Fate/Medal of Honor   作:A-10教徒

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〈前回のあらすじ〉
防衛省にて、自身の魔術師の才能と、それを欲している機関からのスカウトを並木涼介一等陸佐に聞かされた立香は、その機関からのスカウトを了承する。
帰宅した彼は、かつての自身––––ローガン・K・アダムスの記憶の夢を見て、新たに覚悟を決める。
それから約5ヶ月後––––


Mission.3『旅立ちと歓迎』

 2015年8月 成田空港

 

「……………………」

 

 立香は空港内に設置されているベンチに座りながら、顔を上げて天井を見つめている。

 両親とは既に別れを告げており、今の彼は並木一佐と二人きりだった。

 

「搭乗時間まであと10分か……藤丸くん、用意は出来てるね?」

 

 腕時計を見ながら、一佐は立香に尋ねる。

 

「……はい、大丈夫です。」

「そうか。それじゃあ、ゲートに向かおう。」

 

 二人はベンチから立ち上がると、搭乗口に向かって歩き出す。

 しばらく歩いて、搭乗口に到着する。搭乗口の前には、アメリカへ帰国する者、日本から出国する者等、多くの人で溢れていた。

 スタッフにチケットを掲示し、ボーディング・ブリッジを通り、機内に入る。

 チケットの座席部分を見ると、そこはビジネスクラスと記入されている。それを見た立香は驚きのあまり、目を見開いてしまった。

 

「一佐、良かったんですか? ビジネスクラスなんて……」

「良いんだよ。これはある意味仕事だからね。」

 

 一佐は笑いながらビジネスクラスのある方向へ向かう。立香も苦笑いを浮かべながら、一佐に追従した。

 チケットに記された番号を確認し、指定された座席を見つける。座席はエコノミークラスのものと比べると、広くゆったりとしている。見た目だけでも快適そうだ。

 立香は座席に座り、備え付けられていた雑誌を取り出す。パラパラとページをめくっていると、CAのアナウンスが聞こえて来た。

 アナウンスは、この航空機がニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に向かう事を告げている。

 今回立香が留学するという設定の、ウェストポイント米陸軍士官学校はニューヨーク州にある。よって、偽装のためにニューヨークまで向かうのだ。

 

 旅客機が滑走路に進入する。暫くすると、離陸開始のアナウンスが入る。シートベルトを締め、座席に雑誌をしまう。旅客機は速度を上げ、飛び立った。

 成田からJFKまで約半日はかかる。眠れなければ相当暇だろう。

 だが幸いにも、ここはビジネスクラスだ。久しぶりにぐっすりと眠れるだろう。

 

 機体が水平飛行に入ると同時に座席を倒し、備え付けられていた毛布を体にかける。これなら5時間は眠れそうだ、と期待しながら立香は目を閉じた。

 

––––––––

 

 成田空港を発ってから、10時間ほど経った。

 自身の予想とは裏腹に、立香は合計で8時間も睡眠を取る事が出来た。まさしくビジネスクラス様々という所だろう。エコノミークラスよりもサービスが充実していたこともあり、退屈することも無かった。

 

「……I’m home. And good morning, USA.(ただいま。そしておはよう、アメリカ。)

 

 窓からはマンハッタンとアメリカの繁栄の象徴である、エンパイア・ステート・ビルをはじめとする超高層ビル群が並び立っている––––あの忌々しいグラウンド・ゼロも、その上にそびえる1ワールドトレードセンターも健在だ。

 彼がこの光景を見るのは。、実に約20年ぶりの事だ。祖国に帰ってきた、彼はそれだけでも十分嬉しかった。

 

 しばらくすると、立香の元にCAが朝食を運んでくる。

 最初に食事が運ばれてきた時、立香は大いに驚いた。なにせ彼にとって機内食と言えば、プラスチック製の容器に入った安っぽい物が全てであり、まさか皿に盛り付けられた料理が航空機の中で出されるとは夢にも思っていなかったのだ。

 

 朝食を食べ終え、食器が片付けられる。それからしばらくして、着陸準備のアナウンスが流れる。立香は座席を元に戻し、シートベルトを締めた。

 一佐は隣の座席で寝ているが、既にシートベルトを締めている。起こす必要は無さそうだ。

 旅客機は高度を下げ、着陸する。着陸すると同時に機体が揺れ、旅客機は徐々に速度を下げていき、停止する。

 

「一佐……並木一佐。」

 

 立香はシートベルトを外すと、一佐の体を揺する。しばらく続けていると、小さな呻き声を上げて一佐は目を覚ます。

 

「……ぇあ? 藤丸くん、もう着いたのかい?」

「はい、降りましょう一佐。あまり時間はありません。」

 

 背伸びして座席から立ち上がった一佐と共に、立香は出口へと向かった。

 入国審査を通過し、預けていた荷物を受け取り、税関を通過する。ロビーに到着すると、一佐は立香の方を向く。

 

「……さてと、私の管轄はここまでだ。後は君をスカウトした機関が君を迎えに来る。」

「一佐とはここでお別れ、という事ですね。」

「ああ。しばらくするとその機関の人間が来るから、その人間に着いて付いていくんだ。」

「了解しました。」

「それじゃあ。」

 

 立香と一佐は互いに敬礼すると、一佐はそのまま出発ロビーの方へと向かう。

 ふと、何かを思い出したかの様に、一佐は立香の方に振り返った。

 

「藤丸くん。」

「? 何でしょうか?」

「––––気を付けるんだよ。」

 

 そう言うと一佐はそのまま歩いていき、出発ロビーの方へと姿を消した。

 

「気を付けろ、か。」

 

 ベンチに座った立香は、一佐が最後に言った言葉の意味を探る。ただの注意喚起の言葉か、それとも、何か別の意味があるのか。

 

「……考え過ぎか。」

 

 そう言って、立香は天井を見上げ、一佐のあの言葉をただの注意と受け取る事にした。

 

「––––そういえば、そろそろだったな。」

 

 ふと、ローガンはある事を思い出した。

 

「––––俺が死ぬのは。」

 

 今から数日後に、かつての彼––––ローガンは、イラクで戦死する。

 かつての自分が死んだ瞬間、自身はどうなるのだろうか。立香は生まれ変わってしばらくしてからずっと、その事を考えていた。

 SNSには彼の部下のアカウントがあった。おそらくはローガンもこの世界にいるはずだ。

 もしその時がやってきたのなら、立香はどうなってしまうのだろうか。

 

「……やめよう、今更こんな事考えるなんて。」

 

 どんな結果が待っていようと、立香はそれを全て受け入れるつもりだ。

 

 ––––だが何故なのだろうか。何故、彼だけがこうなってしまったのか。何故彼だけ取り残されたのか。何故––––自分を殺してくれなかったのか。

 もし神がいるのなら、彼はこう問い質しただろう。

 それに、彼にはもう一つ。知りたい事があった。かつて彼が死なせてしまった部下だ。

 部下達は自身をを恨んでいるのだろうか。いつもそれが気になっていた。

 

 彼は今尚自責の念に囚われていた。もしあの時、ああしていれば……だが現実はこうだ。

 歴史にたら・ればなど無い。どれ程後悔しようとも、今は変えられないのだ。

 彼もその事は理解していた。だからこそ後悔しているのだ。自分が間違えなければ、あんな事にはならなかったと。

 

 ふと、立香は自身に近づいて来る複数の足音に気付いた。

 足音の聞こえる方に目をやると、3人の男が立香の方を見ていた。

 

「君が藤丸立香、だね。」

「……アンタらが例の機関の人間か?」

「そうだ。待たせてすまなかったね。」

 

 男の内の一人、リーダー格と思われる男が、立香に手を差し出す。

 立香は立ち上がってその男と向き合い、笑顔で差し出された手を握った。

 立香とて、目の前の男達を信用している訳では無い。だが、彼等がどういう組織なのか、どの様な力を持っているのかも分からない状態では、ある程度友好的な関係を保った方が良いと感じたのだ。

 

「さあ、こちらへ。」

 

 そう言って、男達は立香を連れ、ターミナルの出口へと向かう。

 ターミナルを出ると、彼等の物であろう黒塗りのセダンが止まっている。立香を含めた四人が車に乗ると、車はエンジンをかけ、動き出した。

 

「これを飲むといい。」

 

 隣に座った男は、立香にペットボトルに入った水を渡す。

 

「……ありがとうございます。」

 

 立香は会釈すると、恐る恐るペットボトルに口を付け、水を飲み出す。

 飲んだ印象としては、何の変哲も無い水で何も味はせず、おかしいという訳ではなかった。

 立香がそのまま水を飲み干すと、男達は驚いた表情を浮かべた。

 

「どうかしましたか?」

「っあ、いや、別に、何でもないよ。」

 

 男はそう言ったが、明らかに何か焦っている様な様子になったのに立香は気付いた。

 一体何を隠しているのだろうか。まさか、さっきの水に何らかの細工でも仕掛けていたのか。

 立香は彼等への疑いの念をさらに強める。その様子に気付いたのか、男は深刻そうな表情を浮かべた。

 

「すいません。目的地を聞いていなかったのですが––––––」

 

 立香が目的地を問おうとした瞬間、隣の男が掌をこちらに向ける。

 

Schlafen(眠れ), Schlafen(眠れ), Schlafen(眠れ)……」

 

 男がドイツ語で何かを呟き始めた瞬間、立香は自身の意識が遠のき始めるのを感じた。

 そのまま立香は意識を失いかけるが、右手を噛む事で何とか堪える。

 

「ぁっ……はっ……貴様……一体何を……!」

「っ! Schlafen(眠れ)! Schlafen(眠れ)! Schlafen(眠れ)!」

 

 男は怒鳴る様に先程の単語を唱え始めると同時に、意識が再び遠のき出す。

 

『……すまないね、藤丸君。これも必要事項なんだ。』

「–––––––––クソッ––––––––!』

 

 その言葉を最後に、立香は意識を失った。

 

––––––––

 

 赤ん坊の泣き声がする。しかしその泣き声は、普通のそれよりも遥かに弱々しいものだ。

 

『所長、遂に成功しましたね。』

 

 整然とした女性の声が聞こえた。

 

『ああ、これで我々の––––––––––––計画もやっと始動できる。これから頼むぞ、––––––––––––。いや、–––––––––––。』

 

 次に聞こえて来た男性の声には所々ノイズのようなものがかかり、うまく聞き取れなかった。

 

『さて、次は融合に使う––––の召喚だな。目星は––––––––』

『はい、既に––––––––––で決定しています。』

『そうか––––––––すぐに召喚を–––––––––––––––』

 

 ノイズは更に酷くなり、遂には何も聞き取れなくなる。

 そのまま、その声は消えてしまった。

 

 

 

 ––––それにしても、こんなただの一般人が、お前の睡眠魔術を耐えるとはな。

 ––––ああ全くだ。こいつ、本当にただの一般人なのか?

 ––––身辺調査は怠ってないさ。何の変哲もない、ただの一般人だ。

 ––––へえ、それでいてあれか、末恐ろしい奴だな。

 

 聞き覚えのある声が聞こえた事で、立香の意識は再浮上し始める。

 

「––––あ––––ここ、は?」

 

 立香は目を覚ますと、目の前に自身を眠らせた男が座っていた。

 

「––––! お前は––––!」

「落ち着いてくれ、藤丸君。落ち着いて、我々の話を聞くんだ。」

 

 男はそう言ったが、立香は目の前の男に飛び掛かろうとする。だが、立香は椅子に縛り付けられるようにシートベルトを締められていたために、動くことが出来なかった。

 男は指を一本立てる。

 

「まず一つ目。手荒な真似をしてすまなかった。機密保持のためだったんだ。」

「……ハッ。その手荒な真似のせいで、アンタ達の信用度は地に堕ちましたけどね。」

 

 男の説明に、ローガンは毒吐く。

 その態度が気に食わなかったのか、男は眉をピクリと動かすが、表情は変えずにそのまま話を続けた。

 

「そして二つ目。計15時間のフライトは、もうすぐ終わる。」

 

 男は指を二本立てる。

 

「……そういえば、ここは……」

 

 そう言って立香は辺りを見回す。見覚えのある狭いキャビンに、ローターの音が響く。窓から外を見ると、主翼の先につけられた大きなローターが見えた。

 立香は、この航空機を知っている。

 

「……オスプレイ?」

「ほう、よく分かったね。」

 

 そう、ここはV-22垂直離着陸機、通称オスプレイのキャビンだ。

 両翼端にあるローターの向きを変えることで、垂直離着陸を可能にするティルトローター機と呼ばれる航空機であるオスプレイには、様々な任務への兵員輸送の為に彼も何度か乗ったことがあった。

 立香はこの狭いキャビンに、懐かしさを覚える。

 

「そして三つ目。」

 

 男は右手の指を三本立てる。

 

「外を見てみるといい。」

「……なっ⁈」

 

 立香は窓に目をやり、そして目を見張る。

 その様子を見た男は、得意げな様子で手を広げる。

 

「ようこそ、人理継続保障機関 フィニス・カルデアへ。」

 

 外には、雪山の中に巨大な白い建造物があった。その建造物は、山に半分埋まっているような形状になっている。その内の露出している部分だけでも、米国防総省(ペンタゴン)の半分程の大きさだった。

 少なくとも、ここがアラスカやヒマラヤでない事は立香にも理解できる。こんな施設がある雪山など、公には知られていない。

 

「私はハリー・茜沢・アンダーソン。君をスカウトした張本人だ。茜沢と呼んでくれ。」

「……どうも、ミスター茜沢。」

 

 茜沢名乗った男は、座席から立ち上がって立香に手を差し出す。立香は渋々その手を握る。

 

「もうじき着陸するので、座席に戻ってシートベルトを締めて下さい。」

 

 操縦席に座っていたパイロットが、キャビンにいる立香達に向けてそう伝える。茜沢は座席に戻ると、シートベルトを締めた。

 

「藤丸くん、これを。」

 

 隣にいた男が、立香に防寒用のジャンパーを渡す。

 

「着ておくといい。」

 

 確かに外は猛吹雪だ。この様子では、氷点下10度を下回っているのは確実だろう。

 立香がジャンパーを着ると同時に、オスプレイはぐらりと小さく揺れた。

 

VTOL(垂直離着陸)モードへの変更完了。このまま降下、着陸する。」

 

 パイロットがそう告げると、機体は緩やかに降下し始める。そのままオスプレイは高度を下げ続け、着陸した。

 

「着陸完了、ランプドア開放開始。」

 

 パイロットの言葉と共に、ランプドアを開け始める。

 開くと同時に強烈な冷気が飛び込んでくる。まるで死神の鎌だ。何の準備も無しでは、即座に命を刈り取られしまうだろう。

 立香はシートベルトを外すと、ランプドア––––ではなく、操縦席の方へと向かう。

 

「お勤めご苦労様です!」

 

 立香はそう言うと、パイロット達に向かって敬礼する。パイロット達は一瞬ポカンとするが、すぐに敬礼を返した。

 敬礼し合ったのを確認した立香は小さく笑うと、そのままランプドアの方へと向かう。

 その様子を見ていたパイロット達は、顔を見合わせながら首を傾げた。

 

「こっちだ!」

 

 オスプレイから降りた四人の内、一人が先導するように歩き出し、茜沢や立香達もそれに追随する。

 それと同時に、ローターと主翼をたたんだオスプレイが、突然地面の下に消える。

 

「なんだ……?」

 

 立香が地面の方を見ると、ヘリポートと思しきものがエレベーターの様に下降していくのが見えた。

 

「へえ、なるほど……中々ハイテクじゃないか。」

 

 おそらく地下に格納庫があり、そこにオスプレイが保管されているのだろう。

 

「あ? あの連中は一体どこに行った?」

 

 三人の事を思い出し後ろを振り返ると、立香が見ていない内に3人の姿はすっかり遠のいていた。慌てて追いかけると、例の建物の外壁と、施設への出入口らしき、ゲートのようなものが見えて来る。

 戦車でも入れるほど巨大なゲートは重々しい隔壁で閉じられている。C4爆薬を10kg以上使用しても、この壁はビクともしないのだろうと立香は考えた。

 先導していた男がゲートの側に何かをかざすと、ゲートは音を立てながらゆっくりと開く。彼の腕をよく見ると、腕時計の様なものが装着されている。

 

「さあ、入るんだ。」

 

 専用の端末なのだろう。立香はそう考えながら、他の三人について行った。

 

「……暗いな。」

 

 中は照明が付いておらず、開いたゲートから入る光で、足元ぐらいしか見えなかった。暫くするとゲートが閉まり出す。ゲートが完全に閉まると、暗闇が辺りを包んだ。

 ローガンは暗闇があまり好きでは無い。ゲリラはこの様な暗闇を味方に付け、襲って来る。暗視装置無しでは何処に何が居るかも分からないのだ。

 

 ゲートが閉まってから1分もしない内に、突然照明が点いた。状況確認の為、辺りを見回す。四方の壁は清潔そうな白色で統一されており、前方には後ろのそれと同じ様なゲートがあった。ゲートの側には何かの装置が取り付けられている。

 

「それじゃあ藤丸君。我々が先にゲートを通る。手順は、あの装置に手を入れるだけで良い。

 我々が行った後は1人になるが、大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫です。」

「分かった。後の事は装置から渡される端末で指示される。それじゃあ我々はこれで…」

 

 そう言って3人は順にゲートに入って行った。

 

「……さてと、装置に手を入れるだけか。さっさと済ませて中に入るか。」

 

 立香はゲートの側に近づくと、装置に手を入れる。短い電子音が鳴り、認証が始まる。

 

『–––––塩基配列 ヒトゲノムと確認

 –––––霊器属性 中庸・秩序–––––––訂正 善性・中立と確認』

 

 霊器属性、という物は如何なるものか。立香には分からなかった。認証はまだ続いている。

 

『ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。

 ここは人理継続保障機関 カルデア。』

 

 人理保障継続機関––––一度も聞いた事もない機関名、どのような機関かも分からない。

 自分でもよくこんな所に来ようと思ったのか、立香は不思議でならなかった。

 

『マイクに向かって名前を言って下さい。』

 

 そう発したスピーカーの隣を見ると、『Microphone』の文字の下にピンポン球くらいのマイクがあるのを見つけた。

 

「……藤丸立香だ。」

 

 立香はマイクに向かってもう一つの名前を発する。結果は––––

 

『認証しました。』

 

 どうやら大丈夫なようだ。立香は安心するようにため息を吐く。

 

『指紋認証 声帯認証 遺伝子認証 クリア。

 魔術回路の測定……完了しました。』

 

 魔術回路、これが例の魔術師の才能というものだろうか、と立香は自身の手を見つめる。

 魔術とは基本的に非現実的なものだ。立香も並木一佐にそれを知らされるまでは、つゆほど信じていなかった。

 

『登録名と一致します。貴方を霊長類の一員である事を認めます。

 はじめまして。貴方は本日 最後の来館者です。どうぞ善き時間をお過ごし下さい。』

 

 装置から手を出すと、腕時計型の端末が装着されていた。

 その端末は、どこからどう見ても、林檎のマークの会社の物ではあるが––––気にしたら負けだと思い、立香は心の奥底にその疑問を押し込む。

 更に稼動音が聞こえた為、直ぐ横を見ると、何か––––白い服の様なものが、壁から突出した引き出しの中に入っていた。

 

「これを着ろって事か?面倒だな……」

 

 軽く舌打ちすると、立香は服を着替え始める。認識票はそのまま付けておくつもりだ。

 立香は嫌がらせにと、私服を乱雑に突っ込むが、引き出しは御構い無しに壁に引っ込んだ。

 認証が終わり、ゲートが開く。ゲートの向こうに行くと、エレベーターが見える。扉は……閉まっていた。

 

『……申し訳ございません。入館手続き完了まであと180秒必要です。』

 

 予想外の足止めを食らった立香は、はあと面倒臭そうにため息を吐く。

 彼自身、待たされる事自体は苦ではなかったが、ここまで来て足止めを食らうとは思わなかったのだ。

 

『その間、模擬戦闘をお楽しみください。』

「……ん?」

 

 突然流れた模擬戦闘という言葉に、立香は思わず聞き直してしまう。

 

「模擬戦闘って一体何の––––」

『レギュレーション:シニア

 契約サーヴァント:セイバー ランサー アーチャー』

「おいおいおいおいちょっと待て!」

『スコアの記録はいたしません。

 どうぞ気の向くまま、自由にお楽しみください。』

 

 立香が慌てている間にも「模擬戦闘」の準備は着々と進んでいる様だった。

 彼の周辺が、電子的なもので包まれ始める。

 

『英霊召喚システム フェイト 起動します。180秒の間、マスターとして善い経験ができますよう。』

 

「待てって言ってるだろうがぁ!」

 

 叫び声も虚しく、立香は白い光に包まれた。

 

––––––––

 

「……ああクソ、一体何が––––⁉︎」

 

 立香はゆっくりと目を開き、驚愕する。

 真っ白な部屋は見渡すかぎりの大草原へと変わっていた。

 

「一体何が––––ん?」

 

 そこで立香は、前方に四つの人影がある事に気が付く。

 

「誰だ……あいつら?」

 

 四つの人影の内、三つははっきりと確認出来た。

 弓を持った中東系の男に、赤い槍を持った半裸の男。そして、鎧を着た中性的な顔立ちの少年騎士…では無く少女。

 3人は各々の武器を構えながら、もう一つの人影と退治している。

 その人影は……いや、あれは人ではない。巨大な体躯とそれを覆う()()()()

 

「なんだ、あれは……⁈」

 

 まるで神話に出てくる怪物だ。特殊部隊として世界中を回って来た彼でも、あんな物は見た事も聞いた事も無かった。

 更によく見ると、それの頭上には『訓練用ゴーレム』という文字が浮かんでいる。どうやら、これが模擬戦闘というものらしい。

 だが、あんな化け物をどうやって倒せばいいのか。今の立香には、AT-4どころかナイフすらない。丸腰である。

 

「クソ! 一体どうする––––?」

 

 立香が焦っていると、腕に付けられた端末から再び音声が聞こえる。

 

『模擬戦闘を開始します。3騎のサーヴァントに命令を出して下さい。』

「––––サーヴァント? あの3人の事か?」

 

 立香はもう一度三人の方を見ると、彼らの上にも文字が浮かんでいるのを見つけた。

 少女にはセイバー、半裸の男にはランサー、弓を持った男にはアーチャーと、それぞれ別々の文字が浮かんでいる。

 

 弓兵(Archer)槍兵(Lancer)、そして剣騎(Saber)

 彼は中世の戦闘教義(ドクトリン)や戦術は知らなかったが、やるしか無かった。殺らなければ死ぬ、彼は戦場でそれを嫌という程思い知っていた。

 立香は頭の中にある、火器類無しの状態における白兵戦の戦術を次々引っ張り出す。その内の一つを、なんとか思い出す事に成功する。

 

「……よし! ランサー、敵と正面からかち合え! アーチャーは後方から援護! セイバーは……敵が怯んだところに叩き込め!」

 

 立香の指示を三騎は無言で了承し、跳躍する。

 

 ゴーレムの懐に入り込んだランサーは、残像が見える程の速さで槍を何度も突き出す。

 アーチャーの矢の威力も凄まじい。矢の一本一本が、M2重機関銃から発射される12.7×99mm徹甲弾の様に、ゴーレムの皮膚を削っている。

 最も凄まじいのはセイバーだ。彼女が剣を振るうごとに、ゴーレムの皮膚がクッキーの様に砕かれて行く。

 

 ゴーレムも攻撃を繰り出すが、ダメージを受け弱っているのか、空を切るばかりだ。

 だが、当たればひとたまりも無いだろう。その証拠に、拳を振るわれた地面は直径1m程のクレーターが出来ていた。

 しかしいくら傷つこうとも、ゴーレムは血を一滴も流す事はない。あの岩の皮膚はゴーレムの構成物であって、本体ではないようだ。だが動く物なら必ず弱点がある。戦車の上面・底面装甲や、人間の脳や心臓の様にだ。

 立香はゴーレムの弱点を、最も装甲の厚いであろう胸部––––その中心だと予想する。人型であるなら、弱点も体幹部にあるはずだと考えたのだ。

 

「アーチャー!」

 

 呼ばれた弓兵が立香の方向を振り向く。

 

「あいつの中心部に一番強い奴をぶち込め! セイバー! お前はアーチャーの攻撃後に、その剣をぶち込んでやれ!!」

 

 アーチャーは頷くと弓を引いて力を貯め始める。弦を最大限まで伸ばしたアーチャーの周りからは、奇妙なオーラが出現している。

 攻撃が来ると察したであろうゴーレムも走り出し、アーチャーに向かって突っ込んで来た。

 

「アーチャー、逃げろ!」

 

 立香がそう叫ぶがアーチャーは動かず、ゴーレムに照準を合わせ続けている。

 ゴーレムがアーチャーとの距離を詰め、あと5mとなった瞬間、アーチャーが矢を放った。

 

 音の壁を突破した矢は、凄まじい音を上げてゴーレムに着弾する。

 皮膚が砕かれ、晒された体内には直径20cmくらいの光る結晶の様なものが見える。

 あれが急所だ。立香はそう確信した。

 

「セイバー、今だ! 殺れ!」

 

 急所を晒された事でヤケになり、御構い無しに突っ込んで来るゴーレムの正面に少女は飛び出し、剣を振り上げる。

 

 振り上げた剣に、光る粒子のような物が集まる。

 剣が粒子で満たされ、黄金に輝いた瞬間、セイバーは何かを叫びながら、剣を振り下ろした。

 

「––––––––––––!」

 

 剣からは金色の光線が、ゴーレムに向けて打ち出される。その光線をもろに受けたゴーレムは蒸発し、光線はそのまま天高く上がった。

 

「……すげえ」

 

 その光景に、立香は思わず感嘆の声を上げる。まさか剣一本からあんな光線が出るとは、誰が予想できようか。

 あれ程の威力を人間が生み出すには、Mk82汎用爆弾(500ポンド爆弾)を満載したB-52戦略爆撃機を持って来ないと再現できないだろう。

 そのまま感嘆していると、立香は再び自分の意識が薄れて行くのを感じた。

 また何かされたのかと立香は考えたが、今回のそれは麻酔とは少し違うものだった。

 

『模擬戦闘、終了しました。』

 

 その言葉と同時に、ローガンは意識を保てなくなった。

 

––––––––

 

「フォウさん……待って下さい。」

 

 ここはカルデア内部。とある廊下にて、少女は自分の前を走る白い小動物を追いかけている。

 目の前の小動物は一体どこへ向かっているのだろうか、そう考えている内に、彼女は小動物を見失ってしまった。消えていった方へ向かうと、既に走るのをやめて、傍にある何かを舐めている件の獣がいた。

 

「フォウ……?キュウ……キュウ?フォウ!フー、フォウ!」

 

 よく見てみると、その小動物が舐めているものは倒れている人だった。年齢は彼女より少し上のようで、カルデアの魔術礼装を着ている。

 暫く観察していると、その青年は小さく呻き声を上げ瞼を開け始めた。

 

 

 

 

 意識が急浮上する。立香は冷たい床に倒れていた。

 確か、模擬戦闘が終了した直後に、自分は気を失った。その前後は––––思い出せない。

 立香は模擬戦闘の事は覚えていたが、それその前後の記憶がポッカリと無くなっていたのだ。彼は覚醒しきっていない[[rb:自分の身体 > ふじまるりつか]]に鞭打ち、顔を上げる。

 その直後に、立香は自分を観察していた少女と目が合う。しかし彼の脳は覚醒しきっておらず、すぐには状況を飲み込めなかった。

 

 彼と目が合った少女は、落ち着いた様子でゆっくりと口を開いた。

 

「………………………あの

 朝でも夜でもありませんから、起きてください、先輩。」

 

 

 ––––これが、彼と少女の物語の始まりだった。




( ✌︎'ω')✌︎おすぷれーい(唐突)
どうも、らっきょイベ復刻で狂喜乱舞している駄文作者です。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。
遂に彼女と主人公を合わせることができました。
第5話も近いうちに投稿しますので、どうぞ楽しみにしてて下さい。
ではまた、第5話で会いましょう。
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