ロクでなし魔術講師と携帯獣使い   作:ゲームの住人

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 こんにちは、ゲームの住人です。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした……。少しずつ書き溜めていたのがようやく纏まったので投稿します。ペースは遅いと思いますがこの作品を放棄する気は全くありませんのでご安心下さい。
 それはそうと、遂にポケモンの最新作のゲームが発表されましたね!
 イーブイとピカチュウ、どちらを相棒にするか今から悩みます………。


ボス戦

 鉄球との鬼ごっこを繰り広げた後、おれ達は少し休憩してから探索を再開した。心なしか敵が強くなっている気がするが、ライアスと連携して屠っていく。

 そうする事、約20分    

 

 歩いていた通路の先が開け、小さな広場に辿り着く。これまでに小さな広場は嫌というほど通ってきたが、今回の広場は他とは違った。

 広場は半円状になっていて、右と左の二つの通路と繋がっている。広場の中央にはパズル台が設置されていて、広場の奥の方に黒光りする重厚な扉があった。

 

「うわぁ……このパズル三十五ピースもあるぞ」

 

 パズル台に歩み寄ったライアスが嫌そうな声を上げる。おれは歩み寄ってパズルを眺め、解き始めた。今回は結構難しそうだが、めげずにパズルをスライドさせているとピースに描かれた絵がだんだん出来てきた。

 それから数秒後、赤い魔法陣が描かれたパズルが完成した。

 

「なんだこれ?」

 

「んー……多分、こういう事かな……」

 

 完全な姿を取り戻した魔法陣の上に手を載せ、魔力を流す。

 すると、ブゥゥゥンという音と共に、黒光りする扉の表面に赤い模様が走り、パズルに描かれているのと同じ魔法陣が刻まれた。

 

 ゴゴゴゴ……

 

 地響きを立てながら扉が開いていく。完全に開ききったところで扉は止まった。扉の奥は暗くなっていて見ることができないが、この先がボス部屋で間違いないだろう。

 ライアスが扉を見ながら言った。

 

「この仕掛けむちゃくちゃカッケーな」

 

「同感」

 

 相槌(あいづち)を打って扉へ踏み出そうとした時、おれ達が通ってきた通路の反対側にある通路でチカッと何かが瞬いた。

 

「避けろ!!」

 

 咄嗟に叫び、もと来た通路まで後退する。

 

「へ?……ぅわっ!」

 

 キョトンとしていたライアスだったが、自分目掛けて飛んでくる紫電を慌てて避ける。おれの側まで戻って来たライアスが、反対側の通路に向かって叫んだ。

 

「何すんだ!」

 

 すると、不意打ちしてきた何者かが通路からゆっくりと姿を現した。

 

「ちっ……外したか」

 

 通路から出てきたのは、おれ達と同じ選手だった。どこかで見覚えがあると思ったら、いつもグレン先生にいちゃもんをつけてくるバーボン先生の周りをチョロチョロしている生徒だ。確か名前は……

 

「えーっと、ペペロン君?おれ達は敵じゃないと思うんだけど……」

 

「ジーロだジーロ!!間違えるな!」

 

「あ、ごめん」

 

 ペペロン改めジーロ君はおれを睨みつけていたが、気を取り直したように言った。

 

「ここから先は僕一人で行かせてもらう。君達は僕が競技を達成するのを指を咥えて見ていたまえ」

 

 何言ってんだこの人?というか……。

 

「それを言うためにわざわざ待ち伏せしてたのか…?」

 

 待つくらいなら先に行ってクリアすれば良かったのに、なんでおれ達が来るのを待ってたんだろう?それこそ時間の無駄なのになぁ……。

 すると、ライアスがニヤニヤしながらジーロ君を見た。

 

「いや、違うぜコル。コイツは多分パズルが解けなかったんだよ。だから解けるやつが来るのを隠れて待ってたんだろ」

 

「え?そうなの?」

 

 なるほど、通りでパズルのピースが中途半端な位置にズレてると思った。

 

「ち、違う!あんな簡単なパズルが解けない訳ないじゃないか!」

 

 赤い顔で否定したジーロ君は左手を構え直すと、おれとライアスを牽制しながらじりじりと扉の方に進み始めた。

 

「いいか、この先には来るなよ。優勝は僕達一組のものだ」

 

 ジーロ君はドヤ顔でそう言い残し、扉の向こうへ消えた。

 

「あ、あの野郎、なんて身勝手なんだ!追うぞ、コル!」

 

 そう言って走り出そうとしたライアスの前で、沈黙を保っていた扉が再び重低音を響かせた。驚いて足を止めるライアスの前で扉がゆっくりと閉まっていく。ゴゴン、という音を最後に扉は行く先を固く閉ざしてしまった。

 

「何で閉まって……」

 

 そう言いかけたおれの耳がカチャカチャカチャッという音を捉えた。音のする方を見ると、パズル台の完成していたパズルが自動でシャッフルされていくのが目に入った。

 どうやらこの扉は、人が中に入ったのを感知して勝手に閉まり、中に入るにはもう一度パズルを解く必要がある仕組みになっているらしい。歩み寄ってパズルを見るが、完全にぐちゃぐちゃになっていて解き直すのは骨が折れそうだ。 

  

「えぇー…また解かないと入れないのか…?」 

 

「そうみたいだ。……まぁ、制限時間までにゴールすれば良いんだから焦らなくても」

 

 いいさ、と続けようとした時。 

 

「う、うわああぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 扉の向こうから悲鳴が聞こえてきた。そして、それに続くようにドガァァァンッと何かを叩きつける音。

 

 おれとライアスは顔を見合わせ、それぞれ動いた。

 おれがパズル台に飛び付くようにしてパズルを解き始め、ライアスが扉に走り寄る。

 

「おい、大丈夫か!!」

 

 ライアスが呼びかけるが返事はない。しかし、扉の向こうから聞こえてくる轟音は止まない。時折轟音に混じって悲鳴が聞こえてくるのでジーロ君はまだ無事だろうが、それも時間の問題だ。

 

「コル、まだか!?」

 

「今やってる!!」

 

 これはただの競技なので敵にやられたとしてもせいぜい掠り傷や捻挫程度の怪我しかしないという事を半ば忘れ、おれは頭を必死に回転させた。先程解いたおかげで、このパズルの完成形は頭に入っている。それを思い浮かべながら手を動かしていく。自分でも恐ろしくなる程のスピードでパズルのピースは正しい位置に(はま)っていき   

 

     出来たっ!!」

 

 完成した瞬間に左手を叩き付け、パズルに魔力を流す。

 扉が輝き、再び開いていく。人が入れるスペースができるやいなや、ライアスが身を滑り込ませて中に入っていった。おれも急いで後を追う。

 

 先程中を覗いた時は扉の向こうは真っ暗だったが、今は明かりが付いており、部屋の奥まで見渡せた。

 

 扉の向こうには円形の広い空間が広がっていて、壁に一定の間隔を空けて松明(たいまつ)が設置されていた。いかにも『ボス部屋』っぽい雰囲気を醸し出しているが、その部屋をよりいっそう『ボス部屋』たらしめているのは、空間の中央に立っている存在だった。

 

 大きい。前傾姿勢なので正確には分からないが、三〜四メートルはありそうな巨大な魔導人形がおれ達を見下ろしている。頭の両脇からは水牛を思わせる角が生え、細長い尻尾が揺れる。身体には青い光の回路が走っている。手に持っている大槌は持ち主のサイズに合わせてあり、轟音の正体はもしかしなくてもコイツだろう。

 

 魔導人形の無機質な瞳と目が合う。

 

 次の瞬間、ゲームでお馴染みの『ミノタウロス』によく似た魔導人形が手にしている大槌を高々と振り上げ、同時に背後の扉がゴゴン、と音を立てて閉まった。

 

「うわあっ!」

 

 慌てて飛び退いた、その場所に大槌は振り下ろされ    

 

 ドガァァァァァァンッ!!

 

 扉越しで聞いた音の三割増しの轟音を響かせた。

 

「……これを倒せと?」

 

 顔から血が引いていくのを感じながらおれは辺りを見渡す。ライアスは……若干顔色が悪いけど無事だ。ジーロ君は……いない。どうやら間に合わなかったようだ。天(地上)へ旅立った彼に黙祷を捧げる。

 

 ゆっくりとこちらを向き直るこの迷宮の主を前に、おれは腹を(くく)った。大丈夫、死にはしないさ!………多分。

 

「ライアス!」

 

 声を掛けると、「お、おう!」と返事が返ってくる。

 

「せっかくここまで来たんだ、クリアして帰ろう!」

 

 そう叫びながら、左後方に跳んで大槌を避ける。

 

「今まで戦ってきた魔導人形達と同じように、コイツにもきっと弱点があるはずだ!それを探そう!」

 

「分かった!」

 

 ライアスの返事を聞きながら、おれは大槌を手に歩み寄ってくるミノタウロス(勝手に命名)に左手を向けた。

 パッと見た感じ、弱点らしき部分は見当たらないので、とりあえず眼を狙ってみる。

 

「《雷精よ》!」

 

 飛んでいった紫電が右眼に命中すると、ミノタウロスは上体を軽く揺らして立ち止まった。しかし数秒もしないうちに再び動き出す。

 

 【ゲイル・ブロウ】で吹き飛ばせないかと考えたが、すぐに頭を振ってその考えを捨てる。魔導人形がそれなりの重さを持っているのはこれまで倒してきた魔導人形で確認済みだし、そもそも目の前で大槌を振りかぶっているこの人形は他の人形より一回りも二回りも大きいので【ゲイル・ブロウ】をぶつけても大したダメージは与えられないだろう……

 

「………わっ!」

 

 頭上から降ってくる大槌を慌てて躱す。

 

 とりあえずは、弱点を探しながら少しずつダメージを蓄積させていこう。

 

 そう決め、おれはミノタウロスに左手を向けて、新たに呪文を唱えた。

 

 

 

 

 

    システィーナ   

 

 会場の全てのモニターが、コルとライアス、そして魔導人形を映していた。

 

『二組のコル選手、魔導人形の攻撃を躱し続けています!その間に後ろから四組のライアス選手が攻撃を仕掛けるが……駄目だ、攻撃が魔導人形の尾に阻まれて通りません!』

 

 大槌がコルを掠めるたびに、システィーナの心臓が縮み上がる。

 

『今や残っている選手はこの二人のみになってしまいました!ここまでくれば最早クラスは関係ありません!どっちも頑張れー!』

 

 実況者の声援に合わせて他のクラスからも応援の声が次々に上がる。

 

 グレンが呻くように言った。

 

「これ、死なないって分かってても心臓に悪いな……」

 

「あ、あはは……」

 

「そうね……」 

 

 画面の中のコルは、魔導人形の大槌を後ろに下がって避けながらカウンターで呪文を放っている。魔導人形と遭遇し、目の前に大槌を叩きつけられた時は血の気の引いた顔をしていたが、今は慣れたのか顔色も良くなりつつある。

 その様子を見守っていると、システィーナはあることに気が付いた。同時に、グレンが呟く。

 

「まずいな……あいつ、自分でも気付かんうちに壁際に追い込まれてる」

 

「そうね……」

 

「え?……あ、本当だ……」

 

 コルは攻撃を避けて魔術で反撃する事に集中し過ぎて周りに気を配れていないし、共闘している生徒はムチのようにしなる魔導人形の長い尾に翻弄され、更に魔導人形の身体自体が大きいので視界を遮られて前方の壁に気付いていないようだ。

 

「……あっ!」

 

 システィーナ達が見守る中、大槌を振りかぶった魔導人形を警戒して後ずさったコルの背中が広間の壁にぶつかった。コルの目が見開かれ、ちらりと後ろを振り返る。金色の瞳にはっきりと焦りの色が浮かぶのを、システィーナは画面越しに見た。

 

 

 

 

    コル   

 

 大槌を避けるために後ろに下がろうとすると、背中が何かにぶつかった。

 

    ッ!?」

 

 慌てて振り返ると、視界いっぱいに壁が広がる。辺りに視線を走らせると、さっきまで部屋の中央に居たのにいつの間にか部屋の端まで移動していた。しまった……!避けるのに集中し過ぎて周囲に気を配るのを忘れてた……!

 

 正面ではミノタウロスが大槌を振り上げている。横に避けようとするが、ミノタウロスの尻尾がまるで通せんぼするかのように行く手を阻んだ。

 魔導人形の瞳が勝利を確信したように瞬いた、気がした。

 

 くそ、こうなったら……!

 呼吸が乱れ、冷や汗が頬を伝う。おれは自滅覚悟で呪文を叫ぶように詠唱した。

 

「《大いなる風よ》  ッ!!」

 

 その瞬間、黒魔【ゲイル・ブロウ】が発動した。しかし、おれは左手を敵に向けずに背後の壁に添える。ゼロ距離で壁にぶち当たった風は、行き場を失って荒れ狂い    

 

 ビュゴオオォッ!!

 

 暴風と化した風は床からおれをすくい上げ、斜め前方へ吹き飛ばした。

 振り下ろされた大槌が頬を掠める。

 ミノタウロスのすぐ横を通り抜け、おれは空中へと飛び出した。

 

「ぐ……お…………っ!」

 

 身体を叩く衝撃と風圧に耐える。

 この使い方はグレン先生がフィーベルさんに吹き飛ばされている光景を見て思いついたことだ。しかし一度公園の空き地で試してみたところ、風が強過ぎて身体に負担が掛かるし細かい方向調節が難しかったのでこの使い方は封印していたのだが、早くも封印を解いてしまった。

 

 この競技祭が終わったらちゃんと改良して緊急回避用として使えるようにしよう、と決意しつつ、迫りくる床に備える。

 

 ズシャアアアァァ……!

 

 摩擦で靴底から煙が上がるが、なんとか転ばずに着地に成功する。

 

 広場の中央辺りまで飛ばされて来たようで、ミノタウロスとはかなりの距離がある。ライアスが急いで走り寄ってきた。

 

「大丈夫か!?急にすっ飛んで行ったから何事かと思ったぞ」

 

「大丈夫大丈夫」

 

 本当は吹き飛ばされた衝撃で体中が痛くて全然大丈夫ではないが、そこは我慢する。 

 

「それより、どう?そっちは何か気付いた事はある?」

 

「いや……正直、あいつの尻尾の相手をするので精一杯だった………。というか、アレは学生なんかがどうこう出来るレベルじゃない気がしてきたぜ」

 

「だよな……多分だけどこの競技、選手達が協力して戦うのが正規の攻略ルートだったんじゃないか?ルール説明の時、アルフォネア教授は『最深部に至れば得点』って言ってたけど、『一番に着いた人だけ』とは言ってなかったし……」

 

 話しながら、こちらに向かってくるミノタウロスを眺める。

 

「くそ……分かり易い弱点とかがあれば良かったのになぁ…」 

 

「一通り呪文をぶつけてみたけど、魔術の属性とかはあまり関係ないみたいだったし……」

 

 ミノタウロスをじっと見つめているが、やはり弱点らしきものは見当たらない。ジリ貧だな……と思いながら、何気なく大槌に視線を送る。

 

 大槌は、全体的に黒っぽい光沢を放っていて、所々に薄青い光のラインが通っている。装飾は控えめだが、両側面にきれいな青い宝石が嵌っていた。

 

「………ん?」

 

 よく見ると、光のラインはその宝石と繋がっている。そして、そのラインは大槌からミノタウロスの手を渡り、ミノタウロスの全身に広がっていた。

 

「………見つけたかも」

 

「ん?どうした?」

 

 ライアスが首を傾げているが、おれはそれに答えず、左手を構えた。狙いは当然     

 

「《雷精よ》!」

 

 飛翔した紫電が大槌の宝石に命中した瞬間、ミノタウロスがこれまでとは違うアクションを起こした。

 膝を付いたのだ。

 見ればその身体に通る光の回路が紫色に輝き、時折スパークを散らしている。見守っている間にスパークは収まり、回路は元の薄青色に戻った。

 

 盲点だった。

 まさか敵を倒すための武器が弱点でもあったなんて……!

 

 ゆっくりと起き上がる魔導人形に向かって駆け出しながら、おれは叫んだ。

 

「大槌の側面に嵌ってる宝石を叩け!」

 

 後ろから足音が追いかけてくる。

 

「《その剣に光在れ》ッ!」

 

 ライアスはボス戦が始まった直後に【ウェポン・エンチャント】を掛けていたが、おれは掛けていなかったので走りながら両手に掛ける。

 

 おれは移動を始めたミノタウロスの正面でわざと立ち止まった。それに反応したミノタウロスが大槌を振り上げる。落ちてくる大槌を避けて右に回ると、ライアスが左側に踏み込んだ。二人で大槌を挟む形になる。

 

「ふっ!」

 

「どりゃあっ!」 

 

 宝石に拳を勢い良く叩きつける。

 

 ビシッ!

 

 宝石に亀裂が走った。そのタイミングで大槌が床から離れ、ジャンプしても届かない高さに持ち上げられる。

 

「くそ、やっぱ一回じゃ壊せないか!」

 

 頭上まで持ち上がった大槌を見てライアスが毒づいた。

 

「一旦距離を   

 

 そう言いかけた時、ミノタウロスが見慣れない動きを見せた。これまでは正面に構えていた大槌を横に倒し、後ろに軽く引く。

 

    ッ!!」

 

「おわぁっ!」

 

 おれは咄嗟にライアスの足を払って転ばせ、身を屈めた。

 

 ゴオッ!

 

 風切り音と共に頭上を大槌が通り過ぎる。

 どうやら弱点を攻撃されると行動パターンが変わるようだ。トラップといい魔導人形(コイツら)といい、アルフォネア教授気合い入れ過ぎだろ全く……!

 

「すまんコル、助かった!」

 

「貸し百個だぞ!」

 

「十倍にして返してやるよ!」

 

 軽口を叩き合いながらもミノタウロスから視線は外さずに距離を取る。

 

「攻撃パターンが増えたせいで近寄りづらくなっちまったな……どうする?」

 

「んー………【ショック・ボルト】を撃ち込んでみるよ。もしかしたらさっきみたいにしゃがんでくれるかもしれないし」

 

「分かった、じゃあオレが引き付けるから、その間に頼む」

 

 即席の作戦会議を終わらせ、意識を魔導人形に集中させる。

 力の源である宝石にヒビが入ったせいか、魔導人形の身体に走る光の回路は所々明滅している。尻尾に伸びていた回路は完全に光を失い、尻尾は力無く垂れ下がっていた。右足も上手く機能していないようだ。

 敵は確実に限界に近付いている。

 

「来るぞ!」 

 

「おうっ!」

 

 ミノタウロスが前に一歩踏み出したタイミングで、ライアスが走り出した。おれは左手をミノタウロスに向ける。

 

「《雷精よ》ッ!」

 

 紫電は狙った通り大槌の宝石に命中し、バチッと音を立てた。宝石が薄紫色に輝き、その輝きが回路を通してミノタウロスの全身に回り、スパークを散らす。

 

「……よし!」

 

 ミノタウロスが身体をふらつかせ、膝を付いた。その隙を逃さず、ライアスが拳を二度振るう。

 それで十分だった。

 

 パキィィィィンッ!

 

 儚い音を響かせて宝石が粉々に砕け散り、魔導人形は完全に停止した。

 

 

 

 

 

 二人分の靴音が壁に反響する。

 

「いやー、ここまで長かったな」

 

「そうだな……あー疲れた………」

 

 魔導人形を倒した後、広場の真ん中が振動を立てて割れ、階段が現れた。ゴールはここではなく最深部だった事を思い出したおれ達は広場の中央に向かい、今こうして階段を降りている。

 

 三十秒ほどで階段は終わり、おれ達は小さな部屋に辿り着いた。中央の床に魔法陣が描かれているほかには何もない部屋だ。恐らくこの魔法陣の上に乗ると地上にワープする仕組みになっているのだろう。

 ライアスと頷きあい、魔法陣の上に歩を進める。 

 視界が白く染まり、おれ達は地上へ脱出した。

 

 

 

    システィーナ   

 

 会場はしんと静まり返っていた。

 誰もが目を見開いて目の前の画面を凝視している。

 画面にはうずくまって動かなくなった魔導人形と、二人の生徒が映っている。

 

『た……倒したああぁぁあッ!!コル選手とライアス選手、見事迷宮の番人を倒しましたッ!!もうゴールは目前だあぁぁぁああ!!』

 

 その実況を皮切りに、爆発したように歓声が上がった。その中でも特に大騒ぎしているのは、二組と四組の生徒達だ。

 

「もう、無茶するんだから……」

 

 コルが自身を吹き飛ばして魔導人形の攻撃を避けるという荒技を披露した時のことを思い出し、システィーナは軽く溜息を付いた。あの時は本当に焦ってしまったが、画面に映るコルは痛そうにする様子はなく、大した怪我はしていなさそうだ。

 

「あいつ……本当にクリアしやがった」 

 

 グレンが嬉しそうに呟く。ルミアもニコニコしながら画面を見つめて言った。

 

「あ、戻ってくるみたいだよ、システィ!」

 

 その直後に競技場の中央の魔法陣が光を放った。それが収まると、そこには疲れた様子のコルと四組の生徒が立っていた。歓声が大きくなる。

 

 コルは四組の生徒とハイタッチをすると、システィーナ達が座っている観客席に目を向けた。

 

 システィーナとコルの目が合う。

 

 コルは満面の笑みを浮かべて、システィーナ達に向けて親指を立て、サムズアップをしてみせた。 

 




 大槌のイメージはでっかいハンマーで、横の部分に結晶が嵌っている感じです。
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