

 

ズガァンッ!!

 

「がはぁ!?」

 

その直後だった。電子音が鳴り響くと同時に、別方向から現れたインペラーがガゼルスタッブを突き立て、アビスと掴み合っていたシャドウの分身を吹き飛ばしてみせた。吹き飛ばされた分身は地面を転がった後、鏡のように砕け散って消滅し、シャドウの分身が残り5人となる。

 

「ッ……あなたは……!!」

 

「よぉ、また会ったなぁカラス女」

 

何故インペラーがここいるのか、その答えはただ1つ。

 

『あの女を潰すだと?』

 

『あぁ。その為には湯村、お前の手も借りる必要がある』

 

昨夜、二宮が溟のいる空港へ向かう前に、予め湯村に事情を伝えて呼び寄せていた。自分を痛い目に遭わせたシャドウに仕返しができるとわかり、湯村は二つ返事でそれを了承したのだ。

 

「昨日は散々な事してくれたじゃねぇか……やられた分だけ、ここでキッチリ仕返しさせて貰うぜ」

 

「くっ……二宮さんに付いて回ってるだけの癖して、調子に乗らないで!!」

 

「はん、今のでまたお返し分が追加だぁっ!!」

 

インペラーがガゼルスタッブを振り回し、シャドウの分身達を近付けさせない。その間にアビスが離れた位置からアビスバイザーを構え、シャドウの分身達を1人ずつ順番に撃ち抜いていく。

 

「ほらほらどうしたぁ!! そんな物かぁ!?」

 

「ッ……舐めないで!!」

 

≪FINAL VENT≫

 

『クカァァァァァァァッ!!』

 

「……!」

 

「ん? うぉっと!!」

 

ファイナルベントが発動し、壁を破壊して現れたシャドウクロウがアビスとインペラーの頭上を通過し、シャドウの真後ろまで飛来。シャドウの背中に合体し、シャドウが高く飛び上がる。空中に飛び上がったシャドウが再び分身し、一斉に飛び蹴りの体勢に入ろうとするが……

 

「湯村」

 

「へへ……おうよ」

 

それを見てもなお、アビスとインペラーは冷静だった。アビスの指示を受けたインペラーが1枚のカードを抜き取り、それをガゼルバイザーに装填する。

 

≪ADVENT≫

 

「「「「「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」」」」

 

インペラーがカードを読み込ませると同時に、シャドウの分身達が一斉に急降下しながら飛び蹴りを放つ。その一斉攻撃でアビスとインペラーを倒そうとした……その時。

 

「行けぇっ!!」

 

『『『『『グルアァッ!!』』』』』

 

インペラーの合図と共に、2人の背後からガゼル軍団が出現。ガゼル軍団が急降下して来るシャドウの分身達を迎え撃つようにその場から跳躍し……

 

ドガガガガァァァァァンッ!!!

 

『『『『『グガァァァァァァァァァァッ!!?』』』』』

 

アビスとインペラーを守るように身代わりとなり、シャドウの分身達が放つ飛び蹴りを全て受け止めた。爆炎の中から降り立ったシャドウは分身達が消滅し、アビスとインペラーが無事である事に驚愕した。

 

「!? そんな……」

 

「はっはぁ!!」

 

「きゃあぁっ!?」

 

そこにすかさずガゼルスタッブの一撃が入り、シャドウが何度も地面を転がされる。アビスはそんな彼女を見下ろしながら、インペラーが自身の肩に手を置いてくるのにも目を向けないまま冷たく言い放つ。

 

「俺が何の為に湯村を連れて来たと思う? お前の能力がわかっているのに、わざわざ1人で挑みに来る理由なんてないだろう?」

 

「ッ……まさか、その男のモンスターを盾に……!!」

 

「そういうこった。テメェの分身共をいちいち順番に倒していくよりも、俺のモンスター達を盾にしてカードを消費させた方が手っ取り早いからなぁ……!!」

 

アビス達から見て、複数の分身を生み出せるシャドウの戦闘スタイルは非常に厄介である。そこでアビスは複数のモンスターを使役できるインペラーを連れて来る事で、インペラーの召喚したガゼル軍団を盾代わりにシャドウのファイナルベントを防ぎ、彼女の使える手持ちカードを消費させたのだ。

 

「馬鹿正直に突っ込んで来てくれて助かるよ。おかげでこっちもやりやすくなった」

 

「お礼に俺達が、テメェを今からあの世に送ってやるよぉっ!!」

 

「くっ……!!」

 

≪ADVENT≫

 

『カァァァァァァァッ!!』

 

突っ込んで来たインペラーの飛び蹴りをかわし、シャドウはクロウバイザーに装填したカードでシャドウクロウを再び召喚。シャドウクロウがアビス達に襲い掛かろうとする中、やはりアビスは冷静な様子で、次のカードをアビスバイザーに装填していた。

 

「お前の相手はコイツだ」

 

≪UNITE VENT≫

 

『クカカカ……カアァッ!?』

 

『ギャオォォォォォォォォォンッ!!!』

 

「!? そんな……!!」

 

電子音と同時に空港の壁が破壊され、今度はアビソドンが咆哮を上げながら出現。アビスに襲い掛かろうとしていたシャドウクロウを突き飛ばし、突き出した両目から連射する弾丸でシャドウクロウを追い払ってしまう。

 

「おいおい、余所見してる暇があんのかぁ!!」

 

「く、この……うぁっ!?」

 

「フンッ!!」

 

インペラーが振るって来たガゼルスタッブを両手で受け止めるシャドウだったが、その背中にアビスが2本目のアビスセイバーで斬りかかり、続けてシャドウの横腹をインペラーが蹴りつける。変身前に痛めた腹部の痛みが増したシャドウは動きが鈍り、そこへアビスとインペラーが連続で攻撃を仕掛けていく。

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

「ぐ、が、ごはっ……!?」

 

≪STRIKE VENT≫

 

「ハァッ!!」

 

「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

インペラーに連続で蹴られ、更にはアビスクローから放たれた高圧水流を受けたシャドウが壁の穴から外へ押し流されていく。それを追いかけようとするインペラーだったが、途中でアビスが手で制止する。

 

「あ? 何だよ二宮」

 

「お前は奴のモンスターを始末しろ。俺のモンスターと一緒なら問題あるまい」

 

「あぁ? 知るかよそんな事、アイツには借りを返さなきゃ気が済ま―――」

 

 

 

 

「良 い か ら 行 け」

 

 

 

 

「ッ……」

 

今まで以上にドスが利いたアビスの一声。それにインペラーが思わず怯み、それ以上アビスに逆らう事ができなかった。

 

「チッ……くそ、わかったよ」

 

渋々ながらもインペラーが引き下がり、アビソドンと戦っているシャドウクロウの方へと向かっていく。それを見届けたアビスは壁の穴を通じて外に飛び出し、フラフラながらも何とか立ち上がろうとしているシャドウと改めて対峙する。

 

「既に虫の息か。大人しく死ねば楽になれるというものを」

 

「……どうして」

 

「ん?」

 

負傷している横腹の痛みに耐えながら、立ち上がったシャドウはアビスに問いかけて来た。

 

「どうして……管理局なんかと手を結んだの……どうしてあなたが、あんな最低な奴等と……!!」

 

「俺が生き残るのに重要だからだ」

 

アビスはサラリと答えてのける。

 

「俺にとっては管理局を潰す事よりも、自分が生き延びる事の方が重要だ。その点を考えれば、俺が取る手段なんてお前も想像はつくだろうに」

 

「ッ……それでも私が……私が居場所を手に入れるには……管理局は邪魔な存在でしかない……だから私は!!」

 

「あの時」

 

シャドウの言葉を遮るように、アビスは言い放つ。

 

「お前は言っていたな。あなたと同じ孤独な人間(・・・・・・・・・・・)だと」

 

「それが何よ……ッ!!」

 

「率直に言わせて貰うとだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なんぞと一緒にするな、半端者(・・・)の分際で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え?」

 

半端者。

 

彼は確かにそう言った。

 

それは彼が彼なりの考えで告げた、彼女に対する明確な拒絶だった。

 

「居場所を作りたいだと? 笑わせるな。他人を信用していないお前が、一体どうやって居場所を作る気だ」

 

「ッ……それは……」

 

「他人を信用していない人間が、他人からの友情や親愛なんて得られる訳がない。それなのに自分だけの居場所を求めているという事はつまり……お前は自分以外の人間を、心から敵視する事ができていないという事だろう?」

 

「違う!! 私は誰も信じてなんかない!! あの時から私はずっと―――」

 

「今この場で、お前が俺に何かを期待していた事が何よりの証拠だ」

 

シャドウの告げる想いに対し、アビスは感情の籠っていない言葉で容赦なく否定していく。その言葉が、シャドウの心には深く突き刺さった。

 

「他人を信用していないと言っておきながら、他人との関わりが存在する居場所を求めている……そんな中途半端な覚悟しか持たない奴と、一緒にされる筋合いはない」

 

「ッ……だったら、あなたはどうなのよ!? 管理局からコソコソ隠れてやり過ごして……そんなので、自分の居場所なんて作れるって言うの!?」

 

自分の全てを否定された気分だった。

 

同じ境遇でありながらそれを冷たく否定するアビスの言葉が、シャドウは気に入らなかった。

 

だからこそ……次にアビスが告げた台詞で、彼女は完全に言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

「俺がいつ、自分の居場所が欲しいなんて言った?」

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

シャドウの投げかけた問いかけは、アビスにバッサリ切り捨てられた。

 

「自分だけの居場所があったら、それは周りの連中に付け入れられる隙となる……ならば最初から、自分だけの居場所なんぞ求めなければ良い。自分の身を守り続けるからには、誰にも心を開く事など許されない」

 

誰かに気を許せば、それがいつの日か命取りになる。

 

ならば最初から、誰の事も信じなければ良い。

 

誰にも気を許さない事の方が、誰かに気を許す事よりもずっと気が楽だ。

 

そこまでは溟とも同じ想いだった……しかし2人の想いには、1つの決定的な違いがあった。

 

「俺は孤独を望んでいる。孤独を嫌い、他人に心の隙を作ろうとしているお前とは違う」

 

「ッ……それであなたは耐えられるって言うの!? ずっと孤独なまま、周りが敵だらけの地獄の中で……あなたは生きていけるの!?」

 

「抗ってやるさ……それが俺の生きていく道だ。その為にも」

 

「!? ぐあぁっ!!」

 

アビスバイザーから放たれたエネルギー弾が、再びシャドウの全身に襲い掛かる。シャドウが倒れる中、アビスはこの場に宣言する。

 

「俺の敵は全て、この手で沈めてやる……お前もその1人だ」

 

「く……がっ!?」

 

倒れているシャドウにアビスが接近し、無理やり彼女を立ち上がらせて膝蹴りを喰らわせる。そこからアビスバイザーで何度も殴打し、負傷している腹部を狙うように力強く蹴りつけた。

 

「がぁあっ!?」

 

「さて……ん?」

 

後方から聞こえて来た爆音。それを聞いたアビスは一瞬だけ振り返った後、すぐにシャドウの方へと視線を移す。そんなアビスの背後には、壁を破壊して飛び出して来たアビソドンの全身が強く発光し、それぞれアビスラッシャーとアビスハンマーに分裂して着地する。

 

『『グルルルル……!!』』

 

「湯村も仕留め終えた頃か……そろそろ、こっちも終わらせようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャオォンッ!!』

 

『クカァ!?』

 

数分前。空港内ではアビソドンとシャドウクロウが対峙し、激しい戦いを繰り広げていた……が、その戦いは一方的な物となっていた。アビソドンが頭部から伸ばしたノコギリを勢い良く叩きつけ、シャドウクロウが地面に撃墜される中、ガゼルスタッブを構えたインペラーが大きく跳躍する。

 

「どぉぉぉぉぉぉぉぉ……らあぁ!!!」

 

『クカアァァァァァッ!?』

 

『ギャオォォォォォォンッ!!』

 

突き立てられたガゼルスタッブが突き刺さり、シャドウクロウの右翼が地面に縫い付けられて動けなくなる。そこにアビソドンが両目から放った弾丸が大量に降り注ぎ、大爆発が起こる中でシャドウクロウに着々とダメージが与えられていく。

 

「おうおう。末恐ろしいなぁ、二宮のモンスターは」

 

『ク、カ……カァ……ッ』

 

アビソドンの集中砲火を受け、ボロボロになったシャドウクロウを見て冷や汗を掻くインペラー。もう充分だと判断したアビソドンがアビスの方へと飛び去って行く中、インペラーは虫の息となっているシャドウクロウにトドメを刺すべく、ファイナルベントのカードをガゼルバイザーに装填する。

 

「痛いか? 苦しいか? 安心しな、俺が今から楽にしてやるよ」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『『『『グルアァァァァァァァァッ!!』』』』』

 

『クカ、ガッ……グガァッ!?』

 

インペラーの背後から再び出現したガゼル軍団が、地面に縫い付けられて動けないシャドウクロウに次々と体当たりを喰らわせていく。そして最後はインペラーが跳躍し、シャドウクロウの頭部目掛けてローリングソバットを炸裂させた。

 

「うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

『グカ、カ……ァ……ッ……!!』

 

最期は断末魔を上げる元気すらないまま、着地したインペラーの背後でシャドウクロウが爆散。燃え盛る炎の中から浮かび上がるエネルギー体を、インペラーと直接契約している個体のギガゼールが摂取していく。

 

「ハッハァ、一丁上がりぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……まだ、よ……」

 

インペラーがファイナルベントを発動しようとしているのと同時刻。既にボロボロの状態でありながらも、シャドウは最後まで必死に足掻き続けていた。そんな彼女を、アビスは冷徹な目で静かに見据え続ける。

 

「まだ……死ぬ訳にはいかない……私の、願いの為にも……ッ……!!」

 

「……遺言はそれだけか?」

 

≪FINAL VENT≫

 

『『グオォォォォォォォォォッ!!』』

 

無情にも響き渡る死刑宣告。アビスラッシャーとアビスハンマーが同時に水流を放ち、跳躍したアビスがその水流に乗る中、シャドウは最後の力を振り絞って立ち上がる。

 

「私は……絶対に……!!」

 

そして……

 

「ぜあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ドガアァァァァァンッ!!

 

「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

繰り出されたアビスダイブ。その非情な一撃は、命中したシャドウを大きく吹き飛ばした。着地したアビスが静かに振り返る先で、地面に落ちたシャドウが何度も転がり続け、そしてしばらく転がった後にようやく制止する。

 

「終わりか……呆気ない物だな」

 

「か……ぁ、は……」

 

アビスがゆっくり歩いて接近していく中、シャドウは仰向けに倒れたまま1歩も動けない。先程の一撃でカードデッキに皹が生えたからか、その姿は静かに溟の物へと戻される。

 

「ハァ……ハァ……」

 

もう、指1本動かす気力もない。それどころか、自分の体に感覚がなくなりかけている。溟は不思議と、それが他人事のようにも思えていた。

 

(死ぬ……私、ここで死ぬの……?)

 

溟は思い出していた。かつて元いた世界で、ある殺人犯(・・・)との戦いに敗れた時。あの日、彼女はある男に見下ろされていたような気がした。

 

(……そうだ、思い出した)

 

今、自分を見下ろしているアビスがいる。あの日もそうだった。あの時も、自分が死ぬ間際で彼は静かにこちらを見下ろしていた。

 

(あの時も、確か……二宮さんは、私を……)

 

「……まだ息はあるか?」

 

低い声で。冷たい声で。彼はそう問いかけて来た。それもあの時と同じだった。

 

「ッ……二、宮……さ……」

 

「まだ生きているのか……意外としぶとい」

 

アビスに右手を掴まれ、溟の体が地面から浮かび上がる。だらんと首が下がっている彼女の目は、アビスの右手に握られた1本のアビスセイバーを捉えていた。

 

(私、は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュウッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の目に、赤い物(・・・)が映り込んだ。

 

 

 

 

「―――あ」

 

 

 

 

彼女は遅れて理解した。

 

 

 

 

自分の胴体から、赤い何か(・・・・)が激しく溢れている事に。

 

 

 

 

(私の、願いは……)

 

 

 

 

手首らしき何か(・・・・・・・)が、宙に浮いているのが見えた。

 

 

 

 

(私が、欲しかったのは……)

 

 

 

 

足らしき何か(・・・・・・)が、どこかに放り捨てられるのが見えた。

 

 

 

 

(私だけの、居場所……私が、信頼できる人間……)

 

 

 

 

アビスの全身が赤く染まっていく。それすらも、今の彼女には美しく見えていた。

 

 

 

 

(私が……愛したいと、思った人間……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなたと同じ、孤独な人間(・・・・・)よ……二宮鋭介』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あぁ、そっか)

 

 

 

 

彼女はようやく気付く事ができた。

 

 

 

 

自分が本当に叶えたかった願いを。

 

 

 

 

自分が何故、あんなにも()に執着していたのかを。

 

 

 

 

(私は……あなたに……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(二宮鋭介に、愛して欲しかったんだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沈め、永遠に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスゥッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

突き立てられた鋭い何か(・・・・)が、視界に映り込んだ気がした。

 

 

 

 

それすらも、彼女は気にしていなかった。

 

 

 

 

自分が本当に求めていた物。

 

 

 

 

それに気付く事ができた。

 

 

 

 

それだけでも彼女は……野崎溟は、何かが満たされたような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野崎溟/仮面ライダーシャドウ……死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




野崎溟/仮面ライダーシャドウ、これにて退場です。
彼女が最後、アビスに何をされているのかは……まぁ、想像は簡単な方だと思います←

二宮が何よりも恐れている物……それは「死」です。自分が少しでも生き延びる為なら、彼は如何なる人物にも決して心は開きません。
1人でも誰かに心を開いてしまえば、それが小さな油断を生み出し、その油断がやがて大きな隙となり、彼を「死」へと招いてしまう……彼はそれを避けたいと思っているからこそ、自分以外の人間を全て「敵」として認識し続けているのです。
浅倉ほどではないにしろ、彼もまた【他人との相互理解が不可能な人物】である事には間違いありません。

さて、次回辺りでエピソード・アビスもそろそろ幕引きです。
次回はもうちょっとだけ、二宮鋭介のような人間だけが持つ事のできる【信念】について触れる事ができたら良いかなぁ~……なんて思っています。

それではまた次回。

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