Fate/Medal of Honor   作:A-10教徒

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〈前回のあらすじ〉
オルガマリーと合流したローガンは彼女とマシュの二人から、カルデアの事やサーヴァントの事などを事細かく聞く。
時折、オルガマリーと口論を挟みながらも、ローガン達三人は特異点Fの調査を首尾よく進めていた。


Mission.9『新たな敵』

 

 とある港。その埠頭にて、金属同士が接触する音が連続して響いている。

 

「ハァッ!」

 

 その掛け声と共に、巨大な盾が動く骨だけの亡者に叩き付けられる。その衝撃により、骨同士の接合部は外れ、亡者はバラバラになって吹き飛び、残骸は海に落下した。

 盾の持ち手の少女––––マシュ・キリエライトは崩れた敵の残骸を見て、フゥと息を吐く。

 

「敵性生物、排除しました」

「戦闘終了。よくやったな、マシュ」

「はい、ありがとうございます」

 

 ローガンはM4A1の銃口を下ろしてマシュに近づくと、ポンと肩を叩く。マシュはローガンの方を向くと、嬉しそうに微笑んだ。

 

「あの怪物を見た時はどうなるかと思ったけど、さすがはサーヴァント体、スペックでは圧勝ね」

 

 二人の背後にオルガマリーも続く。彼女は海に落ちなかった頭蓋骨を見て、ハンと鼻で笑う。

 

「……姿が怖いのは変わらないのですが……ところで所長。質問があるのですが」

「? いいわよ、何?」

「資料にあった冬木の街と、この冬木の街はあまりにも違います」

 

 マシュはそう言って周りを見渡す。ローガンも同じように周囲を見る。

 確かに、この街はおかしい。辺り全体で火災が発生しているのもそうだが、何よりあの骸骨達のような怪物が出現している事だ。あんな怪物が彷徨いているなど、異常以外の何者でもない。

 

「一体この街に何が起きたのか、所長はどうお考えですか?」

 

 マシュの問いに、オルガマリーは顎に手を当ててしばらく思慮する。

 

「……そうね。きっと歴史がわずかに狂ったのよ。そうとしか思えない」

「歴史が……狂った? 並行世界みたいなものか?」

 

 オルガマリーの返答に、ローガンは頭上に疑問符を浮かべる。

 

「並行世界とは少し違うわね。

 ……いいわ、説明してあげる。二人とも、一度しか言わないからよく聞きなさい」

 

 そう言って、オルガマリーは説明を始めた。

 

 オルガマリーの説明はこうだ。

 カルデアはカルデアスという地球モデルで未来を観るのと同時に、ラプラスという使い魔で過去の記録を集計する。

 彼女曰く、公にならなかった表の歴史、人知れず闇に葬られた情報を拾ってくるのがラプラスの仕事だそうだ。

 そのラプラスによる観測で、2004年のこの街で特殊な「聖杯戦争」が確認されている。

 その聖杯とは勿論、アーサー王伝説等の聖杯伝説や最後の晩餐で名高いあの聖杯だ。魔術世界では、所有者の願いを叶える万能の力。あらゆる魔術の根底にあるとされる魔法の釜、などと呼称されている。

 冬木の街にいた魔術師たちがその聖杯を完成させ、その起動のために七騎の英霊を召喚した––––それが聖杯戦争の始まり。この街では人知れずサーヴァントが呼ばれていたのだ。

 その冬木の聖杯戦争のシステムは単純だ。七人のマスターがそれぞれ競い合い、最後に残った者が聖杯を手にする、というもの。

 カルデアがその事実を知ったのは2010年。オルガマリーの父である前所長はこのデータを元に召喚式を作った。

 それがカルデアの英霊召喚システム・フェイト。ラプラス、カルデアに続く第三の発明。シバは既に亡くなっているレフ教授の発明––––オルガマリーは自身との共同開発だと強調したが––––であるため、ここには含まれないのだそうだ。

 とどのつまり、この冬木がサーヴァント発祥の地なのだ。かつてここで七騎のサーヴァントが競い合い、結果はセイバーの勝利で聖杯戦争は終結した。街は破壊される事なく、サーヴァントの活動は人々に知られる事なく終わった––––––––はずだったのだが、今はこの状態だ。特異点が生じた事で結果が変わったと考えるべきだとオルガマリーは言う。

 2004年のこの異変が人類史に影響を及ぼし、その結果として百年先の未来が見えなくなった。だから、この異変の修復こそがカルデアの使命なのだ。この領域のどこかに歴史を狂わせた原因がある。

 

「––––それを解析、ないし排除すればミッション終了。わたしもアナタたちも現代に戻れるわ」

「……そうか」

 

 オルガマリーの話をメモに書き写していたローガンは、今回の件はそのような簡単な事ではないように思えた。あの爆発の原因すら判明していない状況では、オルガマリーの考えは少し楽観しすぎのように感じる。

 とはいえローガンの考えも、考え過ぎだと言われればそれまでのものだ。ローガンは大人しく、不安を自分の中に押し込んだ。

 

「ところでだが、カルデアではサーヴァントを召喚しなかったのか?」

 

 ふと頭に浮かんだ疑問を、ローガンはオルガマリーに聞く。

 英霊召喚システムが完成しているなら、既にサーヴァントがカルデアにいてもおかしくないと考えたからだ。

 

「もちろんしました。でもうまくいかなくて、成功例は数えるほどよ。資料では三体だけ呼び出せたらしいけど、私は二体しか知らないわ。前所長の頃に第一号。私が所長になってから第二号、第三号」

「三体か……」

 

 予想外の少なさにローガンは唸る。オルガマリーの言葉から考えるに、成功率も低いらしい。

 確かに、マシュと同程度の強さを持つものが三体と聞けば聞こえは良いが、特異点に派遣するつもりだったのならそれの二倍は必要だっただろう。

 

「……それじゃあ、マシュが融合したっていうサーヴァントは何番目の奴なんだ?」

「第二号よ。第三号はもう知ってるでしょ」

「?」

「カルデアに住み着いたあの変人。レオナルド・ダ・ヴィンチよ」

「––––ダ・ヴィンチ? もしやと思うが––––」

 

 その質問を遮るように、カタカタと聞き覚えのある音が響く。

 三人が音のした方向に振り向くと、そこには弓や剣鉈を持った骸骨が同じようにこちらを向いていた。

 

「……チッ、どうして何時もコイツらは話の途中に来るんだろうな」

 

 ローガンは舌打ちをすると、M4A1のセーフティレバーをセミオートに合わせ、スケルトン達に向ける。

 

「そんな悠長なこと言ってる場合ですか! 蹴散らしなさい、二人とも!」

「分かったからそう喚かないでくれ……

 マシュ、お前は剣持ちを狙え。俺は弓持ちをやる」

 

 盾を構えているマシュの肩に手を乗せながら、ローガンは敵に指を指して彼女に指示を出す。

 

「了解です、マスター」

「俺が発砲するのと同時に突っ込め、いいな?」

「はい」

 

 マシュの返事を聞いたローガンは無言で頷くとM4A1を構え、トリガーを引いた。

 

 

––––––––––––

 

 

「……ふう。戦闘終了です、マスター。今回もなんとかなって、安心です」

「ああ、よくやった。感謝する、マシュ」

「……はい。お役に立てて幸いです」

 

 ローガンの言葉にマシュは目を細める。その表情を見て、ローガンも僅かに笑みを浮かべる。

 

「…………ねえマシュ。あなた、もしかして宝具を使えない?」

 

 二人の後ろから戦闘の様子を見ていたオルガマリーはマシュに近づくと、深刻そうな顔つきで彼女にそう尋ねた。

 その質問に、マシュも表情を暗くする。ローガンはそんな二人の様子を怪訝な表情で見つめ、オルガマリーが口にした宝具がどのようなものかと疑問を浮かべる。

 

「……そのようです。わたしはわたしに融合してくれた英霊が誰なのかもわかりませんし、宝具を発揮することも出来ません」

 

 マシュが申し訳なさそうな表情でそう言うと、オルガマリーは嫌な予感が的中したという様子でため息を吐く。

 

「…………二人とも。一つ聞きたいんだが……その宝具っていうのは、一体何なんだ?」

 

 二人のやり取りに痺れを切らしたローガンは小さく咳払いをしてそう二人に尋ねると、二人は一緒にローガンの方に振り向いた。

 宝具といった、サーヴァントに関わるものがどういうものかも分からない状態で、マシュの指揮を円滑に進めるのは難しい。指揮官としてそのような状況は好ましくないと感じたのだ。

 

「すいません。先輩への説明が後になっていました」

 

 そう言ってマシュはローガンに頭を下げる。

 

「……サーヴァントには宝具という固有の特殊技能が備わっています。

 英雄たちそれぞれの伝承、偉業にちなんだ、かっこよかったり微妙だったりする切り札です」

「伝承や偉業というと、アーサー王の聖剣のようなものか?」

 

 ローガンはそう言って、カルデアの入館時に受けた模擬戦闘を思い出す。マシュが言う事から予想するに、あの鎧を着た少女が放った光線が宝具なのだろう。

 

「はい。ですが、私はその宝具をうまく扱えません」

「うまく扱えない? 使うこと自体は出来るのか?」

「……宝具そのものは何とか使えるのですが、出力は低下していますし、真名解放による真価も発揮できません。

 そもそも私のこの武器が“何に由来するものなのか”さえ分からないのです」

「……なるほど」

 

 やはり真名が不明である事が彼女の足を引っ張っている最大の原因のようだ。

 これも自分がマスターとして未熟だからなのだろう。ローガンはそう思い、申し訳なく感じた。

 

「ですので、わたしの事は欠陥サーヴァント、あるいは成長性と可能性に満ちたできる後輩、とご期待ください」

「……悪いな。俺がもっとまともなマスターなら、こんな事にはならなかっただろうに」

 

 ローガンはそう言って申し訳無さそうにマシュから視線を逸らす。

 彼自身は、マスターとしての己の未熟さを恥じていただけだった訳だが、マシュは自分が言ったことで気分を害したのではないのかと少し焦った。

 

「そんなに気に病まないで下さい。わたしが融合した英霊の情報をリードできずとも、先輩がマスターとして成長すればおのずと分かります」

「そうなのか?」

 

 マシュの言葉を聞いたローガンは即座に視線をマシュの方へと戻す。その目には、貪欲な炎がちらついていた。

 突然こちらを向いたローガンに驚いたマシュは、思わず後ずさりかけてしまう。

 

「その通りよ」

 

 ローガンの問いに、マシュより先にオルガマリーが答える。

 

「マスターは契約したサーヴァントのパラメータやスキル、情報を解析できる。アナタが一人前になればマシュのサーヴァント情報も解析できるでしょう」

 

 オルガマリーの説明を、ローガンはポーチから取り出したメモとボールペンで書き取る。彼のメモには、他にもサーヴァントや特異点に関する情報が書き込まれていた。

 

「俺が成長すればいいって事だな……いい事を聞かせて貰った、ありがとう」

「え、ええ……」

 

 ローガンはそう言うと、オルガマリーに親指を立てる。その様子にオルガマリーは少し驚く。彼女は軍人というのは学の無い者達ばかりだと思っていたため、目の前の男の予想外の態度に驚いたのだ。

 

「……とにかく。この先、他のサーヴァントと契約した時も同じよ。まずはサーヴァントの宝具と真名を知る事。

 信頼が増せば増すほど、そのサーヴァントの能力は上がっていくわ」

 

 その言葉を、ローガンはスラスラとメモに書き写していく。全て書き終わると、ローガンは次の言葉に耳を傾ける。

 

「まあ、アンタなんかにそんな才能はないでしょうけど。マシュをうまく使えないのもその証拠よ」

 

 ローガンはその言葉を書き写そうとするが、すぐにため息をついてボールペンを動かす手を降ろす。

 そのまま彼はウンザリとした様子で顔を上げた。

 

「おい、また嫌味か?」

「失礼ね。私は事実を述べてるだけよ」

「事実って……」

 

 オルガマリーの頑固な様子にローガンは思わず呆れる。

 やはり彼女は性格に問題がありすぎる。それ以外はマトモだと言うのにだ。

 

「カルデアのレイシフト機能が回復すれば一流のマスターをシフトさせるわ」

「そしたら俺はすぐにサヨナラバイバイって訳か」

 

 ローガンはそう言って左手でシッシと追い払うようなジェスチャーをする。

 とは言ったものの、彼自身今回の騒動の処分がそんな簡単なものだと思ってはいない。

 

「いいえ。今回の騒動が終息するまではカルデアに残ってもらうわ」

「……やはりか」

 

 オルガマリーの返答に、予想が的中したと言わんばかりに納得した様子でローガンは軽く腕を竦める。

 今回の騒動。カルデアが本当に国連隷下の組織ならば、彼は国連視察団に重要参考人として事情聴取されるだろう。そしてその後に待ち受けているものは言わずもがな、軍法会議だ。

 

「まあ、事態が完全に収束すればアンタはお払い箱よ。それまでカルデアの隅で震えてなさい」

「よく言うよ。戦闘が始まるといつも俺より後ろで震えながら隠れてるくせに」

 

 ヤレヤレと首を横に振りながらローガンがオルガマリーをからかう。

 からかわれた彼女は拳を握りしめると、顔を少し紅潮させた。

 

「震えてない! ちっとも! アナタね、目上の人間を少しは敬いなさいよね⁉︎」

 

 オルガマリーはローガンに詰め寄ってそう怒鳴った。

 その様子にローガンは苦笑いを浮かべる。少しは煽り耐性を付けろ、と彼は心の中で呟いた。

 

「ハッ、馬鹿言うな。少しは敬われるような人間になってから言え」

「何ですって⁉︎」

「おっと!」

 

 ローガンの煽りで頭に血が昇ったオルガマリーは掴み掛かろうとするが、ローガンはヒョイと彼女の腕を躱す。

 すぐ側でそれを傍観していたマシュは、二人の間に割り込むと小さく咳払いをする。それでやっとオルガマリーは落ち着きを取り戻した。

 

「……互いに理解度が上がったようで結構です。では、新手が来る前に移動しましょう」

 

 二人のやり取りに半ばウンザリしていたマシュは二人の顔を交互に見ると、業務連絡のように淡白な口調でそう言った。

 

「……そうだな。俺も少し遊び過ぎたな、反省する」

「……ごめんなさいマシュ。そこの男があまりに無礼な事を言うものだから、つい––––」

「つい? あれが平常運転じゃないのか?」

「そんな訳ないでしょう⁉︎ 馬鹿じゃな––––」

「お二人とも!」

 

 また再燃し始めた二人をマシュが一喝すると、二人は––––片方はシレッとした様子で、もう片方は渋々という様子で––––言い争いを止めた。

 

「それで? 所長、次はどこに向かわれますか?」

「……そうね、次は––––」

 

 マシュの質問にオルガマリーは左手首の端末でマップを開き、次の目的地を指定し始めた。

 

 

––––––––––––

 

 

 ビルが立ち並ぶ都市の中心部から少し離れた丘の上にある教会。ここは冬木第三位の霊脈の上に建てられており、内部の調査の結果、何らかの魔術的な痕跡が発見された。だがそれ以外には何も無い、ただの廃墟であった。

 件の教会から数十メートル離れた市街地へと続く道路の上から、ローガンはボロボロの教会を見つめてる。

 教会は内外のどちらもひどく損傷していた。尖塔は折れて地面に落下しており、建築物もほとんどが崩れ、瓦礫まみれの礼拝堂からは鬱蒼とした黒い曇天が覗いている。

 

「………………」

 

 そんな教会の様子を、ローガンは険しい表情で見ている。

 ローガンはクリスチャンとはいえ信仰心は無いに等しいため、教会が破壊されていてもそこまで心が揺れ動く訳では無い。

 彼は今後の調査について思慮していたのだ。ここまで様々な場所で調査を行ってきたが、未だにこの特異点の原因に繋がるものは発見出来ていない。時間はまだあるにせよ、ここまで進捗が無いのは流石にどうかと感じたのだ。

 

「とはいえ、素人が勝手に行動するとロクな事が起きないだろうし––––」

 

 自分が首を突っ込んだ所で何が出来る。そう心の中で言葉を続けたローガンは首を横に振った。

 今の彼に出来る最善の行動は、専門的な知識と指揮能力を持つオルガマリーの命令を実行して、マシュと共に敵襲から彼女を守る事。今はそれを遂行する事こそが、今回の件を解決するのに一番貢献できる事だろう。

 

「……さてと、あの二人の所に行くか」

 

 そう言ってローガンは教会に背を向け、数メートル先にいる二人の元へ向かった。

 二人は市街地へと続く道の中央で立っており、都市部を向いているオルガマリーをマシュが傍らで護衛するというような形となっている。

 

「どこまで行っても焼け野原……住民の痕跡もないし、一体何があったのかしら……」

 

 オルガマリーは何やら独り言を呟いているらしく、顎に手を当てて俯いている。

 

「そもそもカルデアスを灰色にする異変って何なのよ……未来が見えなくなるという事は人類が消えるという事……」

 

 そう呟いたオルガマリーは少しハッとしたような表情を浮かべる。

 

「もしかして、特異点では抑止力が働かない? じゃあやっぱりボルトみたいなものなんだ、ここ……

 人類史に点在する致命的な滅亡の選択……それを悪い方に間違えちゃったのがこの結果とか……」

 

 どうやら何か有力な仮説を発見したようだが、魔術世界に関する知識がほとんど無いローガンには、何を言っているのかさっぱりだった。

 

『おや、所長の独り言が始まったね。こうなると彼女は長いよ』

 

 右手首の端末から、Dr.ロマンの映像と共に彼の音声が流れる。

 ロマンの表情や態度から察するに、どうやら彼女の独り言はよくある事のようだ。

 

「放って置いていいのか、アレ?」

 

 オルガマリーの方へと視線を向けながら、ローガンは画面越しのロマンにそう質問する。

 

『大丈夫だよ。敵性反応は無いし、何より今の彼女を刺激するのはやめておくべきだからね』

 

 ロマンはヤレヤレという様子でそう答える。

 どうやらオルガマリーは自身の水を差されるのを嫌うタイプらしい。そっとして置いた方が良いだろうとローガンは考えた。

 

『アダムス大尉。あたりは安全そうだし、少し休んではどうだい?』

「それもそうだな––––って、おいロマン。大尉は必要無いと言っただろ」

『いいじゃないか。ボクとしてはこっちの方がしっくり来るし』

 

 ローガンの指摘に対して、ロマンはのほほんとした様子でそう返す。

 

「ハァ……分かった、何とでも呼べ」

 

 ロマンの間抜けた表情を見ながら、ローガンは半ば諦めたようにため息を吐く。

 端末を操作して通信を音声のみに切り替えると、ローガンは近くにあった手頃な瓦礫に腰かけた。

 

「お疲れ様です、先輩。レーション食べますか?」

 

 マシュはどこからかプラスチック製の包装紙に入ったレーションを取り出して、ローガンに差し出した。

 

「……そうだな、頂くとしよう」

 

 そう言ってローガンはレーションを受け取り、包装紙に印刷されている文字に目を通す。幸いにもこれはMREでは無いようだ。それを確認したローガンは少し安心する。

 包装紙を開いて中身を確認すると、中にはブロック状のビスケットのような固形物が数個入っていた。

 ローガンはその内の一個を口に放り込み、咀嚼する。合成物質で作られたであろう不思議な甘みが水分と引き換えに口腔内に広がるのを感じる。ローガンは嚥下すると同時にハイドレーションシステムのチューブを咥え、水を飲んだ。

 お世辞にも美味いとは言えるものではない。だが食べられる物があるだけでもローガンにとっては十分だった。

 

「そういえばだがマシュ。お前の方こそ体に異常はないのか?」

 

 ふと、ローガンは隣で立っているマシュにそう聞く。

 

「体……もしかして、サーヴァントになって問題は無いのか、という質問ですか?」

 

 マシュの言葉に、ローガンは小さく頷く。

 

「ああ。サーヴァントの事なんざ俺は全く分からんし、ましてやそれがデミ・サーヴァントなら以ての外だ。

 それに、現状ただ一人の部下の状態を指揮官が把握しないでどうするんだって話だしな。」

 

 ローガンはそう言うと、レーションを一つ口の中に放り込む。

 マシュは少し驚いたような表情を浮かべると、自身の身体に視線を移した。

 

「……それは、なんとか。戦うのが怖いくらいで、体は万全です」

「……そうか」

 

 口の中のレーションを飲み込むと、ローガンはそう言って頷いた。

 戦うのが怖い。マシュのその言葉は至って普通のものだ。死と隣り合わせである戦場において、恐怖を感じない人間はいない。いるとするなら、それはもはや狂人や異常者と言っても差し支えはないだろう。

 ローガンとて、恐怖が無い訳ではない。ただ20年に及ぶ従軍の中で次第に戦場に対する恐怖が薄れ、それを抑え込む術を身に付けたというだけだ。

 ましてやマシュはまだ戦い始めて数時間しか経っていない。そんな人間が簡単に恐怖を克服出来る訳がないのだ。

 

「それじゃあもう一つ聞かせてくれ。

 ……俺はお前のマスターとして上手くやれているか?」

 

 ローガンがそう聞くと、マシュはニコリと嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「もちろんです。わたしに不満はありません。先輩は世界で一番のマスターではないかと」

「お、おう。そうか……」

 

 余りに嬉しそうな様子でマシュが答えてくるので、ローガンは少し驚いてしまった。

 

「まあ、なんだ……不満があれば遠慮無く言ってくれ。こちらも善処す––––」

『ごめん、休憩はそこまで! 周囲に生体反応がある!』

「クソ、またか!」

 

 ロマンの通信に反応してローガンは捨て台詞を吐きながら即座に立ち上がり、傍に置いてあったM4A1を手に取る。

 市街地の方向に目をやると、既に数体のスケルトンがこちらに向かってきていた。

 ローガンはM4A1を、マシュは盾を構える。

 

「マスター、指示をお願いします!」

 

 

––––––––––––

 

 

 乾いた音と共に、最後の一体の頭蓋骨に銃弾が叩き込まれる。人間であれば脳幹部があるであろう場所を撃ち抜かれたスケルトンは、そのまま音を立てて崩れ落ちた。

 

「……頼むからこれで最後にしてくれよ」

 

 トリガーから指を離し、M4A1を下げたローガンはウンザリとした様子で弾倉内の弾薬を確認する。確認が終わると、彼は傍らに落ちている頭蓋骨を見つめながらある事を思考し始めた。

 先程の亡者達。最初に遭遇した個体に比べて、幾分か動きの機敏さと不規則性が増しているようにローガンは感じた。その証拠に、彼は先程の戦闘で始めて弾丸を外してしまったのだ。自慢という訳では無いが、この特異点における戦闘でローガンは未だに一発も弾丸を外した事はなかった。理由は簡単で、敵の動きが緩慢だったからだ。

 だが現在はどうだろうか。奴等の動きはほんの少しだが機敏になっていた。これまでの個体とは何かが違うのだろうか。ではその何かとは一体––––

 

「––––––––ぱい? 先輩、聞こえてますか?」

 

 ローガンは自身に呼びかける声に反応して顔を上げると、マシュが少し心配そうな様子で彼の顔を覗き込んでいた。

 

「––––っああ、すまん。少し考え事をしてた」

 

 マシュに気付いたローガンは一気に現実に引き戻される。どうやら彼は意識を全て思考に回していたようだ。

 かつての自分なら近付かれる前に気付いていただろうに。ローガンはそう思いながら、18年という歳月で劣化してしまった自身とその能力を恨んだ。

 

「もう完全にサーヴァントとしてやっていけてるわね。ここの程度も知れたし、もう怖いものはないんじゃない?」

 

 先程の戦闘の様子を見ていたオルガマリーは口元を吊り上げながら、マシュにそう聞く。

 その言葉を聞いたマシュは、少し暗い表情を浮かべて俯いた。

 

「それは……どうでしょうか。どんなにうまく武器を使えても、戦闘そのものは……」

 

 マシュが返答を続けようとすると、オルガマリーの端末から通信のコール音が鳴り響く。ロマンからの通信だろうと、その場の全員が予想した。

 

「全く……何よロマニ? こっちは––––」

『ごめん、話はあと! すぐにそこから逃げるんだ三人とも!』

「何だと?」

 

 珍しく酷く焦った様子で通信をするロマンに、ローガンは何か只ならぬ雰囲気を感じる。

 

『君達の方に反応が一つ、物凄い勢いで接近しているんだ! しかもこの反応は––––サーヴァントだ!』

「なっ……⁉︎」

 

 サーヴァント。それはマシュと融合したものと同じ存在だ。そのサーヴァントがこちらに急速接近している。味方、という事はまず無いだろう。ならそのサーヴァントがローガン達にとってどういう存在かは明白だろう。

 

「敵か––––!」

 

 そう言った矢先に、ローガンは背筋に凄まじい悪寒が走るのを感じた。

 何かが来る。早く逃げろ。ローガンの直感はそれを即座に感じ取り、そう警鐘を鳴らしている。

 

『アダムス大尉、戦っちゃダメだ! マシュにサーヴァント戦はまだ早すぎる……!』

「言われなくても分かってる! 二人とも、逃げるぞ!」

「は、はい!」

「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 マシュとオルガマリーがその呼び掛けに反応したのを確認すると、ローガンは都市部へと続く道を走り出す。それに続いて二人も走り出した。

 今はとにかく逃げなければ。今のマシュには彼女自身と同程度か、それ以上の実力の相手を倒せる程の力はない。まずは出来るだけサーヴァントと会敵するまでの時間を稼ぐ事だ。どう戦うかはその間に決めなければ。サーヴァントにこの銃が効く事をローガンは祈った。

 

「……フフ。逃がしませんよ」

 

 全力疾走する三人の背後からは、着実に黒い影が迫って来ていた。




 ウィイイイイイイイイイ↑ッス! どうもぉ〜、作者でぇす。
 第10話、如何でしたでしょうか?
 次回は遂に初のサーヴァント戦となります。果たしてサーヴァントに銃は効くのか? その答えは次回に明らかになるでしょう。
 それともう一つ。前回の投稿からだいぶ間が空いてしまい、申し訳ありません。何分この時期は忙しくなるものでして、中々執筆に費やせる時間が無かったのです。
 今は少し余裕が出て来たので、これからは少し投稿ペースを上げて行きたいと思っております。
 あと、出来ればTwitterのフォロー、お気に入り登録、評価、コメント等もドンドンお願いします。今後の励みになります。
 それともう一つ、Mission Briefing.0に新しい文章を追加しましたので、どうぞそちらの方も是非お読み下さい。
 それでは皆さん、また11話でお会いしましょう。



 P.S.

 4月16日に、ガニーことロナルド・リー・アーメイ一等軍曹が天国へと転属となりました。
 フルメタルジャケットでハートマン軍曹役を演じた一等軍曹は、ローガンと同じ海兵であり、ベトナム戦争にも従軍しました。その後はPTSDを発症し、長年悪夢と戦い続けていたそうです。
 一度海兵となった者は、常に海兵です。例え天国へ旅立ったとしても。
 一足先に天国での勤務を開始した一等軍曹に、出来うる限りに敬意を評します。

 Semper fi, The Gunny!
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