Fate/Medal of Honor   作:A-10教徒

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〈前回のあらすじ〉
偶発的なレイシフトにより、特異点Fに飛ばされ、生前の姿に戻ったローガン・K・アダムス大尉。
デミ・サーヴァントとなったマシュ・キリエライトと再開したローガンは、特異点Fから帰還するために、行動を開始する。


Mission.7『燃える街にて』

 –––––見渡す限りの炎、炎、炎。辺り一面が炎で覆われている。

 

 ここは2004年の日本 冬木市。またの名を特異点F。人類史というドレスに染み付いた汚れ。あってはならない歴史。

 この燃え盛る街の中を、巨大な盾を持った少女と迷彩服を着た白人の男が歩いていた。

 少女の名はマシュ・キリエライト。彼女は死の間際、名も知らぬ英霊と契約した事でデミ・サーヴァントとなった。その身体能力は並の人間を圧倒し、人類最強の兵器と呼ばれる程の強さを秘めている。

 そしてもう一人。

 男の名はローガン・K・アダムス。アメリカ海兵隊所属の特殊部隊の指揮官で、階級は大尉。イラクでの任務中に死亡した筈だったが、紆余曲折あって特異点Fにレイシフトした。

 現在は特異点の異常を排除するために、マシュと共に行動している。

 

「……先輩。もうじきドクターに指定されたポイントに到着します。」

 

 左手首に装着していた腕時計型の端末で座標をチェックしながら、マシュは前方を歩いていたローガンにそう言った。

 

「そうか。やっと一服できるな。」

 

 ローガンはそう軽口を叩きながらも、継続して周囲を警戒している。彼が持つM4A1カービンライフルの銃口は、様々な方向へと忙しなく動いている。

 

「しかし……見渡す限りの炎ですね。資料にあるフユキとはまったく違います。」

「マシュ。その冬木ってのは、実際はどんな街だったんだ?」

「資料では平均的な地方都市であり、2004年にこんな災害が起きた事はない筈ですが……」

 

 マシュが端末を操作すると、電子音と共に空中に小さく何かの数字が表示された。

 

「大気中の魔力(マナ)濃度も異常です。これはまるで古代の地球のような……」

「マナ?そりゃ一体なん––––」

「キャアーーーーー!」

 

 突然、甲高い悲鳴が響いた。

 

「次は何だクソッタレ!」

「どう聞いても女性の悲鳴です! 急ぎましょう、先輩!」

「おいマシュ! 落ち着け……て言っても無駄だよな、クソッ!」

 

 悲鳴がした方向へと走り出したマシュを、ローガンは悪態を吐きながらも彼女を追い始める。

 

––––––––

 

 燃え盛る街中を、幾つかの人影が走っている。

 骨と化しても尚動き続ける亡者達の群れが、まだ肉の付いている生者を追いかけ回している。

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!」

 先頭を走っている、と言うよりも追いかけられている女性––––オルガマリー・アニムスフィアは亡者達に追いつかれないように、死に物狂いで走っていた。

 だが彼女が今履いている靴は悲しい事にヒールだ。まともに走り続ける事は難しい。

 

「ハッ、ハッ、ハッ……キャアッ!」

 

 何かに躓いたらしく、オルガマリーは転倒してしまった。

 それでも彼女の背後からは御構い無しにスケルトン達が走ってくる。

 

「ッ……何なのよ!」

 

 だが彼女は曲がりなりにも魔術師だ。向かってくるスケルトン達に向かって人差し指を向けると、指先から黒い球体が発射される。

 発射された球体が集団の内の一体に命中すると、そのスケルトンは粉々に砕け散った。

 だがそれも焼け石に水。スケルトン達は一度は立ち止まったものの、笑うようにカタカタと体を震わせると、再び走り出した。

 

「……ッ!」

 

 オルガマリーも負けじと先程の球体を連射する。しかし発射速度が遅いせいか、スケルトン達の数は減る気配を見せない。

 

「何なの、何なのよコイツら⁉︎ なんだってわたしばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの⁉︎」

 

 彼女の泣き言も御構い無しに、亡者達は彼女の方へと走り続ける。

 その時、彼女の頭上で先程のスケルトンのそれと同じカタカタという音がした。その事に気づいた彼女が顔を上げると、街灯から飛び降りて彼女を襲おうとするスケルトンの姿があった。

 

「もうイヤ! 助けてレフ!」

 

 涙を浮かべながら彼女はそう叫んだが、それに応える者はいない。

 落下してくるスケルトンの剣鉈は彼女に振り下ろされる––––が、突然割り込んできた巨大な盾によってその斬撃は防がれた。

 

「オルガマリー所長……⁉︎」

「マシュ⁉︎」

 

 攻撃を受け止めていたマシュは、自分が助けた女性を見て驚く。助けられたオルガマリーもひどく動揺する。

 

「あなた、どうして……」

「マシュ、そのまま動くな!」

「へ?」

 

 オルガマリーの疑問を遮るかのように怒号が発せられると、数発の乾いた銃声と共にマシュの盾を攻撃していたスケルトンはバラバラになる。

 

「更に敵接近! マシュ、近接戦闘頼めるか⁉︎」

「了解です、マスター!」

「頼むぞ! ほら、ボサッとしてないでアンタも立て!」

 

 ローガンはオルガマリーの腕を掴むと、そのまま彼女の体を引き起こした。

 

「い、一体誰なのよ、貴方!」

「自己紹介は後だ! 死にたくないなら俺の後ろに下がれ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! まだ話は……キャアッ!」

 

 オルガマリーは反論しようとしたが、ローガンは問答無用で彼女を後ろに押し込んだ。

 

「いいか、そこでじっとしてろよ!」

「ああもう、いったい何がどうなってるのよーーっ!」

 

 一体のスケルトンに巨大な盾が叩きつけられる。

 重量のある盾の打撃をもろに食らった亡者の骨格は崩れ、飛び散る。

 

「ハアッ!」

 

 その盾の持ち主であるマシュは、重々しい盾を軽快に振り回す。既に三体、彼女の盾の餌食になっているが、まだ敵は九体ほど残っている。

 正面にいたスケルトンが彼女目掛けて得物を振り回しながら突進してくる。マシュも盾を構え突進する。接触した瞬間、スケルトンは粉々になる。骨だけの怪物とサーヴァント、力の差は歴然だ。

 だが八体を同時に相手に出来るほどの力は、今の彼女には無い。襲い掛かってきたスケルトン達の攻撃を受け止め、躱しながら、彼女はどうするか思考する。

 

「マシュ!」

 

 ローガンの怒鳴り声が彼女の耳に届く。それを聞いたマシュが振り向くと同時に、銃声が三回発せられた。

 M4A1から発射された三発の銃弾は、彼女を取り囲んでいたスケルトンの内二体の頭蓋を貫く。

 

「一旦下がるんだ!」

「分かりました!」

 

 マシュはそう言って頷くと、目の前にいたスケルトンを押しのけ、ローガンのいる方向へ走り出す。スケルトン達も逃すまいと追いかけるが、走るスピードは彼女の方が上だ。

 こちらに走ってくるマシュと、それを追うスケルトン達を確認したローガンはM4A1を下ろし、M67破片手榴弾を取り出した。

 

「グレネード!」

 

 マシュが自分の側に到着したのを確認すると彼はM67のピンを外し、投擲する。

 彼の手から離れたと同時にレバーが外れ、そのままM67は敵集団の正面7メートル手前に落下した。スケルトン達はそれを気にも止めずに二人を目指して走り続ける。

 

「マシュ、盾を構えてくれ。」

 

 ローガンは落ち着いた様子でそう言った。

 

「は、はい。こうですか?」

「ああ。後ろの嬢ちゃんは……大丈夫そうだな。」

 

 オルガマリーの方を見ながらローガンはそう言った。

 正面に目を移すと、スケルトン達が先程M67が落下した場所へと近づいている。

 

「さてと、もうじきだ。」

 

 向かってくるスケルトン達を見ながらローガンはニヤリと笑った。

 

「3……2……1……」

 

 そして敵集団の先頭が手榴弾の真上に辿り着いた瞬間、

 

「……Boom!」

 

 スケルトン達の真下で、爆発が起きた。

 爆発の衝撃と飛び散った破片を一身に受けた亡者達はバラバラになりながら吹き飛ぶ。

 

 だがその内の一体は、行動不能にはならずに二人の側に吹き飛んで来る。

 そのスケルトンは下半身と右腕を喪失していたが、まだ動く左腕でローガンの足を掴む。

 スケルトンは彼の足に噛み付こうとしたが、それを行動に移す前にM4A1の銃口で頭を押さえ付けられた。

 

「お前らは地面にキスしてるのがお似合いだ、死に損ない共が。」

 

 そう吐き捨てると、ローガンは引き金を引く。頭蓋骨を撃ち抜かれたスケルトンはそのまま完全に沈黙した。

 

「オールクリア。」

 

 冷徹な声が響く。その声は、ローガンとはまるで違う、別人のそれのように聞こえる。

 

「……戦闘終了。やっぱり、先輩はお強いですね。」

 

 そう言ってマシュはローガンの方を見た。

 

「なに、大した事ない。俺の方が経験があるってだけだ。」

「ですが……」

 

 マシュは表情を曇らせる。彼女は自分が足手纏いだと感じているようだ。

 それを見たローガンはどう励まそうかと考える。

 

「……そう気に病むな。純粋な戦闘能力なら、圧倒的にお前の方が上だ。」

 

 彼はヘルメットの後頭部を掻きながらそう言った。

 

「本当ですか?」

「ああ、本当だ……まあその話は置いといてだ。」

「?」

「あそこの所長さんに話を伺うのが先決だな。」

 

 ローガンはそう言ってオルガマリーを指差した。

 

「戦闘、終了しました。お怪我はありませんか、所長。」

 

 マシュはオルガマリーに駆け寄り、座り込んでる彼女に手を差し伸べる。

 

「…………どういう事?」

 

 彼女は開口一番にそう言った。

 

「所長? ……ああ、私の状況ですね。信じがたい事だとは思いますが、実は––––」

 

「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見れば分かるわよ。わたしが訊きたいのは、どうして今になって成功したかって話よ!」

 

 マシュにそう厳しく言い放つと、オルガマリーはローガンをキッと睨みつけた。

 

「それ以上に貴方!」

 

「お、俺か?」

「ええ、貴方よ! 何者なの⁉︎ それになんでマスターになってるの⁉︎」

「マスターって一体何の……」

 

 オルガマリーはそう言ってローガンに詰め寄る。その余りの勢いに、彼は少し当惑する。

 

「サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ!アンタなんかがマスターになれるハズないじゃない!」

「いや、まずは俺の話を……」

「その子にどんな乱暴を働いて言いなりにしたの⁉︎」

「あ?」

 

 ローガンは、彼女が最後に発した言葉に怒りを覚える。

 

「お前、命の恩人を性犯罪者扱いする気か?」

 

 ローガンは少しドスの効いた声で言うと、オルガマリーをギッと睨みつけた。

 彼はマシュに一度も手を上げてないし、上げようとも思わない。彼は、妙な言い掛かりを掛けられたことに腹を立てたのだ。

 

「それは誤解です所長。強引に契約を結んだのは、むしろ私の方です。」

「なんですって?」

「経緯を説明します。その方がお互いの状況確認にも繋がるでしょう。」

 

 そうしてマシュは自身の身に起きた事と、ローガンの事をオルガマリーに説明し始めた。

 

––––––––

 

「……以上です。わたしたちはレイシフトに巻きこまれ、ここ冬木に転移してしまいました。」

「それで? 貴方の隣の男が、私の説明会に遅刻したあの一般枠だって言うの?」

 

 そう言ってオルガマリーは再度ローガンの事を睨みつける。彼はため息を吐きながら眉間を抑えた。

 

「事実だ……て言っても信じないだろ?」

「当然よ、そんな事有り得るはずがないわ!」

 

 ローガンはポーチの一つからある物を取り出し、オルガマリーに見せた。

 

「ほらよ。」

「––––カルデアの、ID⁉︎」

「所長なんだから、これが本物かどうかぐらい分かるだろ?」

「……ちょっと貸して!」

 

 オルガマリーはIDをひったくるように取ると、手首の端末を操作する。

 操作が終わると、彼女の端末には『一致』という文字が浮かび上がった。

 

「……確かに、これは藤丸立香のIDね。」

「そら見たことか!」

 

 端末を閉じ、オルガマリーは顔を上げる。その顔はこれまで起きた一連の出来事のせいか、少し疲れているように見えた。

 

「ハア……分かったわ。一応は貴方の言うことを信じてあげる。」

「ご理解感謝する、所長さん。」

「ええ、この話は一旦ここで終わりね。マシュ、状況報告をお願い。」

「は、はい。」

 

 先程まで置いてけぼりを食らっていたマシュは、急いで説明を再開する。

 

「–––––先輩の他に転移したマスター適性者はいません。」

「アンタが、俺たちが現状唯一出会った人間って事だ。」

「でも希望ができました。所長がいらっしゃるのなら、他に転移が成功している適性者も……」

「……いないわよ。それはここまでで確認している。」

 

 マシュの言葉を遮るように、オルガマリーは厳しい顔でそう言った。なぜ自分以外は転移していないのか、ローガンの頭に疑問が浮かんだ。

 

「……認めたくないけど、どうしてわたしと彼が冬木にシフトしたのかわかったわ。」

「生き残った理由に説明がつくのですか?」

 

 マシュは驚いた表情でそう言った。その点に関してはローガンも知りたいところだった。

 

「消去法……いえ、共通項ね。わたしもあなたも彼も、()()()()()()()()()()()()()。」

 

 コフィンとは、人間を霊子に変換する装置だ。

 それに入らなかったからこそレイシフトに成功した、とはどういうことか。

 

「生身のままのレイシフトは成功率は激減するけど、ゼロにはならない。

 一方コフィンにはブレーカーがあるの。シフトの確率が95%を下回ると電源が落ちるのよ。

 だから彼等はレイシフトそのものを行なっていない。ここにいるのはわたしたちだけよ。」

 

 彼女の仮説に、二人は思わず感嘆の声をあげる。

 

「なるほど……さすがです所長。」

「つまり俺たちがここにいるのは奇跡って事か。落ち着けば使い物になるな、アンタ。」

 

 とはいえ感想は人それぞれである。ローガンの発言を聞いたオルガマリーは額に青筋を浮かべる。

 

「それどういう意味⁉︎ 普段は落ち着いていないって言いたいワケ⁉︎」

「悪い悪い。頼むからそう喚かないでくれ。」

 

 彼は若干ヒステリックになっているオルガマリーに待ったのジェスチャーをした。

 

「……まあ、前線指揮官には向いてないだろうな。」

 

 ローガンはボソリと呟いたが、幸いにも彼女には聞こえていなかったようだ。

 

「……フン、まあいいでしょう。状況は理解しました。」

 

 オルガマリーは髪をバサリと搔き上げると、ドンと仁王立ちする。

 

「ローガン・K・アダムス大尉。緊急事態という事で、あなたとキリエライトの契約を認めます。」

 

 そう言って彼女はローガンにビシリと指を向けた。

 

「ここからはわたしの指示に従ってもらいます。

 ……まずはベースキャンプの作成ね。」

「ああ。俺たちもそれが目的でここまで来たんだ。」

「いい?こういう時は霊脈のターミナル、魔力が収束する場所を探すのよ。

 そこならカルデアとの通信が取れるから。それで、この街の場合は……」

「このポイントです、所長。レイポイントは所長の足元だと報告します。」

「うぇ⁉︎あ……そ、そうね、そうみたい。わかってる、分かってたわよそんなコトは!」

 

 マシュに指摘されると、オルガマリーは焦った様子で立っていた場所を離れる。

 

「マシュ。貴方の盾を地面に置きなさい。宝具を触媒にして召喚サークルを設置するから。」

「……だ、そうです。構いませんか、先輩?」

 

 マシュにそう問われると、ローガンは下げていたM4A1を小さく掲げた。

 

「いいぞ、多少は守ってやれる。」

「……了解しました。それでは始めます。」

 

 ガシャと音を立て、マシュが盾を置く。

 オルガマリーがそれに手を乗せて呪文のようなものを唱え始めると、三人の周りを光が包み込んだ。

 光が消えると、彼等の周りの光景は様変わりしていた。

 彼等の周辺には先程のような燃え盛る町ではなく、電子回路のような青白い線が無数にある青い空間が広がっていた。

 

「これは……カルデアにあった召喚実験場と同じ……」

 

 マシュはそう呟きながら周囲を見渡す。彼女はこの空間に見覚えがあるようだ。

 突然、ローガンの端末に通信が入る。腕の端末を操作すると、空中にDr.ロマンの姿が浮かび上がった。

 

『CQ、CQ。もしもーし! よし、通信が戻ったぞ!

 ふたりともご苦労さま、空間固定に成功した。これで通信もできるようになったし、補給物資だって––––』

「はあ⁉︎ なんで貴方が仕切っているのロマニ⁉︎ レフは? レフはどこ? レフを出しなさい!」

『うひゃあぁあ⁉︎』

 

 オルガマリーの姿を見たロマンは、まるで幽霊でも見たかのように素っ頓狂な声を上げた。

 

『しょ、所長、生きていらしたんですか⁉︎ あの爆発の中で⁉︎ しかも無傷⁉︎ どんだけ⁉︎』

「どういう意味ですかっ! いいからレフはどこ⁉︎ 医療セクションのトップがなぜその席にいるの⁉︎」

 

 オルガマリーに強い口調でそう質問されると、ロマンは表情を曇らせた。

 

『……なぜ、と言われると僕も困る。自分でもこんな役目は向いていないと自覚してるし。』

 

 ロマンは申し訳なさそうな表情を浮かべている。その表情でローガンは大体の事情を察してしまった。

 

『でも他に人材がいないんですよ、オルガマリー。

 現在、生き残ったカルデアの正規スタッフはボクを入れて二十人に満たない。

 ボクが作戦指揮を任されているのは、ボクより上の階級の生存者がいないためです。』

 

 ロマンの言葉を聞いていくうちに、ローガンは眉間に指を当て、オルガマリーは口元を押さえ青ざめていく。

 

『レフ教授は管制室でレイシフトの指揮をとっていた。あの爆発にいた以上、生存は絶望的だ。』

 

 その言葉に、彼女の表情には絶望の色が浮かんだ。

 レフは彼女にとって大切な存在だったのだ。それを失ったとすると、心のダメージも大きくなる。

 

「そんな–––––レフ、が?」

 

 オルガマリーは呆然とした様子でそう呟く。レフを失った悲しみのためか、彼女の肩は小さく震えている。

 

「いえ、それより待って、待ちなさい、待ってよね、」

 

 オルガマリーは何か恐ろしい事が思い浮かんだらしく、ひどく困惑した様子を見せた。

 

「生き残ったのが二十人に満たない? じゃあマスター適性者は? コフィンはどうなったの⁉︎」

 

 ロマンが言った生き残った人数は、マスター適性者の総数48名の半分以下だ。

 ローガンとオルガマリーの脳裏には最悪の結果が浮かんだ。

 

『……47名、全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助けることはできても、全員は–––––』

 

 全員死亡、とまでは行かなかったが、最悪の一歩手前だ。

 標高6000メートル級の山脈から降ろす手段は限られているし、あったとしても到着するまで持つかどうかも分からない。

 

「ふざけないで、すぐに冷凍保存に移行しなさい!蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!」

 

 だがオルガマリーは冷静だった。彼女は厳しい目つきでロマンにそう命じる。

 

『ああ!そうか、コフィンにはその機能がありました!至急手配します!』

 

 ロマンがそう言って椅子から立つと、通信は自動的に消えた。

 

「……驚いたな。死んでいようが無かろうが、凍結保存を本人の許諾なく行うのは違法だぞ。」

 

 彼女の判断を聞いていたローガンは感心した様子でそう言った。

 アメリカでも死亡後に冷凍保存が行われているが、あくまで本人が許諾した場合である。そうだとしても、遺族が反対して裁判になるのはザラだが。

 

「それなのに即座に英断するとは。所長として責任を負うより、人命を重視したのですね。」

 

 マシュも笑顔で彼女の判断を肯定する。

 

「バカ言わないで!死んでさえいなければ後でいくらでも弁明できるからに決まってるでしょう⁉︎

 だいたい47人分の命なんて、わたしに背負えるはずないじゃない……!」

 

 オルガマリーはそう声を荒げた。

 確かに、彼女は二十代かどうかも怪しいほど若い。そんな女性がこんな重荷に耐えられるはずがない。

 

「死なないでよ頼むから……!

 ……ああもう、こんな時にレフがいてくれたら……!」

 

––––––––

 

『……報告は以上です。』

 

 通信に戻ったロマンは、カルデアの状況をオルガマリーに報告した。

 

『現在、カルデアはその機能の八割を失っています。残されたスタッフではできる事に限りがあります。

 なので、こちらの判断で人材はレイシフトの修理、カルデアス、シバの現状維持に割いています。

 外部との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体の立て直し……というところですね。』

 

「結構よ。わたしがそちらにいても同じ方針をとったでしょう。」

 

 オルガマリーは腕を組みながらそう言った。

 

「……はあ。ロマニ・アーキマン。納得はいかないけど、わたしが戻るまでカルデアを任せます。レイシフトの修理を最優先で行いなさい。

 わたしたちはこちらでこの街……特異点Fの調査を続けます。」

『うぇ⁉︎ 所長、そんな爆心地みたいな現場、怖くないんですか⁉︎ チキンのくせに⁉︎』

「……ほんっとう、一言多いわね貴方は。」

 

 ロマンの発言が癪に触ったのか、彼女は不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

「今すぐ戻りたいのは山々だけど、レイシフトの修理が終わるまでは時間がかかるんでしょ。

 この街にいるのは低級な怪物だけと分かったし、デミ・サーヴァント化したマシュとあの男がいれば安全よ。

 事故というトラブルはどうあれ、与えられた状況で最善を尽くすのがアニムスフィアの誇りです。」

「ほお……えらく信用してくれてるな、所長さん。」

 

 装備品のチェックを行なっていたローガンは、M4A1にマガジンを挿入しながらそう言った。

 

「……勘違いしないで。わたしはあなたの戦闘能力を買っているだけ、信用なんてこれっぽっちもしてないわ。」

「そうかい。なら早く信用を得ないとな。」

 

 ローガンは軽口を叩きながら、M4A1のコッキングレバーを引く。

 銃の左側にある排莢口が開くと、そこから未使用の銃弾が一発排出された。

 

「ではこれよりローガン・K・アダムス大尉、マシュ・キリエライトの両名を探索員として特異点Fの調査を開始します。

 ……とはいえ現場のスタッフの内一名は未熟、もう一名も問題だらけなのでミッションはこの異常事態の原因、その発見に留めます。

 解析、排除はカルデア復興後、第二陣を送り込んでからの話になります。あなたもそれでいいわね? アダムス大尉。」

 

「俺は別に構わん。」

 

 そうは言ったものの、ローガンは少し妙な胸騒ぎがしていた。本当にこの判断でいいのかと。

 

『了解です。健闘を祈ります、所長。

 これからは短時間ですが通信も可能ですよ。緊急事態になったら遠慮なく連絡を。』

「……ふん。SOSを送ったところで、誰も助けてくれないクセに。」

『所長?』

 

 オルガマリーの呟きは、ロマンには聞こえなかったようだ。

 

「なんでもありません。通信を切ります。そちらはそちらの仕事をこなしなさい。」

 

 その言葉を最後に、オルガマリーは通信を切った。

 

「……所長、よろしいのですか?ここで救助を待つ、という案もありますが。」

 

 マシュが心配して声をかけると、オルガマリーはその表情を厳しいものに変えた。

 

「そういう訳には行かないのよ……カルデアに戻った後、次のチーム選抜にどれほどの時間がかかるか。

 人材集めも資金繰りも一ヶ月じゃきかないわ。その間、協会からどれほど抗議があると思ってるの?

 最悪、今回の不始末の責任としてカルデアは連中に取り上げられるでしょう。

 そんな事になったら破滅よ。手ぶらでは帰れない。わたしには連中を黙らせる成果がどうしても必要なの。」

 

 どうやら彼女の周辺は相当危ない状況のようだ。魔術の世界にも、権力云々のいざこざがあるらしい。

 彼女のような年齢の少女がそのような重圧に晒されていれば、高圧的な態度になるのも無理はなかった。

 

「それじゃあ、外に出るぞ。」

 

 ローガンはM4A1を構え、ベースキャンプから飛び出す。外に出ると同時に、熱風がローガンの顔に吹き付ける。

 

「––––周辺に敵の姿は確認出来ない。出てきても良いぞ。」

 

 ローガンがそう言うと、マシュはすぐに、オルガマリーは恐る恐るベースキャンプから出てくる。

 オルガマリーは辺りを見渡し、敵がいない事を確認すると、安堵のため息を漏らす。

 

 

「……さて。悪いけど付き合ってもらうわよ、マシュ、アダムス大尉。

 とにかくこの街を探索しましょう。この狂った歴史の原因がどこかにあるはずなんだから。」

 

 オルガマリーは二人のいる方に振り向くと、堂々とした様子でそう言った。

 

「了解しました、所長。」

「右に同じく。俺としても、こんなイカれた街からはさっさと出たい。」

 

 二人はそれぞれの返答を述べる。それを聞いた彼女は小さく頷くと、振り返って前へ進み始めた。

 

「ほら二人共、置いて行くわよ!」

 

 ローガンとマシュは、顔を見合わせ苦笑いすると、彼女の後を追って歩き出した。




あとがきを書くのが最近辛い。
どうも、駐車場を周回しまくってる駄文作者です。
つい昨日、絶対来るだろうなって思ってたコメントが来ました。
サーヴァントに銃が効くかとか、その理由はまた説明します。
第9話はまだ執筆途中なので、しばらくかかりそうです。
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