交わる世界のリブート   作:田んぼのアイドル、スズメちゃん

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ニューギニア島攻防戦-4

「ハァ、ハァ、ハァ、・・・。」

 哲也は森の中を全力疾走していた。パワードスーツを装着しての効率の良い走り方などは忘れ、ただ全力で恐怖から逃げていた。

 パワーアシストを受け脚力が強化されているはずにもかかわらず、足は鉛のように重い。

 しかし、足を止められない。自分のすぐ後ろにあの男(ヴァルター)がいるかもしれない。後ろを確認するために足を止めた瞬間に首が飛ぶかもしれない。あの先輩兵士たちのように・・・。

 息が切れ、足が思うように動かない。

 哲也が走っているのは木々の生い茂る森の中である。足がふらふらの状態では根に足をとられ、転倒してしまった。

 いくら足が疲労していようと、パワードスーツはパワーアシストを続ける。そのため、一般人の全力疾走ほどの速度で転倒した。受け身が上手くとれず、全身を強打する。

 哲也は咄嗟に近くの木の陰に身を隠す。

 全身を強打し、体のいたるところから鈍痛が響く。時間が経つにつれ少しずつ鈍痛が和らぐ。それと同時に自分だけ逃げたという罪悪感が湧いてきた。

「仕方ないじゃないか・・・。俺一人がいたところで何が変わるんだ。そうだ、命は大切にしないといけない・・・。あそこに残ったとしても無駄死にするだけだったんだ・・・。」

 自身の中で渦巻く罪悪感を誤魔化すために必死に言い訳をする。次第に言い訳の中に嗚咽が混じりだす。なぜ自分が涙を流しているのか哲也自身もわからなかった。

 言い訳を一通り言い終え、哲也はふらふらと立ち上がり歩き始めた。

「そうだ・・・。俺は本部に報告をしに行くんだ・・・。報告して、増援を出してもらうんだ・・・。俺は仲間を見捨てたわけじゃない・・・。助けるために一時撤退したんだ・・・。俺は悪くないんだ・・・。ハハハハハ・・・。」

 乾いた笑いをしながら、前線基地のある方向へ歩き出した。

 その時、背中に強い衝撃を受け、派手に転倒した。

 

―・―・―・―・―・―・―

 

 悠人の判断で森に逃げ込んだ2班は森の中をできるだけ静かに走っていた。

 パワードスーツは言ってみれば金属の塊である。そのため、それなりの音を出してしまう。これは逃げる側としてはかなりの欠点といえる。

 森の中は見通しが悪く、道標となるようなものは残念ながら存在しない。森の中ではGPS端末が目となる。

 ヴァルターから逃げるにしろ倒すにしろ、まずは態勢を立て直す必要がある。

 先頭を走っていた悠人はGPS端末を操作し、地形として少しでも有利な場所を探す。とはいえ、ヴァルターは謎の力によって瞬間移動まがいのことが出来るため、気休め程度にしかならない。

 悠人はGPS端末の3D地形表示モードを駆使し、少し開けた場所を発見した。

「ここから約150m先に開けた場所がある。そこで1度態勢を立て直す。」

 パワードスーツの通信機能を使い、小さい声ながら2班全員に情報を伝達する。

 目的地が決まればそこへめがけ走るのみだ。1秒でも速く態勢を立て直す必要があるというのは分隊の全員が理解していた。

 しかし、悠人のすぐ後ろを走っていた正樹があるものを発見した。

「悠人・・・。あれって・・・。」

 悠人は正樹の声を聞き、とある人物を発見する。

 見間違えるはずはない。自分たちと同じパワードスーツを装備している訓練兵がふらふらと歩いている。

 正樹は悠人たちが止める間もなく、その訓練兵の元へ走る。そして、その訓練兵が哲也だと分かった瞬間、全力でタックルした。溜まらず転倒してしまった。

 見つけてしまった以上見捨てることはできないと判断した悠人は、哲也の元へ行く。

 哲也は正樹のタックルで意識を失っていた。

「パワードスーツの力なら、何とか運べるか・・・。」

 悠人の発言に正樹が目を丸くする。

「おい、悠人。正気か?こいつは言わば脱走兵ってやつなんだぞ?こんなやつを助けるために、俺たちが危険を冒す必要はねーぜ。」

 正樹の意見は正論であり、この現状においては最善である。しかし、

「こいつは、行軍訓練の時に麗奈を見捨てる判断をした。ここでこいつを見捨てたら、俺はこいつと一緒になっちまう。それは、周りの全員が許しても、俺自身が許せない。それに、班員の面倒を見るのは、班長の役目だろ?」

 悠人は哲也の肩に腕を回し、担ぎ上げる。しかし、一人で運ぶには少しばかり無理があった。

「私も手伝うわ。」

 哲也の空いている肩に腕を回し、麗奈が悠人を手伝う。

「麗奈・・・。なんで・・・?」

「言ったはずよ。私はあなたの指示に従うって。」

 悠人の問いに麗奈は短く答え、哲也を運ぶことに専念した。

 

 目的地に到着するとすぐに哲也が目を覚ました。

「うぅ・・・。頭が痛い・・・。」

 哲也は頭を押さえながら起き上がり、自分が見捨てたはずの仲間がいることに気づいた。

「どうして・・・。ここはどこなんだ?」

近くにいた悠人に尋ねる。

「ここは森の中にある開けた場所だ。奴から逃げるためにまず態勢を立て直す必要があるから、ここまで来たんだ。」

「そうか・・・。」

 仲間が無事だったことに対しか、はたまたヴァルターがここにいないことに安堵したのか分からないが、哲也は胸をなでおろす。

 これからどうするかということを話し合って決める必要があるため、全員が悠人のもとへ集まる。

 分隊の全員は即座に撤退を提案したが、悠人はその提案に首を縦に振らなかった。

「あいつの名前、確かヴァルターとか言ったよな?あいつはよくわからん能力で瞬間移動まがいのことが出来る。ここまで来れたのは単に運が良かっただけかもしれない。確実に奴から逃げるなら、何とかして奴の足を止める必要がある。」

 悠人の言葉に全員が無言の肯定で返した。

 悠人自身も自分たちより実力も経験も上であった君塚が一瞬で殺された瞬間を見ていた。ヴァルターと戦うのは得策ではないというのは、よく分かっている。しかし、このまま逃げ続けたとしても、追いつかれる可能性が高い。

 悠人はどうすればヴァルターの足を止められるかを必死に考える。

待ち伏せ(アンブッシュ)

 麗奈がボソッと呟く。これは誰かに向けて放たれた言葉でなく、ただ麗奈が思ったことを口にしただけだった。

 しかし、この一言で悠人の頭に作戦が浮かんだ。

 起死回生の1手になるかもしれない作戦である。

 

 悠人の作戦の概要は大きく分けて4段階に分けられる。

 1段階目は、この開けた場所にヴァルターが姿を現した瞬間に、3方向から同時に近接格闘を掛ける。1対1ではこちらに勝ち目はない。しかし、同時に3人を相手にするならそう簡単にやられはしないと踏んでのことだ。この1段階は瞬間的に近接格闘を仕掛け、即効で撤退する。恐らくヴァルターは一撃で仕留めようとしてくるため、首や心臓などの急所をガードする事を気に掛けるとよいだろう。

 2段階目は、1段階目の3人が撤退するのと同時にヘヴィーライフルの掃射でヴァルターの足を止める。これはヴァルター単体を目標として引き金を引くのではなく、あたり一帯に弾をばら撒く。点で避けられるのなら、面で攻撃すればよいのだ。

 3段階目は、少し離れた位置からの狙撃である。2段階目の弾幕によって足が止まった目標を撃つというものだ。如何に頑丈な鎧をまとっていても、衝撃までは打ち消せないはずである。これの2、3段階目で少しでもダメージを与えられれば成功である。

 最後の4段階目は、上からの奇襲である。人間にとって2次元で起こったことへの対処は容易であるが、3次元で起こったことへの対処は後れてしまう。ヴァルターは恐らく人間ではないが、ヒト型である以上少しは当てはまるはずである。

 上からの奇襲は木の上に上る必要がある都合上、パワードスーツを装着しての行動は出来ない。そのため、作戦の1段階目以上に危険である。

 この一連の作戦は、ヴァルターは目視できる位置にしか瞬間移動出来ない。という悠人の仮説が間違っていれば成立しない。しかし、目視出来ない所へ瞬間移動できるのであれば、今頃全員が殺されているだろう。

 悠人による大まかに作戦の説明を終え、配役についての話になった。

 1段階目は大悟、正樹、麗奈の3名が担当することとなった。この3人は近接戦闘を得意としているため、納得の配役である。

 3段階目の狙撃の担当は香蓮と島村が担当することとなった。島村は元より狙撃兵であるし、香蓮は2班の中で射撃の腕が1番いいのだ。

 他のメンバーが2段階目を担当し、4段階目の1番危険な役割は発案者である悠人が立候補した。

 これに麗奈が猛反対する。

「近接戦闘は私よりあなたの方が上のはず!だから、悠人は1段階目のメンバーになるべき!一番危険な役目は私がやる!!」

 麗奈は悠人に縋りつくように懇願する。しかし、悠人はそれを認めなかった。

「俺は死ぬためにこの作戦をするんじゃない。俺を含む全員で生きて帰るためにやるんだ。それに、立案者である俺が一番危険なところをやらないと示しがつかない。男として引くわけにはいかないんだ。分かってくれ。」

「分かるわけないじゃない!!」

 麗奈は涙を流しながら、悠人の言葉を感情のままに否定する。

「それに、俺は絶対に死なない。約束する。絶対にお前のもとに返ってくる。」

「・・・約束よ。絶対・・・。絶対に帰ってきて・・・。」

「あぁ、約束する。」

 悠人が涙を流す麗奈を抱きしめる。麗奈は悠人のことを信じ、この作戦に賭けることにした。

 これで作戦を開始できると思った矢先、またもや問題が発生した。

 問題の発生源はもちろん哲也である。

 哲也は自分だけこの作戦から降りると言い出したのである。

この状況では、1人欠けるだけでも成功率が大幅に下がる。そのため、哲也のわがままを容認するわけにはいかないのである。

「一ノ瀬さん、いい加減にしてくれ!ここでこんなつまらない口論しとぃるひまは無いんだ。事態は一刻を争う。奴がすぐそこまで来ているかもしれないんだぞ!?」

 悠人は全員を代表して、哲也を説得しようとする。

「嫌だ!俺はこんな所で死にたくないんだ!お前も見ただろ?分隊長が一瞬で殺されたんだぞ。俺たちも簡単に殺されるに違いない。こんな所で戦っても犬死するだけだ。」

 哲也は身勝手な言い訳を続ける。悠人を含む全員が哲也の態度に対して、怒りを覚える。

「犬死するぐらいなら俺は―――」

「いい加減にしろ!!」

 悠人の怒りが爆発する。

 悠人は哲也の胸倉を掴み、近くの大木の幹に叩きつける。

「あんたの身勝手に付き合っている暇はないんだよ!わかるか!?」

「でも・・・、俺は・・・。」

「ヘヴィーライフルだけ置いて、さっさと消えろ。目障りだ!!」

 悠人はうじうじと逃げようとし続ける哲也に嫌気がさし、哲也を地面に投げ飛ばす。

 哲也はヘヴィーライフルを投げ捨てるように置いて、森の中へ逃げ込んでいった。

「さあ、みんな持ち場へ着いてくれ。これがうまくいけば、俺達は助かる!」

 悠人は気持ちの切り替えをすべく、残った全員に下知を下す。

悠人の言葉を受け、正真正銘命を賭けた博打を打つ覚悟を全員が決めた。

 

―・―・―・―・―・―・―

 

 ヴァルターはまるで庭を散歩でもするかのように、森を歩いていた。

 パワードスーツによって踏みしめられた地面には足跡が残っており、逃げ者たちを追うことは容易である。

(思ったよりも手ごたえがありませんでしたね。死爆蟲を上手く処理した者は逃げた者たちの中にいるんでしょうかね。)

 ヴァルターは俗に言うバトルマニアではない。ただ、自分たちが主力としている死爆蟲を上手く片付けた敵の兵隊がどの程度のものか、という知識欲で動いていた。

(それにしても、あの兵士達が着ていた鎧は驚くべきものですね。普通であれば、鎧の重みで動けないはず。にもかかわらず、あの驚異的な跳躍力には驚かされました。恐らくは魔法の武具なのでしょうね。まさか、すべての兵士にあれと同じ鎧を着せているのだとするなら、意外に侮れないかもしれませんね。)

 物思いをしながら足跡を追い、森の中で少し開けたところにたどり着いた。

 

 木々のない空間のだいたい中間地点まで来た瞬間、右から2人左から1人が飛び出す。

 ヴァルターは予め待ち伏せを警戒していたため、初撃のウォーピックの一撃を後ろへ飛ぶことで何とかかわす。後ろへ飛んだ瞬間、ヴァルターが先ほどまでいたところへウォーピックが突き刺さる。

 大悟は渾身の一撃をかわされ舌打ちをする。

 しかし、1人の攻撃がかわされただけである。麗奈はナイフで、正樹は拳でヴァルターへ襲い掛かる。

 ヴァルターは2人の攻撃も何とかかわし、サーベルを抜いて反撃に出る。

 1対3という構図であるため、ヴァルターは内心焦っていた。そのため、敵を1人でも倒そうと正樹の首を狙う。

 しかし、咄嗟の判断で正樹が首を手で覆う。サーベルはパワードスーツのガントレットに当たり、火花を散らせる。

「あぶねー。咄嗟に首をかばわなかったら、即死だったぜ。」

 正樹が撤退のために大きく後ろへ飛びながら小さく零す。大悟と麗奈も正樹とほぼ同タイミングで後ろへ飛ぶ。

 ヴァルターは一撃で仕留められなかったことと、1度の攻撃のみで撤退するという嘗められたような行為を受け、かすかな苛立ちを覚えた。

 3人の撤退が完了するのと同時に第2段階であるヘヴィーライフルの一斉掃射が始まる。

 ヴァルターは全身を白銀の甲冑で覆っている。しかし、ヘルムはかぶっていなかった。そのため、腕を交差させるようにして顔を守る。

 一斉掃射を受け、ヴァルターは動くことが出来ない。

「効果はあるぞ!撃ちまくれ!!」

 敏一の言葉に他の3人が「おおーーーー!!」と応える。

 各々が両手にヘヴィーライフルを持ち、点ではなく面で攻撃する。

ヴァルターの鎧には高い飛び道具耐性がエンチャントされている。そのため、鎧を貫通して傷を受けるということはない。

 ヴァルター単体を狙っての攻撃ならスキル『空間折縮(くうかんせっしゅく)』を使って避けられる。しかし、このスキルは自分の記憶しているところまたは目視できるところにしか移動できない。つまり、ここ一帯に弾幕が張られているため、移動しても意味がないのである。

 ヴァルターはただひたすらに耐えるしかない。しかし、ヘヴィーライフルが弾切れを起こし、弾幕が消える。

 すかさずヴァルターは反撃に出ようとする。

 顔を守っていた腕を解き、サーベルを構える。攻撃に出ようと構えをとった時、右肘と左膝に強い衝撃を受けた。

 右からは島村が、左からは香蓮が約50mの位置から狙撃を行い、見事ヴァルターに命中させた。

 ヘヴィーライフルにスナイパーパックというアタッチメントを取り付けることによって、ヘヴィーライフルの威力を上昇させることができる。

 威力の上がった弾を肘と膝に真横から受けた。鎧のエンチャントにより貫通こそしなかったものの、衝撃は消すことが出来なかった。それにより、右肘と左膝が折れ、ありえない方向を向く。

 骨を砕かれ痛みに耐え、その場に崩れ落ちなかったのはヴァルターの武人としての誇りのおかげだったのかもしれない。

 しかし、4段階目がまだ残っていた。

 悠人はナイフを握り締め、真上からヴァルター目掛けて飛びかかる。

 ヴァルターは警戒していなかった頭上からの襲撃に反応が出来なかった。悠人はナイフを持っていない左腕でチョークスリーパーのようにしてヴァルターの首へ組み付く。

「捕まえた・・・。」

 悠人がヴァルターの耳もとで囁き、ヴァルターの表情が恐怖に染まる。

 ヴァルターは悠人から逃れようと、必死で抵抗する。しかし、悠人はそれを許さない。鎧で守られていない首筋にナイフを突き立てる。

 ヴァルターの首筋に悠人のナイフが突き刺さるのを見た麗奈は留めをさすべく飛び出す。

 その瞬間、ヴァルターの生存本能とも呼べるものが暴走し、組み付いている悠人ごと瞬間移動した。

 麗奈からあと数十センチの距離で突如悠人の姿がヴァルターごと掻き消え、麗奈は何が起こったのか分からず同然と立ち尽くす。そして、麗奈は悠人を探してあたりを見回す。

 しかし、悠人の姿はどこにもない。

「いや・・・。いやああぁぁぁぁぁぁああっ!!!!!!」

悠人が消えてしまったことを理解してしまった麗奈は、発狂したように頭を抱えながら悲鳴を上げた。

 ヴァルターとの戦闘を終え、静になった森に麗奈の悲鳴が虚しく響いた。

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