Fate/Medal of Honor   作:A-10教徒

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〈前回のあらすじ〉
 オルガマリーとマシュ、ロマニから特異点や聖杯戦争、サーヴァントについての話を聞きながら、断続的な戦闘を行っていたローガン。
 しかし突如、ロマニからサーヴァント反応が接近しているとの報告が入る。
 サーヴァントとの交戦を避けるために三人は走り出すが、黒い影は着々と彼等に迫って来ていた。


Mission.10『VS.サーヴァント』前編

 廃墟と化したビル群の谷間を、三人が走り抜けている。

 

「ハァ……ハァ……どうだ、逃げ切れたか⁉︎」

 

 ローガンは右腕の端末にそう怒鳴りつける。

 逃げ切れたかと聞いてはいるが、追跡して来ているサーヴァントが彼等を見失ったとは彼自身、露ほども思っていない。

 その証拠に、背筋にはあの悪寒が今もこびりついている。

 

『駄目だ、まだ追って来てる! それどころかどんどん距離を詰められてる!』

「クソッ!」

 

 ロマニの報告にローガンは毒吐く。予想していた事とはいえ、追跡を断念したのではと心の中では少し期待していた。だがその期待を裏切られた今となっては逃げるしか術は残されていなかった。

 

「––––––––先輩!」

 

 突然、一番後方で走っていたマシュが前方を指差し、悲痛な叫びを上げる。何事かと思いローガンは前方に目をやると、そこにあった光景に絶句した。

 

「……冗談だろ⁉︎」

 

 ローガン達の前方数十メートル先にある道路は、ビルの瓦礫と大型タンクローリーの残骸がバリケードとなり、行き止まりとなっていた。バリケードの高さは、ローガンの目測でおよそ3m。マシュなら飛び越えられるのだろうが、ローガン一人やオルガマリーにとっては無理な注文だった。

 現在彼等が走っている道路に脇道は無い。つまり、彼等は完全に袋小路に入ってしまったのだ。

 進めないと確信したローガン達は走るのをを止めてしまう。

 

『サーヴァント反応、距離30メートルを切った!』

 

 ロマニは計器類が測定する残酷な現実を通信で伝える。

 

「どうするの、もう逃げられないわよ!」

「そんな事は分かってる!」

 

 オルガマリーの言葉に、ローガンは思わず声を荒げる。

 その時、背後で何かが降り立つ音が聞こえた。その音と同時に、ローガンはこれまでで一番の悪寒を感じる。

 

「見知らぬサーヴァントに見知らぬマスター……ああ、なんて瑞々しい……」

 

 美しい透き通った、けれどもどこか恐ろしい女性の声。ねっとりと舐め回すような喋り方に、ローガンは全身の毛が逆立つような感覚を覚える。

 ヤバイ、殺される。ローガンはそう直感した。

 ローガンは振り返り、即座に声のした方向へM4A1を向ける。既にマシュは盾を構え、臨戦態勢に入っている。

 その声の主は女性だった。陶磁器のような病的なまでに白い肌。豊満で女性的な肢体に黒を基調とした扇情的な服装を纏い、頭部を覆っているフードからは長い髪が垂れ、整った顔と金色の瞳が覗いている。

 美しい女性だ。だがその両手には、歪な槍のような禍々しい得物が握られている。

 

「あれがサーヴァントか……!」

 

 ローガンの言葉に、女は端正な顔に邪悪な笑みを浮かべる。女の全身から溢れ出るおぞましいほどの殺意に、ローガンは自身の頰に冷や汗が伝うのを感じる。

 

「確かにサーヴァントです。でもマスターの姿がどこにも……」

 

 マシュは盾を構えながら疑問を口にする。ローガンはサーヴァントの周りを確認するが、確かに周辺にはマスターらしき人影は確認出来ない。

 ローガンの記憶が正しければ、サーヴァントが限界するためには魔力補給源となるマスターが必要なはずだ。

 

「ここはもう狂った世界よ。マスターのいないサーヴァントがいても、おかしく無いわ……!」

 

 オルガマリーが銃の形にした手をサーヴァントに向けながらそう答える。

 ここは特異点。通常が異常に、日常が非日常に変貌した世界だ。イレギュラーの一つや二つは普通に起こりうるという事か。

 すると突然サーヴァントは両手の得物を構え、こちらへゆっくりと近付き始めた。

 

「……どちらにせよ、俺達を見逃してくれるって訳ではないな」

 

 じりじりと距離を縮めてくるサーヴァントに、ローガンは銃口を向けながらそう毒吐く。

 既に彼等に残された道は二つ。戦うか、死ぬかだ。

 

「……戦うしか、ありません」

 

 マシュは声恐怖を押し殺した声でそう言うと、一歩前に出る。

 現状、サーヴァントとまともに張り合えるのは三人の中で彼女だけだ。彼女を前に出すのは妥当な判断だろう。だが精神面では不安がある。未だに恐怖を強く感じている彼女が、サーヴァントを相手に勝てるだろうか。

 

「……こちらも可能な限り援護する……頼めるか、マシュ」

 

 ローガンは険しい表情でM4A1を構えながらマシュに近づき、彼女の側で耳打ちする。

 

「……………はい。最善を尽くします……!」

 

 マシュが盾を構えながら、サーヴァントに向けてゆっくりと歩き出す。

 

「ああ、勇ましい……そして初々しい……」

 

 その様子を見つめているサーヴァントは恍惚の表情を浮かべる。

 

「貴方、サーヴァントとして戦うのは初めて? なら先輩として教えてあげる」

 

 サーヴァントは自分の手中にある槍を回転させる。歪んだ切っ先が炎を反射して輝いた。マシュは腰を屈め、盾を地面に接触させ、固定する。

 

「言動には気を付けなさい。……戦うと口にしたら、もう行為は始まっているのですからっ!」

 

 そう言い放つと、サーヴァントは槍を構えて跳躍した。

 マシュに向けて跳躍したサーヴァントは、彼女が持つ盾にその槍を振り下ろす。瞬間、金属同士がぶつかり合う鈍い音が響く。

 

「くっ……!」

 

 攻撃の衝撃が強かったせいか、マシュの口から苦悶の声が漏れる。その様子を見たサーヴァントはニタリと笑い、一旦後ろに下がると再び槍を振り下ろした。

 連続で盾に攻撃を加えるサーヴァントに、マシュは何とか耐えているものの防戦一方だ。

 

「必死ですね、大変良い」

 

 連続で攻撃を繰り出しているにも関わらず、サーヴァントは顔色一つ変えずに笑みを浮かべている。その笑みはまるで、獲物を痛め付ける肉食獣のようだ。

 

「でも気を付けなさい。私の槍は不死殺しの槍。この槍でつけた傷は何をしても治らない、肉体を完全に治癒できる奇跡であろうとも!」

 

 その言葉に傍らで戦闘を見ていたローガンは耳を疑った。

 どのような術を施しても治癒する事のない傷をつける槍。そんな恐ろしい物が実在している。それどころか目の前のサーヴァントが使用している事に衝撃を覚える。

 もしあの槍で深い傷を受けるような事があれば、その傷は治る事なく傷を負った人間を苦しめ続けるだろう。サーヴァントの言い方からすると、その効果はマシュのようなサーヴァントにも有効なのだろう。

 

「分かりましたか。僅かでも受け損なえば––––!」

 

 サーヴァントは一呼吸置いて、マシュの盾を槍の石突きで突く。槍の勢いは凄まじく、盾との間から火花か電流のような何かを撒き散らしている。

 

「貴方は一生、サーヴァントとして不出来になるのです!」

 

 サーヴァントが槍を一気に押し込み、盾を弾き飛ばす。マシュは一瞬体勢が崩れたが、すぐに復帰して盾を構えた。

 

「ハァッ!」

 

 だが彼女が立て直す間にできた一瞬の隙をサーヴァントは見逃さない。間髪入れずに槍をマシュに向けて振り下ろす。

 幸いにもマシュは槍の穂の部分に当たりはしなかったものの、柄の部分が彼女の左肩に命中する。

 

「––––ッ! ……やぁぁぁぁっ!」

 

 柄の直撃を受けたマシュは一瞬怯んでしまうものの、すぐに体勢を立て直し、サーヴァントに向けて突進する。

 二人のサーヴァントが衝突したことにより、砂埃が舞い上がる。マシュはサーヴァントと共に砂埃の向こうへと消えていった。

 

「マシュ!」

 

 ローガンはそう呼び掛けるが、返事はない。代わりに帰ってくるのは金属がぶつかる音だけだ。

 

「……クソッ!」

 

 悪態をついたローガンはM4A1のフォアグリップを外し、その代わりにバレルにOKC-3Sを装着した。

 あのサーヴァントは近接戦闘を主としている。そのために、ローガンも近接戦闘に対応出来るようにAR-15系列小銃用の銃剣であるOKC-3Sを取り付け、銃剣格闘では邪魔になるフォアグリップを外したのだ。

 

「待ちなさい!」

 

 準備が完了し、マシュの援護に向かおうとしていたローガンをオルガマリーは唐突に呼び止める。

 

「今度は一体何だ!? 早く援護に向かわないとマシュが死ぬぞ!」

「アナタが行った所で足手纏いにしかならないのよ!」

「何だと……!?」

 

 ローガンは怒りの篭った声を漏らすと、思わずオルガマリーに掴みかかりそうになる。

 

「足手纏いになると何故言い切れる!? あのままマシュ一人で戦っても勝ち目は無いだろ!」

「アナタの言い分も分かる! でもアナタじゃサーヴァントには太刀打ちできないわ!」

 

 オルガマリーの言葉にローガンは疑問を覚える。確かにローガンとサーヴァントの実力差は圧倒的で、太刀打ちできないというのも至極真っ当な話だ。

 だがローガンの手には銃が握られている。あのサーヴァントは近接戦闘が主体であり、距離をとって射撃すればある程度のダメージを与える事は可能なはずだ。それなのに、なぜオルガマリーは足手纏いになると言ったのだろうか。

 

「一体どういう事––––」

「よく聞きなさい! サーヴァントに銃は効かないの!」

「––––––––何?」

 

 ローガンは再び声を漏らす。だがその声に孕んでいた感情は、怒りではなく驚愕だった。

 

「サーヴァントは高位の霊体、通常の物理攻撃は効果が無いの! だからアナタがいくら銃弾を撃ち込んだ所で、サーヴァントには傷一つ付かないわ!」

 

 通常の物理攻撃が効かない。それはつまり、銃弾も、手榴弾の爆風や破片も、ナイフの斬撃も、ローガンが持ち得る攻撃の手段の全てがサーヴァントには通じないという事だ。

 

「……冗談だろ」

 

 ローガンは俯き、手を握り締める。

 肝心な時に役に立たない。何百人もその手で殺してきたくせに、少女一人助けることすら出来ないのか。

 ローガンはそんな自身の無力さに声を震わせ、M4A1のハンドガードとグリップを強く握りしめる。

 

「……それでもだ」

 

 それでも、何かしなければならない。このまま何もしないままマシュを見殺しにするより、マシュを援護して彼女が勝利できる確率を上げた方が断然有意義だ。

 ローガンはM4A1を構え直すと、マシュとサーヴァントが戦いを繰り広げている方へと走り出した。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! さっきの話聞いていたの!?」

「ああ勿論、全部聞いていた」

「それならどうして––––」

 

 オルガマリーの問いにローガンは振り向く。その表情には、頑なな決心が浮かんでいた。

 

「もう部下の死んでいく様なんざ見たくないんでな。……銃弾が効かなくても、囮ぐらいにはなれる」

 

 そう言ってローガンは再び走り出す。その行動にオルガマリーは数秒間呆気にとられる。

 

「……ああもう! なんであんな馬鹿な真似ができるのよっ!」

 

 ハッと我に帰ったオルガマリーは、そう叫んで既に遠ざかったローガンの背中を睨み付けた。

 

 

 ––––––––––––––––

 

 

 走りながら、ローガンは心の中で自嘲する。

 今まで何度も無謀な事をこなして来たが、今回のそれは群を抜いている。例え彼が囮になれたとしても、勝てるかどうかは実際の所、不明瞭だ。下手すればマシュ共々殺される可能性すらある。

 戦場において、僅かな確率に賭けるなどという行動は大抵が愚行となる。わざわざ危ない橋を渡るのは愚かな勇者か、自分以外の事を考えない狂人だ。

 だがそれでも、そんな無謀さが戦局を左右し、勝利へと導く事は多々ある。今回のローガン選択も、そういった無謀さに類するものなのだろう。

 それになにより、ローガンはこれ以上部下や同僚を失いたくないのだ。マシュはすでに彼のサーヴァント、部下なのだ。イラクで起きたあの出来事を、彼は決して忘れていない。二度とあの時のような事を繰り返さない––––ローガンはそう心に決めていた。

 

「……さあ海兵、嵐の中へ突っ込む用意はいいか?」

 

 ローガンは自身に言い聞かせるように呟く。その表情は自分の愚かさを揶揄しているのか、少し笑っているように見えた。




 どうも、作者です。
 まず最初に、ここまで読んで頂きありがとうございます。
 そして第二に、三ヶ月も待たせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
 諸事情があって色々と忙しく、また軽度のスランプにも陥っていたのが原因でした。
 次回の投稿は出来るだけ早くしますので、これからも何卒お願いします。

 今回で遂にサーヴァント戦に突入します。
 銃でサーヴァントに太刀打ちできるかは、次回で判明します。
 ではでは皆さん、また12話で!

 7/12 追加報告:文字数が流石に多いと判断したため、11話を分割、前編と後編に分ける事にしました。
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