Fate/Medal of Honor   作:A-10教徒

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Mission.11『VS.サーヴァント』後編

 ––––––––––––––––

 

 

 盾と槍がぶつかり合い、双方の間から火花が散る。

 

「くっ……!」

 

 サーヴァントが連続で繰り出してくる攻撃を、マシュは何とか受け止めている。だがサーヴァントの方が一枚上手であり、マシュはサーヴァントの勢いに押されて来ている。

 このままではマシュは押し負けてしまう。だがマシュの武装は盾のみで、その盾も敵の攻撃を防ぐので精一杯だ。つまり現在の彼女には攻撃に使用できる武装の一切が手元に無い状態なのである。

 マシュはこの状況を打開できる策を探るが、目の前のサーヴァントはそう言った隙を一瞬たりとも見せようとしない。それどころか逆にマシュが追い詰められている。戦闘経験はサーヴァントの方が圧倒的に上であり、戦闘に関しては素人となんら変わりないマシュには荷が重すぎる。

 そして、打開策を模索していたマシュは、ほんの一瞬だけサーヴァントから意識を逸らしてしまう。

 

「––––––そこ!」

 

 連続で繰り出される攻撃に疲弊していたマシュが見せた一瞬の隙を、サーヴァントは見逃さなかった。サーヴァントはそう叫ぶと盾を槍で側面から殴る。ガキンという鈍い音とともに、マシュとサーヴァントを隔てていた盾は弾き飛ばされる。

 マシュは体勢を立て直そうとするが時既に遅く、彼女の視界には槍を振り上げるサーヴァントの姿があった。

 嬉しそうに顔を歪めたサーヴァントは、そのまま槍を振り下ろそうと腕に力を込める。

 

 ––––その瞬間、サーヴァントの後方から飛んで来た三発の銃弾が、彼女の右腕の肉を抉った。

 

「なっ––––⁉︎」

 

 サーヴァントは驚愕の表情で眼を見開き、肉を抉られた自身の右腕を見る。その驚きは自身への攻撃ではなく、その攻撃手段に向かられたものだった。

 2004年の冬木に召喚された彼女には、聖杯から銃という武器についての知識を与えられている。勿論、それが彼女らサーヴァントに傷一つ付ける事が出来ないという事も含めて。だが先程彼女を傷付けたのは、紛れもなく現代の銃弾だった。

 サーヴァントは銃弾が飛んで来た自身の背後へと振り向く。彼女がそこで見たのは、銃を構えるデミ・サーヴァントのマスターの姿だった。

 

「いつから敵が一人だけだと思い込んでたんだ。クソ売女」

 

 ローガンはそう毒突き、サーヴァントに照準を合わせる。

 サーヴァントは驚愕の表情を浮かべているが、内心ではローガンも酷く驚いていた。

 サーヴァントの情報に関して、ローガンはその道の専門家であるオルガマリーの言葉は基本的に信用している。だからサーヴァントに銃が効かないという話も9割方信用していた。

 しかし、現実は違っていた。一か八か、囮になるつもりでローガンが放った銃弾は、確実にサーヴァントの右腕を抉っている。オルガマリーの話が間違っていたのか、それとも何か別の要因があるのか……ローガンは疑問が尽きなかった。

 だが今はそんな事を思考している暇はローガンには無い。目の前には倒すべき敵がいて、自分はソレに銃口を向けている。ローガンは躊躇せずにM4A1のトリガーを引いた。

 しかしながら、彼女もサーヴァント。一度受けた攻撃を躱せないほど弱くはない。

 彼女は素早く身体を屈め、銃弾を避ける。そのまま彼女は地面を強く蹴り、獲物を捉えた肉食獣の如き素早さでローガンの元へと駆け出した。

 

「チッ……!」

 

 ローガンは急接近してくるサーヴァントに向けて連続で発砲するが、全て避けられてしまう。

 そのままローガンの懐に入り込んだサーヴァントは、彼に向けて槍を突き上げる。ローガンは咄嗟に銃剣を振るい、双方の武器の刃から火花が散る。

 だがサーヴァントと生身の人間では身体能力の差は圧倒的で、サーヴァントの攻撃の勢いに押し負けたローガンは後方へと吹き飛ばされてしまった。

 

「ガァッ––––!」

 

 吹き飛ばされたローガンは地面に打ち付けられ、数回横転する。

 15メートルほど吹き飛ばされた所でローガンはなんとか体勢を立て直すが、サーヴァントは既にローガンに槍を向けて歩いて来ていた。

 

「––––サーヴァントを傷付ける事の出来る銃を持っているとはいえ、所詮はただの人間。話になりませんね」

 

 サーヴァントは再び歪んだ笑みを浮かべ、ゆっくりとした歩調でローガンへと近づく。ローガンが与えた銃創の影響か、その右腕からは少なくない量の血が滴っている。

 ローガンは口の中に溜まった血を吐き出すと、セレクターをフルオートに切り替えたM4A1を構え、サーヴァントに向けて発砲し始めた。

 

「無駄な事を……」

 

 サーヴァントはそう言って身体を捻る。ローガンは弾倉に残っていた8発の5.56×45mm弾を全弾撃ち込むが、右肩を掠った1発以外の全てを躱されてしまう。

 ローガンは小さく舌打ちをすると、M4A1のマガジンリリースボタンを押し、空になった弾倉を銃本体から外す。

 

「幾ら撃っても無駄な事です。貴方のようなただの人間が、サーヴァントに勝てるとでも?」

 

 新しい弾倉を挿入し、ボルトリリースレバーを押して弾薬を装填し終えたローガンは銃口をサーヴァントに向けながら顔を上げる。すると彼は突然、フッとほくそ笑んだ。

 目の前の男の余裕そうな様子に、サーヴァントは訝しげな表情でローガンを見た。

 

「なに、お前みたいな人外に勝てるなんて、はなっから思っちゃいないさ」

「では何故––––」

 

 サーヴァントの言葉に、ローガンは先程よりも少しだけ口角を釣り上げる。

 

「……自分には到底太刀打ちできない相手が出て来たのならどうするか。

 話は簡単、そいつには別の同族をぶつけてやればいいだけの話だ。戦車には戦車、戦闘機には戦闘機––––」

 

 ローガン言葉を聞き、サーヴァントの脳裏には自身の背後にいるであろうあのデミ・サーヴァントの存在が咄嗟に浮かぶ。

 

「––––そしてサーヴァントにはサーヴァントって具合になぁ!」

 

 ローガンがそう叫んだ直後、サーヴァントは背後から接近してくる何らかの気配を察知して振り向く。目の前の男に気を取られ、彼女は完全にその存在から気を逸らしてしまっていたのだ。

 そして振り向いた彼女の視界の先にあったのは、自身に向けて突進してくるデミ・サーヴァントの盾だった。

 

「やぁあああ!」

 

 マシュの叫びとともに盾はそのままサーヴァントに激突する。サーヴァントは即座に防御の体勢を取り、彼女の突進をなんとか食い止める。

 サーヴァントがこちらから気を逸らしたのを確認したローガンは、彼女の背後から連続で発砲する。

 

「っ……!」

 

 銃弾はサーヴァントの背中を貫き、エーテルで構成された肉体を引き裂く。それは多少なりとも効果があった模様で、サーヴァントは苦悶の声を上げて顔をしかめた。

 しかし、サーヴァントは倒れる気配を見せない。胴体に4発、右腕に3発。並の人間なら致命傷どころか既に死んでいてもおかしくない数の銃弾を受けているのにも関わらずだ。

 

「成る程、これがサーヴァントとやらか……!」

 

 サーヴァントの力を目の当たりにしたローガンは、思わず感心してしまう。

 一方で銃弾を食らったサーヴァントは自身の周りを飛ぶ虫を鬱陶しがるような表情でローガンを見る。その一瞬の隙にマシュがサーヴァントに向けてタックルし、彼女の体は小さく宙を舞った。

 

「先輩!」

 

 マシュがそう呼び掛けると、ローガンは彼女の元へ向けて全力で走り出す。吹き飛ばされていたサーヴァントも、猫のように軽やかに着地したと同時にローガンを追い始めた。

 

「ああクソッ!」

 

 ローガンとサーヴァントの距離はすぐに縮まり始める。人間とサーヴァント、身体能力の差は歴然だった。

 

「これで……仕留めた!」

 

 サーヴァントがそう叫び、彼女の槍がローガンの首を屠ろうとした瞬間に、彼と槍の間に巨大な盾が割り込んだ。

 盾と槍が火花を散らしてぶつかり合う。間一髪の所でマシュがサーヴァントの槍を防いだのだ。

 

「……っ! 余計な邪魔を!」

「先輩に手出しは、させません!」

 

 マシュは足を震わせながら声を張り上げる。だがその目には、確固たる意志が宿っていた。

 一秒にも満たない睨み合いの後、サーヴァントは後方へと跳んでマシュと距離を取る。

 

「先輩、ご無事ですか⁉︎」

 

 マシュは不安げな様子でローガンの方を向いてそう呼び掛ける。その呼び掛けに、ローガンは無言で頷く。それを見たマシュはホッと表情を緩めた。

 その様子を見たローガンも少しだけ口角を吊り上げるが、サーヴァントのいる方向を見るとすぐに表情を強張らせる。

 

「マシュ、12時の方向から敵接近!」

「……! 了解です!」

 

 ローガンの警告でマシュが盾を構え直すと同時に、サーヴァントが再び二人に襲い掛かった。

 ガンと鈍い音が響き、マシュの盾とサーヴァントの槍が火花を散らす。双方とも自身の獲物を激しく振るい、その度に激しい風圧が生み出された。

 ローガンもマシュの背後でただ突っ立っている訳ではない。二人の攻防が膠着する毎に一瞬だけ生まれる隙を突いて、マシュの盾の上からサーヴァントに銃撃を加える。

 しかし、銃による攻撃は既に警戒されているのか、サーヴァントは自身に向かってくる銃弾の大半を躱していた。命中弾もあるにはあるが、効果はほとんど無いと言っても過言ではなかった。

 

「クソ……このままじゃ埒が開かないどころか、下手したらジリ貧だぞ……!」

 

 サーヴァントからの攻撃を盾で受け流しているマシュの背後で、ローガンは膠着している戦況に苦言を漏らす。

 マシュには盾による相当の防御力があるが、武装がその盾だけということもあって火力不足だ。ローガンには銃があるが、並の人間の能力を遥かに凌駕するサーヴァント相手にははっきり言って効果は薄い。その上マシュもローガンも対サーヴァント戦はこれが初。火力も経験も敵サーヴァントの方が上だ。

 

「一体どうする……考えろ……考えろ……!」

 

 ローガンはサーヴァントに発砲しながら、頭をフル回転させ、この状況の打開策を模索する。

 何か、何か無いのか。奴にダメージを与えつつ、距離を取らせる事が出来るものは––––。

 

「––––そうか」

 

 瞬間、ローガンはハッとした表情を浮かべた。そう、自分は何かを吹き飛ばすのに最適なモノを装備しているではないか。銃が効くなら、これも効くはずだ、と。

 ローガンが策を思い付いたのも束の間、先程までのものより一回り大きい音が響く。マシュとサーヴァント、双方の力を込めた一撃がぶつかり合ったようだ。

 先程の攻撃で隙が出来たのか、サーヴァントは後方へ跳躍し、マシュも数歩後ずさりする。ローガンはマシュと歩調を合わせながら、サーヴァントにM4A1を構えて引き金を数回引く。

 20メートル後方に着地したサーヴァントは弾丸を全て避け、再び体勢を整えてローガン達の方へと跳んだ。

 

「やるなら今しか無いか……!」

 

 ローガンは小声で呟きながらM4A1を下ろし、ポーチからM67破片手榴弾を取り出して安全クリップと安全ピンを引き抜く。

 サーヴァントの跳躍の初速から、彼女がローガン達の元に到達するまでの所要時間は最大でも二秒ほど。

 M67は安全レバーを外してから約5秒後に爆発する手榴弾だ。今ローガンが安全レバーを外しても、爆発するのはサーヴァントが彼等の元に辿り着いてから約3秒後の話だ。

 3秒。それは一聞すればとても短く感じるだろうが、戦場––––それも状況が刻一刻と変わる最前線では、十分に長い時間だった。

 これから迎える3秒という時間は、ローガン一人では決して乗り越えられないだろう。

 だが、今のローガンは一人では無い。

 何故なら、彼の傍らにはサーヴァント––––それも防御に関しては十二分に信用していい存在が居るのだから。

 

「マシュ! 前に出て奴の攻撃から3秒だけ時間を稼いでくれ!」

「了解です!」

 

 ローガンはM67の安全レバーを外し、マシュに指示を出した。安全レバーが外れた事により、M67内部の信管の導火線が発火し始める。

 タイムリミットは5秒。それが過ぎれば、ローガンの右腕は跡形も無く吹き飛ぶだろう。

 ああ、なんてクソみたいな状況だ。そうローガンは心の中で吐き捨てるが、その表情は、微かに笑っていた。

 

 ––––1秒。マシュがローガンの正面に出る。

 ––––2秒。サーヴァントがマシュの盾に攻撃を開始する。

 ––––3秒。サーヴァントに猛攻に、マシュはジリジリと後退していく。

 ––––4秒。ローガンは自身のすぐ近くまで後退してきたマシュのその肩を支えるかのように手を置き、右腕を大きく振りかぶる。

 ––––4秒50。ローガンはサーヴァントにM67を投擲する。

 ––––そして5秒10。丁度サーヴァントとマシュの盾の中間に至ったM67の信管が作動した。

 

 M67に内蔵されている6.5オンス(184グラム)のコンポジションB混合爆薬が爆発し、内部の硬質鉄線や外殻の破片を超音速で飛散させる。

 それらの破片や爆風は、サーヴァントとローガン達に襲い掛かり、同時に三人を吹き飛ばした。

 

「「「ッ––––!」」」

 

 ローガンはマシュ諸共に吹き飛ばされ、地面に倒れる。

 更にその上からマシュとその盾が勢い良くのしかかり、その双方の––––主に盾の––––重量に、ローガンは少しだけ呻き声を上げる。

 

「––––! 先輩、大丈夫ですか⁉︎」

 

 自分がローガンをクッションにしていると気付いたマシュはすぐに彼の上から退き、片手を差し伸べる。

 

「……っああ。破片及び爆轟による外傷は無し。お前と盾の落下も影響無しだ。」

「そうですか……」

 

 ローガンが無事だった事でマシュは安心したのか、ホッとした表情を浮かべる。

 だがローガンはマシュではなく、2メートル先で倒れているサーヴァントを見ていた。マシュもそれに気付き、そちらを見る。

 服装も肉体もボロボロになったサーヴァントは微動だにせず、槍も彼女の手から離れ、転がっている。

 それはまるで、時が止まっているかのように錯覚してしまう程だった。

 

「死んだ……のか?」

 

 ローガンは真っ先にその疑問を口にする。

 例えサーヴァントでも、至近距離で破片を受けたのだ。相当なダメージを食らったのは間違いない。

 だがまだ仕留められたという確証も無い。

 ローガンは生死を確認するため、動かないサーヴァントにM4A1を向けて引き金を引こうとする。

 ––––その瞬間、サーヴァントはゆらりと立ち上がった。

 

「な––––––⁉︎」

 サーヴァントは既にボロボロだ。右腕は千切れ、腹部や脚は所々抉れて肉や臓物が見える。それでも、彼女は立っていた。

 ローガンはすぐに引き金を引こうとしたが、サーヴァントの幽鬼の如き様子に一瞬だけ躊躇してしまう。

 それがいけなかった。サーヴァントはゆらりと体を動かし、地面を蹴った。

 彼女は凄まじい速度でローガン達の目の前に迫ると、マシュを片足で蹴り飛ばし、ローガンの首を左手で掴んで地面に叩きつける。

 

「ガッ––––––!」

 

 首を絞められ、ローガンは呼吸すらままならなくなる。サーヴァントは更に左腕に力を込め、ローガンの首からはミシミシと音が鳴り始めた。

 ローガンはサーヴァントの顔に目を移し、その形相に戦慄する。

 彼女の顔面の右半分は筋繊維が見えるほどに抉れており、頰は裂けて口腔内の様子が容易に観察出来る。しかしその眼から生気は失われておらず、寧ろ更に苛烈な色を浮かべている。

 何とかしなければ、とローガンがM4A1を手に取ろうとしたその時、突如としてサーヴァントの双眼が光を帯びる。

 

 その瞬間、ローガンの身体は硬直した。

 

「––––––⁉︎」

 

 突然の出来事にローガンは困惑する。幾ら動こうとしても、身体は文字通り指一本動く気配は無い。声も上げる事すら出来ず、辛うじて眼球を動かす事が出来るのみだ。

 呼吸も心拍も、冬眠時の熊のように通常のそれよりも遥かに遅くなっている。

 ローガンが硬直している間も、サーヴァントは腕の力を弱める事は無い。

 

「––––ァ––––ッ」

 

 脳に血液が回らなくなる。呻き声を上げようとしても、舌も口も動こうとしない。出るのは空気が掠れる音のみだ。

 

「……最初からこうしておけば手っ取り早かったというのに、少し興に乗り過ぎましたね」

 

 もがく事も出来ないまま苦しむローガンの様子を見つめながら、サーヴァントはニタリと笑みを浮かべて自嘲するようにそう呟く。

 

「ですがこれで終わりです。貴方を殺したら、次は貴方のサーヴァントを仕留めましょう」

 

 サーヴァントはその蛇のような舌で舌舐めずりし、左腕にゆっくりと力を加え始めた。

 薄れそうになる意識を保つために、ローガンは両手を握り締める。

 

「……ほざ、け」

「!」

 

 突然、ポツリと零すようにローガンはそう呟いた。

 サーヴァントは驚きのあまり腕の力を緩めてしまう。その混乱も当然のものだろう。自身の魔眼に魅入られ、全身麻痺しているはずの男が口を開き、更に声を発したのだから。

 

「簡単に、殺せると……思う、なよ……。

 ……海兵隊を……舐めるな……!」

 

 早く殺さねば。サーヴァントはそう思い、更に腕に力を込めようとする。

 その瞬間、身体に何かが当たる感触と共に、彼女の全身が硬直した。

 

「なっ––––⁉︎」

 

 何かが飛んで来たであろう方向にサーヴァントが目をやると、そこにはサーヴァントに人差し指を向けているオルガマリー の姿があった。

 

「何やってるの! 動きは止めたんだから早く何とかなさい!」

 

 オルガマリーはローガンに向けてそう叱咤する。それに応えるように、ローガンはオルガマリーの方向を向いて頷く。

 先程より身体の自由が効くようになったのを感じたローガンはホルスターからM45A1を引き抜き、スライドを引く。そのまま彼は西部劇のガンマンのようにM45A1を腰の高さで構え、即座に全弾を発砲した。

 秒速270メートルで発射された7発のホローポイント弾––––ハイドラ・ショックはサーヴァントの腹部に命中し、弾頭をマッシュルーム状に変化させながら彼女の体内を進む。

 

「–––––––ッ!」

 

 .45ACP弾の中でもトップクラスのストッピングパワーを誇るハイドラ・ショックを至近距離で受けたサーヴァントは小さく仰け反り、ローガンの首から手を離す。

 ローガンは落ちていたM4A1を取り、OKC-3Sを突き刺す。そして倒れたままサーヴァントを全力で蹴り飛ばし、起き上がって後退りしながらM4A1を発砲した。

 硬直が解けたサーヴァントは弾丸を受けながらも、傍に落ちていた彼女の槍を持ち、起き上がってローガンに飛び掛かろうとする。

 

「クソッ……!」

 

 ローガンは無意味と分かりながらもM4A1を盾にする。そして、サーヴァントの槍がローガンを屠ろうとした瞬間––––

 

「––––やぁぁぁっ!」

 

 ––––左側面から突っ込んできた巨大な盾が、彼女に激突した。

 

「マシュ!」

 

 盾の主であるマシュは盾を大きく振り、サーヴァントを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたサーヴァントは大きく放物線を描きながら宙を飛び、そのまま落下した。

 

「先輩、ご無事ですか⁉︎」

 

 マシュはローガンの方を向いて、息を切らしながら必死な様子でそう尋ねる。

 

「俺は無事だ! それより奴の状況を確認しろ!」

 

 ローガンはそう叫んでサーヴァントが落下した方向を指差す。

 そう、何より重要なのは敵の情報だ。情報が無ければ作戦を立てる事も、効率性を上げる事も出来ない。とにかくあのサーヴァントがどうなったかを知らねばならなかった。

 

「は、はいっ!」

 

 ローガンの言葉にハッとしたという様子のマシュは、急いでサーヴァントのいる方向へと駆け出す。ローガンもそれに追随し、オルガマリーも取り残されまいと二人に着いて行った。

 

 

 ––––––––––––––––

 

 

 ローガンはマシュのすぐ後ろでM4A1を構えながら、サーヴァントが落下した地点に小走りで接近する。数mほど進んだ所で、ようやくサーヴァントの姿が確認できた。

 サーヴァントは瓦礫にもたれ掛かるように倒れており、動く気配を全く見せない。

 まだ生きているのか、それとも今度こそ死亡しているのか。一目見ただけではローガンには判断出来なかった。

 試しにと一発だけ撃ち込む。銃弾はサーヴァントの腹部に命中したが、サーヴァントはやはり微動だにしない。

 やはり死亡しているのだろうか。

 

「––––ん?」

 

 ふと、ローガンはサーヴァントの左手に目をやる。彼女の指先の輪郭から、黒い粒子の様なものが漏れ出ているのが見えた。

 

「これは––––」

「消滅しかけてるのよ」

 

 後ろにいたオルガマリーがそう答える。

 

「消滅だって?」

 

 ローガンは視線と銃口をサーヴァントに向けながら、オルガマリーの言葉に反応する。

 

「ええ。

 サーヴァントには霊核というものがあって、それを魔力で出来た肉体で包む事によって成立している。

 霊核はサーヴァントが現界し続けるために必要なの。だから肉体のダメージ等で霊核が消耗・損傷しすぎると、現世に居続ける事が出来なくなってしまうわ」

「なるほど……それは、つまり––––」

 

 俺達は勝てたという事か。

 そう口に出そうとした矢先、ローガンはサーヴァントの左手が黒い粒子に変わって行くのを見た。

 

「ッ⁉︎」

 

 そのまま両脚が、その次には大腿部が粒子と化す。

 サーヴァントは徐々に全身が黒い粒子に変換されて行き、そして最後には、跡形も無く消え去ってしまう。

 空中に浮かび上がった粒子もしばらく上昇を続けたが、塩が水に溶けるかのようにすぐ消滅した。

 

「勝った……らしいな」

 

 ローガンは恐る恐る確認するように、そして確信するようにそう呟く。

 すぐ側に居たマシュはその言葉を聞くと、倒れるようにその場にへたり込んでしまった。

 

「…………勝てた……絶対ダメだと思ったのに、勝てた––––」

 

 マシュはそう言って安堵のため息を吐く。

 ローガンから見ても、やはり彼女は相当相当怖がっていた。戦闘中、彼女の脚はずっと震えていたのだから。

 張り詰めていたものが緩み、それと一緒に身体の力が抜けたのだろう。あのような怪物を相手に戦ったのだから、無理もない。

 その様子を見たローガンも、銃剣をM4A1から取り外して鞘に戻す。

 

「……ああ、勝ったんだ。良くやったなマシュ」

 

 ローガンは片方の口角を緩く吊り上げながら、マシュにそう声を掛けて手を差し伸べる。

 マシュは嬉しそうな表情を浮かべ、静かにその手を取って起き上がる。

 

『……ゴメン、休んでる暇はないんだみんな』

 

 突如として、ロマニから無線が入る。その無線越しの声は、ひどく深刻そうな様子だ。

 

『いまのはんのうとおなじものがそちらに向かっている。

 ……どうするべきか、言わなくてもわかるね?』

 

 その言葉に、場の空気が凍結した。

 今の反応と同じもの。それはつまり––––サーヴァントだ。

 

「え––––同じ反応って、そんな––––」

 

 マシュは信じられないという様子だ。そしてその声には仄かな絶望の色が見える。

 それもその筈だ。先程の怪物じみた––––怪物そのもののような女と同じような存在がもう一人、しかもこちらに向かって来ているのだから。

 

「––––クソッタレ、撤退だ! とにかくここを急いで離脱するぞ!」

 

 ローガンは即座にこの現実を受け入れ、皆に聞こえるように声を上げる。

 

「俺が先導する! マシュは殿を頼むぞ! 所長は俺とマシュの間に入れ!

 ロマン! 対象が接近する方位と距離、対象の速度は⁉︎」

『あ、ああ! 方位は東105度、現在距離はおよそ2.5km、現在平均速度は時速約60km/hだ!」

 

 ローガンは二人に指示を出し、端末に怒鳴りつける。ロマニはその気迫に少し驚くが、正確な情報をローガンに伝えて行く。

 情報を得たローガンはそれらを頭に叩き込み、端末でマップを表示する。マップ上には赤いマーカーが青いマーカーに向けて接近しているのが表示されていた。赤がサーヴァント、青がローガン達なのだろう。

 接触するまでの時間を最大限稼ぐには、対象が接近している方位とは逆方向に行くのが定石だ。

 ローガンはマップでその方角の直線上を見る。その方角の先には前に彼等が通った鉄橋––––冬木大橋があった。

 

「……よし。目標は決まったな」

 

 ローガンは小さく頷くとマップを閉じ、マシュ達の方を向く。

 

「これより我々は冬木大橋へと向かう! 橋に到着した場合、また途中で会敵した場合は、即座に敵と交戦状態に入る!

 とにかく橋まで走るんだ、いいな⁉︎」

「「『は、はい!』」」

 

 ローガンの迫力のあまり、マシュとオルガマリー、ついでのロマニの三人は思わず畏まった返事をする。

 

「フォウ!」

 

 フォウはローガンの足元まで近付くと、さっきの三人の真似をするかのように力強く鳴く。

 

「フォウ、お前はマシュと一緒に居ろよ」

 

 ローガンはそう言いながら、フォウの頭をわしゃわしゃと撫で回す。

 フォウは再び一鳴きすると、マシュの下まで駆けて行き、彼女の肩に乗った。

 

「……よし、準備はいいな⁉︎」

 

 ローガンはマシュとオルガマリーに最終確認を取る。二人と一匹は無言で頷いた。

 

「––––OK! Go! Go! Go!」

 

 その言葉と共に、三人は一気に走り出す。

 目指すは冬木大橋だ。




 どうも作者です。
 突然の分割でお騒がせしてしまい、誠に申し訳ありません。
 流石に多かったかなと思ったので、調整させていただいた次第です。

 今回で遂に、ローガンの銃がサーヴァントにダメージを与えられる事が判明しました。
 その要因については、また後々語らせて頂こうと思っている所存です。
 ではまた皆さん、12話で会いましょう!

 あと聞きたいのですが、1話あたりの文字数はどれ位が良いのでしょうか?
 小説の感想欄、もしくはTwitterの私の垢へのリプかDMで言って下されば参考にしようと思っております。
 私のTwitterのアカウントは@A10_GAU8です。
 皆さんのご意見、お待ちしております!

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