狐の日記   作:姫戸三角

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狐様京都へ行く回



07 狐日記

△月N日

 久々に元の姿となったので、少しばかり気分が高揚していたようだ。あの結界から解き放たれたとき程ではないが、なかなかの爽快感だ。

 私は本来狐ではない。元の姿は狐に似た別の物だったのだが、こちらの世界に流れ着いたときに世界が私を狐と認識したのだろう。元の世界の姿とこちらの世界での白狐の姿の両方が私本来の姿となってしまっている。

 

 しかし、この姿になるとつい昔の口調になってしまう。

 もう二度と妹様の『口調直すまでモフるのをやめまテン』をやらされるのだけは御免だ。思い出すだけでまた毛がごわごわしてしまうような気さえする・・・・・・。

 とにかく、妹様にだけはばれないようにしなければ、私の尾の毛並みが危ない。

 

 周囲に私の存在を悟られぬよう結界を張りつつ、空を駆けて京都を目指した。

 

 もうすぐ京都という所で、空に大量の化生が待ち構えていた。もしかして、結界を張る腕が鈍ったか?

 鴉天狗の群れに、巨大なくせにひょろく気持ち悪いのがいた。衾だったか? 他にもいたが名さえ覚えていない小物の群れだ。

 

 止めておけばいいものを、私を見てしまったことで恐怖に駆られ攻撃をしてきたが、怒りや憎しみ、恐れを伴った攻撃は無意味だ。私は恐怖を喰らい、無限に強くなり続ける陰より生まれし負の化身なのだから。

 

 今回は気まぐれに滅ぼしに来たわけではなく、主たちの後ろ盾を確保するために来たので、滅ぼすことなくギリギリ命を繋ぎとめる程度に蹴散らしていたのだが、衾のやつが鬱陶しかった。巻き付くのは飛行機だけにしておけ。とりあえず、体中に風穴を開けて投げ捨てておいた。

 しかし、どうも私の尾の一本に違和感がある。

 

 日も暮れていたので、今日はその辺の山で寝ることにした。寝不足は毛並みの天敵である。明日は化生どもが根城にしている山に行くとしよう。

 

 

 

△月“日

 日の光で目を覚ますと、化生どもが私を囲んで攻撃していた。どうやら一晩中やっていたようだ。ご苦労なことだ。

 

 周囲の化生を尾で軽く撫でて、化生の根城の山へと向かった。

 

 どうやら結界を張っていたようだが、私を結界で止めたければ海の底で私を封じ込め続けていたあの人間たちを連れて来い。

 

 結界を砕き中に入ると、天狗に鬼、鎌鼬や牛鬼と他にも様々な化生が出迎えてくれた。滅びぬ程度に尾で撫でていたら、目的の化生がやっと出てきた。

 

 

 九尾の狐。

 

 

 私よりも小柄で、毛色も金色だ。やはり同じだったのは名だけのようだった。

 八坂と名乗った九尾に名を聞かれたので、昔の名を名乗っておいた。

 雨音と言う名を、その辺の塵芥が口にするのは気に入らないからだ。

 

 陰より生まれ、断末魔の叫びと哀惜の慟哭により名づけられし私のもう一つの名・・・・・・白面の者。

 主に出会ったあの静かな雨が降る日、私は新たに生まれなおした。白面と呼ばれていたころよりだいぶ変わってしまった自覚はあるが、主たちが雨音と呼んでくれる穏やかな今生に満足している。

 

 物思いにいつまでもふけっている訳にもいかず、さっそく本題に入ろうとしたら九尾が

 

「貴方にとって人間とはなんだ」

 

 と訪ねてきた。そういえばこの国の神話は、人間と共に生きることを選んだ神話だったことを思い出した。どこぞの鳩と鴉と蝙蝠どもに見習わせたい。

 私は、人間の愚かさも醜さも汚さも強さも眩しさも温かさもよく知っている。昔の私はそれを知らず、あの槍だけしか警戒せずに、人間という者たちを侮った結果滅ぼされたのだから。

 人間の恐怖を喰らい生きる私だが、今は無闇に害する気は無い。私が生まれたときから憧れ欲し続けていた物を、人間の主たちが腹いっぱいになるほどくれているからだ。なので、返答は決まっている。

 

 

「食料だ。だがニ――」

 

 

 言い終える前に九尾が火を吐いてきた。

 

 滅びぬ程度に相手をするのは面倒だと思っていたのだが、どうやら九尾はこの土地の地脈から霊力を吸い上げる術を会得していたようだ。

 傷ついても即座に治癒の術を使い傷を治し、使った霊力を地脈から吸い上げ補充していた。この辺りの化生どもの元締めとなっていたのも納得だ。

 

 だが、その程度では私には届かない。

 

 私の全長は優に数kmを超えている。体格差がありすぎるのだ。この差を覆すには俊敏さがなければどうにもならないが、九尾にそこまでの俊敏さはない。

 それだけではなく、扱う力の元の差もだ。九尾は霊力を地脈から吸い上げ続けているが、所詮有限だ。

 それに対し、私の力の源は他者の恐れだ。この場に私に対し恐れを抱いている化生どもがいる限り、私の力が尽きることは無い。そして、いずれ九尾も私に恐れを抱くだろう。私を滅ぼすことが出来るのは、太陽を背に陽の気を抱き、私を恐れぬ者たちだけだ。

 

 毛色が違うとはいえ、あやつも九尾の狐を名乗っていたのだ。せっかくなので久々動かす九本の尾の動作を確認しながら、九尾の狐とは何たるかを体に教え込んでやった。そこからは一方的な教育の時間となったが、まあ当然だ。尾の能力を使うと確実に滅ぼしてしまうので、使うのはまたの機会となったのが残念だ。教育中に地形が変わってしまったが、私には関係が無いので問題は無い。

 

 

 たった二日ほどで、九尾が力尽き倒れた。

 

 これでやっと本題に入れると思っていたら、間に入る者がいた。おそらくこの九尾の童だろう。

 尾を丸め、耳も伏せていたが、私を正面から見て、九尾を庇うように立ちはだかっていた。泣いてはいたが、なかなかに見所があるではないか。

 九尾が何か言っていたが、無視してこの童と話をすることにした。

 

 名を九重と言い、やはり九尾の娘子だった。最初は緊張していたようだが、私がここに来た経緯を話すと多少緊張が和らいだようだ。同じ九尾の狐? であるのだから、遠慮はいらぬと言ってみたら、見上げ続けて首が痛くなってきたので人に化けろと言ってきた。この童は将来大物になるだろう。

 

 人に化けた後、九重の寝床の屋敷へ案内された。

 私の目的地に案内して欲しかったのだが、唯一案内出来る九尾のやつが力の使いすぎで気を失っており、目を覚ますまで宿泊することとなった。

 主たちのレーティングゲームとやらまで、まだ時間の余裕がある。あの赤毛の悪魔たち程度なら、主たちに傷一つつけることすら出来ないだろう。搦め手で来たときのために白音も置いてあるし抜かりはない。

 

 九尾が目を覚ますまで九重で楽しむとしよう。まずは正しい火の吐き方と尾の使い方からだ。

 

 今日は少し汚れてしまったので、念入りに風呂に入った後毛繕いをしておこう。

 

 

 

 




ぅゎょぅι゛ょっょぃ

やっと狐様が名前を明かしてくれたので、タグが増えます。
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