遂に知り合いがインフルエンザにかかってしまいました。皆さんは大丈夫でしょうか?まだまだ寒い日が続きますので、体調にはお気をつけ下さい。
では、6話目です。
「おい、見ろよコル、あの講師を……」
「ああ、昼飯を食いっぱぐれた時のカイと同じかそれ以上に酷い顔をしてるな……」
「はぁ!?俺あそこまで酷い顔してねぇよ!何言ってんのお前ら!?」
おれ達の視線の先には、まるでゾンビのような酷い顔をしたグレン先生が授業を行っていた。
「〜でこれがきっと大体こんな感じで〜」
黒板には子供がイタズラで書いたような汚すぎて読めない文字が綴られ、教科書の内容をまるでお経のように読み上げる。この世にこれ程までに解りにくい授業があるなんて思いもしなかった。
おれが前世に通っていた学校にも教え方が下手な先生というものは存在していたが、この先生と比べたら百倍はマシだ。
しかし驚くべきことに、この授業を真面目に聞いている生徒がいた。リン=ティティスさんだ。
「あ、あの……質問があるんですけど……」
その言葉に反応し、グレン先生が振り返る。
「なんだ?」
「えっと…先程先生がおっしゃったルーン語の共通語訳が分からなかったんですが……」
「悪いな、俺も分からん。自分で調べてくれ」
「えっ?」
グレン先生にそう返されたティティスさんは、どう反応したらいいのか分からずに困惑していた。
その言葉に我慢出来なくなったらしいフィーベルさんが立ち上がり、グレン先生に厳しい目を向けながら言った。
「先生、今の対応はあんまりじゃないですか?」
その言葉に、グレン先生は面倒くさそうに応じる。
「あのな、俺も分からんって言ってるだろ?分からんものをどうやって教えろってんだよ」
「それを調べて生徒に教えてあげるのが先生としての正しい対応なんじゃないですか?」
「自分で調べた方が早いだろ」
「くっ………もういいです!」
流石の彼女でもこの先生は手強かったようで、フィーベルさんは諦めたように着席してしまった。
周囲の雰囲気は最悪で、生徒達の苛立ちが肌で感じられる程だった。こういうピリピリした雰囲気苦手なんだよなぁ……。
こうしてグレン先生の最初の授業は、最悪な空気の中ダラダラと過ぎていった。
昼休みの時間になった。
おれは一人で食堂へ向かっていた。窓の外を眺めながらのんびり歩いていると、目の前の曲がり角から何故かさっきよりもボロボロのグレン先生が現れた。
「あ、グレン先生」
思わずそう呟くと、その声が聞こえていたのか、グレン先生が振り返る。
「ん?お前は……」
おれが教室にいたのは覚えているようだが、なんと呼び掛ければいいか分からないようだ。
「コル=ファルリルです。気軽にコルって呼んでください」
おれがそう言うと、グレン先生は、
「そうか、コルな。覚えやすくていいわ」
といかにも彼らしい事を言った。先生も食堂に行くようだったので、おれ達は一緒に行くことにした。
「ところで、先生。なんでそんなにボロボロなんですか?」
おれがさっきから気になっていた事を訊ねると、先生は少し面倒くさそうにしながらも教えてくれた。
「あー、これか?さっき更衣室に着替えに行ったら、昔と違って男子更衣室と女子更衣室の場所が入れ替わってたんだよ。それで間違って女子更衣室に入っちまって…」
「よ、よく生きて帰ってこれましたね………」
「俺もそう思う」
そんな事を話していたら食堂に着いたので、それぞれ食べたい物を注文し、料理を受け取ってから、おれ達は空いている席を探し始めた。
「おい、あそこが空いてるぞ」
グレン先生がちょうど空いているふたつの席を教えてくれた。この先生は、捻くれてはいるが意外と良い人なのかもしれない。
二人でそこに向かっていくが、空いている席の近くにフィーベルさんとティンジェルさんが仲良く座っているのを発見してしまった。グレン先生とフィーベルさんを引き合わせると揉め事にしかならなさそうなのでおれは慌てて先生を引き止めようとするが、先生は止める間もなくフィーベルさん達の近くの席に行ってしまった。
「あ、貴方は……!」
「違います。人違いです」
そう言いながら、グレン先生がフィーベルさんの斜め前の席に座り、周りの事など知ったことかというように昼食を食べ始める。
おれは面倒事に巻き込まれたくなかったので他の空いている席を探すが、残念ながら他に空いている席は無さそうだ。諦めてフィーベルさん達の所に行くことにする。
「あ、コル君」
ティンジェルさんがおれを見つけて手を振ってくる。
……うん、ティンジェルさんのファンクラブが存在する理由が少しだけ分かった気がした。
「二人共、ここで食べてもいいかな?他に空いてる席が無くてさ……」
「もちろん良いよ。ね、システィ?」
「……別にいいわよ」
二人がいいと言ってくれたので、おれは有り難くフィーベルさんの正面の席に着き、昼食を食べ始めた。
少しして、不意にティンジェルさんがグレン先生に話し掛けた。グレン先生も話し掛けられればきちんと応じるタイプの人のようで、ふたりは仲良くとまではいかないが、それなりにスムーズに会話が進み始めた。また、先生とティンジェルさんは席が正面なので、位置的にも話しやすいのだろう。
一方、おれとフィーベルさんはお互い黙々と昼食を食べていた。おれは沈黙が気にならないタイプなので黙っていても別にいいのだが、フィーベルさんがさっきから居心地悪そうにしている。こんなレアな彼女は中々見られないのでこのままにしとこうかとも思ったが、それはそれで彼女が可哀想な気がするので、おれはフィーベルさんに何の話題を振ろうかと考え始めた。しかし、なかなか良い話題が浮かばない。困っていたおれの視界に、フィーベルさんの昼食が入った。
「……なあ、それだけで足りるの?」
「え?」
急に話し掛けられたのに驚いたのか、目をぱちくりとさせるフィーベルさんを見ながら、おれは彼女の昼食を指差した。
「それ」
「…ああ、これ?」
フィーベルさんは自分の皿に乗っているスコーンをフォークで軽くつついた。
「お昼ご飯をたくさん食べちゃうと、眠くなって午後の授業に集中出来なくなるのよ」
「でもそれだと、授業中にお腹空いたりして逆に集中出来なくならないか?おれからしてみれば、そんなの腹の足しにもならないよ」
「あなたからすれば足りないかもしれないけど、私はこれで意外とお腹一杯になるのよ」
「へぇ、そういうものなんだな」
「ええ、そういうものよ」
そう言って、フィーベルさんは微笑した。
おれは彼女を思わずまじまじと見つめてしまった。
「……?何?」
「あ、いや……………なんでも……」
おれが視線を逸らした先には、こちらを微笑ましそうに見守るティンジェルさんと、ニヤニヤしているグレン先生の姿があった。
「………………」
つい魅入ってしまった恥ずかしさを誤魔化すように、おれは昼食をかき込んだ。
あれ………?おかしいな………。
なんか後半がラブコメっぽくなってしまった………。