交わる世界のリブート   作:田んぼのアイドル、スズメちゃん

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更新が遅れてしまい申し訳ありません。


ニューギニア島攻防戦-5

 ヴァルターが消えた後、侵攻してきていた蟲たち動きが鈍った。これにより、多国籍軍が攻勢に転じ、ニューギニア島を取り戻すことに成功した。

 魔導蟲を支配するマジックアイテムとして蟲笛というものがある。このアイテムにより、巨大蟻をはじめとする蟲を動かし侵攻してきていたのだ。

 しかし、蟲笛は侵攻軍の総大将であるヴァルターが所持していた。そのため、ヴァルターが消えた後、侵攻軍は蟲を使っての戦闘ができなくなり撤退を余儀なくされた。

 

 ニューギニア島を取り戻すのに、多国籍軍は約3日を費やした。それは、ニューギニア島自体が大きく、島全体を隅々まで調べ尽くし蟲を1匹残らず駆逐しつくす必要があったためだ。

 敵である蟲の生態はいまだよくわかっておらず、1匹でも残っていた場合に増殖する可能性があるためである。

 唯一の救いとして、蟲は大きいためヒアリのようにどこにいるか分かりにくく発見に手間取るといったことはない。そのおかげでニューギニア島の蟲を駆逐出来た。

 しかし、3日もの間戦い詰めだった兵士達は疲労がピークに達していた。今回のニューギニア島攻防戦での全体の死傷者は全体3割を超え、その多くは訓練課程を終えていない訓練兵たちであった。死傷者のうち、半数は重軽傷を含む怪我人である。しかし、治療に必要な物資が不足しており、ベースキャンプでは満足な治療が行えないため死者が増えると予想された。

 

 この3日間のニューギニア島攻防戦は訓練兵たちにとって大きな傷を残すものとなった。多くの訓練兵の分隊は甚大な損害を受け、これまで共に訓練してきた戦友とも呼べる仲間を失っていた。班によっては10人中1人しか生き残りがいないというところもあり、多くの者が嘆き悲しんでいた。

 これは2班も例外ではなかった。

 ヴァルターとの戦闘により悠人が行方不明となったが、上層部はこれを死亡として処理した。これは再び蟲の侵攻があるかもしれない状況下で、たった1人の訓練兵の為に軍を使っての捜索はできないというものだった。

 だが、麗奈をはじめとする2班の大半の者は納得できなかった。我々だけでも捜索したいとニューギニア島攻防戦の指揮を執っている幹部に掛け合ったが、要求は却下され悠人は戦死として処理された。

 

 蟲たちに勝利し、ニューギニア島を奪還した。これは、蟲たちによって祖国を蹂躙され、故郷を失った者達にとってとても明るいニュースであり、瞬く間に難民キャンプ内に広がった。

 しかし、実際に戦った者たちは、今回の被害の大きさを考え手放しでは喜べないでいた。

 そんな兵士達の中を麗奈が幽鬼のようにふらふらと歩いていた。頬はこけ、見開かれた目はすべてに絶望しているように光がない。今にも死んでしまうのではないかと思うようなひどい姿だった。

 2班を代表して敏一が作戦本部へヴァルターとの交戦報告と悠人の捜索の許可を懇願した。しかし、悠人は KIA(Killed in action)とするという本部の決定が敏一から2班のメンバーへ伝えられた。

 それを聞いた麗奈は発狂し敏一へ掴みかかった。麗奈を止めなければもしかしたら敏一が殺されていたのではないかという狂乱だった。

それ以降、麗奈はずっと幽鬼のようになってしまっているのだ。

 行軍訓練以降、麗奈が悠人への態度から好意を寄せているのはだれの目から見ても明らかだった。しかし、この麗奈の態度は単なる好意ではなく依存だった。

 自分は呪われているとずっと思ってきた麗奈にとって、自分を肯定しうけいれてくれた悠人へ自分でも気づかないうちに依存してしまっていたのだ。

 そんな悠人を失ったしまった麗奈は、心に大きな穴が開いてしまっていた。

 しかし、今回の攻防戦で多くの死者が出ており、悠人もその多くいる犠牲者の1人でしかない。そのため、麗奈への心のケアがされなかった。

 そんな麗奈が歩いていると、1人の男性兵士に声をかけられた。

「ちょっといいかい?確か君は俺たちの救援に来てくれた2班の訓練兵だよね?」

 東雲昌也曹長である。

 麗奈は自分が呼ばれていると認識し、声の方を向く。

「はい・・・。そうですが・・・。」

 麗奈は生気を一切感じない表情でぼそぼそと答える。

 東雲は以前見た彼女との違いに、異様なものを感じたが続ける

「そ、そうか・・・。良かった。1つ聞きたいことがあるんだがいいかい?」

「えぇ・・・、構いませんよ・・・。」

 麗奈は先ほどと同じくぼそぼそと答える。

「君たちの班長の烏野君の姿が見えないが、彼はどこにいるんだい?負傷しているというのなら、お見舞いに行きたいんだが・・・。」

 麗奈は悠人の話題となり、目を伏せ震えだした。

「彼は・・・。ただいま・・・めぃ・・・です・・・。」

 麗奈は先ほど以上に小さな声でぼそぼそと呟くように答える。

 東雲は麗奈の声が聞き取れず、聞き返した。

「烏野悠人は、ただいま、行方不明です・・・。」

 東雲は麗奈の回答を聞き、すべてを悟った。今回の攻防戦で多くの死傷者が出たにもかかわらず、ニューギニア島全体を陸空からしらみつぶしに捜索した。

 現在は捜索及び蟲の駆逐を済ませている。であるにもかかわらず、麗奈は悠人が行方不明だと言う。

 これは、悠人が死亡していることを受け入れられずに現実から逃げているのだろうと東雲は理解した。

「これはつらいことを聞いてしまった・・・。何と言ったらいいか分からないが、ご冥福を―――」

「悠人は死んでいないっ!!!!!」

 東雲の悠人が死亡した前提の話を麗奈が遮る。麗奈は先ほどまでとは違い、怒りと悲しみがまじりあった悲鳴のように叫ぶ。

「悠人が死ぬはずがない!!戻ってくるって・・・、絶対に戻ってくるって言ったんだ!!悠人は守れない約束はしない!!だから・・・!!だから、絶対に生きてる!!」

 麗奈の目は血走り、絶叫のように東雲の言葉を感情で否定し続ける。

「わ、わかった。彼は生きている。だから、落ち着いて!」

 東雲は必死で麗奈をたしなめる。

 麗奈は一通り叫び続け、逃げるように走り去った。

 走り去る麗奈の背中を見つつ、東雲は悠人を失ったという悲しみに涙を流した。

 

―・―・―・―・―・―・―

 

 ニューギニア島攻防戦の為に緊急出兵させられた訓練兵の中で、傷の具合が軽度なものと傷を負っていないものは明日の朝に訓練所へ帰投することとなった。

 これは、島内から蟲を一掃することが出来たために、駐留する兵の数が正規兵のみで賄えるようになったということ。それに加え、いきなりの侵攻により兵糧として蓄えていた食料等の物資が足りなくなったという2つの理由からだった。

 この知らせを2班のメンバーが聞いたのは自分たちに割り振られている20畳ほどのテント内で、夕食を摂っている最中だった。

「私は・・・、ここに残ります・・・。」

 帰投命令を伝えに来た正規兵に向かって、麗奈がぼそぼそと言う。

 正規兵は麗奈の言葉を却下しようとするが、麗奈の呪いのこもったようなうつろな目で凝視され口ごもる。しかし、一言「認められない」とだけ言えたのは、自分の仕事に対する信念を持っていたからかもしれない。

 連絡事項のみを伝え、麗奈のうつろな目から逃れるようにして連絡兵がテントから出ていく。

 今テントの中にいるのは訓練兵8人と島村の9人である。

 訓練兵は元々10人で、悠人がいないため9人になっている。それに加え、哲也がこの班に戻ってきていない。

 2班のメンバーからすれば哲也のやった行為は敵前逃亡である。

 しかし、敵の大将であるヴァルターの存在をいち早く本部に伝えたという功績により敵前逃亡の件はなかったことにされ、それに加え、勲章を授与された。

 哲也への勲章授与は多くの犠牲者を出した戦いにおいて、目に見える形で英雄となるものが必要であったためである。

 そのため、哲也は本部のお偉方と同じ建屋で寝食をとっているのだ。

 今哲也の顔を見たら殺してしまうかもしれない。それが訓練兵2班のメンバーの総意であった。

 悠人の捜索をされていないのかかわらず死亡扱いとされ、更に捜索をさせないまま自分たちを帰らせるという。

 自分たちは訓練兵であり正規兵ではない。しかし、残念ながら上層部に逆らうことなどできない。それを2班の全員が分かっているからテント内はお通夜状態になっていた。

 しかし、この空気を悪い意味で破壊するものがテント内に入ってきた。

「やあ、みんな居るかい?」

 いきなり哲也がテント内に入ってきた。

 まさか哲也が来るとは思っていなかった全員が仰天する。

「ん?烏野がいないようだが、どこに行ったんだ?」

 テント内を見回した哲也は無神経な言葉を放つ。

 その瞬間、麗奈が鬼の形相で哲也をにらみ、殴りかかろうと姿勢を落とす。

 しかし、麗奈は哲也を殴ることはなかった。いつも気が弱く引っ込み思案であった一輝の拳が哲也の左頬を打ち抜いた。

 哲也はいきなり自分が殴られたと分からなかった。自分は何故か地面に倒れており、左頬に熱いような痛みを感じていた。

 何が起こったのかわからず、うろたえるように他の班員の顔を見回す。

 誰も一輝がこんな行動に出るとは思っていなかったため、目を丸くしている。そんな班員をよそに一輝は起き上がろうとしていた哲也に馬乗りになり、こぶしを振り上げそのまま何の躊躇もなく振り下ろす。

「やめ・・・、なん・・・。たすけ・・・。」

 一輝は無言のまま何度も何度も哲也の顔を殴り続ける。

 哲也は必死に顔を守ろうとするが、一方的に上から振るわれるこぶしから逃れることができない。哲也の顔は殴られ見る見るうちに腫れ上がる。

「一輝、そこまでだ!」

 このままでは一輝が哲也を殺してしまうと思った敏一は一輝を羽交い締めにして哲也から引き剝がす。

「い、いきなり何するんだ!?」

 哲也は一輝から解放され、腫れ上がった頬を抑えながら叫ぶ。

「敏一!なぜ止めるんだ!こいつにせいで悠人は死んだんだ!なのになんでこいつが生きてるんだ!?」

 一輝の言葉を受け、敏一たちは目を伏せる。

「確かに、こいつは俺たちも殴り飛ばしてやりたい。だけど、やっちゃいけないんだよ・・・。」

 正樹は一輝を窘める。

 一輝は頭ではわかっていても感情で納得できていなかった。

「悠人は死んでない・・・。今は行方不明だけど、必ず帰ってくる・・・。」

 麗奈は一輝の言葉を否定する。しかし、現時点で行方不明ということは死亡と同義であるといっても過言ではない。

「それは・・・。悪いことを聞いたね・・・。俺は戻るとするよ・・・。」

 哲也は自分への殺気に満ちたテントから逃げるように出ていった。

 

―・―・―・―・―・―・―

 

 ニューギニア島から訓練所への帰投は翌日の正午ということになった。

 早朝に装備など一式をまとめるという予定で十分間に合うだろうということで、2班は早めに眠ることになった。

 

 翌朝、訓練兵はみな帰投のため、荷物をまとめていた。

 その中で、1人だけ一切片づけに手を付けていない者がいた。

「麗奈さん。そろそろ片づけに取り掛からないと、集合時間に間に合いませんよ?」

 香蓮は麗奈に荷物をまとめるように促す。

「どうして?私はここに残るわ。だから、荷物をまとめる必要はないわ。」

 どうやら麗奈は本気で残るつもりでいるようだ。

「麗奈さん。それって、上層部の方に許可は取ってんですか?」

「いいえ。取ってないわよ。」

 麗奈はそれがどうしたといった顔をする。

「そうなんですか・・・。」

 香蓮は苦笑いをする。

「一応、荷物をまとめていてくれないか?これでも飲んで一息ついた後でもいいからな。」

 敏一が香蓮との会話を終えた麗奈に水筒を渡す。

「帰る帰らないは別として、一まとめにしておいたほうがいいだろ?」

「まぁ、そうね。」

 麗奈は水筒に入った水を飲み、背嚢の中を整理し始めた。

 

 それから10分後、麗奈は眠っていた。

 眠らされたといったほうが正しいのかもしてない。

 先ほど敏一が麗奈に渡した水筒の中には睡眠薬が入れられていた。これは敏一が麗奈は絶対にここへ残ると言い出すことを想定し、予め用意していたものだった。

 自分たちも麗奈のようにこのニューギニア島へ残って悠人を捜索したいという気持ちは持っている。

 しかし、自分たちは訓練兵であり上の命令に逆らうことはできない。

 その為の最終手段であった。

「鶴島さんの荷物をまとめるの、私も手伝うわ。」

 自分の荷物をまとめ終わった島村が麗奈の荷物をまとめ始める。

「ありがとうございます。しかし、島村さんは正規兵であるのにどうして荷物をまとめておられるんですか?」

「私は今回の戦闘を最後に退役することにしたの、退役届ももう出してきたわ。」

 敏一の問いに島村が答える。

「さあ、急いで片付けましょ。」

 敏一と島村はテキパキと麗奈の荷物を片付けた。

 

 麗奈は輸送機の中で目を覚ました。

 周りを見回すと、見慣れた班員たちの顔がある。

 どうして自分が輸送機になっているのか分からない。荷物をまとめている最中に突如眠気に襲われた事は覚えている。

 そんなことよりも、早く引き返さないといけない。麗奈は席を立つ。

「麗奈さん!どこへ行くんですか?」

 香蓮が席を立った麗奈を制止する。

「私はニューギニア島へ戻る。泳いででも戻らないといけないの!」

 香蓮は麗奈が冷静さを失っていると判断し、後ろから抱き着くようにして麗奈を止める。

「あと数分で訓練所に着きます。落ち着いてください!」

 暴れる麗奈を香蓮は必至で止める。

 麗奈は一通り暴れた後、悠人への謝罪を繰り返し号泣する。

 そんな麗奈を目にし、他の班員たちも涙を流した。

 

 訓練所の駐機場に輸送機が到着し、ハッチが開くのと同時に教官たちが出迎えてくれた。

 これは麗奈達2班も同じでムグルマも出迎えに来ていた。

 ムグルマは輸送機の中を見回し、悠人と哲也がいないことを発見する。予め哲也は後日帰投するということを聞かされている。しかし、悠人に関することは一切連絡を受けていない。

「おい!悠人の奴はどこだ?」

 2班の面々は目を伏せる。そんな2班を代表して島村が前に出た。

「私はこの者たちと共に戦った島村といいます。烏野悠人訓練兵は作戦行動中、大将と思しき敵と共に行方不明となりました。それを受け、上層部は彼を戦死と判定することとしました。私の力が足りないばかりに、申し訳ありません。」

 島村はムグルマへ向かって説明と謝罪をする。

 それを受け、ムグルマは膝から崩れ落ち落涙する。

 他の訓練兵の班も大きな被害を出していたため、駐機場は教官たちの嗚咽が満ちた。

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