兄妹と狐様に出会ってしまった心境をお楽しみください。
○月U日
前から気になっている人がいました。いや、兄妹ですか。
同じクラスの女の子とその兄です。
見た目も匂いも人間でしたが、それに混じって私と似たような匂いがあったからです。
妖力を持つ獣の匂いです。
もしかしたら、うまく隠して誤魔化している同類の妖怪なのかもしれません。
なので、思いきってチラシを二人に渡してみました。これで呼ばれたらきっと理由がわかるはずです。代価として聞き出します。
とりあえず、部長たちにも話しておくことにしました。
○月♪日
呼ばれません・・・・・・。
まぁ、当たり前ですね。配っている私が言うのもなんですが、普通の人であれば胡散臭すぎてまず使いませんし。
何とか呼んで欲しいのですがコレばかりはどうにもなりません。とにかく、今日もチラシを渡しておきましょう。
○月□日
今日も悪魔の仕事です。最近はコスプレさせられて写真を撮られることにも慣れてしまった私です。
そんな、それなりに楽しい日々を過ごしているので、部長たちにも感謝です。
ですが、自分でもどうしてだかわからないですが、あの兄妹が気になって仕方ないです。
いえ、きっと・・・・・・二人とも温かいからだと思います。陽だまりのような気配。姉さまと過ごしていた時のような温かくてやわらかい・・・・・・そんな感覚になるからです。
妖怪とかそうじゃないとかを抜きにしても、二人とは仲良く出来たらいいなと思います。
○月☆日
毎日チラシを渡していたら、妹ちゃんに懐かれました。見かけたらダッシュで抱きついてくるようになりました。・・・・・・ちょっと昔を思い出して嬉しいです。
それと、お兄さんのほうも見かけるとアメをくれるようになりました。もしかして私、餌付けされている? 少し馬鹿な人ですが悪い人ではないので気を許していたら、頭を撫でてくるようになりました。私が小さいからですか? そうなんですか?
こうして日記を書いていて思ったのですが、もしかして直接聞いたら答えてくれるのではないですかね?
そうなったら、願いの代価として・・・・・・友達になってほしいです。
さっそく明日聞いてみることにします。
○月×日
たすけてこわい
○月△日
一日たって少し落ち着いたので、昨日のことを書きます。できることなら全て忘れてしまいたいですが、そうなったらきっと私は死ぬでしょう。忘れないためにも書き留めることにしました。
昨日やっとチラシで呼ばれました。学校の外で会うというのも少し嬉しくて、私は浮かれ気味で魔法陣へと踏み込みました。
それが地獄の最下層コキュートスすら温く感じる場所に通じているなどとも知らずに。
部屋には雪華を思わせる真っ白い肌に、漆のような黒く長い髪の美しい女性がいました。薄い唇は幽かに歪んで微笑を含んでいるようにも見えて、その冷たい色の眼で蔑むようにこちらを見ていました。その眼の光が、この部屋の異様な冷たさの根源になっているのだと私は思いました。
体中の毛が逆立ち、得体の知れない恐怖に本能が今すぐ逃げろと警報を鳴らし続けましたが、体が言うことを聞かず肺が酸素を欲して取り込むという動作すら出来ませんでした。そして、理解しました。
私は今から死ぬのだと。
一歩も動けない私を見て、その女性は憐れむような、脅迫するような、獲物を前にして舌なめずりをするような薄笑いを浮かべて、じっと私を見つめて告げました。
「ずいぶんと可愛らしい悪魔ですね」
鈴の音のように凛としている音なのに、頭の中で何度も反響して少しずつ私の脳を犯していく。思い出したくないのに、頭の中でねっとりと響き続ける甘い音・・・・・・。
脳が全てを拒絶して何も考えられないのに、その声が・・・・・・甘い音色が・・・・・・聞きたくない、理解したくないのに私の中に響いてきました。
曰く、兄妹に危害をくわえるなと。
曰く、私の全ての過去を語れと。
曰く、この町の全ての悪魔を話せと。
曰く、尻尾の毛並みが危ないと。
気がついたらお菓子を持って部室に戻っていました。
部長たちに今日はもう休むと告げ、家へと帰りました。
このことは誰にも話せません。誰かに話そうものなら私だけでなく聞いた人も殺されるでしょう。私が・・・・・・私がどうにかして部長たちが向けているあの兄妹への興味をそらさないと、みんなが死んでしまう。それは嫌だ。
誰か
私を助けて
姉さま
前半と後半の温度差は何度くらいでしょうかね。
それにしても、美しい女性(白目)の描写は難しかったです。
そしてコレが小猫の不幸の始まりとなります。