ちなみに今回のお話ですが、ストーリー自体はそんなに長くはなりません。早くて3話、遅くても4話くらいで終わる予定です。
それではどうぞ。
「贈り物?」
あれから翌日。雄一兄に贈り物を渡そう大作戦(命名はウェンディ)を開始したナンバーズ一行。しかし贈り物を渡そうにも、何を渡せば雄一は喜んでくれるのかが全くわからない。そこで「周りの人達からアイデアを聞いて回るのはどうだろうか」という意見が出た事で、彼女達は身近にいる人達に何か良いアイデアはないか聞いて回る事にした。
「うむ。雄一の為にも、何か良いアイデアがないか考えているのだが……どうだろうか?」
「贈り物かぁ。そうねぇ……」
チンクも早速、昨日の課題を提出する際にギンガに尋ねていた。
「確かに難しいわね……雄一さん、とても誠実な人だし。基本的に何を貰っても喜びそう」
「おかげで何を渡すべきか、ジャンルが逆に定まらなくてな……」
更生プログラムの指導役を務める中で、ギンガも斎藤雄一がどういう人物なのかをじっくり観察してきた。そんな彼女から見た雄一の第一印象は「とても優しい人」である。ルーテシアを始め、セインやウェンディからは物凄く懐かれ、あの威圧的な態度のノーヴェですら彼の言葉には素直に従っている。おまけにディエチも彼に対し、何やら熱い視線を送っている事があり……と、ここまで考えたところでギンガは気付いた。
「ねぇチンク……その贈り物って、もしかしてディエチの為に?」
「む、何故わかったのだ?」
「あぁ、やっぱりそういう事か……道理で最近、ディエチが講義中もボーっとしてる事があった訳ね」
しかし、ギンガはその事に対する怒りの感情は抱いておらず、むしろ微笑ましく思っていた。実際、あれほど優しい心を持った青年と共に過ごしてきたのだから、同じく温厚で素直な性格のディエチが彼に惚れるのも無理のない話だろう。
「なるほど。そういう事なら、私も手伝うわ」
「本当か! 感謝する!」
ギンガからも了承を得て、チンクもパァッと明るい笑顔を見せる。その様子にギンガはクスリと笑う。
(感謝する、か……何だかんだでチンクも凄く嬉しそう)
妹の為と言いつつ、協力して貰える事になった途端に嬉しそうな表情を浮かべるチンク。それだけで雄一がディエチだけでなく、更生組の皆から好かれているのがギンガにはよくわかった。
「それにしても、雄一さんに渡す贈り物かぁ……これは私だけじゃ判断し辛いわね」
「む、やはりそう思うか……?」
「だから……詳しく聞いてみるのが一番よ。私達よりも雄一さんの事をよく知っている彼に」
「……となると、やはり彼か」
ギンガとチンクが
「「雄一(さん)に、プレゼントを贈りたい?」」
そう。雄一の親友である青年―――手塚海之の事だった。
「……うん」
「でも、どうして急に?」
ある時、雄一達の様子を確認する為にたまたま面会に訪れた手塚となのは。2人が面会で出会ったディエチから早速言われたのが、その一言だった。ディエチからの突然過ぎる頼み事に驚いた2人は理由を問いかけ、ディエチは恥ずかしそうに顔を赤くしながらも事情を説明した。
「こういうのは、雄一さんを知っている人から聞くのが一番だって、ギンガさんとチンク姉に聞いたから、それで聞いてみようと思って……」
かつての戦いで、クアットロに操られた雄一に殺されかけ、ガジェットに命を奪われようとしていたディエチを助けてくれたのがこの2人だ。おまけにこの2人は、当時は敵だったはずの自身の言葉を決して疑わず、本気で信じてくれていた。その嬉しさもあって、ディエチは何か困った事があった時はこうして、面会を通じて2人に相談事をする事が多くなっていた。
「贈り物か……雄一の事だ。確かにアイツなら、何を貰っても素直に喜びそうだな」
「にゃはは……確かに、そう考えると逆に難しいかもね」
「それで、2人の意見も聞いてみたいんだけど……どうかな?」
「う~ん、贈り物かぁ……」
この相談内容は、雄一の事をよく知っている手塚から見ても非常に難しい話だった。雄一が喜びそうな物を必死に思い浮かべようとする2人だったが……
「「……何も思い浮かばない」」
手塚となのはの考えを以てしても、何を貰っても喜ぶ雄一の笑顔しか思い浮かばない。何を貰っても喜ぶであろう彼の優しさが、ここに来て予想外の厄介さを秘めていた。
「……ディエチ、君達の気持ちが俺にもわかってきたぞ。まさかこんなに考えが纏まらないとは」
「や、やっぱりそう思う……?」
「優し過ぎるのも考え物って、まさにこういう事なんですね……」
「もう少し、アイツから趣味を聞いておくべきだったな。全く、まさかアイツの優しさにこんな形で悩まされる事になるとは……」
あまりに悩み過ぎて、とうとう雄一の優しさが(おかしな意味で)ディスられ始める始末である。このまま悩みに悩んでいても話が全く進展しない為、手塚はまず雄一達のこれまでの経緯から振り返ってみる事にした。
「……スカリエッティの下にいた頃は、アイツが全員の食事を提供していたんだったな」
「へ? あ、うん。私達もたまに手伝う事はあったけど、基本的には雄一さんが1人で作る事が多かったよ」
「「……それだ!」」
手塚となのはの声が重なる。
「ディエチちゃん、料理だよ! 料理作ってあげるのが良いかもしれない!」
「え? で、でもそれって、贈り物とは少し違うんじゃ……」
「いや、そこまで難しく考えなくても良い。要は雄一に、今までの恩返しがしたいんだろう?」
「確かに、本来の意味の贈り物とはちょっと違うかもしれない……でも、ディエチちゃん達の感謝の気持ちを、料理を通じて雄一さんに贈る事はできる。何も、そこに形として残る物だけがプレゼントって訳じゃない」
「感謝の、気持ち……」
そこに残る物だけが贈り物だとディエチは思っていた。しかし2人から受けた言葉で、贈り物とは何も形だけではなく、こういう方法もあるのだと。また一つ、彼女は大切な事を学べたような気がした。
「カリキュラムで、料理の作り方も教えて貰っているんだろう? それならちょうど良い機会だ」
「やってみる価値はあると思うよ。私達も応援してるから!」
「手塚さん、なのはさん……うん、ありがとう。2人に相談して良かった」
ディエチの浮かべる笑顔を見て、手塚となのはも釣られて笑顔になる。これほど根の優しい娘だ。彼女達の雄一へのサプライズはきっと上手くいく事だろう。2人は心の中でそう思うのだった。
「それにしても、この結論に至るまで時間がかかるなんて……優しいって、たまに難しいですね」
「全くだ……雄一の奴、こういう時くらい少しは人間としての隙を見せて欲しいものだな」
ちなみにその後、2人の雄一に対する(おかしな意味での)ディスり具合が更に酷くなっていったのはここだけの話である。もちろん、雄一本人はそんな事など知る由もなかった。
「―――なるほど、それで雄一さんに料理を作ってあげたい訳ね」
「うん。だから調理場、貸して貰っても良いかな……?」
「えぇっと、ちょっと待ってね……っと」
その後、手塚達と相談して出したアイデアは、定期検診中にディエチから全員に伝わる事となった。ディエチからの懇願に対し、今回の定期検診の担当を務めているシャマルは感心しており、定期健診に同行していたギンガは今後のカリキュラムの予定を確認し始める。
「料理かぁ……雄一様の手料理、凄く美味しかったなぁ」
「今度は私達が雄一兄に料理を食べさせる番ッスね! 腕が鳴るッス!」
「オメーの場合は不安しかねぇよ……それでギンガ、頼めそうか?」
「そうねぇ……確かにカリキュラムでは、いずれ自分達だけで調理して貰う予定にはなっているわ。でも、本当に大丈夫なの? 雄一さんの調理を手伝っていた事はあっても、まだいくらか不慣れな部分もあるんじゃ……」
「うっ……やっぱり、駄目かな?」
元から料理が上手い雄一を除く更生組の面々も、社会勉強の一環として、外部から呼んだプロの講師に教わる形で料理の練習を行っている。おかげで彼女達も料理には少しずつ慣れてきてはいるものの、かつてスカリエッティの
「あら、良いんじゃない? ディエチちゃん達も真面目に頑張ってるんだし、一度だけでもやらせてみたらどうかしら」
「シャマル先生……」
イマイチ判断できないギンガに対し、話を聞いていたシャマルがフォローする。
「ギンガちゃんも不安かもしれないけど、時には黙って見守ってあげるのも大事よ? 彼女達がまた一歩、前に進もうと頑張ってるんだもの。成功したら喜んであげれば良い。失敗したらまた立ち上がらせてあげれば良い。そうでしょ?」
シャマルの話を聞いて、ギンガはまた静かに考え始める。まだ多少の不安は残っているものの、シャマルが言う事も尤もだ。ディエチ達から頼まれた以上、その想いは汲んであげるべきだろう。そう考えたギンガは、仕方ないといった様子で了承する事にした。
「……わかったわ。調理場を貸して貰えるかどうか、ちょっと確認を取ってみるわね。もしそれでOKが出たら、雄一さんには内緒で……ね?」
「うん、ありがとうギンガ……!」
「よぉし、何だかやる気が漲ってきたッス!」
「頼むから変な事だけはするなよお前は……」
「頑張る……お兄ちゃんの為なら……!」
「OKOK、やる気があるのは良い事よ皆♪ あぁちなみに。どうしても手を貸して欲しい事があったら、料理なら私が教えてあげ―――」
「「「「「すみません、遠慮します」」」」
「何でよぉ!?」
「あ、あはははは……」
なお、シャマルの料理下手は何故か更生組の面々にも伝わっていたらしい。速攻で、しかも声を揃えて断られる羽目になってしまい、シャマルは思いきり凹まされたのだった。
(でも念の為、見守る役は必要よねぇ。私も普段から常に一緒って訳じゃないし……他にも一応、料理上手な人に声はかけておいた方が良さそうかしら)
局員としての仕事もある関係上、ギンガはいつでも更生組の面倒を見れる訳ではない。それに加え、料理の指導を務めているプロの講師の方達にも都合という物がある為、その辺りのスケジュール調整も非常に大変である。そこで彼女は、外部協力者として料理上手な人を呼べないかどうか確認してみる事にする。
(! そうだ、あの人なら……!)
そんな時、ギンガは知人の中で1人、更生組の手伝いができそうな人物を発見するのだった。
「それじゃあ皆! 今日1日ここの調理場を貸して貰える事になったから、あんまり散らかし過ぎないように注意してくれ!」
「「「「「はーい!」」」」」
それから数日後。1日だけ更生施設の調理場を貸して貰える事になり、更生組の面々は早速エプロンを着けて調理場にやって来ていた。ギンガと同じ更生プログラムにおける指導役の男性局員―――“ラッド・カルタス”に調理場まで案内された彼女達は全員、雄一の為にとやる気満々な様子だった。
「それにしても、雄一兄に内緒で始めるのも大変ッスねぇ」
「一応、他の局員達にも頼んで検査を長めにして貰っている。しばらく彼がここに来る事はないよ」
カルタス曰く、雄一は他の局員達の協力の下「怒りの感情がレリックに呼応した現象について、こちらで詳しく調査をしたい」という形で検査の時間を長めにして貰っている。雄一へのサプライズを内緒にする為とはいえ、かつて雄一が暴走した切っ掛けをサプライズの為の嘘として利用している事については、流石のディエチ達も罪悪感を抱いており、同時にこのサプライズは絶対に成功させなければと意気込む要因にもなっていた。
「あり? そういえばカル兄、今日はギン姉はいないの?」
「あぁ、今日は事件の捜査に関わっていてギンガは不在だ。俺もこの後、すぐにそっちに合流しなければならないから一緒にはいられそうにない」
「えぇ~、カル兄も不在かぁ~……」
「あはは、ごめんな皆……その代わり、ギンガが料理上手な人を外部協力者として呼んでいるから、困った事があったらその人を頼るように。もう少ししたらここに到着するはずだから」
「外部協力者? 誰なのそれって」
「いや、俺も詳しくは聞かされてなくてな。皆も知っている人だとは言ってたけど……まぁとにかくだ。俺はそろそろ仕事に戻るから、包丁とかを使う時は充分に気を付けてくれよ。それじゃ」
「カル兄、行ってらっしゃ~い」
そう言って、カルタスも仕事に戻るべく調理場を退室していく。残された更生組の面々は早速、チンクが主導となり準備を開始する事にした。
「よし、まずは手を洗って清潔にするぞ。汚い手でやると衛生的な問題があるからな」
「「了解」」
「「はいは~い♪」」
「たく、何でアタシまでこんな事……」
「お兄ちゃんの為、お兄ちゃんの為……!」
チンクの指示の下、一同はまず流し台で手を洗う事にした。1人ずつ順番に手洗いを終えていき、ディエチは一番最後に手を洗い始める。
(この日の為に、皆が協力してくれた……絶対に成功させなくちゃ……!)
心の中でそう意気込んだ後、手洗いを終えたディエチは他の姉妹達やルーテシアと共に、食材や調理器具を用意して調理を開始する。
これまで、プロの講師の下で何度も練習はしてきた。
皆で協力すれば、きっと上手くいくはず。
料理を開始した当初は、ディエチはそう思っていた……しかし。
「―――痛ったぁ!? 指切っちゃったッス~!?」
「だぁもう、早速やらかしやがったよこの馬鹿は!?」
(……本当に大丈夫かな、これ)
いきなり幸先の悪いスタートを切る事になってしまい、ディエチは最初から猛烈な不安を抱くのだった。
そんな彼女の不安は、その後も悪い形で次々と的中していく事になる。
To be continued……
ここだけの話、シャマルの料理下手を広めたのは夏希だったり。シャマルは夏希を恨んでも良いと思っ……いや、やっぱり料理はちゃんと練習しようか←
ちなみに作者の場合、カレーなら頑張れば作れます(どうでも良い)
手塚となのはも愚痴っていますが、何を渡されても喜ぶタイプの人間は、どんなプレゼントを渡すべきか物凄く悩むと思います(あくまで作者の主観ですが)。
その結果、何故か雄一が2人からおかしな意味でディスられ始めるという……おかしいな、どうしてこうなった←
そんな雄一の為に、自分達だけで料理を作り始めた更生組一同。
果たして上手くいくのか?
その結果はまた次回にて。