今回はイレギュラーが登場します。
これは『最強』のサーヴァントと『最弱』のサーヴァントが戦った同時刻の戦いである。
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「美女がここに居るってのは良い……」
俺は口の中に感じる違和感を取り除くために、口をもごもごさせて一拍置いてから地面に吐きだした。
そこには血が混じっている。
ちっ……口の中切れてーら。
「その美女に似合わない暴力的な野郎が連れとは……紳士じゃないとモテないぜ?」
そう言って俺が目の前にいるお兄さんを睨みつける。
まぁー、相手さんは俺に良い印象なんて抱いてないだろうな。
何せ初対面で連れの女性をナンパするような奴だ。
そんな奴に良い印象を持ったら、そいつは特殊な感覚の持ち主だ。
するとお兄さんは指を豪快に鳴らしながら……憤怒の表情むき出しでこう言ってきた。
「人の女に色目使うのが悪ぃんじゃねえのかよ……クソッタレが」
言いたい事は言えたのか、勝手に構え始めた。
ん?……これどっかで見たこと有るな……
確かワン子ちゃんと一緒で川神流じゃないか?
「決めさせてもらうぜ、川神流奥義『大蠍撃ち』!!」
「ちっ!!」
俺は前転をして避ける。
懐に潜り込む、そして顔面めがけてカウンターを叩き込む。
手応え有りだ。
しかし次の瞬間大きな声が聞こえてきた。
「効くわけ無ぇだろうがぁッ!!」
耳に響く、やかましい奴だな。
カウンターを受けても相手は怯まずに攻撃を放ってくる。
これは流石に俺も苦笑いをしてしまう。
とりあえずは距離を取って体勢を立て直してみるか……。
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始まりは他愛のない散歩からだった。
亜巳と一緒に歩いていたらいきなり前を歩いていた男が、軽薄そうな声で亜巳に話しかける。
そして手を引いて行こうとしたところに横っ面を殴ってやった。
それが戦いの始まりだった。
「テメェよ、さっきから調子に乗りすぎだ」
距離を取った相手に俺は攻撃を放っていく。
川神院の奥義もその中には入っている。
相手もひょいひょいと避けていく。
「さっきからちょこまか、ちょこまかと……ッ」
イライラしてくるがそこは抑えなくてはならない。
深呼吸をして一度落ち着く。
「一気に潰すッ……オラァァア!!」
足に力を込めて踏み出す。
ちょこまかと動いていた奴の顔が近い。
俺はその顔面に向かって奥義を繰り出す。
「川神流奥義『無双正拳突き』ッ!!」
腰を捻り火の噴くような一撃を繰り出す。
「くっ!!」
男の奴が後ろに下がるが無駄だ、俺の方が速い。
再び踏み込んで拳を振るう。
「逃がしてもらえるなんざ、思ってんじゃねぇぞ!!」
そう言って拳を振るった瞬間。
男の奴が俺の拳を避けていた。
そして目に映ったのはカウンターを叩き込もうとする拳だった。
「何……速くなっただとッ!?」
俺は後ろに下がって距離を取った。
相手の動きが心なしか速くなっている。
追いつける速度だったはずが一瞬の間にカウンターを取られそうだった。
「はぁ…驚いてしまった訳だが……まぁ、他にも俺には俺の戦い方ってもんがあんだよ」
速さで決着をつけようとしたミスは確かに危ない。
亜巳に愛想を尽かされるかもしれない。
亜巳の機嫌を損ねたらそれこそ俺の戦いが終わる。
何故かそんな予感がする。
「随分とまぁ味な真似をしてくれたじゃねぇか、えぇ?……こいつで
俺はそう言って気弾を放つ。
威力は抑えて速度は速くする。
あの男にに手痛い一撃を食らわせるためには欲張ってはいけない。
「おっと!!」
男の奴が笑いながら飛び上がる。
飛び上がったことで気弾を避ける。
しかしその瞬間、俺は笑みを浮かべていた。
「こいつを待ってたんだ!!、いけやぁ、『リング』ゥ!!」
俺は今出せる最大奥義を放つ。
良い速度と角度で舞い上がっていく。
確実に相手を捕らえたという手応えがそこには有った。
「ぐああああああ!!!」
空中で動けない男に直撃する。
大きな爆発を起こす。
煙を上げながら男の奴が落ちていく。
これで勝負は決まった。
そう思っていたのだが次の瞬間俺の背筋に恐ろしいものが駆け抜ける。
薄ら寒いものと何かしらの嫌な予感が体を包む。
煙が晴れるとき俺はその薄ら寒いものの正体を身をもって知るのであった。
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こちらに相手の大技が直撃したのは危なかった。
一瞬だったが意識が遠のいたぞ……。
しかし俺の往生際の悪さが意識を繋ぎ止めてくれていた。
「良い隠し玉持ってるじゃん」
首をコキコキと鳴らして相手を見る。
相手は煙から俺が出てくるとは思っていない。
何故ならば見事にあの攻撃が決まったと思っているから。
それはやってはいけない事だぜ。
「それじゃあ行くかねェ!!」
俺は駆け出す。
狙いは煙の方向。
そこから出ることでお兄さんの動揺を誘う事が出来るだろう。
「しゃああああああ!!」
「なっ、どうやって!?」
咆哮をあげて煙の中から俺は勢い良く出る。
すると案の定お兄さんの驚く顔がうかがえた。
ザマー見やがれ。
構えてはいるものの驚きで僅かに反応が鈍ったのは問題だったな。
「警戒するにせよ……そうあからさまに驚いちゃいけねえぜ!!」
一時的に筋力を増強して攻撃をする。
さっきは脚力を上げたがこの距離ならばデメリットによる能力減退も関係ない。
「はあああっ!!」
雄叫びと共に攻撃を絶え間なく繰り出す。
左肘撃ち。
右正拳突き。
左上段蹴り。
右下段蹴り。
左手刀。
右前蹴り。
右肘撃ち。
左中段蹴り。
右上段蹴り。
左下段蹴り。
左正拳突き。
右中段蹴り。
数える事、実に十二回の攻撃。
火の噴くような一撃一撃。
さらに目にも止まらない連打。
それを相手に撃ち込む。
お兄さんはじわりじわりと後退をしていく。
俺は仕返しとばかりに大技を放つ。
飛び上がって体を捻り、顔面に向かって勢い良く蹴りを出す。
飛び後ろ回し蹴りという奴だ。
足が顔面にめり込む。
ハッ、変な顔だ、笑ってやろう。
なかなかに爽快な音が聞こえる。
そしてその勢いのまま足を振りぬく。
お兄さんはそのまま地面を滑るようにして倒れこんだ。
流石にこいつは効いただろう。
そう思ったが……次の瞬間余りにも恐ろしいものを目にした。
「はあっ!!」
背中から飛び上がるようにして起き上がるお兄さん。
まるで痛みを感じていないかのように平然と立つ。
先ほど俺がしたように首をコキコキと鳴らしてこっちを見る。
その顔には僅かに笑みが浮かんでいた。
まだまだこれからだというように。
今までなんてウォーミングアップなんだというように。
俺はそれを見て……
全く面倒な相手だと思った。
普通ならここいらで引けば良いのに。
そっちが売った喧嘩なんだとしても降りれば良いのに。
変な意地を張らないで倒れておけよ。
すると唐突に何かしらの気配を感じる。
俺はその気配を察知して振り向く。
向かい合っていたお兄さんもその方向を注視していた。
風きり音がけたたましく聞こえてくる。
確実に近づいているのが察知できたのだった。
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私はジジイから聞いていたことなど完全に無視をしていた。
聞いた所によると、強い奴らが七人もこの川神に現れて争うというのだ。
ジジイは無関係だから首を突っ込むなと口うるさく言っていたがお構い無しだ。
しかしそんなものを聞けば私の戦闘衝動が疼く。
ただこの衝動を止めようとは思わない、それが自分の性分だからだ。
何処に居るのか気を察知していたら丁度大きい奴が二つあった。
一応橋の方にも気は有るようだが大きさがいまいち分からない。
何かしら妙な細工が施されているのだろう。
気の察知を乱す細工ができるというのも驚きだな。
仮に察知できなかったほうが小さかったならば意味がない。
私は二つの大きな気の方へと向かって行った。
風を裂いて。
音になって。
一刻でも速くその場所を目指す。
景色がめまぐるしく変わっていくのも良い心地だ。
「お前ら……私も混ぜろよ」
およそ僅かの瞬きの回数でその場所へと私は到着するのだった。
満面の笑みで私はその男達二人に向かって言葉を発していた。
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現れた存在を見て俺はため息をつく。
お兄さんの方も頭に額を当てて嫌な顔を浮かべる。
「マジかよ……」
「そいつは勘弁だって」
俺とお兄さんが二人してやめてくれと、懇願するような声色で言葉を発する。
せめてこの戦いに参加しているバーサーカーとか言うのなら納得は出来る。
だがこいつはダメだ。
サーヴァントですらない存在じゃないか。
それは自然災害と思われている女。
それは人間ではないであろう女だった。
流石の俺もこいつを良い女と思える自信が今は無かった。
構えて最大限の警戒をする。
いつこちらを攻撃してくるか分からない。
そして俺は苦笑いを浮かべるのだった。
流石にこれは予想外だと心の中で思った。
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二人が苦笑いを漏らす理由。
それは流星と見まがうほどの速さでこの地へ降り立ってきた存在であった。
この聖杯戦争において最悪の不確定要素。
『武神』川神百代。
その強さは人ではなく自然災害として数えられる。
今『最悪』の場所が二つ出来上がるのだった。
彼女は元より参戦させる予定でした。
やはり本家のように野良で暴れまわる敵は必要かと思いましたので。
何かご指摘などありましたらメッセでお願いします。