カップに一匙の魔法を   作:せきな

3 / 11

3話です。暫くプロローグ的な話が続きます。




3 モンブランと見習いさん

 

メニューを眺め、流れる音楽を聴き流しながら待っているとエニスが注文の品を載せた小さめのティーカートを押して来た。

 

『お待たせしましたー!マスターオススメのモンブランでーす!そしてお紅茶はー?アッサムでーす!』

 

輝くような笑顔を添えてテーブルの上にモンブランを置きながら彼女は言う。

 

『アッサムとモンブランってどちらも甘い香りですっごく相性が良いんですよー!アッサムは味が結構しっかりしてますからモンブランのクリームにも負けませんよー!あ、ちなみにミルクティーにするのもアリアリです!どちらになさいますか?』

 

『えぇっと…ミ、ミルクティーで。』

大きな声で元気良く、一息で言い切った彼女に若干引きながら奈緒は答えた。

 

『かしこまりましたー!じゃあ蒸らす時間ちょーっと長くしまーす!』

 

そう言ったエニスはまたも奈緒の対面に座った。あまりに自然に座るので奈緒には疑問を持つ暇すらなかった。

 

暫しの沈黙、エニスはじっと奈緒を見つめてそわそわしている。奈緒からしてみれば、決して居心地の良いものではなかった。どうにかこの沈黙を破ろうと、思いついた言葉を口にする。

 

『ええっと、す、凄い良いお店ですね?』

 

『そうでしょうそうでしょう!こーんな良いお店なんてどの世界を探しても他にありはしないですよね!マスターは少し冷たくて厳しめですけど!あ、なんだかんだ自己紹介してませんでしたね!』

 

ふふーんと胸を張ってそう言った彼女は、ここで一度言葉を区切って立ち上がった。

 

『エニス・ベルトワーズです!年は17歳です!魔法使い見習いです!よろしくお願いします!』

 

元気良く言い切った後、ぺこりとお辞儀をして満足そうにまた椅子に座り、「さぁ!あなたもどうぞ!」と言うように両手を奈緒の方に向け、期待するように見ている。

 

しかし奈緒には一つだけ聞き流そうと思っても決して耳から離れないワードが、彼女の自己紹介に含まれていた。

 

『…魔法使い…見習い?』

 

そういうキャラの人なのか、17歳になってまでもそれを貫けるのはすごいな。というか同い年か。と様々な思考が奈緒を支配した。

 

様々な思いが頭の中をぐるぐると巡っていくが、一先ず置いておくことにした。

 

『そうなんですよー!あ、見習いと言ってもあれですよ?かなりすごい部類の見習いです!ほぼ魔法使いと言っても過言ではないです!』

 

すごく設定がふわふわしている。へぇそうなんですかと一蹴してしまいたいが自信満々の彼女を見ているとそれも申し訳なく感じられてしまう。

 

『えっと、私は奈緒。小川奈緒。17歳で、普通の高校生です。よろしくお願いします。』

 

『ナオ!よろしくお願いします!同い年だったんですね!それなら敬語なんて不要ですよ!』

 

『う、うん。ありがと。えっとエニスはこの辺の出身なの?日本人っぽくないなーって思ったんだけど、あと魔法使い見習いっていうのは…?』

 

『日本人?私はアウロレンツィア出身ですよ!さっきナオにバレないようにメニューをテーブルに置いたじゃないですか、あれは相手から見えなくなる魔法を自分にかけてたんですよー!』

 

何を言っているのかさっぱりだ。アウロレンツィアとは何処だ。いや、自分が知らないだけでそういう国名か地名があるのかもしれないから保留だ。そもそもこれも設定かもしれない。と奈緒は痛む頭に手を軽く添える。

 

彼女は魔法をかけたと言った。魔法なら知ってる。箒に乗って空を飛んだり、カボチャを馬車に変えたりするあれだろう。しかしそれらは創作で、御伽噺にすぎない。…だんだん面白くなって来た。どこまでこのキャラなのか、いつボロが出るのかと、もう少し深く聞いてみようと考え、奈緒は口を開いた。

 

『魔法って____ 』

 

しかし彼女の疑問は別の声に掻き消された。

 

『自己紹介は済んだかな?なら冷めないうちに紅茶を飲むと良いよ。尤もそれが飲めるものかどうかは別だがね。』

 

振り返ると、彼女の後ろには先程自己紹介を受けたマスターが立っていた。

『うん?ああああ!蒸らしすぎた!ごめんなさいすぐに入れ直しますね!モンブランが乾いてしまう前に!』

 

『あっ…。』

 

マスターに声をかけられるまで、お互いに紅茶の事をすっかり忘れていた。これでは温くなってしまっているだろうし、香りも落ちてしまう。パッと立ち上がりカウンターの裏にあるだろう厨房へと駆けて行くエニスを奈緒はぼぅっと見送った。

 

彼女には申し訳ない事をした。戻ってきたらまた尋ねようと考えて、カトラリーケースへと視線を向ける。フォークを取り出してみると、なかなかの年代物のようで凝った装飾で飾られていた。これだけで幾らの価値がつくのか想像もできないなと考えながら、モンブランを切り取り、一口食べる。マロンクリームはしっかりと栗の風味が味わえてさらに甘過ぎない。上に乗っている栗は透き通ったゼラチンコーティングがされているようで、光沢があり、名のある宝石商が見てもトパーズの輝きと勘違いをしそうなほどだった。モンブラン自体、これ一つである種の芸術品と思えるほどであり、いくらでも食べられそうだと奈緒は感じた。

 

『美味しい。』

思わずぼそっと口から出る程度には自分は気に入ったらしい。

 

『気に入っていただけたかな?おっと、お客様がいらっしゃるね。』

 

 

カウンターへ戻るマスターを見送りながらモンブランを頂く。

 

少しして、チリンとドアベルが鳴った。

 

 





段落分けはほぼ考えてません。あったら書いてるうちに無意識にできてるものだと思います。

感想評価、誤字報告よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。