エピソード・ナンバーズ、3話目の更新です。
日にち的にはもうすぐジオウの鎧武編ですね。ソウゴ達は紘汰や戒斗とどんな対話をするのか、今から非常に楽しみです!
そんな話はさておき、エピソード・ナンバーズ第3話をどうぞ。
あと、今回は後書きも最後まで読んで貰えると非常に嬉しいです。
ウェンディが包丁で指を切ってしまうという、初っ端から小さなトラブルが発生してしまった更生組一行。
しかし、流石にこれ以上は特に大きなトラブルが起こる事もないだろう。彼女達はそういう考えの下、役割を分担しながら調理を続ける事にした。
プロの講師に教わってきたのだから、頑張れば自分達だけでもできるはずだ。そんな思いを胸に秘めながら。
数分後……その考えが甘かった事を、彼女達は思い知らされる事となった。
「うげ、殻が入っちゃった!?」
「あ~あ、何やってんだよセイン……あっ!?」
卵を割ろうとしたセインは、力加減を間違えた事で卵の黄身に割れた殻が混ざってしまう事態に陥った。これはセインに限った話ではなく、同じく割ろうとしたノーヴェも同じような失敗をしてしまっていた。
「くっそぉ、なかなか上手くいかねぇなぁ……」
「まぁ、これくらいなら殻を除けばまだ大丈夫だ。こればかりは練習する他あるまい」
卵割りに失敗した妹達を励ましながら、卵の黄身に混ざった殻を綺麗に取り除いていくチンク。その横では、セイン達のように卵割りに挑戦しようとしているルーテシアの姿があった。
(そういえばお兄ちゃん、この前は片手で卵を割ってたような……)
スカリエッティの下で動いていた頃、雄一の調理を少しだけ手伝った事があるルーテシアは、雄一が片手で卵を上手に割っているところを見た事がある。その事を思い出し、彼女は何となくそれを真似してみようと思った。
(よし、私も……!)
しかし、片手で卵を割るにはコツが必要である。言い方を変えると、コツさえ掴めれば後は簡単なのだが、コツを掴めていない状態で無理に挑むと……
パキャッ!
「あ……」
……こうなってしまう訳である。黄身がボウルの外に零れるという見事に悲惨な割れ方になってしまい、しょんぼりした表情を浮かべたルーテシアが濡らした布巾で掃除する事になったのは言うまでもない。
「め、目が染みるッスゥ~……!!」
一方、切った指の手当てを終えて絆創膏を張ったウェンディはと言うと、こちらは玉ねぎを微塵切りにするのに苦戦しているようだった。玉ねぎを切るたびに玉ねぎの成分が目や鼻から入ってしまい、ウェンディは目から流れる涙が止まらず目元を何度も拭っている。
「玉ねぎを切る時は気を付けるよう、講師からもよく言われていましたが……く、これはなかなか……ッ!!」
「な、涙が、止まりません……!!」
オットーやディードも涙が止まらず、思うように玉ねぎを切る事ができない様子。その一方、ディエチは頑張って鶏肉を丁寧に切ろうとしているところだった。
(よし、ここまでは上手く行っている……落ち着いてやれば、私にもできるはず……!)
今回、彼女達が雄一の為に作ろうと思っているのはオムライスだ。何故オムライスなのかと言うと、実は雄一が初めてスカリエッティ達に手料理を振る舞った時、その時に彼が作った料理がそのオムライスだったからだ。だからこそディエチ達も、その時のお返しという事で手作りのオムライスを振る舞おうと考えたのである。
(えっと、鶏肉はこんな感じで良かったかな? いや、もう少し切った方が食べやすいかな……でもそれだと……)
鶏肉を順調に切っていくディエチだったが、本当にちゃんとできているかどうかイマイチ自信が持てない様子。おまけに「雄一へのサプライズを成功させたい」という思いが彼女にとってプレッシャーとなってしまい、自分が現在使っている包丁の存在が一瞬だけ意識から外れてしまった。
そのせいで……
「痛っ!?」
考え事をしていた結果、ディエチも同じように指を切る事になってしまった。
「ディエチ姉様、大丈夫ですか!?」
「あ、ううん、大丈夫。ちょっと切っちゃっただけだから……」
オットーから心配されたディエチはあくまで笑顔を崩さなかったが、内心では不安が更に大きくなっていた。
(うぅ、やっちゃった……これじゃ駄目だ、絶対に失敗する訳には……!)
このサプライズに協力している局員達は今、何とか理由をつけて雄一の検査時間を引き延ばしてくれている。そんな局員達の為にも、そして雄一の為にも、このサプライズは失敗する訳にはいかないのだ。手当てした指に絆創膏を貼り終えたディエチは、自分にそう言い聞かせながら調理を続けていく。
しかし、そんな彼女の想いも虚しく、トラブルは次々と起こってしまう。
「えっと、フライパンに油を入れれば良いんスよね?」
「言っておくがウェンディ、間違ってもドバドバ入れるんじゃないぞ? ちゃんと小さじ1杯分を……」
「ギャ~!? 火が燃え上がったッス~!?」
「人の話を聞いてたかお前は!!」
フライパンに油を通そうとする彼女達だったが、ウェンディが直接油を注いだせいでフライパンから火が激しく燃え上がり、チンク達が慌てて消火作業に取り掛かる羽目になったり……
「な、何とか火は収まった……」
「よし、続けるぞ……油を通した後は、バターを溶かしてから鶏肉と玉ねぎを炒めるんだったな」
「あ、ヤバ、ちょっと零れかかってる……!!」
「馬鹿、直接手で触れたら―――」
「熱っちゃあー!?」
「だから言わんこっちゃない!!」
油と通し、バターを溶かしたフライパンで鶏肉と玉ねぎを炒めていく一同。しかし炒めていた玉ねぎがフライパンから零れそうになり、それを手で戻そうとしたセインが手を火傷する羽目になってしまい……
「よし、ここまでは上手くいった……えっと、次は調味料で味付けを―――」
「あ、ごめん。軽くかければ良いかなと思ったら、間違えて胡椒を大量にかけちゃったッス」
「何やってんの!?」
「おま、本当余計な事を……ぶあっくしゅん!!」
「ちょ、ノーヴェ、クシャミするならあっち向いてやってよ!?」
ディエチが調味料を手に取ろうとする前に、ウェンディが誤って胡椒を大量にかけてしまったらしく、その胡椒が原因でノーヴェはクシャミが止まらなくなり……
「チンク姉、これ何とかなりそうか……?」
「う、うぅむ、できる限り胡椒は取り除きたいところだが……これは……」
胡椒が大量に混ざってしまった鶏肉と玉ねぎ。このまま食べたら辛いのは間違いない事だろう。これを何とかしたいチンクとノーヴェだったが……
「砂糖で辛さを中和できるでしょうか?」
「やってみましょう」
「「やめろそこのバカ双子!?」」
辛いのなら、甘さで中和すれば良いのではないか。そんな思考に至ったオットーとディードが、砂糖を大量投入してしまうという更に面倒な事態に陥ってしまい……
「もう、頼むから本当に余計な事はしないで……!!」
「「すみません」」
チンクから拳骨を喰らったオットーとディードが正座する中、ディエチは別のフライパンに投入したご飯を丁寧にほぐしていく。ある程度ご飯がぱらりとしてきた為、ご飯にケチャップを混ぜようとする彼女だったが……
「あれ? ケチャップがない……ウェンディ、ケチャップない?」
「ケチャップ? たぶんこれじゃないスかね?」
「あぁ、ありがとうウェンディ」
ウェンディからケチャップを受け取り、ご飯にかけて混ぜていくディエチ……しかし、混ぜている途中で彼女はハッと気付いた。
「……って、これケチャップじゃなくて激辛ソースじゃん!?」
「あれ? 赤いからこれがケチャップだと思ったんスけど、間違ってたッスか?」
「せめてラベルくらい確認してよ!? というか入れ物自体ケチャップと全く違うし!!」
「赤いから」という理由だけで、ケチャップと激辛ソースを間違えて渡してしまったウェンディ。しかしディエチがそれに気付いた頃にはもう遅く、激辛ソースの混ざったご飯は赤く染まってしまっていた。
「うっ……近くにいるだけで辛いってわかる……ッ!!」
「「砂糖を混ぜましょうか?」」
「お前等はもう何もすんな!!」
「チンク、卵は何とかなりそう……?」
「わ、私が何とかやってみようと思う……!」
チンクの方はと言うと、炒め終わった鶏肉と玉ねぎを別の容器に移した後、サッと洗い終えたフライパンをペーパータオルで拭き、次の作業に取り掛かっていた。ルーテシアが混ぜた牛乳と卵の入ったボウルを受け取り、チンクは卵をフライパンに広げて熱していくが……
「ねぇ、そろそろ良いんじゃない……?」
「うむ、これくらいか……よし、ご飯を卵で包むぞ。ディエチ、チキンライスの方はできたか?」
「な、何とか……!」
「……何故こんなに真っ赤っかなのだ?」
ディエチ達から渡されたチキンライスは、激辛ソースとケチャップが混ざった影響で見るからに辛いだろうとわかるレベルで真っ赤っかだった。これで本当に大丈夫なのかと不安になるチンクだったが、ひとまず熱した卵の上にチキンライスを乗せ、何とか卵で包み込もうとするが……
「くっ……なかなか上手くいかんな……!」
「それじゃ駄目、私がやる……!!」
「ま、待てルーテシア嬢!? そんな慌てなくとも……!!」
「ん? 何か焦げ臭いような……ってチンク姉!? 卵で包む時は先に火を止めないと!!」
「は、しまったぁ!?」
卵でチキンライスを包み込む作業が上手くいかず、苦戦するチンクと交代しようとするルーテシア。しかしそうしている間に、フライパンの火を止め忘れていたせいで卵がどんどん焦げ始めており、それに気付いたディエチが慌てて火を止めに入ろうとするが……
「あぁ、卵が破けた!?」
「あぁもう貸して、私がやるから……!!」
「ちょ、待てディエチ!! そんな無理に引っ張ったら飛び散るだろ……あぁっ!?」
フライパンを取り合おうとした結果、フライパンから飛び散った卵とチキンライスが宙に舞い上がり、どこかに大きく飛んでいく。そして……
「「「「「あっ」」」」」
「―――熱っちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
焦げた卵が盛大にウェンディの顔面に降りかかり、あまりの熱さにウェンディは悲鳴を上げる事態に陥る事となってしまうのだった。
その後……
「……うわぁ」
ある理由から更生施設にやって来ていた白鳥夏希は、更生組一行がいる調理場を覗き込み……目の前に置かれている物を見て、引き攣った笑みを浮かべていた。
そんな彼女の目の前には……
「派手にやったねぇ、アンタ達」
「「「「「「「ご、ごめんなさい……」」」」」」」
グチャグチャに焦げた卵と、真っ赤っかなチキンライスで作られた、誰から見ても失敗作だとわかる酷い出来のオムライスだった。ブスブスと黒い煙が噴き出ており、近付くだけで激辛ソースの成分が飛来しているそれは、流石の夏希も味見をしたいとはとても思わなかった。正座している更生組一行は申し訳なさそうに謝罪する。
「め、面目ない……姉の私が付いていながら……!」
「うぅ、まだ顔が熱いっす……!」
「ごめんねウェンディ、大丈夫……?」
ちなみに顔面を盛大に火傷してしまった為、ウェンディはルーテシア達に手当てして貰っている真っ最中だ。その近くでは……
「はぁ……」
調理場の隅っこで、ディエチが体育座りをしたまま激しく落ち込んでいた。それらを一通り見渡した後、夏希は自分がここに来る事になった理由を理解した。
「なるほどねぇ……ギンガがアタシに頼んで来たのもわかる気がするわぁ」
「どういう事ですか……?」
「ギンガに頼まれたんだよ。代わりに皆の様子を見て欲しいってね」
「! じゃあ、カル兄の言ってた外部協力者って夏希姉の事だったんだ……!」
「な、夏希姉? ……まぁ良いや。とにかくそういう理由でここに来てみたんだけど……見た感じ、アタシがここに来たのは正解っぽいねぇ。これじゃ先が思いやられるよ?」
「「「「「「「うぐっ……」」」」」」」
夏希の辛辣な言葉に対し、更生組一行は返す言葉も見つからない。夏希は呆れた様子で髪を掻いた後、一番落ち込んでいるディエチの方へと近付き、体育座りのまま顔を伏せている彼女の前でしゃがみ込む。
「ほら、ディエチ。いつまで落ち込んでるつもり? 早くしないと検査の時間終わっちゃうよ」
「でも……私達、こんなに失敗して……今からじゃもう……」
「まだ予定の時間は来てないじゃん。オムライスを作りたいんでしょ? 今からでもミニサイズの奴とかなら作れるはずだって」
「ッ……そんなんじゃ、雄一さんを喜ばせられない……雄一さんの為に、美味しいオムライスを作りたかったのに……いやだよ……雄一さんをがっかりさせたくないよ……ッ!!」
「ディエチ……」
作ろうと思えば作れたはずのオムライスを、まともに完成させる事すらできなかった。その不甲斐なさからすっかり自信をなくしてしまったディエチは、顔を伏せたまま泣きじゃくり始める。その様子を見ていた夏希は小さく溜め息をつき、ディエチの肩に手を置いて問いかける。
「……アタシはさ。この世界で初めて出会ったから、雄一の事を詳しく知っている訳じゃない」
「……?」
「だから聞かせて貰うよ。アンタ達の知ってる斎藤雄一は、それくらいの事でアンタ達を嫌いになっちゃうような器の小さい馬鹿な人間なの?」
「ッ……違う、雄一さんはそんな人じゃない!! 雄一さんはいつも、私達に優しくしてくれて―――」
「ほら、自分でよくわかってんじゃん」
「え……?」
思わず顔を上げたディエチに、先程まで呆れていた夏希が笑顔を浮かべる。
「ディエチ達はさ。雄一に美味い料理を食べて貰いたくて、こうして料理してたんでしょ?」
「う、うん……」
「雄一に喜んで貰いたいんでしょう?」
「……うん」
「だったらそれで良いじゃんか。雄一に食べて貰いたくて作った料理なら、それにはちゃんと、ディエチ達の愛情が込められてる」
「愛情……?」
「そ、愛情。アンタ達が頑張って作った料理なら、どんな料理でも雄一はきっとがっかりなんかしないよ。だってその料理には、雄一に美味しく食べて貰いたいっていう、ディエチ達の気持ちが込められてるんだから」
夏希は知っていた。愛情を込めて作った料理には、食べた人を幸せな気持ちにする力があるという事を。自分もかつて、
「最初はショボくても良いんだよ。誰だって、最初は下手糞な状態から始めるんだからさ。でも、失敗を怖がって諦めてるようじゃ、人は成長できない。違う自分になる事なんてできない」
「違う、自分……」
「人は変わる事ができる。こんなアタシだって、昔とは違う自分になれたんだもん。1人で無理なら、支えてくれる仲間と一緒に変わっていけば良い……でしょ?」
かつてフェイトから夏希に告げられた言葉。それは夏希の人生を大きく変える転換点となった。その言葉が今、今度は夏希を通じてディエチ達にも伝わっていく。
「……ほら、早くしないと時間なくなっちゃうよ! アンタ達も、失敗したままで終わる事になって良いの?」
立ち上がった夏希は両手でパンパン叩き、ディエチ以外の面々も鼓舞していく。それを受けて、チンクが一番最初に立ち上がり、他の面々も一斉に立ち上がり始める。
「……確かに。このまま終わっては、協力してくれている局員達にも申し訳ない」
「よぉし、やってやるッスよ!」
「今度はもう失敗しないよ!」
「では、私達も……!」
「流石にもう余計な事はしません……!」
「……ま、アタシも乗りかかった舟だしな。最後まで付き合うぜ」
「お兄ちゃんの為にも、頑張る……!」
「皆……」
失敗したままで終わりたくないと思っているのは、チンク達も同じなようだ。自分の周りには、一緒に失敗を経験した仲間がこんなにもいる。それはディエチが再起するには充分過ぎる物だった。
「どうする? やる? それともやめる?」
「……やる……皆で、もう一度!」
夏希が差し伸べた手を掴み、ディエチが立ち上がる。その表情は普段の穏やかな物に戻っていた。
「さて! 時間がないのは実際そうだから、急いで取り掛かるよ! まだ材料は残ってるよね?」
「あ、あぁ! もしもの為に、予備の材料はたくさん用意して貰っている!」
「OK、なら始めるよ! 全員もう1回手を洗ってから準備して! わからない事があったらアタシに聞く事! 間違っても自分だけで解決しようとは思わないように! 返事は!?」
「「「「「「「「は、はい!!」」」」」」」」
「よし、わかったら散開!!」
夏希の指示の下、更生組一行は再び調理を開始。検査時間の終了が迫る中、彼女達は必死な様子で、かつ互いに協力し合いながら調理を進めていく。
そして……
「これで今日の検査は終了よ。お疲れ様!」
「はい、ありがとうございます」
検査室にて、この日の検査が全て終了した雄一は更生組一行がいるであろう部屋に戻ろうとしていた。
(それにしても、今日は随分と長かったな……人造魔導師としてのデータを色々採取したかったのかな?)
検査時間がいつもより長かった事には、流石の雄一も気付いているようだった。しかし元来持っている人としての優しさから、あまり人を疑う事をしない彼は、検査が長くなったのも色々事情があったのだろうと大して気にしない事にしていた。
その時……
「あれ、ディエチちゃん?」
「!! ゆ、雄一さん……!」
部屋に戻ろうとする雄一の前に、彼を迎えに行こうとしていたディエチが鉢合わせする。雄一を見た途端、ディエチの顔が赤くなっていく。
(どうしよう、胸のドキドキが止まらない……!)
「ディエチちゃん、どうしたの?」
「あ、あの、雄一さん……実は……!」
何とか話をしようとするディエチだったが、雄一を前にした途端、心臓の鼓動が急激に高まっていく。そのせいで彼女は上手く会話を始める事ができない。
(落ち着け私……大丈夫、勇気を出すんだ……!)
何も知らない雄一が首を傾げる中、ディエチは自分の胸元に手を置いて何度も自分に言い聞かせ、ほんの少しの勇気を振り絞った。
「実は、その……雄一さんに、見せたい物があるの……!」
「見せたい物? 何かな」
「それは、えっと、あの……と、とにかく来て!!」
「へ? ちょ、ディエチちゃん!?」
ディエチは雄一の手を掴み、引っ張るように雄一を連行していく。突然過ぎる行動に驚く雄一だったが、彼はそのままいつもの部屋まで移動させられ……
「「じゃじゃーん!!」」
「……え?」
セインとウェンディに出迎えられた雄一は、大きなテーブルの上に置かれている物を見て呆気に取られた。それは小さな皿の上に乗った、赤いケチャップのかかったミニサイズのオムライスだった。
「え、えっと……これって?」
「すまないな雄一。少しばかり、お前にサプライズしようと思ってな」
「いつも雄一さんの世話になってるからさ。アタシ等全員で雄一さんに恩返しをしようと思ってたんだ」
「お兄ちゃんに、喜んで貰いたかったから……!」
ちなみにオムライスにかかっているケチャップは、小さなハートの形を描いていた。ちなみにこれを描こうと考えたのは夏希のアイデアであり、ディエチは「誤解されちゃうから」と最初は猛反対していたが、「それなら感謝の気持ちとして描いた事にすれば問題ないだろう」というチンクの言葉もあって、セインとウェンディが頑張って描く事にしたのだ。
「いやぁ、これを作るのは大変だったッスよ~。アタシ達の汗と涙の結晶みたいなもんッス!」
「本当だよねぇ~。アタシが来る前は盛大に失敗してて、本当に完成できるか不安だったもんねぇ~。結局ミニサイズにする事で失敗しそうになったのを何とか誤魔化した訳だし?」
「ちょ、それは言わない約束ッスよ夏希姉~!?」
「えぇ~、そんな約束したっけなぁ~?」
「うぅ、夏希姉が意地悪ッス~!」
そんな夏希とウェンディのやり取りはさて置き、席に座った雄一の前にディエチがスプーンを置く。
「皆で作ろうと頑張ったんだけど、色々失敗して時間かかっちゃって……こうなる可能性も見越して、先生達にも頼んで検査の時間を強引にでも延ばして貰ったの」
「あぁ、なるほど。道理で検査の時間が妙に長かった訳だ……」
「雄一さんの口に合うかどうかはわからないけど……私達が作ったオムライス、食べて貰えると嬉しいな」
「……そっか、俺の為に……嬉しいな。ありがとう、皆」
雄一は笑顔でスプーンを手に取り、早速オムライスを実食する。ふわふわした卵をスプーンで割り、中身のチキンライスと共に1口分を口の中へと運んでいく。その様子を、ディエチ達はドキドキした表情で見つめる。
(お願い……どうか美味しくできてますように……!!)
特にディエチは、両手の指を組んで心の中で強く祈り続ける。そんな中、オムライスを口にした雄一は口の中でよく噛んでからゴクンと飲み込んだ。
そして雄一が次に告げた言葉は……
「―――うん、美味しい!」
「「「「「「「「―――!!」」」」」」」」
「美味しい」という、賞賛の言葉だった。
「火加減もちょうど良いし、味付けもちゃんとできてる……とても美味しいよ、皆!」
「「「「……やったぁ!!」」」」
セイン、ウェンディ、ノーヴェ、ルーテシアが声を上げて喜び、チンクやオットー、ディードも無言ではあるが嬉しそうに小さくガッツポーズを取る。ディエチのみ、雄一が告げた言葉を呑み込むのに少しだけ時間がかかっていた。
「どうしたんスか? ここは喜ぶところッスよ~!!」
「……美味しい……? 美味しいって、言ってくれた……?」
「そ、ちゃんと美味しく作る事ができたって訳。胸張って良いよ、ディエチ」
夏希がそう言って背中を軽く触れた途端、ディエチは力が抜けたのか、へなへなとその場に力なく座り込む。その目からは涙が流れ落ちていく。
「ッ……良かった……私達、上手く行ったんだ……良かったぁ……!!」
「え、ちょ、どうしたのディエチちゃん!?」
「良いよ良いよ雄一。これ嬉し涙だからさ……よしよ~し、ディエチは本当に泣き虫ですねぇ」
突然ディエチが泣き始めた事に雄一が驚き、代わりに夏希がディエチを抱き寄せて頭を撫で始める。なかなか泣き止みそうにないディエチを優しくあやしながら、夏希は元いた世界での出来事を思い出す。
(本当、世話が焼ける子達だなぁ……)
それはかつて、
『へぇ~、本当に料理得意なんだな』
『普段から家事も自分でやってるからねぇ~……はい、あ~ん♪』
『へ? いや、それくらい自分で食べれ……むぐっ』
『どう、美味しい?』
『……美味いっす』
「……懐かしいなぁ」
かつての記憶が呼び起こされ、夏希も表情が自然と笑顔に変わっていく。あの時の経験があったからこそ、ギンガに頼み事をされた時、自分もこのサプライズ計画に協力しようと、彼女は心からそう思えたのだ。
「お疲れ様、皆」
こうして、雄一の為に開始されたサプライズ計画は無事、大成功という形で幕を閉じるのだった。後に夏希から連絡を受けたギンガ、手塚やなのは達もまた、それを知って嬉しそうな笑顔を浮かべたという……
ちなみに……
「昨日は本当にありがとう。お礼に今日は俺がご馳走するよ」
「「「「「「「「……ッ!!」」」」」」」」
その翌日のランチタイムでは、サプライズのお礼をしようと思った雄一によって、超豪華な手料理がテーブルの上に並べられていた。
(ど、どれもこれも美味しそう……!!)
(この量を1人で全部作っちゃうなんて……!!)
(ゆ、雄一兄ホント半端ないッス……!!)
「?」
自分達があんなに苦労しながら料理したのは一体何だったのか。
雄一の凄まじい料理の腕前を見せつけられ、彼女達が再び自信をなくしそうになったという。
(これで無自覚なんだから恐ろしいよねぇ……)
なお、その様子を見た夏希がそんな事を思っていたのはここだけの話である。
END……
という訳で、エピソード・ナンバーズは結構あっさり完結です。
しかし、このたった3話を書き切るのに何故か物凄く時間がかかってしまいました……あ、今回は別にファイアーエムブレムをやってたから遅くなった訳じゃないからね?←
なかなか料理が上手く行かない元ナンバーズ組&ルーテシアの為に、今回は夏希が色々な助言をくれました。
かつてフェイトから夏希に伝えられた言葉が、今度は夏希を通じて彼女達に伝わっていくという……こんな感じのベタな展開、私は凄く好きですね。
なお、その翌日に雄一は超豪華な手料理を出して彼女達の心をへし折りかけた模様(※彼は別に悪意を込めてやった訳ではありません)
さて、この次は二宮が主役の番外編『エピソード・アビス』の第1話を更新予定。
それでは次回!
JS事件から4年……
オーディン『集え、仮面ライダー達よ……!』
仮面ライダーの戦いは、未だ続いていた……
なのは「ヴィヴィオ~、朝ご飯だよ~!」
ヴィヴィオ「はーい、ママ!」
育ちゆくは、新たな世代……
ヴィヴィオ「パパとお姉ちゃんもおはよう!」
フェイト「おはようヴィヴィオ♪」
手塚「おはよう。よく眠れたか?」
ヴィヴィオ「うん、バッチリ!」
4年の時を経て、ヴィヴィオは心身共に大きな成長を遂げていた……
ヴィヴィオ「リオ、コロナ、おはよう!」
リオ&コロナ「「おはようヴィヴィオ!」」
仲良しの友達と共に、彼女は今日も楽しい1日を過ごしていく……
そんな彼女を待っていたのは……2つの運命的な出会いだった。
ノーヴェ「誰だテメェは……?」
???「ストライクアーツ有段者、ノーヴェ・ナカジマとお見受けします……」
1人は、“覇王”の記憶を受け継いだ碧銀の少女……
そしてもう1人は……
ヴィヴィオ「あなたは、誰……?」
???「わからない……私は一体、誰なの……?」
仮面ライダーとなって戦う、記憶を失った謎の少女……
ティアナ「こんなに若い子が仮面ライダーに……?」
ヴィヴィオ「じゃあ、あなたもパパや夏希さんと同じなんだね!」
???「仮面、ライダー……?」
少女達との出会いが、やがて新たな物語を紡いでいく……
???「良いねぇ、最近の若い子はガッツがあって。良い絵が撮れそうだ」
咎を背負う“勇気”を持てなかった者……
???「お前さんは、儂のようになってはいかんよ……」
“戦い”の中で満ち足りていった者……
???「僕は
己の“正義”に憑りつかれてしまった者……
???「あ~あ全く、ムカつく事してくれるじゃないのあの女……ッ!!」
他者の“心”を利用しようとする者……
???「あんな事になってしまったのも全部……俺が悪いんです」
死に行く最後まで“忠義”を貫き通した者……
このミッドチルダに集いし、新たな仮面ライダー達……
???「さて、存分に楽しませて貰うわよ……鋭介ちゃん?」
仮面ライダーの熾烈な戦いが、再び始まる。
第2部 リリカル龍騎ViVid 運命を変えた出会い
???「私は知りたい……私が何者なのかを……!!」
戦わなければ生き残れない!