リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ   作:ロンギヌス

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最新話更新するのにどんだけ時間かかってんだ




……そんな突っ込みが飛んで来てもおかしくない本作ですが、ようやく第2部の最新話が書き終わったので更新しました。

ゼロワンの方は今、唯阿さんの辞表パンチだったり、雷電兄貴の復活だったり、少しずつ盛り上がって来てますね。雷電兄貴、また仮面ライダー雷に変身してくれないかなぁ……。

そんな作者の呟きは置いといて、本編をどうぞ。



第34話 SOS

≪SWORD VENT≫

 

「ヒハハハハハハハ!!」

 

「ぐっ……!!」

 

ミラーワールド内、とある駐車場。リッパーの襲撃を受けたファムとゾルダはミラーワールドに突入し、後を追いかけて来たリッパーのエビルソーをファムがウイングスラッシャーで防御する。しかし勢いはリッパーの方にあり、何度もエビルソーを振り下ろして彼女を後退させていく。

 

「綺麗な白鳥のお嬢さぁ~ん……俺と愛し合おうぜぇ!!♡」

 

「く、あぁっ!?」

 

エビルソーの一撃でウイングスラッシャーがバキンと折られてしまい、胸部装甲に僅かながら斬撃を受けたファムが近くの自動車に叩きつけられる。そこにエビルソーを突き立てようとするリッパーだったが……

 

「させるか……!!」

 

「ぐぉっ!? チィ……だから俺の邪魔すんじゃねぇよ!!!」

 

距離を取っていたゾルダのギガランチャーが、リッパーに砲弾をぶち当てて吹き飛ばす。地面を転がったリッパーは苛立った口調でリッパーバイザーにカードを装填する。

 

≪ADVENT≫

 

『ギュルルルル……!!』

 

「何……くっ!?」

 

再び砲撃しようとしたゾルダの後方から、召喚されたエビルリッパーが飛来。その長い吻でゾルダの背中を斬りつけるように攻撃する一方、立ち上がったリッパーは再びファムに迫ろうとしていた。

 

「さぁ、これで1対1だ……存分に愛してあげるよぉ……♡」

 

「ッ……余計なお世話だよ!!」

 

「おぉう!?」

 

ファムがブランバイザーを突き立て、胸部装甲に攻撃を受けたリッパーが後ずさりする。しかしその攻撃すらも、リッパーにとっては愛情(・・)でしかなかった。

 

「おぉ、そうかぁ……君も俺を愛してくれるんだねぇ!? 嬉しいよお嬢さぁん!!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!? マジで何なんだよコイツ気色悪い!!」

 

リッパーの言動に寒気を感じたファムが右方向に転がり、彼女がいた場所にエビルソーが振り下ろされる。その斬撃は自動車を真っ二つに切断し、轟音と共に爆炎が燃え盛る。

 

(アレは喰らったらヤバい……だったら!!)

 

≪GUARD VENT≫

 

「ん、何だぁ……?」

 

エビルソーの威力を見せつけられたファムは、召喚したウイングシールドによる攪乱能力を使う作戦に出た。ファムの周囲を無数の白い羽根が舞い、リッパーは不思議に思いつつもファムに向かって攻撃を仕掛ける。

 

「はい残念」

 

「んん……!?」

 

エビルソーで斬りつけた瞬間、斬られたファムの姿が一瞬で消える。それに驚いたリッパーが周囲を何度も見渡すも、周囲は白い羽根が舞っているばかりで、肝心のファムの姿はどこにも見当たらない。

 

「どこに……うごっ!?」

 

背中を斬りつけられたリッパーが後ろを振り返るも、後ろから斬ったファムはまたすぐに姿を消してしまう。リッパーは反撃しようと乱暴にエビルソーを振り回すが、ファムには全く当たらない。

 

(よし、これなら……!!)

 

これなら一方的にリッパーを攻撃できる。白い羽根が舞う中、そう思ったファムは引き続きリッパーを攻撃しようとしたが……彼女は1つ見落としていた。それは……

 

「どこに行ったんだぁ~い、お嬢さぁ~ん……?」

 

ファムの能力を打ち破る術を、リッパーが持っているという事だ。

 

≪SEARCH VENT≫

 

『ギュルルルル……!!』

 

「!? 何だ……?」

 

ゾルダを攻撃し続けていたエビルリッパーが、その長い吻の刃を高速回転させながら、駐車場全体に波動エネルギーを広めていく。それによって、リッパーは無数の白い羽根が舞う中、身を潜めているファムの居場所を正確に特定した。

 

「そこだぁ!!!」

 

「なっ……きゃあぁぁぁぁっ!?」

 

「!? 夏希さん……ッ!!」

 

居場所を特定されると思っていなかったファムは、リッパーの振るったエビルソーが直撃してしまい、倒れた際にウイングシールドも落としてしまう。周囲の白い羽根が残らず消えていく中、リッパーは倒れているファムを見て笑いながら近付いて行く。

 

「ヒヒャハハハハ……見ぃ~つけたぁ~♡」

 

「くっ……あ!?」

 

ブランバイザーを構えながら起き上がろうとするファムを、リッパーが左足で蹴りつけ、ブランバイザーが離れた位置まで飛んで行く。ブランバイザーがなければサバイブ形態になる事もできず、ファムは窮地に陥る。

 

「夏希さ……ぐぁっ!?」

 

『ギュルルルルッ!!』

 

ギガランチャーを構えようとするゾルダを、エビルリッパーが攻撃して妨害。そうしている間に、リッパーはファム目掛けてエビルソーを振り下ろそうとする。

 

「いっぱい愛してあげるよぉ……こうやってなぁ!!!♡」

 

「ッ……!!」

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

『ウオォォォォォォォォンッ!!!』

 

 

 

 

 

 

どこからか、大きな遠吠えが聞こえて来たのは。

 

「うん? 何だ……がぁっ!?」

 

「「……ッ!?」」

 

突如、どこからか伸びて来た鎖がリッパーを攻撃し、彼の体に巻き付いて厳重に縛り上げる。突然過ぎる事態に驚いたリッパーの真上から、何かが落ちて来ようとしていた。

 

『ガルルルルァッ!!!』

 

「ぐほぁっ!?」

 

落ちて来たそれの正体は、赤いボディに無数の鎖が巻きついた、狼のような姿をした四足歩行型の大型モンスターだった。狼型のモンスターはその前足で容赦なくリッパーを踏みつけた後、大きく吠えながらリッパーの胴体に噛みつき、左右にブンブン振り回してから近くの自動車に放り捨てるように叩きつけた。

 

「ぐべぇ!? ぐっ……何なんだ、この犬ッコロが……!!」

 

『グルァッ!!』

 

『ギュル!?』

 

狼型のモンスターはそのボディから鎖を伸ばし、真上を飛んでいたエビルリッパーに巻きつけて地上に叩き落とした後、数本の鎖をリッパーに向かって鞭のように叩きつける。リッパーがエビルソーでそれを防御しながら対応している間に、ギガランチャーを放り捨てたゾルダはファムの元まで駆けつける。

 

「あのモンスター、アタシ達を助けたのか……?」

 

「わかりませんが、とにかくここは引きましょう……!!」

 

「おいおいお嬢さん、まだ俺と愛し合……げふぅっ!?」

 

ゾルダがファムに肩を貸し、リムジンのフロントガラスを通じて現実世界に帰還していく。それに気付いたリッパーが後を追いかけようとするが、狼型のモンスターが前足で殴りつけ、そのまま突進してリッパーを大きく吹き飛ばした。そのまま追撃を仕掛けようとする狼モンスターだったが……

 

「もう良いよ、ロートヴォルフ」

 

そこに待ったをかける人物がいた。

 

「あの2人は無事に逃げたみたいだし、俺達も深追いは禁物だ」

 

『グルゥ……』

 

そう言うと、狼型のモンスター―――“ロートヴォルフ”は小さく唸った後に高く跳躍し、建物から建物へと跳びながら去って行く。その場に残ったその人物……否、ライダーはリッパーの姿がないのを確認した後、どこかに歩き去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、現実世界では……

 

 

 

 

 

 

 

「はい!? スパーの予定をキャンセルしたい!?」

 

とある公園にて、ノーヴェは驚いた様子で映像通信先の相手を見据えていた。

 

『はい。突然このような事を言ってすみません』

 

「いやいや待て待てアインハルト……あのなぁ、事情があるならそれは別に良いんだよ。アタシだって、可能な限りお前やヴィヴィオ達の都合に合わせて予定を汲んでる訳だし。アタシが聞きたいのは、どういった理由で予定をキャンセルしたいのかって話だよ」

 

これから数日後には、アインハルトはノーヴェの友人にしてインターミドルの強豪選手である女性―――ミカヤ・シェベルの元でスパーを行う予定になっている。アインハルトにとって、強豪選手とのスパーは良い経験になると考えていたノーヴェは、まさか当人がその予定をキャンセルしたいと言い出すとは思ってもいなかった。

 

「何か用事でもできたのか? それとも学業の方で何か不都合でもあったのか?」

 

『それは……言えません』

 

「? 何でだよ」

 

『すみません。訳あって、あまり詳しい事は言えない状況で……』

 

「いや、そう言われてもなぁ……」

 

何故キャンセルしたいのか、その理由すらもアインハルトは明かしてくれていない。どうしたものかとノーヴェは頭を抱える。

 

『ですが、これだけは言えます』

 

「ん?」

 

『私がやりたい事……それはどうしても、今の内にやらなければならない事なんです。自分を鍛える事よりも、何よりも大事な事なんです』

 

「……!」

 

『そういう訳で……本当にすみません』

 

アインハルトはペコリと頭を下げてから、映像通信を切ってしまった。通信が終わってからも、ノーヴェは考え込むように腕を組んでベンチに座り込む。

 

(自分を鍛えるよりも大事な事、か……あのアインハルトがそんな事を言うなんてな)

 

強くなる事を望んでいたアインハルトが、鍛える事を後回しにした。ヴィヴィオ達だけでなくアインハルトの面倒も見続けていたノーヴェにとっては驚くべき変化だった。

 

「一体何があったんだ、アインハルト……?」

 

自分の知らないところで何か、アインハルトの心境が変化するような出来事があったのだろうか。しかしいくら考えたところで、今のノーヴェにはそれを理解する為の判断材料がなかった。

 

「……また今度、様子見に行ってみるか」

 

この日の授業が終わった後、またノーヴェの元でトレーニングする予定だったヴィヴィオ達は残念そうにする事だろう。それが容易に想像できたノーヴェは小さく苦笑してから、スパーの予定がキャンセルになった事をミカヤに伝えるべく、ジェットエッジを通じて連絡を取り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、通信を切ったアインハルトはと言うと……

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

スパーのキャンセルについてノーヴェに伝えてからというもの、ノーヴェは一息ついてから再び歩き出していた。この日、学校を休んだアインハルトは私服の恰好で、街中を移動して回っていた。

 

(ウェイブさん、出てくれるでしょうか……)

 

アインハルトは徒歩で移動しながら、ウェイブに再び連絡を取るべく端末を操作する。彼女がここまで積極的に行動を取っているのには、ある理由があった。

 

(そうだ……私が今、するべき事は……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、この日の朝の出来事が関係していた。

 

『自分の胸に問いかけてみると良い。答えが見つかるはずじゃ』

 

『私が今、やりたい事は……』

 

山岡から問いかけられた、自分が今一番やりたい事。アインハルトは頭の中で必死に考えている中で、ある事を想いだしていた。

 

(そうだ……あの人も言っていた……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――アインハルトちゃんも、ずっとその子の傍にいてあげて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それは君とその子にとって、お互いに支え合える力になるはずだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインハルトの脳裏に浮かび上がった雄一の言葉。

 

イヴが脱獄犯に襲われたと聞いて、その事が頭から抜け落ちてしまっていた。

 

彼が言っていた事をやるとすれば、それはまさに今ではないのか。

 

『……見えました。私のやりたい事』

 

『ほう?』

 

『お爺さん』

 

アインハルトはベンチから立ち上がり、山岡の方に振り返る。

 

『ありがとうございます。おかげで、自分が今何をするべきなのか……何となくですが、わかってきたような気がします』

 

『なに、儂は何もしとらんよ。ただ話を聞いてあげただけじゃ』

 

『それでも、お礼を言わせて下さい。本当にありがとうございます』

 

アインハルトはペコリと頭を下げてからお礼を言った後、荷物を抱えてから公園を走り去って行く。

 

(傍にいてあげる事……私が今、最優先ですべき事……!!)

 

この時、彼女は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『優しい子じゃのぉ……儂なんぞとは正反対じゃ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人公園に残った山岡が、そんな呟きをしていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく今は……!」

 

アインハルトはイヴに会いたかった。その為にも、彼女はもう一度ウェイブに連絡を取らなければならない。ウェイブは自分が関わろうとするのをあまり良く思わないかもしれないが、何もしないでいられるほど彼女は素直ではなかった。

 

(? あれ、繋がらない……)

 

しかし、何度通信を繋げようとしても、ウェイブの方が通信に応じてくれる様子がない。不思議に思ったアインハルトが首を傾げながら移動する。

 

 

 

 

 

 

それから数分後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? アインハルトさん、どこに行こうとしてるんだろ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインハルトの姿を偶然見つけ、後を追いかけようとしたヴィヴィオ共々……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、覚えてろよあの犬ッコロめぇ……ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶悪な犯罪者に、目を付けられてしまう羽目になったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、アインハルトが心配しているイヴは今……

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ヴィクターの屋敷にて、寝室でベッドに包まったまま過ごしていた。部屋の電気を消したまま、窓から照らされる光を1人静かに見つめていた。

 

(今……どういう、状況、なのかな……)

 

ここ数日、屋敷を出る事がないままだった為、イヴは世間が今どういう状況なのか把握できていなかった。ウェイブやアインハルト達は今どうしているのか。世間を騒がせているジャック・ベイルは今どうなっているのか。疑問が尽きないイヴだったが……

 

「ッ……」

 

ジャック・ベイルの事を考えただけで、イヴは体が震え出すようになってしまっていた。ミラーワールドでリッパーに襲われて以来、彼によって刻み込まれた死の恐怖心は、今なお彼女の心から消える様子はなかった。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『ブルルルル……』

 

「……!」

 

しかし、いつまでも部屋に籠ってばかりいる事は、デモンホワイターが決して許しはしなかった。窓に映り込んだデモンホワイターは、空腹を訴えるかのようにイヴに向かって唸り声を上げている。

 

「……お腹、空いてるの……?」

 

契約している以上、デモンホワイターが餌を要求しているのであれば、それに応えない訳にはいかない。イヴは近くのテーブルに置いてあるカードデッキを右手で取ろうとしたが……触れる直前でその手が止まる。

 

 

 

 

 

 

『俺の愛を受け止めてくれよぉ、可愛い子ちゃ~んッ!!!』

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

ミラーワールドに出向いたら、また襲われるのではないか。

 

今度ばかりは、誰にも助けられないまま殺されるのではないか。

 

心の中でリッパーへの恐怖が大きくなり、イヴはカードデッキを掴むのを躊躇してしまいそうになった。

 

しかし……

 

(怖い……でも、行かなきゃ……!!)

 

それでもイヴは、右手の震えを無理やりにでも押さえながら、カードデッキを掴み取った。そのまま彼女はベッドから立ち上がり、窓の前に立とうとするのだが……

 

「何するつもりかしら?」

 

カードデッキを持っているイヴの右手が、ヴィクターにガシッと掴まれる。

 

「ッ……ヴィクター、さん……」

 

「そんな状態で出向くなんて無茶よ。まだ例の脱獄犯が動いている以上、あなたはここで待機してなさい」

 

「でも……」

 

「その震えた手であなた、まともに戦えると思うの?」

 

ヴィクターの言葉はもっともだ。恐怖心が残った状態で戦いに出向いたところで、今の彼女では野良モンスター相手でもまともに戦えるかどうかすら怪しい。

 

「ウェイブさんが何とかしてくれるのを待ちましょう。それまでは……」

 

「駄目」

 

しかし、イヴとて動かない訳にはいかなかった。

 

「戦わない、と……この子が、お腹、空かせてるから……」

 

「だけどイヴ、今のあなたじゃ―――」

 

その時。

 

『ブルルルルァッ!!』

 

「え……きゃあっ!?」

 

「なっ……!?」

 

「!? お嬢様!!」

 

空腹で痺れを切らしたデモンホワイターが、窓から飛び出してヴィクターに襲い掛かって来た。その長い角で薙ぎ払われたヴィクターが壁に叩きつけられ、イヴの昼食を運んで来たエドガーがすぐさまヴィクターに駆け寄る。

 

『ブルルルルル……!!』

 

「ッ……やめて!!」

 

唸りながらヴィクターに迫ろうとするデモンホワイターの前に、イヴが両腕を広げながら立ち塞がった。

 

「餌なら、私が用意、するから……この人達、は……襲わないで……!!」

 

『……ブルゥ』

 

イヴがそう言うと、デモンホワイターは渋々といった様子で窓からミラーワールドに帰還していく。イヴはホッと安堵してから、ヴィクターとエドガーの方に振り返る。

 

「ごめん、なさい……やっぱり、行かなくちゃ」

 

「イヴ……」

 

「お腹、空かせて、怒ったデモンホワイター……誰を、襲うか、わからない……から」

 

実はイヴにとって、デモンホワイターがこうして飛び出して来る事態は、これが初めてではない。彼女がアインハルトやウェイブ達と出会う前にも、空腹で機嫌を悪くしたデモンホワイターが勝手に飛び出し、近くにいる人間を襲おうとした事が何度かあった。それを抑える為にも、イヴは嫌でも戦いに出向くしかないのだ。

 

「心配、してくれて、ありがとう。でも……私は、大丈夫」

 

「ま、待ちなさい、イヴ……!!」

 

「変身」

 

ヴィクターが制止しようと手を伸ばすも、戦闘形態(バトルモード)になったイヴはカードデッキを窓に向け、出現したベルトに装填。イーラの姿に変身し、すぐさまミラーワールドに飛び込んで行ってしまった。

 

「ッ……何故……どうしてなの……」

 

「お嬢様……」

 

「どうしてあの子ばかり、あんな重荷を背負わされなくちゃならないの……どうして……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブブ、ブブブブ……!!』

 

「ッ……モンスター……!!」

 

ミラーワールドに突入したイーラは、森林内部にて1体のベルゼフライヤーを発見する。イーラは周囲をキョロキョロ見渡し、リッパーの姿が見当たらない事に内心ホッとした。

 

「モンスター、だけなら……!!」

 

『ブブブブブ……!!』

 

ベルゼフライヤーが背中の羽根を羽ばたかせ、空中を飛びながらイーラに狙いを定める。イーラはデモンバイザーを構えて矢を発射し、ベルゼフライヤーを狙い撃ち始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は戻り、現実世界では……

 

 

 

 

 

 

「アインハルトさん!」

 

「! ヴィヴィオさん……?」

 

この日、学校の授業が終わったヴィヴィオは一度リオやコロナと別れ、ジャージ姿に着替えてからノーヴェと合流するはずだった。しかしその道中でたまたまアインハルトを発見した為、彼女はその後を追いかけてみようと思ったのだ。

 

「こんなところでどうしたんですか? 今日、学校でも見当たりませんでしたけど」

 

「あ、えっと……それは……」

 

どのように答えるべきか、アインハルトは返答に困った。言葉に詰まっている彼女にヴィヴィオが首を傾げた……その時だった。

 

 

 

 

 

 

「おやおやぁ、そこの可愛い子ちゃん達」

 

 

 

 

 

 

「「……!」」

 

2人の前に、ガスマスクを着けたジャックが姿を現したのは。

 

「どうしたんだぁい? こんなところでぇ」

 

「え、えっと……」

 

「お、おじさん、誰ですか……?」

 

「おじさんかぁい? おじさんはジャック・ベイルっていうんだぁ。よろしくねぇ、お嬢ちゃん達♡」

 

「ジャック……ッ!?」

 

「え、それって……!!」

 

その名前を聞いた途端、アインハルトとヴィヴィオは表情が一変した。その名前は、現在世間を騒がせている脱獄犯と全く同じ名前だからだ。

 

「せっかくだからさぁ、おじさんと一緒に楽しい事しようよぉ……♡」

 

「ッ……ヴィヴィオさん!!」

 

「は、はい!!」

 

アインハルトはすぐさまヴィヴィオの手を掴み、ジャックから逃げるように走り出した。それを見たジャックはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「おや、鬼ごっこがしたいのかぁい? 良いよ、いくらでも付き合ってあげるよぉ~♡」

 

「はぁ、はぁ……ッ……ヴィヴィオさん、こっちに!!」

 

「はい!! クリス、パパ達にこの事を伝えて……!!」

 

ジャックが走って追いかけて来る中、アインハルトはヴィヴィオの手を引っ張りながら走り、ヴィヴィオはクリスに大至急この事をメールで伝えるようにお願いする。幸い、彼女達が今いる場所は死角になり得る場所が多く、上手くやれば逃げ切れるかもしれないと2人は思っていた。

 

しかし、それを実行するには……相手が悪過ぎた。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

『ギュルルルルッ!!』

 

「え……うぁっ!?」

 

「あぅ!?」

 

2人が通り過ぎようとした建物の窓から、エビルリッパーが2人の行く手を阻むように飛び出して来たのだ。エビルリッパーに尻尾で薙ぎ払われてしまった2人が倒れ込む間に、後方から追いかけて来ていたリッパーが追い付いて来た。

 

「はい、残念でしたぁ~♡」

 

「ッ……ヴィヴィオさんに、手出しはさせません!!」

 

このままでは逃げ切れないと思ったアインハルトは武装形態となり、果敢にもジャックに立ち向かっていく。しかしジャックは慌てるどころか、アインハルトの繰り出した拳をそのまま顔面で受け止めた。

 

「―――へぇ、良いねぇ」

 

(!? 効いてない……!?)

 

ジャックはガスマスクの下でニヤリと笑い、アインハルトは攻撃が効いていない事に驚愕の表情を浮かべる。その時、何かに気付いたヴィヴィオが叫んだ。

 

「駄目、逃げてアインハルトさん!!!」

 

「え……くっ!?」

 

アインハルトが素早く真横に移動した瞬間、彼女が立っていた場所にエビルリッパーの吻が振り下ろされ、ギリギリかわす事ができた。しかし……

 

「ヒヒャハハァッ!!!♡」

 

「がっ……!?」

 

アインハルトの真後ろから迫ったジャックが、近くにあった鉄パイプで彼女の後頭部を強く殴りつけてきた。ジャック自身の魔力が鉄パイプの打撃を強化していたのか、アインハルトはその場にドサリと倒れ伏してしまう。

 

「アインハルトさ……ひっ!?」

 

「さぁて、お嬢さぁ~ん……おじさんといっぱい愛し合おうよぉ~♡」

 

ガスマスク越しに笑いながら、鉄パイプをヴィヴィオに向けて来るジャック。アインハルトが気絶させられるところを見てしまったヴィヴィオは、恐怖心から腰が抜けて立てなくなり、尻餅をついた状態で後ずさる事しかできなかった。

 

(パパ……ママ……お姉ちゃん……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピリリリリ!

 

ピリリリリ!

 

「ん……?」

 

その後。自宅にて、買った食材を冷蔵庫に収めていた手塚の端末に、1通のメールが届いていた。

 

(メール、ヴィヴィオからか? 一体どうし……ッ!?)

 

そしてメールの内容を見て、手塚の表情も一変した。

 

メールに書かれていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『SOS』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚がヴィヴィオの現状を察するのに、充分過ぎる一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




リリカル龍騎ViVid!


ジャック「今からおじさんが、いっぱい可愛がってあげるからねぇ~♡」

イヴ「それ以上……手は、出させない……ッ!!」

アインハルト「今度は、私達があなたを守ります!!」

ヴィヴィオ「来てくれるよね、パパ……!!」


戦わなければ生き残れない!

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