今回で遂に原作主人公、グレン=レーダス大先生を登場させる事が出来ました。どこで話を区切るか迷ってしまい、いつものより少しだけ長くなってしまいましたが、
5話目です。どうぞ。
フィーベルさんからお小言を頂いた次の日の朝、教室の扉を開くと、教室の中にいたフィーベルさんがおれを見て満足そうに頷いた。
「おはよう。今日はギリギリじゃなかったわね。寝癖もついてないし」
「注意された次の日に遅刻をかます度胸は流石にないかな。おはよう、フィーベルさん、ティンジェルさん」
「おはよう、コル君」
挨拶を交わしながら、おれは教室の中に入る。
自分の席に向かっていると、クラスメイトのカイとロッドが真剣な顔をして話しかけてきた。
「おい、知ってるかコル?明日から学食のメニューに新しいのが加わるらしいぞ」
「へー、何が追加されるか楽しみだな。あ、そうだ。二人共、この前パスタが美味い店を見つけたから今度行ってみないか?」
「おお、良いな」
「ふっ……。料理に関しては誰よりもうるさいこの俺の舌を唸らせる事はできるかな?」
二人と他愛もない事を話してからおれは席に着く。
いつものように遊びに来た小鳥と戯れてから、おれはズボンのポケットからこっそりと3DSを取り出した。
今日は少し早めに登校したので、ホームルームが始まるにはまだ時間がある。その空いた時間を有効活用するべく、おれはゲーム機を起動した。
おれの席は教室の一番後ろ、かつ隣の席はクラスの人数の関係で無人なので、心置きなくゲームをエンジョイでき………
「ねえ」
「うおぁぁああっ!?」
いきなり横から声がして、おれは思わず飛び上がった。
「そ、そこまで驚かなくても良いじゃない」
いつの間にかおれの横に人が立っていた。
お互いがお互いの声で驚いたようだ。
おれの叫び声にびっくりしたように硬直している、おれを驚かせた犯人、フィーベルさんは気を取り直したように言った。
「ソレ、いつも持ち歩いてるみたいだけど、何の道具なの?」
フィーベルさんの視線はおれが慌てて3DSを突っ込んだポケットに向いている。
「あ、いや、これは……」
返事に困っていると、タイミング良く学院の鐘の音が鳴り響いた。ナイス!
「ほ、ほら!もう時間だろ?席に着きなよ」
そう促すと、フィーベルさんは残念そうな顔をして去っていった。あ、危なかった……。
どうやらこの3DSは、フィーベルさんに完全にロックオンされてしまったらしい。当分は持って来ない方がいいかもしれない。
そう考えている間にホームルームの時間になったが、教室に入ってきたのは、何故か隣のクラスの担任をしている先生だった。
「あれ、何でハーレイ先生が?」
「ヒューイ先生は?」
教室がざわつく中、皆の疑問に答えるかのように、先生はこう言った。
「ヒューイ先生は先日、この学院を退職なさった。代わりの教師が来るまで、このクラスの授業は他の先生方が代わりにしてくださる」
その言葉を聞いたクラスメイト達は一様に疑問を抱き、先生に質問しようとするが、それらを跳ね除けるように先生は言葉を重ねる。
「私はこの後自分のクラスにも行かなければならないので、ホームルームはこれで終わりとする」
それだけ言い残して、先生は教室を去っていった。
そしてその日から、おれ達のクラスの授業は他の先生達が交代でするようになった。魔術の起動の仕組みはよく分からなかったが、ヒューイ先生の授業は頭に入りやすかったし、話しやすい先生だったので少し残念に思った。でも、一番堪えたのはフィーベルさんだろうな。ヒューイ先生が教師を辞めたと聞いてから、おれの3DSの事なんてすっかり忘れているようだ。これで3DSについての心配事は無くなったのだが、ヒューイ先生の事もあり素直には喜べなかった。
こうして、おれ達のクラスはしばらくの間、担任の教師が居ないという寂しい状態で過ごした。
それから、一ヶ月後。
この日は母さんが家に居てくれたおかげで遅刻を免れたおれは、教室でゲームをしていた。今ちょうどダンジョンの最奥に辿り着いたのだが、マップを確認したところ、この先は広い空間になっており、どう考えてもボス戦の予感しかしない。ホームルームまでに倒せる保証は無いので、突撃するかどうか迷いながら、とりあえずキャラクター達の装備を確認して、アイテムを整理していると、突然とんでもない人物が教室に入って来た。
「アルフォネア教授……!?」
セリカ=アルフォネア。
一から七まである魔術師の位階、その最高位の
今まで騒がしかった教室の中が途端に静かになる。
しんと静まり返った空気の中、教卓の前に立ったアルフォネア教授は、教室に居る生徒達を見渡してから、こう言った。
「今日はこのクラスに、ヒューイ先生の後任を務める非常勤講師がやってくることになった」
その言葉を聞き、教室が少しだけざわつき始める。
アルフォネア教授は更にこう続けた。
「まあ、なかなか優秀な奴だよ」
その言葉に、おれを含めたクラス全体に衝撃が走った。
「楽しみにしておくといい」
そう言い残して、アルフォネア教授は教室を出ていった。その瞬間、教室が一気に騒がしくなる。話題は言わずもがな、今日赴任してくる非常勤講師についてだ。
「アルフォネア教授のお墨付きか…」
おれは半ば無意識にそう呟いた。
この一ヶ月、ずっと担任の先生がいなかったクラスに新しい先生が赴任してくること自体が喜ばしい事だ。しかも、あのアルフォネア教授が「優秀な奴」と言うことは、かなり優秀な人が来るのだろう。クラス中の期待が、否応なく高まる。おれも少しわくわくしている。今の状態だとボス戦に集中出来なさそうだ。
(……うん、ゲームは家に帰ってからしよう)
そう思い、おれはセーブしてからゲームの電源を切り、新しい先生が来るのを待った。
〜〜〜〜一時間後〜〜〜〜
「………おっそ!」
おれがそう呟いたのと同時にフィーベルさんが、
「…………遅い!」
と叫んだ。おっと、気が合いますねフィーベルさん。
フィーベルさんはクラスの皆の気持ちを代弁するように続けた。
「どういうことなのよ!もうとっくに授業開始時間過ぎてるじゃないの!」
「確かにちょっと変だよね………何かあったのかな?」
フィーベルさんの隣に座っているティンジェルさんも首をかしげている。
他のクラスメイト達もさっきから落ち着かない様子でざわめいている。
「あのアルフォネア教授が推す人だから期待してたのに……これはダメそうね」
「そんな、評価するのはまだ早いんじゃないかな?何か理由があって遅れてるのかもしれないし……」
「たとえどんな理由があっても遅刻するのは本人の意志が低いからよ?本当に優秀な人が遅刻なんてするはずないんだから!」
「そ、そうなんだ……」
ゔっ、心に刺さる………!
「まったく、就任初日からこんな大遅刻するなんていい度胸ね。これは生徒を代表して一言言ってあげないといけないわね……」
フィーベルさんがそこまで言った時、教室の扉が開いた。
「悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」
どこかやる気の無さそうな声が響き、教室中の視線がそちらに集中する。フィーベルさんが、「やっと来たわね!ちょっと貴方、一体どういう……」と言いかけて、途中でそのセリフが不自然に途切れる。どうしたのかと思い、おれが突っ伏していた顔を上げるのと、フィーベルさんが叫び声を上げたのは同時だった。
「あ、貴方は ッ!?」
フィーベルさんの視線の先にいたのは。
だらしなく着崩したびしょ濡れでところどころ汚れている服を着た、黒髪の男だった。一体何かあったらここまでボロボロになるのだろうか。男はフィーベルさんをチラリと
「………違います。人違いです」
「人違いなわけないでしょ!?貴方みたいな人がそうそういるわけないじゃないですか!!」
どうやらフィーベルさんはこの人と知り合いのようだ。
まあ、彼女の反応からしてあまり仲が良い訳ではなさそうだが。クラスメイト達も突然現れた不審な男に困惑しているようだ。
そんな周りの雰囲気を意にも介さず教卓に立った男は、黒板に自分の名前を書き、自己紹介を始めた。……まさか、この人がアルフォネア教授が言ってた先生?
「えー、グレン=レーダスです。本日から約一ヶ月間、諸君らの勉学の手助けをさせて頂きます。これから頑張っていきますので、短い間ですが………」
そこまで言った時、フィーベルさんが話を遮るように言った。
「挨拶はいいので、早く授業を始めてくれませんか?」
それを聞いたグレン先生は、
「それもそうだな…かったるいけど始めるか………仕事だしな……」
と気だるげに呟き、
「えぇーと確か、一限目は魔術基礎理論Ⅱだったか…?早速だが始めるぞ……」
そう言って黒板に向き直り、チョークを手に取った。
それまで胡散臭そうに見ていた生徒達も、先生がチョークを手に取ったのを見て、気を引き締める。おれ達が注目する中、グレン先生はチョークを黒板に素早く滑らせた。
自習。
その文字を認識した瞬間、おれは自分の頭がおかしくなったのかと本気で思った。だが、何度目をこすっても黒板に書いてある文字は変わらない。おれのクラスメイト達も黒板に書かれている言葉の意味が理解できなかったのか、呆然とした表情で黒板の文字を凝視している。
「はい、本日の一限目は自習にしまーす………眠いから」
この教室の空気を一瞬で凍りつかせた当の本人は、大あくびをしてから教卓に突っ伏した。十秒もしない内にいびきが聞こえてくる。それから間もなく、グレン先生の頭にフィーベルさんの教科書が彼女の怒りの声と共に直撃した。
ポケモンが全く出てきませんが、もう少ししたらちゃんと出しますので、今しばらくお待ち下さい。