今回のニューギニア島の戦闘においては、多くのパワードスーツが投入されている。
パワードスーツに搭載されている内臓バッテリーの最長稼働時間が1時間半である。そのため長時間作戦では常に外部からの送電を受ける必要がある。
しかし、ジャングル地帯などの地形で送電ケーブルを引っ張って戦闘することは不可能である。
そのため、マイクロ波を用いて電力を送電するという手段が採用されている。
ソーラー発電メガフロートで発電された莫大な電力を、人工衛星を用いて全世界に送電するという技術は今から約50年前に開発された。それにより世界中の電力は今現在に至るまでメガフロートでほぼ賄われている。そのため、多国籍軍はかなりの戦力を投入し、メガフロートを守護している。
マイクロ波による送電にはかなり大きなアンテナが必要となるが、もちろんパワードスーツにそんなものをつけることは出来ない。そのため、作戦地域の上空で一度マイクロ波を受信し、各機体に電力を供給する役目を果たす無人機が飛んでいる。
それによって、兵士は電力を気にすることなく作戦攻防ができ、なおかつベースキャンプ等で発電機を用意する必要がないため設営が容易になるというメリットがある。
しかし、この無人機が何かの容認によって墜落した場合には作戦の遂行は不可能になってしまうというデメリットも同時に抱えている。
無人機が墜落する要因として一番多いのが、巨大な蜂のような蟲をはじめとする飛行能力を有する蟲によるものだ。そのため、無人機を護衛するためにMi-24D通称ハインドD(有人機)やAH-64D通称アパッチ・ロングボウ(有人機)といった戦闘ヘリコプターが投入されている。
中央班機械科部隊に壊滅的な損害が与えられたという光景を目撃したのは、無人機の護衛ヘリコプターとして周囲を飛んでいたハインドDのパイロットであった。
中央班機械科部隊には精鋭部隊が配属されているということもあり、他の隊よりも順調に進んでいた。
この部隊は機械化部隊ということもあり、装甲車を中心として進軍していた。
遭遇する敵は装甲車に搭載されているブローニングM2重機関銃やパワードスーツのヘヴィーライフルで次々に倒されていた。
誰しもが順調にこのまま進軍出来ると思っていた時、隊の近くの木々の間で爆発が起きた。
これまで爆発を起こす敵の存在は確認されておらず、未知の敵との戦闘となった。
この敵は爆発性の何かを飛ばしてくるタイプの敵なのか、それとも自爆するタイプの敵なのか一切分からないまま隊は混乱状態になった。それによって冷静な行動をとれなくなり、付近の木陰や敵の潜んでいると思われるエリアにただひたすらに弾をばらまいた。
しかし、次々に爆発は隊へ近づき、最終的に機械化部隊は爆発に巻き込まれ壊滅的な損害を受けることとなった。
この知らせはパイロットの無線によって作戦本部にいち早く報告され、作戦行動を行っている全部隊に知らせられた。
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悠人たち2班は補給班からの弾薬等の補給と後衛班との引継ぎを終わらせ、壊滅的な被害を受けたという中央班機械科部隊のもとへ急行していた。
分隊長である君島を先頭にパワードスーツのパワーアシスト機能をフル活用し、生身の人間では決して出せない速度で木々の生い茂る密林を疾走していた。
「君島軍曹!いったい何があったのでしょうか?機械化部隊は、私たちの分隊より練度や装備面でも上だったはず。にも関わらず、どうしてそんな被害を・・・?」
君島を追走する形で走っていた悠人が君島に尋ねる。
「さっきも言ったように、状況はよくわかっていない。だが・・・、可能性があるとすれば、これまでの戦闘データに無い未知の敵と遭遇した可能性が高い。」
君島もよくわからない状況に苛立っているようだ。
「上層部の連中は俺たちに偵察させて、他の班に情報を伝えるつもりなんだろう。つまり、俺達は捨て駒にされたようなもんだ。クソッ!偵察なら上空からでもできるだろうが・・・。」
君島は毒づきながらも、速度を落とさず走り続ける。
そんな中、君島が悠人へ顔を向ける。その顔には先ほどのような苛立ちは見て取れない。
「お前たち訓練兵たちには悪いと思っているが、最後まで付き合ってくれ。」
「はい!もちろんです!」
君島の言葉に悠人は力強く応える。
そんな悠人を見て君島は苦笑し、
「頼むぞ・・・。」
一言、悠人に言うと、前を向き直り走る速度を上げた。
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謎の爆発によってかなりの損害を受けた中央班機械科部隊は、更に危機的状況に陥っていた。
爆発に巻き込まれた隊員達は、パワードスーツの装甲によって致命傷を免れている者も多くいた。しかし、パワードスーツの損傷も酷く、怪我人の多さも合わさりその場で待機となってしまっていた。
装甲車のほとんどに大きな損害が見て取れない、しかし、件の爆発によって車輪を損傷しており、走らせることは出来ない状態になっていた。
部隊はパワードスーツを装備しているため、装甲車を動かせることはできた。
それにより装甲車を円形に動かしバリケードにすることによって、バリケードの中で負傷兵の治療を行っていた。
しかし、ここは敵地のど真ん中であり、バリケードの中でも安全とは言えない。
そのため、幸いなことに無傷だった者と軽傷だった者を中心として、周囲の警戒を行う必要があった。
奇跡的に先程の謎の爆発を無傷で切り抜けることができた
東雲はまだ20代後半だが、妻と去年産まれたばかりの子供がいる。こんな所で死ぬわけにはいかないのだ。
基本的にパワードスーツに装備しているヘヴィーライフルを使って蟲を倒すことはできる。しかし、先程の爆発に原因が判明しない中、少人数で警戒を行うというのはかなりの危険が伴う。
周囲の警戒を終え、次の隊員と交代を行う。
その時、東雲の近くの木々がバキバキと音を立てて倒れ、そこから10tトラック程の大きさの巨大なタランチュラのような蜘蛛が突如現れ、森の近くにいた隊員に襲い掛かった。
巨大蜘蛛の顎は体の大きさと見合った力があり、襲われた隊員は力の限り抵抗するがパワードスーツの装甲ごと喰われる。
東雲たちはその光景に呆然とする。しかし、東雲は腰に差した
もちろん、ガバメントの9㎜弾では巨大蜘蛛の甲殻に傷1つつけることは出来ない。そのため、東雲が撃ったのは巨大蜘蛛ではなく、生きたまま喰われている隊員の頭だった。
頭を打ち抜かれた隊員は苦痛から解放される。
しかし、東雲たちの前には巨大蜘蛛がいるという状況には一切変わりはない。
装甲車に搭載されているM2重機関銃とヘヴィーライフルを巨大蜘蛛へ撃ちまくるが、巨大蜘蛛の甲殻を貫通し致命傷を与えるに至らない。
巨大蜘蛛は東雲たちの攻撃に怯むどころか、前脚をあげて威嚇してくる。
「どうして!?何でヘヴィーライフルの12.7㎜弾でも効かないんだよ!!」
東雲の横にいた比較的若い隊員が悲鳴のような声を上げる。
「いいから撃ちまくれ!一切効いてないわけじゃないはずだ!まずは弾幕を張って奴を近づかせるな!」
東雲は他の隊員に一喝入れる。
しかし、巨大蜘蛛にほとんど効果が見られない。
東雲自身も諦めかけたときに、後ろから隊員の悲鳴と断末魔の叫びが混じったような声が聞こえた。
後ろを向くと高さ4mを優に超える蟷螂が装甲車から重機関銃を撃っていた隊員を捕食していた。
巨大蟷螂の鎌によって裂かれたと思われる胸から腹までの傷口からはとめどなく血が流れ、首筋から徐々に喰われている。一目でもう助からないと分かった。
巨大蟷螂が1匹ならばまだ、蟷螂を倒して後方に逃げるという選択肢がとれたかもしれない。しかし、巨大蟷螂は見える範囲で3匹おり、東雲を合わせて5人の戦力ではどうしようもない。
東雲のあきらめが他の者たちにも伝播したのか、はたまた各々自分たちはもう助からないとあきらめたのかわからないが、ヘヴィーライフルの引き金を引くのをやめた。
東雲の横にいる隊員は胸から十字架のネックレスを取出し、神へ祈る。どうか、楽に死ねますように、と。
東雲も諦めから空を見上げ、残してきた妻と子供の顔を思い出し、「必ず帰るって約束したのに守れなくてごめんな・・・。」と懺悔を漏らしながら落涙する。
そんな彼らが覚悟を決めた時、数回の銃声とともにパワードスーツを装備した一団が突っ込んできた。
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悠人たち2班は焦っていた。
先ほどまで響いていた銃声が途切れ今は不気味なほど静かになって、自分たちが疾走しているパワードスーツの駆動音しか聞こえない。
銃声が鳴りやむ理由として、敵を全滅させた場合と敵に全滅させられ場合の2つだ。
前者であればよいのだが、もし後者だった場合は最悪の事態である。
報告では壊滅的な被害を受けたということだった。それを考えれば後者である可能性が高い。
一刻も早く救援に行く必要がある。
それは2班全員がわかっており、先ほどより真剣な顔つきになっていた。
パワードスーツに搭載されているGPS連動型通信機が目的地に近づいたことを知らせる。
「総員、周囲を警戒!」
君島が号令をかけ、分隊全員がより一層の警戒をしながら走る。
「前方、10時の方向に巨大な蜘蛛を補足!」
「同じく前方、2時の方向に巨大な蟷螂を3匹補足しました!」
蓮華と優華が蟲を発見し分隊へ伝達する。
「よし!巨大蜘蛛にはヘヴィーライフルのアンダーバレルにあるグレネードランチャーを使え!蟷螂には横と後ろから挟撃だ。蜘蛛は一輝と敏一が担当しろ。グレネードランチャードランチャーだけじゃ止めを刺せんかもしれんから、大悟のでかいので一撃かましてやれ!蟷螂3匹にはそれ以外の全員で当たる。前衛は俺と悠人、麗奈で当たる。いいな?!」
君島が役割分担の指示を出す。それに全員が「了解!!」と返事をし、ホットゾーンに向かって疾走する。
一輝と敏一はグレネードランチャーの照準を巨大蜘蛛に合わせると迷いなく引き金を2回引き4発の弾が発射され、大悟は巨大なウォーピックを振りかぶる。
君島と悠人、麗奈の3人は巨大蟷螂の後ろに回り込むべく迂回し、それを悟らせないように残りもメンバーは巨大蟷螂へ向かってヘヴィーライフル撃ちながら突っ込んだ。
前脚をあげ威嚇している巨大蜘蛛の顔に4発のグレネードが着弾し、けたたましい爆発音と爆炎を上げる。
ヘヴィーライフルの12.7㎜弾を食らってもびくともしなかった巨大蜘蛛であっても4発のグレネードの爆発を食らって怯むが、頑強な甲殻を砕いて絶命させるには至らなかった。
しかし、爆煙を切り裂くように大悟が巨大なウォーピックを振り下ろす。それによって亀裂の入った甲殻ごと巨大蜘蛛の頭を破壊し断末魔のような声を上げた。
頭を完全に破壊された巨大蜘蛛は絶命し、|自重によって
巨大蟷螂の甲殻には巨大蜘蛛程の頑強さはない。よって、ヘヴィーライフルの12.7㎜弾でもダメージを与えることが出来る。だが、いくら頑強でないといっても甲殻の強度は鋼以上の強度がある。
そのため、ヘヴィーライフルでは致命傷となりにくい。しかしながら、すべての部位が固いわけではない。
虫の背中は頑丈な外骨格で守られているが、基本的に腹の部分は柔らかい。
それは、この巨大蟷螂にも当てはまった。それに加えて巨大蟷螂の関節部分は他の部位に比べると軟質である為、腹と関節が弱点である。
しかし、鎌や牙はとても頑丈であり、12.7㎜弾では傷1つ入れられない。そのため、正面から戦うのではなく、挟撃などによって倒す必要がある。
巨大蟷螂は目の前の獲物を捕食しようとしていた時、いきなり横から現れた人間による強烈な攻撃によって怯み逃げようと羽を広げる。
しかし、9人によって張られた強力な弾幕はそれを許さない。あっという間に巨大蟷螂の羽がボロボロになり、飛行能力を失う。
ヘヴィーライフルの威力は強力であるが、マガジン中の弾は無限ではない。それによってマガジンチェンジの時間によって弾幕がとぎれてしまう。
今回はほぼ同時に射撃を開始したため、弾幕が途切れるのもほぼ同時だった。
それを見逃さず、巨大蟷螂は反撃に出る。
しかし、そのタイミングで後ろに回り込んでいた悠人たち3人が飛び出る。
再び巨大蟷螂は逃げようと羽を広げるが、先ほどの弾幕によって機能を失っているため飛ぶことはできない。
それによって巨大蟷螂たちに隙が生まれ、悠人たちが懐に入る。
君島は両鎌の付根の関節をマチェットで切り裂き、反撃を受けないようにした後に口にマチェットをねじ込み絶命させた。
スムーズに巨大蟷螂を倒した君島と違い、シミュレーションで巨大蟷螂をあまり経験していない悠人と麗奈は若干苦戦する。
麗奈の関節を破壊するために放ったナイフの一撃を鎌によってはじかれてしまう。
それによって体勢を崩してしまい、巨大蟷螂の鎌の攻撃をかわせられない、しかし、マガジンチェンジを済ませた蓮華が降り下ろされる鎌を狙撃し弾く。
鎌に傷はつかずとも弾くことはできた。それによって、麗奈は体勢を立て直すことが出来、首の付根の関節へナイフの一撃を入れることに成功する。
関節を破壊され、巨大蟷螂の首が落ちる。
蟷螂などの昆虫は首がとれても即座には絶命しないことがある。しかし、首がない状態では長時間生命を維持することはできず、悶え苦しんで数秒後に絶命した。
悠人は君島のように左鎌の関節を破壊する事に成功し、無理矢理鎌を引きちぎる。しかし、右鎌の関節破壊は出来なかった。
悠人は12.7㎜弾をたやすく弾く程の強度を持つ鎌とナイフを直接ぶつけるというのは、ナイフの刃をやられかねないために避けたい。であれば、同じ強度を持つ鎌を使えばいいと考えた。
高さ4mを超える巨大蟷螂の鎌は体と比例して鎌も大きくなる。しかし、パワードスーツのパワーアシストを使えば振り回すなど容易なのである。
左鎌を奪われた巨大蟷螂は悠人に対して怒りや憎しみといった感情を持ったのか、獲物を狩るという事ではない敵意を向ける。
巨大蟷螂は残った右鎌を悠人へ向かって振り下ろすが、悠人は左鎌を使って防ごうとする。しかし、悠人は嫌な予感がしたため後ろに飛びのく。
悠人がガードのために構えた左鎌は右鎌によって、バターを切るように簡単に切られてしまった。
咄嗟の判断で後ろに飛びのいた判断は正しかったと思いつつうが、ほっとする時間はない。
巨大蟷螂は一撃で悠人を殺すことが出来なかったことに苛立ち、脚の力を使って跳躍した。悠人は地面を滑るようにして巨大蟷螂の腹下に潜り込み、そのまま腹を切り裂く。
巨大蟷螂は重要機関を切り裂かれ地面に倒れ伏し、始めは悶えていたがじきに動かなくなり絶命した。
倒された蟲はどれも巨大蜘蛛のように絶命後、自重で潰れてしまった。
もう助からないと諦め、絶望していた中央班機械科部隊の隊員は救援によって助かり、口々に2班の班員たちに感謝の言葉を述べていた。
「中央班機械科部隊の皆さんはこれから、補給班と共に後方に撤退してもらいます。防衛線の構築に必要な資材や設備の運搬は難しいため、このままここを死守するため我々はここに待機します。」
君島が機械化部隊の隊員たちにこれからの事について話している。
その他の2班のメンバーは簡易的なバリケードを構築し、蟲の攻撃に備えている。
悠人も例外なくバリケード作成に汗を流していた。そこに30代に届かないぐらいの男性が話しかけてきた。
「やぁ・・・。君はこの班で訓練兵の班長で間違いないかい?おっと、俺は東雲昌也曹長だ。よろしく。」
「はい!東雲総長。私が2班の班長を任されております烏野悠人といいます。よろしくお願いします!」
悠人は東雲に声をかけられたため、敬礼をして応える。
「敬語はやめてくれ・・・。命を助けられた人間に敬語ではなされとなんだかむず痒い。」
はぁ・・・。と悠人は漏らす。
「そんなことより、俺達は一度後方に下げられるらしい。一緒に戦えないことは非常に心苦しいが、どうか気を付けてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
悠人は東雲に感謝をのべる。
「それと・・・。差し支えなければで良いのですが、この部隊に壊滅的な損害を与えたのは先ほどの巨大蜘蛛だったのですか?」
悠人は聞いて良いのか分からず、恐る恐るといった感じで東雲に被害を受けた原因を尋ねる。
「違う・・・。あの蜘蛛が現れたのは被害を受けた後だった。被害自体は謎の爆発によるものだ。原因を判明できずに申し訳ない。」東雲は申し訳なさそうにする。
「だが、どうか無事帰ってきてくれ。」
「はい、必ず生きて帰ります。」
話をしているうちに補給班が到着し、機械化部隊の負傷兵たちを連れて後方へ移動し始める。
ここから2班の正念場ともいえる攻防戦が始まる。