リリカル龍騎ライダーズinミッドチルダ   作:ロンギヌス

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どうも、カシラの最期を見届けて泣いてしまったロンギヌスです。
カッコ良過ぎるぜカシラァ……!!(涙

さて、結局は今回も前回と同じくらい投稿に時間がかかってしまいましたが、ようやく劇中で“奴”の名前が登場します。
それから、今回はちょっぴり胸糞な展開になっているかもしれない……口ではそう言ってるだけで、ひょっとしたら胸糞な展開になってないかもしれない(どっちだよ)

それではどうぞ。

追記:ライアサバイブのファイナルベントですが、必殺技の名称を変えてみました。暇な方はぜひ確認してみて下さい。














BGM:クライマックス4(“奴”が笑みを浮かべたタイミングで脳内再生してみて下さい)









エピソード・ファム 6

ピチョン……

 

水の滴り落ちる音。

 

「―――ぅ、んん」

 

意識が薄っすらと戻り始めた夏希の耳が、一番最初に聞き取った音がそれだった。それを切っ掛けに、夏希の閉じていた瞼も少しずつ開いていき、そしてすぐに意識をハッキリさせ、下に向いていた顔を上げる。

 

(ここ、は……?)

 

瓦礫の上にポツンと置かれた、小さな光を放っているランタン。近くの窓ガラスから照らされる月の光。それ以外に明かりの存在しない殺風景過ぎる部屋の中で、夏希は自分がどんな状況にいるか確かめるべく体を動かそうとしたが、それはできなかった。頭上で聞こえたガチャリという音を聞いて、その理由もすぐに判明した。

 

「! 腕が……」

 

天井から長く伸びている鎖で、夏希の両手は縛られたまま高く吊り上げられていた。両手が駄目なら両足はどうだと夏希は視線を下へと向けてみるが、その視線の先には自身が現在座っている大きな木箱と、鎖で厳重に縛られている両足が見えていた。

 

(動けないか……こんな状況、これで2回目だなぁ)

 

かつて麻薬密売組織に誘拐された時も、こんな感じで放置されていたのを夏希は今でも覚えている。自力での脱出は無理そうだと判断した彼女は、自分が何故このような目に遭っているのか、その経緯を頭の中で必死に思い出そうとした。

 

(えっと……確か、アイツ等に気絶させられて……ッ!? そうだ、ラグナちゃんは!? 今どこに―――)

 

「お、なんだ。起きてやがったのか」

 

「……!」

 

その時、部屋の扉がギギギと音を立てながら開き、そこから2人の青年が入り込んで来た。1人は耳に付けているピアスと坊主頭で、もう1人はサングラスに金髪のリーゼントが目立つ。夏希は彼等がチンピラの類である事、彼等が自分をこんな目に遭わせた張本人―――成瀬の仲間である事をすぐに理解した。

 

「へぇ、可愛い姉ちゃんじゃねぇか」

 

「良いねぇ。俺好みだ」

 

「……アンタ達、一体何なんだ? アタシ達に何をする気だ」

 

「まぁ待て。そんな一度に全部聞かなくても、1つずつ順番に答えてってやるよ……つっても、俺達はあくまで監視を任されてるだけだがな」

 

「アキラさんから、姉ちゃんをとっ捕まえるよう指示されたんでな。こうして捕まえさせて貰った」

 

(アキラさん……あのライダーか)

 

アキラという名前を聞いて、夏希の脳内ではアスターの姿が浮かび上がる。自分達をこんな目に遭わせたアキラという人物に対し怒りを抱く彼女だったが、そんな彼女を他所にチンピラ達は話を続ける。

 

「んで、さっきのガキは姉ちゃんの知り合いなんだろう? だから餌として利用させて貰ったって訳よ。まさかこんなアッサリ上手くいくとは思わなかったがな」

 

「そのおかげで、俺達はアキラさんから褒美を貰える事になってなぁ? アキラさんのおかげで俺達も存分に楽しめてるのさ。まぁ、エディの奴は思っくそボコられてたが」

 

「ッ……アンタ達もアイツのグルって事かよ……ラグナちゃんはどこだ!!」

 

「それはすぐにわかるさ。アキラさんが戻って来た後にな」

 

「おっと、抵抗はしてくれるなよ? 姉ちゃんが持っていたカードデッキもアキラさんが没収してるからな」

 

(!? アタシのカードデッキを……!!)

 

カードデッキを奪われてしまっている以上、今の夏希はファムに変身する事ができない。尤も、手足を縛られている状態なのでカードデッキがあってもなくても関係ない訳なのだが。

 

「それより姉ちゃんよぉ……アキラさんはまだ街に出向いてる最中で、まだここには戻って来ない」

 

「それまで、ここには俺達と姉ちゃんの3人しかいない」

 

チンピラ達の視線が、夏希の全身に向けられる。白いワイシャツと青いホットパンツ、そして両足に履いている水色の可愛らしいサンダル。それらを一通り眺めたチンピラ達は、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら夏希の方へと近付いて来た。

 

「? な、何だよ……」

 

彼等の表情を見て嫌な予感がしたのか、夏希は青年達から離れる為に体を後退させようとする。しかし手足を拘束されている状態ではそれも叶わず、チンピラ達は夏希との距離を縮めていく。

 

「ただここで待っているだけじゃ、姉ちゃんも退屈だろう?」

 

「アキラさんが戻って来るまで、俺達が相手してやるよ」

 

「!! ち、ちょっと待て……ッ!?」

 

一瞬、夏希の体がビクンと跳ねた。後ろに回り込んだ坊主頭のチンピラが、木箱に座り込んでいる夏希のお尻を撫でるように触れたからだ。

 

「ちょ、触んなって!? おい!!」

 

「おっと、暴れるなよ」

 

「あのガキが大事なんだろう? なら大人しくしてるのが賢明だと思うぜ?」

 

(コ、コイツ等……ッ!!)

 

不良達の手は止まらない。坊主頭のチンピラが夏希の腰をいやらしく触り、そのまま少しずつ両手を夏希の胸元まで上げていく。その一方でリーゼント頭のチンピラは夏希の太ももに顔を近付け、彼女の太ももを触りながら鼻先でクンクンと匂い始めた。

 

「おぉ、良い匂いじゃねぇか。肌もスベスベしてる」

 

「くそ、やめろって……!!」

 

「姉ちゃん、こっちも楽しませてくれよぉ」

 

「な……ん、くぅっ!?」

 

夏希の制止を無視し、坊主頭のチンピラは背後から夏希の胸元へと手を伸ばし、シャツの上から彼女の胸をいやらしく揉み始めた。それにより夏希の口から少しだけ声が漏れる。

 

「うぉ、姉ちゃんのおっぱいすげぇ柔らけぇ……!」

 

「お、マジか。後で俺にも揉ませろよな」

 

「ん、くっ……この……!!」

 

坊主頭のチンピラが背後から夏希の胸を揉みしだき、リーゼント頭のチンピラが夏希の太ももをペロリといやらしく舐め上げる。一方的に嬲られていく感覚に夏希が羞恥の表情を浮かべる中、立ち上がったリーゼント頭のチンピラがナイフを取り出した。

 

「よぉし、そのまま押さえてろよ」

 

「!? お、おい、やめ―――」

 

ビリビリィッ!!

 

夏希のシャツにナイフで少しの切れ込みが入れられ、そこからリーゼント頭のチンピラが両手でシャツの胸元を左右に引き裂いた。それにより、夏希がシャツの下に身に着けていた青いブラジャーが露わになってしまい、リーゼント頭のチンピラがブラジャーの上から彼女の胸を揉みしだき始める。

 

「や、やめろ、やめろってば!?」

 

「大人しくしてろって言ったはずだぜ?」

 

「へへへ……!」

 

(ッ……くそ、最悪だ……ブライアンの時と同じじゃんか……!!)

 

チンピラ達に胸を揉まれながらも、夏希は声を出さないよう必死に口を閉じて耐え切ろうとする。その間に、坊主頭のチンピラが今度は夏希の履いているホットパンツに手をかけようとする。

 

「よぉし、そろそろ下の方も見せて貰おうか」

 

「くっ……!!」

 

しかし……彼等のお楽しみもそこまでだった。

 

 

 

 

 

 

「何をしてるのかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

声の聞こえて来た方向に、3人は同時に振り返る。その先には他の不良達を率いている成瀬の姿があり、その後ろに立っている高身長のチンピラは右肩に拘束されているラグナを抱えていた。

 

「!? ラグナちゃん!!」

 

「んん!? んん~っ!!」

 

「……はぁ、やれやれ」

 

犯されかけている夏希の姿を見たラグナが悲鳴を上げようとするも、猿轡をされているせいでそれも叶わない。その一方で、目の前の光景を見た成瀬は呆れた様子で小さく溜め息をついた後、夏希を犯そうとしていたチンピラ達をギロリと睨みつける。睨まれたチンピラ達は先程までとは打って変わり、表情が徐々に青ざめていく。

 

「ア、アキラさん! もうお帰りで……?」

 

「あぁ、今帰ったよ。人質を連れてあのピンク色のライダーも誘き寄せようと思ったけど、残念ながらそっちは見つからなかった……それよりも」

 

成瀬は懐からアスターのカードデッキを取り出す。それを見たチンピラ達は「ひっ」と怯え出した。

 

「僕は確かに、僕が戻って来るまで彼女の監視をしてろって言ったさ。言ったけど……その間、彼女を好きに犯して良いだなんて一言も言ってないよ」

 

「ア、アキラさん、これは、その……」

 

「僕の見てないところで勝手な真似をしたらどうなるか……わかってるはずだよねぇ?」

 

 

 

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

 

 

 

「「ひぃっ!?」」

 

近くの窓ガラスにスコングナックラーが映り込む。チンピラ達は青ざめた顔で逃げ出そうとしたが、それよりも前にスコングナックラーが飛び出し、その大きな両手でチンピラ達を捕縛する。

 

『グゴォッ!!』

 

「い、いやだぁっ!!」

 

「た、助け―――」

 

結局、チンピラ達は助けを乞う間もなく窓ガラスへと引き摺り込まれ、ミラーワールド内でスコングナックラーの餌食にされてしまった。それを見た成瀬はフンと鼻を鳴らす。

 

「僕の言う事が聞けないなら、消えて貰うだけさ」

 

「「……ッ!!」」

 

モンスターに人間を捕食させたにも関わらず、成瀬は平然とした表情で言い切ってみせた。彼の冷酷性を垣間見た夏希とラグナが戦慄する中、成瀬は未だ縛られている夏希の方に視線を向ける。

 

「うちの馬鹿共が失礼したね……僕は成瀬章、仮面ライダーアスターだ。よろしくね、お姉さん」

 

(! コイツが……)

 

アスターの正体が健吾と同じ学生だとわかり、夏希は少し意外そうな表情を浮かべた後、すぐに成瀬を強く睨みつけながら言い放った。

 

「ッ……お前、一体どういうつもりだ!? 何でこんな事を……!!」

 

「前にも言ったでしょ? 僕以外のライダーは邪魔だって。他のライダーを潰す為なら、僕は手段を選ばない」

 

「この世界ではライダー同士の戦いはないんだぞ!! それなのに戦う必要なんて―――」

 

「そんな事は重要じゃないんだよ」

 

成瀬はアスターのカードデッキをしまい、代わりに別のカードデッキを懐から取り出す。それは夏希から取り上げたファムのカードデッキだった。

 

「僕がこの世界で平穏に生きて行くにはね……僕と同じ力を持っている奴が邪魔なんだよ。障害になり得そうな奴は全員潰しておかなきゃ意味がない。誰も僕に逆らえないようにする為にね」

 

(聞く耳持たずかよ……インペラー並にタチが悪い……!)

 

「まぁ、僕も早いところお姉さんを潰したいんだけどさ……その前に、お姉さんについての情報を提供してくれた人達に報酬を与えなくちゃいけないんだよね」

 

「!?」

 

成瀬がそう告げると共に、成瀬の背後から数人の男性が姿を見せた。その中にはチンピラ風の男性だけでなく、サラリーマン風の恰好をした男性もいた。

 

「よぉ、姉ちゃん。また会ったなぁ」

 

「覚えてますよねぇ? 私達の事」

 

「うげっ……アンタ達、確かあの時の……」

 

夏希はその男性達に見覚えがあった。彼等は全員、かつてミッドに来たばかりの夏希がスリを働いていた頃、彼女に騙され財布を盗まれた者達ばかりである。彼等が成瀬と手を組んでいる理由を察した夏希は「そう来たか」と言わんばかりに苦笑いを浮かべた。

 

「姉ちゃん、よくもあの時は財布を盗んでくれたな」

 

「この代価はしっかり払って貰いますよ……あなたのその体でね」

 

「あ、あぁ~……参ったなぁ……」

 

「ま、そういう訳だよ……あ、ちなみにモンスターを呼ぼうとしても無駄だよ? ミラーワールドでは僕のスコングナックラーが常に見張ってるからね」

 

夏希が働いたスリの被害に遭った者達が相手だからか、流石の夏希もすぐには反論の言葉が出なかった。しかしそんな中、成瀬は不良達から借りたバールらしき鈍器を右手に構え、夏希に近付いて行く。

 

「まずは彼等の恨みを晴らさせてあげたいからさ。簡単には死なないでね? お姉さん♪」

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

成瀬はニッコリと笑みを浮かべながら告げるが、その笑みの裏には明確な殺意が込められていた。彼が持っている鈍器を見た夏希は、これから起こりうる事を何となく予測するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ハラオウン、何か手掛かりはないか!?」

 

『こちらも手分けして探しています!! ですが、現時点では何も……』

 

「ッ……そうか。何かわかり次第、すぐに連絡を頼む」

 

『はい!』

 

クラナガン、深夜の街中。行方不明となったラグナを捜索していた手塚は、フェイト達と連絡を取り合いながら必死に街中を探して回っていた。しかしラグナの行方に繋がりそうな手掛かりが全くと言って良いほど掴めず、捜索は難航している。おまけに手塚自身はまだバイクの免許を取得した訳ではない為、なのは達から借りた自転車を漕ぎながら広い街中を走り回らなければならず、この時点で手塚は若干だが体力を消費してしまっている。

 

(あまりこんな事は想像したくないが……万が一の可能性もあり得るか……!!)

 

万が一、自分達の知らないところでモンスターに襲われていたとしたら。そんな最悪過ぎる可能性を頭の中で思い浮かべつつ、すぐに首を振ってそれを否定する手塚は、決して希望を捨てる事なく捜索を続ける。

 

その時……

 

「随分慌ただしいじゃないか」

 

「!」

 

たまたま公園の近くを通りかかろうとした際、手塚の前に二宮が姿を現した。自転車で必死に走り回っていた手塚が若干息切れしかかっているのに対し、二宮は公園入り口の手前にある大きな石像に背中を預けながら、呑気そうに缶コーヒーを口にしている。

 

「やけに急いでいるようだが、何か探し物でもしているのか?」

 

「二宮……今はお前と話している場合ではない……!」

 

「女の子を1人、探してるんだろう?」

 

その一言が、すぐに走り出そうとした手塚の動きをピタリと止めた。何故二宮がそんな事を知っているのか。驚く手塚が振り向いた先で、二宮は缶コーヒーを口にしながら、懐から取り出した通信端末の画面を手塚に向かって見せつける。映し出された画面の地図には、手塚が現在探している女の子の居場所と思われる赤い点が、ピコンピコンと音を鳴らしながら小さく表示されていた。

 

「こっちは既に、その女の子の行方と、そいつを攫った犯人の詳細も一通り把握しているが……どうする? 情報が欲しいか? 尤も、悩んでいられる時間はあまりなさそうだが」

 

「……ッ!!」

 

毎回、この男は一体どこまで把握しているというのか。わざわざ親切に情報提供なんかして、一体何を企んでいるというのか。しかし今の手塚には、それらの疑問を解き明かしていられるほどの余裕はなかった。その結果、彼は自転車のペダルに乗せていた足を一度、地面に下ろさざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィッ!!

 

「がは……ッ!!」

 

一方、夏希達の方はと言うと……それはもう惨い拷問が始まっていた。成瀬が思いきり振り回した鈍器は、夏希の右頬を正確に殴りつけ、彼女の口と鼻から血が飛び散っていく。

 

「さぁて。まだ2,3回程度しか殴ってないけど……どう、お姉さん? まだ意識ある?」

 

「げほっ……ごほ……!」

 

「その様子だと、まだ大丈夫っぽいね……それじゃ、次どうぞ」

 

「へへへ、ありがとなアキラさん……おらよぉ!!」

 

ガァンッ!!

 

「がっ……!?」

 

「んん、んんん~~~!!」

 

成瀬から鈍器を手渡され、チンピラの男性が夏希の腹部を思いきり殴りつける。その強烈な一撃がもたらす痛みは夏希の表情を歪めさせ、その光景を目の前で見せつけられているラグナは、猿轡をされた状態のまま涙目で唸る事しかできない。

 

「次は私ですね……せっかくなので、上の服は脱がしても構いませんかね?」

 

「うん、それくらいなら良いよ。おい」

 

「「へい!」」

 

ビリッビリビリビリ!!

 

「ッ……!!」

 

不良達はブラジャーが露わになっている夏希のシャツを掴み、力ずくで左右に引き裂いた。それにより夏希は上半身がブラジャーのみの状態となり、そこへ今度はサラリーマン風の男性が鈍器を振り下ろして来た。

 

「あなたにわかりますか? あなたに純情を弄ばれた私達の気持ちが」

 

ドゴォッ!!

 

「ぐあ、ぁ……!!」

 

「私達は純粋に、あなたの力になってあげたかっただけなんですよ……それなのにあなたという人は!!」

 

バキィッ!!

 

「私達の前から消えるどころか、私達から財布まで奪って行った!! あなたに裏切られた私達の怒り……存分に思い知れぇ!!!」

 

ゴギャアッ!!

 

「ッ……がは、ごほ……!!」

 

腹部や背中、更には頭部も殴りつけられ、夏希の額から赤い血がポタポタと流れ落ちていく。常人ならこの時点で重傷どころの怪我ではないはずだが、それでも夏希の心はまだ折れておらず、その目は成瀬達を力強く睨み続けていた。

 

「はぁ、はぁ……!!」

 

「へぇ、まだそんな目で見れるんだ……皆、もっとやっちゃってよ」

 

「わかりやした!」

 

「へっへっへ、覚悟しなよ姉ちゃん?」

 

ドガッ!!

 

バキッ!!

 

ガァンッ!!

 

「んんん~~~ッ!!」

 

その後も不良達は1人ずつ順番に、鈍器で夏希の体を殴りつける。そのたびに体中が痣だらけになり、あちこちに擦り傷ができては皮が剥げ、口や鼻からは血が垂れ落ちていったりなど、夏希の体中の怪我はどんどん酷くなっていく。そんな惨過ぎる光景を目の前で見せつけられているラグナは涙が止まらず、必死に呻き声を上げながら不良達の拘束から逃れようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら、惨い事をするわねぇ」

 

その様子は、離れた位置のビルからドゥーエがしっかり監視していた。双眼鏡を降ろした彼女は、成瀬に対する目付きがゴミを見ているかのような物だった。

 

「女の顔や肌に傷をつけるなんて、男がするような事じゃないわね……と、そんな事言ってる場合じゃなかった。どうしようかしらこの状況」

 

呑気に見ているだけのように思えて、彼女は内心どうするべきか悩んでいた。このまま夏希を死なせてしまうと後で困るが、かと言ってスパイの役目を担っている自分が迂闊に彼女等の前に出る訳にもいかない。この状況を変える方法が上手く思いつかず、ドゥーエは頭を抱える事しかできなかった。

 

「これはもう、鋭介に確認を取るしかなさそうねぇ……うん、そうね。そうしましょ」

 

万が一の事も考え、二宮に確認を取るべく通信端末を弄ろうとしたその時……彼女は気付いた。

 

「ん?」

 

ドゥーエが双眼鏡で見据えた方角……そこには、ボロボロになっている不良を片手でズルズルと引き摺りながら、夏希達のいるビルへ向かおうとしている人物の姿があった。

 

「! アレって、確か鋭介が探してた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、お姉さん? 一方的に嬲り殺しにされる気分は?」

 

「はぁ……はぁ……けほ、こほっ……」

 

「あらら、まともに喋る事もできないか……ま、無理もないよねぇ」

 

「どうしやすアキラさん? これじゃ埒が明かないですぜ」

 

「おら、何とか言ったらどうなんだ……えぇオイ!!」

 

ドガァッ!!

 

手下の不良が夏希の顔面を殴りつけるが、夏希はうんともすんとも言わない。それに苛立った不良は夏希が胸元に着けているブラジャーに手をかけようとした。

 

「くそ、だんまりかよ! だったら犯してでも喋らせ―――」

 

「オイ」

 

しかし、そんな身勝手は成瀬が許さなかった。成瀬の低い声が、夏希のブラジャーに手をかけようとしていた不良を怯えさせる。

 

「今は拷問中だ。僕の命令もなしに勝手な事はするな」

 

「す、すみません……」

 

成瀬に睨まれた不良は、怯えた様子ですごすごと後ろに下がっていく。そんな中、先程から何も言わず黙り込んでいた夏希が、ゆっくり口を開きボソリと呟き始めた。

 

「……いね」

 

「ん?」

 

俯いていた夏希が顔を上げる。その口元は……笑っていた。

 

「はぁ、はぁ……こんな、物……どうって事ないね……ッ……ラグナ、ちゃんの……苦しみに……比べれ、ば……!!」

 

「ふぅん。我慢できるって言うの? この後もずっと殴られ続けるけど、それでも耐えるんだ?」

 

「耐える、さ……こんな、物……大した事、ないね……所詮、アンタは……その、程度って、事だ……ッ……!!」

 

これだけ殴られたにも関わらず、夏希は未だ笑い続けていた。本音を言うと、痛い物は痛いし、今にも折れてしまいそうだった。それでも彼女は変わらず笑い続けた。彼女は変わらず成瀬達を睨み続けた。これ以上、こんな光景を見せつけられているラグナに不安を与えてしまわないように。

 

「んん……!!」

 

(大丈夫……まだ、耐えられる……ラグナちゃんだけは、絶対に助け出さなきゃ……!!)

 

だからこそ、彼女はずっと隙を窺い続けていた。成瀬達が一瞬でも隙を見せた瞬間、すぐにラグナを助け出せるように。過去が過去である以上、自分はどれだけ殴られても構わない。どれだけ深い傷を負う事になろうとも、ラグナを助け出したいという意志は変わらない。その覚悟には、一切のブレが存在しなかった。

 

「……あっそ」

 

ゴスッ!!

 

その表情が気に入らなかったからか。自分が思っていた状況と違っていたからか。成瀬はゴミを見るかのような目で鈍器を振るい、再び夏希の顔面を殴りつけた。

 

「意地でも僕等の思い通りにはならないってつもり? 下らないね。そんなにこの子が大事なんだ」

 

「ッ……!?」

 

成瀬はラグナの首元を掴んで引き摺り、夏希の前に突き出す。そして鈍器の先端をラグナの顔に向ける。

 

「よ~くわかったよ。お姉さんを完璧に叩き潰すには、この子も一緒に叩き潰した方が良いって事がねぇ」

 

「!? 待て……やめろ……!!」

 

「うるさいよ」

 

バキィッ!!

 

成瀬は拳で夏希の頬を殴りつけた後、足元でもがいているラグナの背中を踏みつける。

 

「そこで見てなよ。君の目の前で、この子が無惨に殴られる様をねぇ……!!」

 

「ん、んんっ!?」

 

「やめろ……やめてくれ……ッ!!」

 

「うるさいって言ってるのが……まだわからないかなぁ!!!」

 

夏希が暴れてガシャガシャと鎖を鳴らす中、成瀬は両手で構えた鈍器を大きく振り上げる。それを見たラグナは痛みを覚悟してギュッと目を瞑り、そこへ鈍器が振り下ろされようとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

ガシャアァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

「ぐげあぁ!?」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

突如、閉ざされていた部屋の扉が轟音と共に破壊され、それと一緒に1人の不良が吹き飛んで来た。その音に驚いた不良達は一斉にそちらを向き、鈍器を振り下ろそうとした成瀬もピタリと動きを止める。

 

「エディ!? おい、どうした!?」

 

「何があった!? おい!!」

 

「か、かは……あ、あいつ、が……ッ」

 

それは先日、成瀬が変身した状態でボコボコに殴ったエディだった。何故かボロボロになっているエディが震える手で指差した方角には……破壊された扉を踏みつけている、青いジャケットを着た青年の姿があった。

 

「……誰かな? 君は」

 

「……」

 

突然の乱入者に対し、不機嫌そうな表情を隠さない成瀬だったが、その青年は無表情のまま何も喋らない。その青年は無言のまま、成瀬達がいる方へと歩みを進めようとする。

 

「テメェ、無視してんじゃ―――」

 

ガシィッ!!

 

「!?」

 

無視された事にイラついたのか、不良が横から金属バットで青年に殴りかかった……が、青年はその金属バットを左手で掴み、難なく受け止めてみせた。金属バットが勢い良く振り下ろされて来たにも関わらずだ。

 

「な、テメェ……ごぶっ!?」

 

直後、青年の右手によるボディブローが炸裂し、不良がその場に倒れ伏す。そのまま青年は歩みを再開し、それに成瀬達が思わず後ずさる中、ランタンの明かりによって青年の素顔が照らされる。その青年の素顔を、夏希は知っていた。

 

「―――真、司?」

 

それは、夏希がかつて愛していた男だった。

 

それは、夏希が一番会いたいと思っていた男だった。

 

その青年―――“城戸真司(きどしんじ)”は今、確かに夏希の前にその姿を現した。

 

「……へぇ、お姉さんの知り合いかぁ」

 

成瀬は未だ余裕の態度を保っており、先程までラグナに向けていた鈍器を夏希の顔に向けながら言い放つ。

 

「おっと、それ以上そこから動かないでよね。彼女達の命が惜しいなら、大人しく僕の言う事を聞いた方が良いんじゃないかなぁ?」

 

「……」

 

しかし、真司の歩みは止まらなかった。1歩ずつ確実に成瀬達に近付いて来ており、これには流石の成瀬も思わず声を荒げる。

 

「ねぇ、動くなって言ってるのがわからないかなぁ……聞いてんのかオイッ!!!」

 

どれだけ凄んでも、真司は表情1つ変わらない。彼はある程度の距離まで近付いた後、突然その歩みを止め、その視線を夏希の方へと向ける。

 

「……真司……?」

 

そんな彼の行動に、夏希は疑問を抱いていた。

 

あの真司にしては、妙に物静か過ぎる。

 

おまけに真司の表情には、成瀬達の行いに対する怒りの感情も全く見えない。

 

何か違和感がある……そう思った夏希は、その違和感の正体に気付いた。

 

(……まさか)

 

 

 

 

 

 

『もう、遅い! 早く行こ、真司♪』

 

 

 

 

 

 

真司が見せている表情には、見覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

(……まさか……!!)

 

 

 

 

 

 

『な、何だよ? さっきからちょっと変だぞ?』

 

 

 

 

 

 

真司の静か過ぎる雰囲気には、心当たりがあった。

 

 

 

 

 

 

「まさか……お前は……!?」

 

 

 

 

 

 

『何なんだよお前!?』

 

 

 

 

 

 

夏希はもう一度、真司のその姿を見据え……そして彼女は確信した。

 

 

 

 

 

 

目の前にいる()とは、過去に会った事があった。

 

 

 

 

 

 

()の着ている青いジャケットは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルファベットの文字が、左右逆になっていた(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――フッ」

 

 

 

 

 

 

()が……真司が笑った。

 

 

 

 

 

 

それは親しみの込められた笑みではない……恰好の獲物を見つけた事に対する、邪悪な笑みだった。

 

 

 

 

 

 

それを見た瞬間……夏希は背筋が凍りついた。

 

「ッ……逃げろ……」

 

「は?」

 

「……全員、今すぐ逃げろ!! 早くッ!!!」

 

「おい、いきなり何を―――」

 

『グゴオォォォォォォォッ!!?』

 

「「「「「!?」」」」」

 

夏希が叫び出した直後、窓ガラスからスコングナックラーが突然飛び出し、地面を大きく転がってから壁に叩きつけられた。それに成瀬達が驚いたその時……

 

『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

それに続くように、窓ガラスを介してもう1体のモンスターが飛び出して来た。それは長い胴体と赤い目が特徴の怪物―――“暗黒龍(あんこくりゅう)ドラグブラッカー”だった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「お、おい、勝手に逃げるなお前等!?」

 

『グオォォォォォォォォォン!!!』

 

ドラグブラッカーを見た途端、成瀬の命令も無視して逃げ出そうとした数人の不良達。しかしドラグブラッカーはそんな彼等に狙いを定め、口から黒い炎を噴き出し始めた。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「あ、熱い、熱い!! やめでぐれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

『グルルルルル……!!』

 

「ひぃ!? こ、こっち見たぞ!!」

 

「い、嫌だ、死にたくない……死にたくない!!!」

 

『グガァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

「ひっ……ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

ドラグブラッカーは動きを止める事なく、他の不良達にも襲い掛かり始めた。先程まで夏希を殴っていたチンピラ達や、サラリーマン風の男性を黒い炎で徹底的に焼き尽くし、逃げ遅れたエディを容赦なく喰い殺す。これには流石の成瀬も焦りを隠せなかった。

 

「く、くそ!! 何なんだよアイツ、見境なしかよ……ッ!?」

 

アスターのカードデッキを構えて逃げ出そうとする成瀬だったが、そんな彼の前に黒いカードデッキを構えた真司が立ち塞がる。彼が無言のままゆっくり突き出したそのカードデッキは、ドラゴンの顔を象った禍々しいエンブレムが刻み込まれており、そのエンブレムもデッキ本体と同様に黒く染まっていた。

 

「……」

 

既に真司の腰には、ベルトが装着されていた。彼はカードデッキを降ろしてから静かに目を閉じ……そして、あの言葉を口にする。

 

「変身」

 

カードデッキがベルトに装填され、真司の姿が変わっていく。複数の鏡像が重なって形成されたその姿を、夏希は知っていた。

 

「ッ……お前、だったのか……!!」

 

 

 

 

 

 

漆黒に染まり切ったボディ。

 

 

 

 

 

 

赤く発光している複眼。

 

 

 

 

 

 

ドラゴンの頭部を模した左腕の召喚機。

 

 

 

 

 

 

頭部にも刻まれている黒いドラゴンの紋章。

 

 

 

 

 

 

その姿は、夏希が知る真司の変身した姿(・・・・・・・・・・・・・)とあまりに似過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

「……フン」

 

 

 

 

 

 

目の前の獲物達を叩き潰す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いドラゴンの戦士―――“仮面ライダーリュウガ”は、その場から静かに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




成瀬率いる不良軍団に捕まり、見事なまでに生身でボッコボコにされてしまった夏希氏。
ベノスネーカーの毒液を浴びた時と言い、夏希がやたら重傷を負わされまくっているのは決して気のせいではない←
あと、誘拐されるたびに夏希が何かしらエッチな目に遭わされまくっているがそれも決して気のせいではない←

女性を監禁した以上、普通なら18禁展開にしても良いところを(サイトの規約的な意味では駄目だけど←)、敢えて普通に殴ってボコる拷問を行った成瀬ですが、その理由は大きく分けて2つあります。
1つは、万が一脱走された時に備えて徹底的に痛めつけておく為。生身の状態でボコっておく事で、万が一カードデッキを奪い返されるような事があっても戦いを有利に進められます。
もう1つは、敢えて普通に拷問する事で不良達の忠誠心を試す為。成瀬は手下の独断行動を決して許しません。それは勝手に夏希を犯そうとしたチンピラ達がスコングナックラーの餌食にされた事や、勝手に夏希を裸にさせようとした不良が咎められた事などを考えれば明らかです。夏希ほどの美人を前に、不良達が勝手な行動を取る事なく自身の命令に従うかどうか……彼はそれを確かめようと思った訳です。彼は手下の自由も徹底的に奪っておかなければ気が済まない様子。

そして遂にその正体を露わにした城戸真司こと仮面ライダー龍騎……否、“鏡像の城戸真司”こと“仮面ライダーリュウガ”。
何故、手塚の占いでリュウガの運命が見えなかったのか?
手塚が占おうとしたのはあくまで【手塚達が知っている城戸真司(=龍騎)】であって、このミッドで目撃したのは【手塚達が知らない城戸真司(=リュウガ)】です。手塚が占おうとした真司(=龍騎)がミッドに存在していない以上、どれだけ占ったところで見えるはずがありません。
この他、リュウガ自体がミラーワールドの存在である点も大きいでしょうね(※仮の命で生き長らえていた神崎優依の運命を占えなかったのに、もはや人間ですらないリュウガの運命なんてまともに占える訳がない)。

さて、いよいよ始まってしまったリュウガの殺戮。
それじゃあ成瀬君……君にはそろそろ、死んで貰おうかなぁ?(※草加スマイル)

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