大変申し訳ありません。
アサシンがアーチャーを倒した夜から明けて聖杯戦争は九日目に差し掛かっていた。
全てのサーヴァントは息を潜めるかまたは己の深い傷を癒している、緩やかに時間が過ぎていく中、ある一つの陣営が戦いとは関係のない場所で朝から行動をしていた。
「ワン子ちゃん、疲れてねえのか?」
俺が今どこにいるのかといえば河原だ、そこで鍛錬をしているワン子ちゃんを見ながら俺は声をかけていた、タイヤを引きながらよく何往復できるもんだよな。
「問題ないわ、この程度で音を上げてはいられないもの!!」
そう言うワン子ちゃんの額には汗が浮かんでいる、努力する女の子って良いよな、ちょっと汗でぴっちり張り付く服がまたたまらない。
「しかしこんな夏の日の日差しじゃ満足に見えないな、少しでも弱ければもう少しはっきり見えるのに」
そう言って俺は顎を撫でる、何も悩みがないというようにワン子ちゃんの前では振舞うがこの平和な状況がいつ終わるのかという不安は有る。
「残った奴が誰なのかも一切分からないんだもんなー……」
考えられる限り最悪なのはランサーとアーチャーの二人が残っている事だ、両方とも因縁があるから二人で来ることも視野に入れて考えたら不安になってしまう。
素手の殴り合いではあの痛みを感じない奴は面倒だし遠くからの狙撃には対応が遅れる。
「……まあ、最悪のパターンになる可能性は低いからそこまで考え込む必要もないか」
不安を消し飛ばす為に前向きな言葉をいって気持ちを落ち着かせる、悪い方向にだけ考えてもワン子ちゃんにまで不安を伝染させるだけだ。
「ふう、朝の分の鍛錬は終了!!」
そんな事を思っているとワン子ちゃんがこっちへ駆け寄ってくる、さっきよりも汗が滴っていてもはや服も透けそうなほどだ。
「お疲れさん、汗すげぇぞ」
俺は眼福だと感じながらもねぎらいの言葉をかける、胸の不安はまだ晴れないが気を引き締めれば大丈夫だろう。
次の相手を予想してどう戦うべきか、宝具は今どれ程復旧できているのか、そういった事を考えて空を見上げる。
「ありがとう、どうせなら一緒にやれば良かったのに」
ねぎらいの言葉に対してお礼の言葉を返してくるワン子ちゃん、残念な事に鍛えても強くなれないんだ。
「一緒にやってたら止めたりする人いないからね、倒れないように見張るのが仕事ってことで」
そう言ってワン子ちゃんのお誘いを断る、俺は青く澄み渡る空を見上げて深く息を吸うのだった。
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場所と時間が変わって昼頃。
二人の男が起き上がる、前日の戦いの疲れもあったのだろう、この時間まで彼らは久々の惰眠を貪っていた。
「イヤー、よく寝たよく寝た」
「うむ、体が軽いな」
「で、こんなゆっくりしているけど次の予定はきちんと考えているのか?」
風間がいって来るが当然次の予定は考えている、この
「騎兵かセイバー、相手取るのはどちらでも問題はない、速いか遅いかの違いだけだ
ちなみに一度も見ていない槍兵がいるが見ていないということは消えたのだろう
当たればその時はその時だ、
首を鳴らし笑みを浮かべて言い放つ、騎兵に対して宣戦布告をしていたこともあり、あいつの戦力を計算することに重きを置いていた。
しかしあのセイバーもまた厄介な男だというのは分かっている。
あのバーサーカー戦でとどめをさしたり強烈な一撃を食らわせた身のこなしや力は伊達ではない。
だから今になっては標的を絞るのではなく相手に対して対応していかなくてはいけない。
「二人とも武器を持っているがあのアーチャーのように武器を壊せばこわい物はなくなる
そこらにいる塵芥と同様だ、負ける理由は見当たらんし壊す事も別に難しくはない
そこから考えたら勝つことは容易に考えられる」
笑みを浮かべて勝てることを確信する、戦う前からそういった気持ちになれるのは大変良い事だ、今までは服装がまともでなかったり力がまともでなかったりしたような奴らなのだからな。
「良いのかよ、そんな余裕かまして負けたらはずかしいぜ?」
「たわけ、負ける理由がないから余裕を出すのだ」
この局面まで使ってこなかった『ファング』をさらけ出した事で衝撃波では足りなかった決定力の増強を図れた。
これが思った以上に大きく響いている、そして足の怪我も完治しはじめているからこれからの戦いは万全な体勢で戦うことが出来る。
「ここで負ける事を考えていては何も始まらん、お前は楽しむ為にも常に前を見けばいいのだ誰が
満面の笑みで俺は風間にいう、そして
「奴らの呻くさまを見て悦に浸るまで秒読みの段階だ、
そういったあと一拍置いて体が僅かに震える、楽しみでしょうがないのだろう、奴らの顔が歪むさまが早く見たいものだ。
「あの二人は何処まで楽しませてくれるのだろうな、奴らならば
このような言葉が出てくるのはきっと今まで戦ったおかしな奴らと同じような奴らではないという気持ちからだろう。
それから一拍置いて
カーテンの隙間から優しい日差しがしつこいくらいに差し込む昼下がりであった。
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また場所と時間が変わって夜。
ある男性と女性がお互いにこれからについて話し合っていた。
「で、次の標的は誰なんだよ?」
マスターがゴルフクラブを触りながらいってくる、次の標的は決まっている、アサシンだ。
ライダーならば最後に不意打ちが出来る、だから安牌として残したほうがいい。
出来る事ならば同士討ちになってくれるのが一番ありがたいがそこまでは望めないだろう。
「一応次勝てば王手なんだ、不安要素であるアサシンを狙う」
考えていることは伝えず次が重要だということとあぶない相手だということを簡潔に伝える、マスターは理解してもすぐに忘れてしまうから苦労する。
「なるほどな、で…勝てるのかよ?」
不安な気持ちから出た疑問ではなく純粋な気持ちで聞いてきたものだというのが声色で分かる。
勝てるかどうかでいえば正直五分五分といった所だろう、いかに接近できるか、またどれほど被弾せずにいられるか、それが重要なことになる。
「まあ、そっちが思うよりは悪いものじゃあないね、きちんと気をつけるところを押さえれば問題はないだろうさ」
その言葉が信じられないのか、少し怪訝な顔を浮かべるマスター。
オレはその顔を見て苦笑いを返していた、いくらなんでもあからさま過ぎる反応だな。
「確かに思っている通りあまり戦っていないけど態度に出すのは感心しないな」
「仕方ねーじゃん、今まで一対一で勝ってねーんだし」
まあ、マスターの言うとおり真っ向勝負で勝った勝負があってないようなものだもんな、バーサーカーなんて多人数だしランサーは不意打ちだった。
「でも勝っている事には変わりない、多人数でやっても不意打ちでやっても勝てば官軍ってな負けちゃ元も子もない」
ただ事実だけを見ればあいつらに勝っているのはオレだ、だったら勝てる可能性があると言っても大口を叩いているわけじゃないだろう。
「そういうもんか、納得したぜ」
こっちのいう事がむずかしいと感じたらあっという間に納得してくれるマスター、こういった話し合いでは楽なのだが出来れば作戦の時ぐらいは真剣に投げ出さずに聞いてほしい。
「とりあえずは勝てるように速度をなくしたり、衝撃波を軽減できる環境が備わってる場所を探すかな」
取り得を無くしてしまえば十分勝ち目を増やせるからな、その代わりこちらもトラップを使う機会が減ってしまって真っ向勝負にもつれこみやすいのが難点だ。
「でもオレには刀がある、近距離でやりあえばそう簡単に負ける事はないはずだ」
鞘に収めている刀を撫でて呟く、アサシンならば近距離で戦えばいい、またライダーの場合はバイクの傷やタイヤを狙って機動力を落としたりして速度で優位に立ったら勝算が増えるだろう。
「あとはマスターを狙うのが有効だろうな、そこはそっちにもお願いすると思うけど頼むよ」
二対一で勝てるとか思うほどの自惚れはない、仮にそんなものがあるならそれを捨てて堅実に勝つ事を考えていかなければいけない、油断は絶対にいつか身を滅ぼすことにつながるんだから。
「そういうのは任せとけよ、うちは頭は悪くても喧嘩するのは大好きだからな!!」
考えが一段落したあとに協力してほしい事を伝えると、こっちの要求に満面の笑みで答えるマスター。
さっきまでとは打って変わって生き生きしている、よっぽど暴れるのが好きなんだろうな。
「とりあえず言えることはこれだけ、明日からはまた戦うんだから体には気をつけてくれよ」
そう言ってオレは夜風に当たる為に外に出た、少し作戦を練っていたから頭が熱くなっていた分いいくらいだ。
「後少しで終わると思うと長いようで短い戦いだったな、ハチャメチャな事だったけど時々これくらい度が過ぎたのもいいかもしれない」
呟いた事は誰にも聞かれていないだろう、オレは微笑みながら家に戻っていく。
このまますぐに眠って明日の活力にしよう、相手も同じ様に蓄えているだろうから、そして明日からは今までとは比べ物にならない激戦になるだろうから。
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聖杯戦争……九日目。
各々が休息を取って明日に備える、そして全員が感じている。
これが最後の休息であることを。
明日起きればそれから此処に戻ってはこれない。
今まで以上に大きく押しかかる現実。
それを押しのけて各々の居場所に誰が戻ってくるのか。
月光が再び沈む時誰が消えるのか。
それは朝日が昇って始まる明日だけが知っている……。
戦いの前に1日ゆっくりするという話を組み込んで見ました。
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