7話です。どうぞよろしくお願いします。
説明会です。これでようやくプロローグが終わりって感じですかね。
『さて、紹介も終わったことだ。まずは簡単にこの店について再度説明をしようか。』
マスターが一度手を叩いて続ける。
『このお店の営業は9時から22時。とは言っても時間の進み方が店内と外の世界では違うんだけどね。この辺はエニスのお師匠さんが来た時に尋ねると良いよ。奈緒ちゃんにはホールスタッフとして働いて欲しいんだけど良いかな?』
まあ色々と突っ込みたい事もあるがこのお店は今までの常識は通用しないんだと自分を納得させて奈緒は返事をする。
『はい、大丈夫です。』
『よし、シフトなんだけど土日は朝11時ごろからお客様が増え出すからそれぐらいからお願いしようかな。あ、ぴったりに来なくても良いよ。きっとお店の魔法がなんとかしてくれるさ。平日も来たかったら好きな日の好きな時間帯に適当に来てくれるかな。上がる時間も好きに決めてもらって構わないよ。時間の流れが違うからか、それとも誰かの良い悪戯かわからないけれどこの店で働いている間はあんまり疲れとかを感じないんだよね。でもある程度の時間で休憩には入ってもらおうかな。慣れるまで時間がかかりそうだしね。あ、基本的に店の外の時間が店内より遅くなることはないからね。』
シフトに関しても物凄くざっくりとしている。本当に大丈夫なのか不安になってきたが、習うより慣れろの精神だ。
『ちなみに、お昼には簡単なものになってしまうけど賄いを出させてもらうし、休憩時間もあるからね。そうだ、休憩中にはケーキをあげようか。』
『えー!良いなー!マスター私はそんな待遇されたことないですよー!』
『はいはい、エニスもこれからそうするよ。』
わーいと両手を挙げて喜んでいるエニスを見て苦笑いをし、マスターは続けた。
『そこに置いてある柱時計があるだろ?今何時だい?』
『ええっと…あれ?』
マスターに言われ、奈緒は柱時計を見る。しかし示されている時間は3時15分。体感では小一時間ほどこの店にいるように感じられているというのにだ。
『あの柱時計の時間はね、この店で流れている時間ではなくて、店の外の世界の時間だよ。魔法が働いているのさ。あいつを見ながら上がる時間を決めてくれ。』
『りょ、了解です。』
便利だな魔法、なんでもありか。そう心の中で呟いて、苦笑を隠すことのできないままに奈緒は答えた。
マスターはまたにっこりと見惚れるような笑顔で言う。
『お店のメニューは一応あるけれど、載ってないものも全然作るよ。さっきメニューを見ただろうけど、値段が書かれていなかっただろう?どうしてだかわかるかな?』
奈緒を試すようにマスターは尋ねた。奈緒はうーんと頭を捻る。
『す、すいません。わからないです。』
『なんせ俺たちゃ住む世界が文字通り違うんだ
。通貨なんて当てにならんのさ。』
エギルがそう答えた。が、それでも奈緒には腑に落ちないことがある。
『じゃあ、えと、申し訳ないんですけど…お給料は…?』
ぼそぼそと呟くように尋ねると、待ってましたと言わんばかりにエニスが答えた。
『それは心配いりませんよ!このお店のレジスターはお師匠様とエギルさん謹製ですからね!どんなお金を入れてもその人の世界の通貨になって帰ってきますよ!』
『何でお前さんが得意げなんじゃい。』
エギルがギロッとエニスを睨みつけながらそう言ってカウンター席から降りた。
『試しにこのコーヒー代を俺が払ってみるとしよう。』
ごそごそと胸元に手を入れて袋を取り出し、その中から見たことのない銀色の硬貨を2枚エニスに渡す。
『お預かりしまーす!よく見ていてくださいねー!』
硬貨を受け取ったエニスがレジスターをがしゃんと開け、無造作に硬貨をぽいと投げ入れる。
一旦閉じて、少ししてからまたがしゃんと開ける。
『じゃーん!ほらほら!ナオさんの世界の通貨ってこれですよね!』
得意げに言うエニスの手には千円札が2枚握られている。
『基本的に他のお客様の扱う通貨の価値は日本円に比べてすごく高いようでね。もらいすぎな気もしてるよ。』
少し困ったように頬をかきながらマスターが言うが、すぐにエギルがフンと鼻を鳴らして返す。
『客が値段を決めろと言うたのはお前じゃろうが。こんな上手いコーヒーを飲める場所は俺のとこにゃあ無いんだ。そちらの通貨でどれほどなのか知らんが、妥当な支払いだと思っとるよ。』
『あはは。とまあこんな風に素敵な魔法がかかっているから、お給料の支払いは安心して良いよ。お客様の代金もそのまま受け取るだけで良い。他に何か聞きたいことは?』
『今のところは無いです。また何かあったらお聞きしても良いですか?』
『勿論だとも。実際に働いて見なければわからないことも多いだろうしね。さて、後は…あぁそうだ、この店の制服についてだ。エニス、ちょっとここに立ってくれ。』
思い出したようにマスターは言って、エニスを自分の隣に立たせた。
『ウチの制服はこのエニスが着てるフォーリングカラーの白シャツに黒のウエストエプロンなんだけど、これはこっちで貸し出すからね。カウンター裏の更衣室にサイズごとに置いてあるから、好きなのを使ってくれ。下は普通にパンツでもエニスみたいにスカートでも何でもいいよ、好きなスタイルでね。』
『楽しみですねー!ナオさんの制服姿!絶対似合いますよ!』
ニコニコとエニスがこちらを覗き込みながらそう言った。
『さて、こんなところかな。さっそくだけど明日から来られるかな?あ、名刺を持ってくるのを忘れないでね?あれが無いと入れないだろうから。』
『はい、わかりました!よろしくお願いします!』
『うんうん、結構結構。こちらこそよろしく頼むよ。』
『はい!あ、じゃあそろそろ失礼しますね。かなり長居をしてしまってすみませんでした。』
『俺もそろそろ仕事に戻るとするかな。マコト、邪魔したな。』
『はーい、お二人ともありがとうございました。またのご来店をお待ちしています。』
『あ!せっかくですしお二人とも同時に出られてはいかがですか?そしたらナオさんもちゃんと魔法を認識できますよ!』
『そうだね。これからは慣れていかないといけないだろうし、試しにやってごらん?』
『よーしいくぞー嬢ちゃん。』
『え⁉︎え、ちょっと!』
トントン拍子に決まってしまい、エギルに手を引かれてドアへと向かう。かなり力強く引っ張られているし、手の位置が低くて前かがみになる。転んでしまいそうだ。
『じゃあねナオちゃん!また明日!』
『う、うん!また明日!』
『また来る、嬢ちゃんも早うコーヒー淹れられるようになるんじゃぞ。』
エギルがドアを開ける。チリンとドアベルが鳴って眩しい光が差し込む。奈緒はその光に目を顰めながら一歩踏み出した。
パタンとドアが閉まる音がした。目を開いて辺りを見渡す。散歩をしていた狭い路地だ。繋いでいた手には何も握られていない。
左腕に巻いた時計を見る。時刻は3時20分だった。
『夢、じゃないよね…?』
目をしぱしぱと瞬かせ、先程までの出来事を思い出す。後ろにあるドアをもう一度くぐれば、またあのお店に繋がるのだろうか。
確かめようとして、やめた。
お楽しみはまた明日。
これから自分を待っているであろう新たな出会いや体験に奈緒は胸が踊った。
口元が勝手に緩むのを感じながら鼻歌を歌い、奈緒は路地を後にした。
物語はここからはじまる。
思いついたものをほいほいと詰め込んだので設定に関してはガバガバです。ご了承ください。
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