リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ   作:ロンギヌス

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本編最新話の執筆が全然上手くいかない……orz




畜生、こんなに手間取る羽目になったのは今回が初めてだ……という訳ですみません、読者の皆様。本編最新話の更新はまだしばらくお待ち頂けるとありがたいです。

その間、ふとした切っ掛けで思い付いた短編アイデアが昨日の夜中に思いつき、速攻でアイデアを纏めて書き上げました。
しばらくこの話で繋ぎたいと思います。本当に申し訳ありません。

それではどうぞ。



番外編⑧ 不可能な世界

ある日の朝……

 

 

 

 

 

ジリリリリリ!

 

「……ん」

 

とある部屋の中。ベッドの上で布団に包まっていたその男はゆっくりと瞼を開き、染みの1つもない綺麗な天井を視界に入れた。ベッドの隣の小棚で目覚まし時計がうるさく鳴り響く音を、男の耳は確かに聞き取っていた。

 

「……チッ」

 

目覚まし時計の音が鬱陶しく思ったのか、男は舌打ちしつつも布団の中から手を伸ばし、目覚まし時計のボタンを乱暴に押し込んだ。それによりうるさい音が止まり、部屋に再び静寂の時間が訪れたのを確認した男は、再び布団に包まって深い眠りに入ろうとする……

 

 

 

 

 

 

「―――二度寝しないで早く起きて下さい!!」

 

 

 

 

 

 

「ぐふぅ……!?」

 

……が、それは不可能だった。

 

布団に包まった直後、腹部に重い何かが勢い良く乗りかかって来たのを男は感じ取った。突然の痛みに表情を顰めた男は、布団の中からゆっくり顔を出し、自身の上に乗りかかって来た女性を強く睨みつけた。

 

「……いい加減、その起こし方はやめろと言ってるだろ。梨花」

 

「兄さんが早く起きないのが悪いんです! 今日は家族皆でお出かけする約束なのを忘れたんですか!」

 

「……あぁ、そういやそうだったな。仕事が忙し過ぎてすっかり忘れてた」

 

「とにかく! もう朝御飯もできてますから、早く着替えて下さい! 父さんと母さんも待ってますから!」

 

男の上に乗りかかって来た“梨花(りか)”という女性はそう言って、「兄さん(・・・)」と呼ばれた男の上から退いてすぐに部屋を立ち去っていく。彼女が部屋を出て行った後、布団を払い除けてゆっくり起き上がった男は大きく欠伸をしてから左目(・・)を擦り、ベッドから床へとだるそうに足を着けた。

 

「……めんどくせぇな、全く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男、名は二宮鋭介。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はこの世界において、平和な(・・・)日常を送り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おはよう鋭介」

 

「お、何だ鋭介。やっと起きたのか」

 

黒いTシャツに青いジャージという、ラフな格好に着替え終えた二宮。2階の部屋から降りてリビングルームにやって来た彼を待っていたのは、既に服を着替えて朝食を取っている父親と、台所で洗い物をしている母親、そして先程鋭介を起こしてから再び朝食を食べ始めている梨花の3人だった。

 

「あぁ。おはよう、親父、お袋」

 

「朝御飯、鋭介の分ももうできてるわよ。冷めない内に食べちゃいなさい」

 

「ん……頂きます」

 

母―――“二宮海里(にのみやかいり)”にそう言われ、鋭介は梨花の隣の椅子にだるそうに座り込んでから、テーブルの上に置かれている朝食に手を付け始める。そんな彼に、既に朝食を食べ終えて新聞を読んでいた父―――“二宮恭一(にのみやきょういち)”が声をかけた。

 

「まだ眠そうだな。仕事、そんなに大変だったのか?」

 

「あぁ。会議に使う資料の作成で、夜中の3時までずっと起きてたよ」

 

「あらあら、大丈夫なの鋭介? キツいようなら、今日1日くらい家でのんびりしてて良いのよ?」

 

「いや、そういう訳にもいかない。今日は家族全員で出掛けるんだろう? それなのに二度寝して、このお転婆さんにまた起こされたりするとたまらん」

 

「むぐっ……!」

 

鋭介にそう言われ、隣でソーセージを口にしていた梨花が思わず咽そうになり、ゲホッゲホッと咳き込んだ。

 

「もぉ、梨花ったら。鋭介だって疲れてるのに、無理に起こしちゃ駄目でしょう?」

 

「うぅ……だって、今日は皆で一緒にお出かけできる日だから……兄さんも一緒だと思って、つい……」

 

「はっはっはっ♪ 梨花は本当に鋭介にベッタリだなぁ。小っちゃい頃から何も変わってない」

 

「その妹にベッタリ引っ付かれてる俺の身にもなってくれよ親父」

 

「あぁ~、酷いです兄さん!」

 

「はいはい。お喋りも良いけど、早く食べないと御飯が冷めちゃうわよ?」

 

母から早く朝食を食べるよう急かされ、隣に座っている妹にはプクーッと頬を膨らませた状態で睨まれ、その様子を見ていた父は微笑ましそうな様子で笑っている。なんて事のない、休みの日はいつも(・・・)鋭介が見ている当たり前の光景だった。

 

 

 

 

 

 

そう、何も変わらない(・・・・・・・)日常だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 今日はどこに行くんだ?」

 

その後、着替え終えた鋭介は自宅の玄関の鍵を閉め、家族と共に乗り込んだ車で外出しようとしていた。運転席には父が、助手席には母が、そして後部座席には鋭介と梨花が座っている。

 

「最近、この近くで新しいショッピングセンターができたのは知ってるか?」

 

「ショッピングセンター……あぁ、確か最近できたばかりの奴か」

 

「今日はそこで色々買い物しようと思ってるの。鋭介と梨花も、何か欲しい物があったら今の内に言いなさいね」

 

「欲しい物ねぇ……特に欲しいと思ってる物がないんだよなぁ。精々、いつも飲んでるコーヒーくらいか」

 

「兄さんったら、本当に無欲ですね。だから兄さんの部屋はあんなに地味なんですよ?」

 

「放っとけ。余計なお世話だ」

 

鋭介の部屋にある物と言えば、精々着替えの入ったタンス、幼少期から愛用している机、仕事用のパソコン、就寝用のベッド、それから目覚まし時計くらいだ。特にこれといった趣味を持たない彼の部屋は、あまりにも地味過ぎる物だった。

 

「そういうお前は何か欲しい物でもあるのか?」

 

「私ですか? もちろんありますよ。今はこれが欲しいです!」

 

梨花は上着のポケットから取り出した1枚のチラシ。彼女がニコニコと笑顔を浮かべながら見せて来たのは、そのチラシの中央に写っていた物……熊をモチーフにしたキャラクターの人形だった。

 

「……人形?」

 

「3階のゲームセンターのクレーンゲームで入荷されたらしいんです! これがもう欲しくて欲しくて、今日という日をどれだけ待ち侘びた事か……!」

 

鋭介にチラシを見せた後、そのチラシに書かれている熊の人形をうっとりした様子で見つめる梨花。その様子に鋭介はどうでも良いと言った表情で溜め息をついた。

 

「お前なぁ……あんだけ部屋を人形まみれにしておきながら、まだ欲しがってんのかよ」

 

「む、何がいけないんですか? 欲しい物は欲しいんです! 何としてでも手に入れなければ、この衝動は収まらないんです!」

 

「あっそ。お前のその下手糞な腕前で、頑張って取れると良いな」

 

「あぁ、言いましたね!? 人が気にしてる事を!! 良いですよ、それなら見ていて下さい!! 今日こそ私が自力でクレーンゲームの景品を手に入れるところを!!」

 

「おい待て、勝手に人の予定を決めるな」

 

「ははは、良いじゃないか鋭介。たまには梨花に付き合ってやっても」

 

「そうそう。私達は私達で買い物を済ませるから、鋭介は梨花に付いてやって頂戴」

 

「親父にお袋まで……ったく」

 

結果、気付いたら梨花のやろうとしている事に付き合わされる事が決定していた鋭介。彼が面倒臭そうに小さく項垂れる中、梨花はこれから挑もうと思っているクレーンゲームの景品を取る事にひたすら燃え上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、そんな梨花の情熱は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、取れない……ッ」

 

「だと思ったよ」

 

数十分後には、あっという間に燃え尽きてしまっていた訳なのだが。

 

「な、何故ですか……何故取れないんですか……ッ……アームは確かに人形を掴んでいるのに……!!」

 

梨花が手に入れようとしているのは、クレーンゲーム内の奥側の壁にもたれかかるように設置されている熊の人形である。しかし熊の人形はかなりサイズが大きく、それを運ぶ為のUFOキャッチャーのアームが細いのもあって、梨花はそれを手に入れようとして何度も失敗していた。既にこの光景を見慣れている鋭介からすれば、次に自分を待ち受けている展開も容易に想像できた。

 

「うぅぅぅ……兄さぁぁぁん……仇を取って下さぁぁぁい……ッ!!」

 

「……プライドという物がないのかお前は」

 

と言いつつ、梨花がこうして涙目で頼み込んで来るだろうと思っていた鋭介は、もはや何度目かもわからない溜め息をついてから梨花と交代。100円玉を投入口に放り込み、UFOキャッチャーを操作し始めた。

 

「つーか、人形なら他に小さい奴とかもあるだろ。それくらい妥協できんのか」

 

「嫌です!! あの熊さんじゃないと駄目なんです!!」

 

「……お前の中の情熱がよくわからん」

 

鋭介は面倒臭そうにボタンを操作し、UFOキャッチャーを熊の人形に近付かせていく。そして一定の位置で停止したUFOキャッチャーをゆっくり降下させていき、開いたアームが熊の人形に掴みかかる……が、熊の人形は少し立ち上がるように動いただけで、すぐにポトリと倒れ込んでしまった。

 

「あっ……」

 

「いちいちそんな悲しげな顔するな。そもそもこんなデカい人形、一発で取る事自体無理があるんだよ」

 

鋭介は再度100円玉を投入し、UFOキャッチャーを的確な位置まで動かしていく。そしてUFOキャッチャーが掴もうとした熊の人形が少し動くだけでまた倒れ、そのたびに鋭介が100円玉を投入し、その一連の流れが続いていく。

 

「こういうのはな。一発で取ろうとするんじゃなく、少しずつ動かしていってから取る方が確実なんだよ。クレーンのアームを人形に押しつけたり、人形のタグに引っ掛けたりしてな」

 

「少しずつ、ですか……?」

 

「後はプレイする台によって、クレーンのアームの形状や、アームの掴む力の強さなんかも色々違う。景品を取りたい時はまず、それらを正確に把握しなければどうしようもない……まぁ、今回は結構簡単なようだが」

 

「え……あっ!」

 

UFOキャッチャーのアームを押しつけたり、軽く持ち上げたりを繰り返し、少しずつだが熊の人形を穴の位置まで近付けてきた鋭介。最後は熊の人形のタグにアームを上手く引っ掛け、アームを上げていく事で倒れた熊の人形が穴に落ちていき、その光景を見た梨花は驚きの声を上げた。

 

「それでも700円ほどかかっちまったか……ほらよ」

 

「わぁ……!」

 

景品の取り出し口から熊の人形を取り出し、梨花にポンと放るように投げ渡す鋭介。それを両手でキャッチした梨花は嬉しそうな表情を浮かべ、フワフワな熊の人形に頬を擦りつける。一方で、鋭介は本当にどうでも良さそうな表情を浮かべていた。

 

「全く、何で休みを消費してまでわざわざこんな事を……」

 

「兄さん!」

 

「あ?」

 

ボソボソと愚痴を零していた鋭介は、梨花に呼びかけられた事で振り返る。そこには先程まで落ち込んでいた表情とは打って変わり、幸せそうな表情で笑っている梨花の姿があった。

 

「本当に、ありがとうございます……!」

 

「……あぁ」

 

もう何度見たかもわからない(・・・・・・・・・・・)、妹が浮かべる幸せそうな笑顔。

 

それでもその笑顔には、見た者から毒気をゴッソリ抜き去ってしまうような、不思議な力が宿っている。

 

彼女の笑顔を間近で見た鋭介は、そんな気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンフフ~……♪」

 

「……はぁ」

 

その後、ショッピングセンターの屋上駐車場にて、自動販売機で飲み物を購入した鋭介と梨花。鋭介はいつも通りブラックコーヒーを飲みながら壁に背を着け、梨花はオレンジジュースを飲みながら熊の人形を大事そうに抱えている。

 

「親父達はまだかかるって?」

 

「まだ買いたい物があるみたいです。だからもう少し待っていましょう」

 

「親父もお袋も、買い物好きな所は相変わらずか……」

 

付き合っている身としては苦労させられる物だ。そう考えながら鋭介がコーヒーを口にした時、隣でオレンジジュースを飲んでいた梨花の体が少しずつ傾いていき、鋭介の右肩に寄りかかってきた。

 

「? どうした」

 

「フフ……少し、こうしていたいなって思って。駄目でしたか……?」

 

「……好きにしろ」

 

「……はい♪」

 

梨花がご機嫌な様子で鋭介に引っ付き、鋭介は鬱陶しそうに眉を顰めつつもそれを拒んだりはしない。傍から見れば、そこらによくいそうな普通の兄妹だった。

 

「兄さん」

 

「何だ」

 

「本当に、ありがとうございます」

 

「……急にどうした」

 

「兄さん、いつも仕事で忙しくしていて、家に帰ってもすぐに寝てしまう事が多かったから……今日の朝だって、本当なら無理して私のやりたい事に付き合わせちゃいけないのに……」

 

「そんな事か……今更どうという事でもない。一応約束はしていたからな」

 

「でも……」

 

「それとも、約束を破った方が良かったか?」

 

「それは……」

 

「お前が気にする事じゃない」

 

鋭介の右手が、梨花の頭を撫で回す。その手つきはとても優しい物だった。

 

「家族皆で一緒に過ごしたいんだろう? ならそれで良いだろ。余計な事を考える方が無駄に面倒臭い……そう思わないか?」

 

「……うん。ありがとうございます、兄さん」

 

申し訳なさそうに俯いていた梨花の顔に笑顔が戻り、それを見た鋭介は彼女の頭を撫でていた右手を離す。その際に梨花は一瞬だけ残念そうな表情を浮かべたが、鋭介は敢えてそれはスルーする事にした。

 

「……兄さんはいつもそうです。普段は無愛想なのに、私が困っている時はいつも助けてくれる」

 

「助ける身としては本当に苦労してるよ」

 

「それでも、兄さんは文句を言いながらも何だかんだで助けてくれます。面倒臭いと思っているのなら、関わらない手だってあるはずなのに」

 

「助けないと親父達がうるさいしな」

 

「どんな理由だろうと、助けてくれる事が嬉しいのは変わりません……私、誇りに思ってるんです。そんな兄さんと家族でいられる事」

 

「……そうか」

 

「父さんに母さん、そして兄さん……皆で一緒に、平和に過ごせて……私、とても幸せです」

 

「……確かにな」

 

鋭介は壁から背を離し、屋上から地上を見下ろしながら告げる。

 

「いつも仕事で忙しくて、家ではのんびり過ごせるかと思いきや、お前のやる事にやたら付き合わされて……そんな今の日常が、凄く平和だと感じているよ」

 

「兄さん……」

 

「だからこそ、今の俺はこうも思っているよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平和な日常が、こんなにも安心できない物だったなんてなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え?」

 

手離した缶が足元に落ち、中身のコーヒーが零れて地面に広まっていく。鋭介はそれを気にする事もなく語り続ける。

 

「兄、さん……?」

 

「ずっとおかしいと思ってたんだ。何故俺はこの世界(・・・・)にいるのか……何故この左目が視えている(・・・・・)のか……何故、既にいないはずの(・・・・・・・・)お前達が俺の目の前に存在しているのか……」

 

「に、兄さん、何を言ってるんですか……?」

 

「随分とまぁ、それっぽい平和をこんなにも見せつけてくれた物だよ。平和過ぎて逆に気持ち悪いくらいに」

 

「い、一体どうしたんですか兄さん……!? いきなり何を言って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドスゥッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え」

 

鈍い音がした。その音の正体に、梨花はすぐに気付いた。彼女の腹部には……

 

お前如き(・・・・)が、俺を気安く呼ぶな」

 

―――密かに持ち歩いていた仕込みナイフが、深々と突き刺さっていたのだから。

 

「兄……さ、ん……ッ?」

 

「なぁ梨花……とっくに死んでいるはずのお前が、どうして今ここにいる? おかしいだろう。お前達がこうして平和に生きている事が(・・・・・・・・・・)

 

梨花の両手から、オレンジジュースの缶と熊の人形が落っこちる。そして熊の人形に、赤い液体がポタリと滴り落ちる。

 

「ここにあの戦い(・・・・)が存在しないという事は、ここは俺の知っている現実じゃないという事だ。とっとと消え失せろ、()め」

 

鋭介はナイフを抜き取り、左手で梨花を力強く突き倒す。ナイフに付着した血を軽く振って払い、鋭介は倒れている梨花を放置してどこかに立ち去ろうとした。

 

「どう、して……?」

 

そんな彼を呼び止めたのは、腹部から血を流して倒れている梨花の問いかけだった。

 

「どうして……拒む(・・)んですか……?」

 

「……何が言いたい」

 

「どう、して……この世界を……平和な日常を、拒むんですか……? ここには、あなたを苦しめる戦いなんてないのに……もう二度と、戦わないで済むはずなのに……どうして……」

 

「平和かどうかは重要じゃない」

 

鋭介は振り返らずに言い放つ。

 

「確かにあの戦い(・・・・)は面倒だよ。いつ、どんなタイミングで命の危機が訪れるかなんて、どれだけ考えてもキリがない」

 

「じゃあ、何で……」

 

「この平和な世界には、戦う手段(・・・・)が存在していない」

 

戦いのない、平和な人生を送る事ができる世界。しかもそこには、今の鋭介が一番必要としている物……戦う手段(・・・・)が存在していなかった。

 

「自分で身を守れる手段がない世界なんて、そんなの冗談じゃない……そう考えれば。たとえどれだけ面倒な戦いがある世界であろうとも、自分で自分の身を守れる手段が存在しているだけ、あの世界(・・・・)の方がまだ遥かにマシなんだよ」

 

彼の目的は生き延びる事。

 

その目的を果たし続けるには、戦う手段が必要だ。

 

あの戦い(・・・・)を体験してきた今の彼にとって、一番重要なのはそれだけだった。

 

「それに、ここが現実じゃないとわかった以上、ここが本当に平和かどうかなんて信用できんからな」

 

「……それで、良いんですか……? ずっと、終わりのない戦いを続けるなんて……本当に、それで良いんですか……?」

 

どっかのガキ(・・・・・・)にも言った事、お前にも言っておいてやる……いくらでも足掻いてやるよ。それが俺の歩いて行く道だ」

 

「……そう、ですか」

 

兄に刺されたはずなのに。兄から幻呼ばわりされたはずなのに。鋭介の言葉を聞いた時、梨花は倒れている状態のまま納得したように微笑んでいた。

 

「私の知っている、優しい兄さんは……もう、どこにもいないんですね……」

 

「俺の知るお前は、もっと小さい頃にとっくに死んでいる。ここにいるお前の事なぞ知らん」

 

「フフ……そうでした、ね……」

 

空間に皹が生え始める。その皹が徐々に大きくなっていき、世界が崩壊していく(・・・・・・・・・)

 

「父さんは、あなたに生きろと言いました……」

 

「……あぁ」

 

「どうか、生きて下さい……あなたは、どうか……」

 

景色が崩れていく。世界が消えていく。そして何もかも消え去っていく中……鋭介が最後に聞き取ったのは、その一言だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつかまた、会える時を願っています……兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――け

 

 

 

 

(ッ……何だ……?)

 

 

 

 

―――介

 

 

 

 

(……声が、聞こえる……)

 

 

 

 

―――鋭介!

 

 

 

 

「―――ん」

 

「!? 鋭介、目が覚めたの!?」

 

右目(・・)が開き、二宮が最初に視界に捉えた物。それは心配そうな表情でこちらを覗き込んでいる、長い金髪が特徴的な美女の姿だった。

 

「あぁ、良かったわ鋭介……やっと目覚めてくれた……ッ!!」

 

「……ドゥーエ」

 

目元に涙を浮かべながら抱き着いて来た金髪の女性―――ドゥーエに正面から抱き着かれ、二宮はそれを拒む事なく受け入れる。周囲を見渡した二宮は、今いる場所が豪華な屋敷の一室である事を把握した。

 

「……俺は今まで何をしていた?」

 

『眠り続けていた』

 

金色の羽根が舞うと共に、金色の鎧を纏った仮面の戦士が二宮達の前に姿を現した。二宮は現れたその戦士がオーディンである事を正確に理解した。

 

「眠り続けていた?」

 

『覚えていないか。お前はフローレンスの依頼で、とあるロストロギアの回収を行おうとしていた』

 

「……あぁ、今思い出した」

 

オーディンの言葉を聞いて、二宮は思い出した。何故自分が今、このような事になっているのかを。

 

「フローレンスの奴、面倒な仕事を押しつけてくれたな……」

 

ミッドチルダのとある辺境にて確認されたというロストロギアを、時空管理局の正規の局員よりも先に回収して欲しい。それこそが、ある人物が二宮に依頼した仕事内容だった。面倒事だとは思いつつもそれを引き受けた二宮は、オーディンと共に実際に現場に向かい、そのロストロギアを発見して回収しようとしたのだが……

 

『……ッ!? いかん、下がれ二宮!!』

 

『何!? くっ―――』

 

回収しようとしたロストロギアが突然光り出し、光が収まったそこには意識を失い倒れている二宮の姿があったという。ロストロギアが反応した事に正規の局員が勘付く前に、オーディンが回収したロストロギアと共に倒れた二宮を素早く転移させた事で、何とか管理局の人間に存在を気付かれずに済んだようだ。その後、二宮が倒れた事を知ったドゥーエは、血相を変えて大急ぎで二宮の元まで駆けつけたという。

 

『ロストロギアはすぐに封印処理を完了したのだが、その後もお前はしばらく眠りから目覚めなかった。恐らく、このロストロギアの影響だろう』

 

「あのロストロギアが……?」

 

『フローレンスからは、不可能な世界(インポッシブルワールド)というロストロギアが存在していると聞いている。何でも、光を直視した人間を眠りに誘い、その者にとある夢を見せるそうだ』

 

「……どんな夢だ?」

 

『既に失われている、可能性の世界だ』

 

可能性の世界。その一言を聞いた時、二宮はほんの僅かにピクッと反応を見せた。

 

『その者が辿っていた可能性のある、二度と訪れる事のない未来……それを夢にして見せる事で、眠った者は永遠の眠りに囚われ続けるとされている……だが、少し意外ではある。まさか僅か半日で、こうして意識を取り戻す事になろうとは』

 

「……夢、か」

 

『一体、どんな夢を見たのだ?』

 

オーディンからの問いかけに、二宮は夢で見た世界を思い起こす。その中で一番に思い起こされたのは、今は亡き妹の姿だった。

 

 

 

 

 

 

―――いつかまた、会える時を願っています

 

 

 

 

 

 

「……そんな大した物じゃない」

 

あの時に見た妹は、果たして本当にただの幻だったのだろうか。

 

今の二宮にはもう、それを確かめる術は存在しない。

 

しかし、それはもはやどうでも良い事だった。

 

あれが本物だろうと幻だろうと関係ない。

 

散々悪い事をしてきたのだ。

 

仮に天国と地獄が存在しているとしたら、自分は確実に地獄行きだろう。

 

天国に行ったであろう家族とはもう、二度と会える事はない……既に二宮はそう結論付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて事のない、つまらん世界だったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二宮の意志が変わる事はない。

 

 

 

 

 

 

自身の行く手を阻む敵は、この手で沈めるだけ。

 

 

 

 

 

 

それこそが二宮の、決してブレる事のない生きる覚悟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……?

 




如何でしたでしょうか?

A’s編でフェイトが体験したのと似たような出来事を、今回は二宮に体験して貰いました。

まぁご覧の通り、今の二宮はもう「戦いのない平和な世界」には適応できません。
「戦う手段が存在する世界」を求めてしまうくらい、あのライダーの戦いは、彼の行く道を歪めに歪めてしまっていたのです。

果たして、彼が見た妹は本当にただの幻だったのか、それとも……?

何にせよ、今となってはその真相は闇の中です。









さて、本編最新話の更新はまだお待ち下さいませ。

できる事なら、なるべく早くには最新話を更新したいと思っています……本当にできる事ならの話ですが←

それでは。
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