途中まで書いていたのを誤って消してしまい、しばらく落ち込んでいましたが、お気に入り登録してくださった方々の為に、頑張って書き直しました。長い戦いだった………。
では、7話目です。
おれ達のクラスにグレン先生がやって来てから、一週間が経った。
グレン先生はこの一週間、一度たりとも授業を真面目にしようとしなかった。当然生徒達からの評判は下がっていく。フィーベルさんがなんとか真面目に授業をさせようと頑張っているが、今のところその頑張りは全て徒労に終わっていた。
だが、おれは何故かグレン先生が悪い人とは思えなかった。交流らしい交流といえば一週間前に食事を共にしただけなのだが。
なんせ、グレン先生は
おれはグレン先生が授業を真面目にしたくない理由があるから適当にしているだけであって、先生が真面目に授業をすれば他の先生よりもかなりいい授業をするのではないかと睨んでいる。
しかし、当のグレン先生には授業を真面目にする気はさらさら無さそうだ。今なんて、黒板に教科書を釘で直接打ち付けている。黒板に教科書を固定する事でそれ以降の授業内容を板書する手間を省くつもりらしい。その発想力と行動力は賞賛に値する。
だが、しばらくは大人しく自習をしていたフィーベルさんも流石にその暴挙を見て我慢が出来なくなったようで、
「いい加減にしてくださいッ!」
と立ち上がりながら叫んだ。しかし、先生は
「む?だからお望み通りいい加減にしてるじゃないか」
と言い放つ。
それからは、ここ最近ではすっかり見慣れた注意と屁理屈の応酬だ。こうなるともう誰にも止められない。
おれは軽くため息をついて、3DSを取り出す。この間到達したボス部屋はとっくに攻略して、今は新しく辿り着いた大きな街の中を散策しているところだ。おれは街の中の店を一軒一軒見て回り、町中に居るNPCひとりひとりに話を聞く。
「そんなに怒るなよ。白髪増えるぞ?」
「し、失礼ね!これは白髪じゃありません!銀髪です!」
ほとんどのNPCは大したことは喋らないのだが、そいつ等が話してくれる世間話やうわさ話の中にはたまに重要な事が含まれていたり、豆知識のようなものもあるのでおれはNPCを見かけたら必ず話し掛けるようにしている。その後はしばらく街の中を特に意味も無くうろうろしている。このゲームは結構細部まで造り込まれていて、こうして街の中を目的もなくぶらつくのは結構楽しい。心なしかおれのアバターも楽しそうに見える。
「先生が授業を真面目にしないのなら、私にだって考えがありますから!」
「ほう、言ってみろ」
昔疑問に思った事がある。新しいゲームのCMやプロモーションムービーを見た時はそのストーリー性や画質の良さ、そして自由度の高さなどに感動し、そのゲームが喉から手が出る程欲しくなるのに、いざ買ってしばらくプレイしていると、あんなに喉から手が出る程欲しかったゲームをしているのにいつの間にか何とも思わなくなるのは何故だろう?と。
「私の親はこの学院にそれなりの影響力を持っています。私が進言すれば、貴方をこの学院から追い出すことだって出来るんです」
「………マジ?」
答えはすぐに出た。慣れるからだ。ずっとゲームをしていると最初はひとつひとつに感動するが、その光景を見続けていると意識が無意識の内に「これが普通だ」と認識してしまうからだ。だからゲームの中で素晴らしいモノを見つけても、それが素晴らしいモノだと気付かなくなってしまうのだ。
「本当はこんな脅迫みたいな事はしたくはありません。でも、先生が授業を真面目にしないのなら 」
「両親に宜しくとお伝えください!」
「………え?」
「いやー、良かった!俺が辞職届出したらセリカの奴から殺すって脅されてたんだけど、生徒の親からの苦情が原因ならアイツも流石に俺が仕事を辞める事を許してくれんだろ!ありがとな!」
「………ッ!」
これは現実にも言える事だ。例を挙げるなら、凄く歌詞が良くて感動した歌も、毎日聞き続けたら何とも思わなくなる、みたいな。
ここまで長々と語ってしまったが、要するにアレだ。「慣れは怖いね」って事だ。
授業はおろか、この世界とも全く関係ない事を考えながらアバターをのんびり散歩させていると、おれは教室の中が異様に静かになっている事に気付いた。何事かと思い、顔を上げると、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。
フィーベルさんがグレン先生の前を睨むようにして立っている。その左手には何も付けていない。そして、グレン先生の足元にはフィーベルさんの物と思われる手袋が落ちていた。おそらく、というか間違いなくフィーベルさんが決闘を申し込んだのだろう。ティンジェルさんが「ダメ!システィ!今すぐ手袋を拾って!」と叫んでいるが、フィーベルさんは引くつもりは無さそうだ。グレン先生が珍しく真面目な顔をして言った。
「お前……本気か?」
グレン先生の問いにフィーベルさんははっきりと答えた。
「ええ」
「何が望みだ?」
「そのふざけた態度を改めて、きちんと授業をして下さい。最初は辞表を書いてもらおうかと思っていましたが、貴方の態度を見る限り、それはあまり効果が無さそうなので」
フィーベルさんがそこまで言い切ると、先生は呆れた顔をした。
「お前、解ってんのか?お前が俺に要求出来るって事は、俺がお前に要求する事も出来るって事だぞ?そこらへんちゃんと考えてんのか?」
「はい」
グレン先生もフィーベルさんの表情を見て、止めるのは不可能だと判断したらしい。面倒くさそうな顔をしながらもフィーベルさんが投げつけた手袋を拾い上げ、言った。
「その決闘、受けてやるよ」
その後、先生とフィーベルさんは細かいルールを定め、決闘場所を中庭ですることに決めた。ちなみに、グレン先生が勝ったときの要求は「グレン先生に対する説教禁止」だ。
先生とフィーベルさんが教室を出て行く後に続き、おれ達もどっちが勝つかを予想しながら中庭に向かった。因みにおれは先生が勝つと予想した。
おれ達が中庭に着くと、そこには若干緊張しているフィーベルさんと、
「ほら、いつでもかかってこいよ」
先生は余裕の表情でフィーベルさんを煽っている。対して、煽られたフィーベルさんは額に微かに汗を滲ませている。しかし、次の瞬間には彼女は覚悟を決めた顔をして先生を指差し、呪文を唱えた。
「《雷精の紫電よ》 ッ!」
「ぎゃああああああああああ !!」
どさり。と倒れ伏す音が響く。
シーン、と辺りが静かになった。
おれは半ば呆然としながら、隣のカッシュに話し掛ける。
「なあ……これって………」
「あ、ああ……。システィーナの勝ち、だよな……」
そうは言っているが、カッシュもどこか自信なさげだ。
「……あ、あれ?私、ルール間違えた?」
呪文を放ったフィーベルさん本人もオロオロする中、倒れていたグレン先生がゆらりと起き上がる。
「くっ……!なんて卑怯な……こっちはまだ準備できてないというのに急に仕掛けて来るなんて……」
「え?いつでもかかってこいって先生が言ったんじゃ……」
「ふ、だがこの勝負は三本勝負だったからな。このくらいのハンデは必要だろ」
「……は?」
突然の三本勝負宣言にフィーベルさんはもちろん、決闘の行方を見守っていたクラスメイト達も眼を見開く。
「さあ、行くぞっ!《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち 」
「《雷精の紫電よ》 ッ!」
「ぴぎゃああああああああああああ!!」
再び倒れ伏すグレン先生。しかし今度は先程よりも少しだけ早く復活し、よろけながらも立ち上がる。
「ふっ、やれやれ。この俺としたことが、五本勝負だからってふざけすぎちゃったな。反省反省」
「さっき、三本勝負だって言ったのに…」
フィーベルさんが呆れた顔をしながら呟くと、突然先生がフィーベルさんの後ろを指差して叫んだ。
「あー!嘘だろ!?今まで見た事無いくらい近くにメルガリウスの天空城が 」
「どこッ!?」
先生が言い終わる前に首がもげるんじゃないかと思う程の凄い速さでフィーベルさんが振り返る。そうか、フィーベルさんは重度のメルガリアンなんだったな。
「………。と、とにかく、引っ掛かったなバカめ!《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒 」
一瞬微妙そうな顔をした先生の呪文が完成しそうになったとき、慌ててフィーベルさんが振り返り、呪文を唱えた。
「《雷精の紫電よ》 ッ!」
「うぎゃあああああああああ!!」
三度響き渡る叫び声。
地面に崩れ落ちるグレン先生を半眼で見つめながらフィーベルさんは呟く。
「あ、あの……先生ってもしかして……」
「ま、まだだ!この勝負は七本勝負だぞ!?まだ終わってない!」
「………」
「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ちた 」
「《雷精の紫電よ》」
「うぎょわあああああああああー!!」
それから
そして、勝負が四十七本勝負にまで増えた一戦が終わった後。遂に、グレン先生が音を上げた。
「すみません、これ以上は無理です。許して下さい」
フィーベルさんは地面に倒れている先生を呆れたように眺めながら、言った。
「先生ってもしかして、【ショック・ボルト】の一節詠唱が出来ないんですか?」
その言葉を聞いたグレンは、ビクッと身体を震わせた後、何かの言い訳をするように早口で喋り始めた。
「な、ななな何を言ってるのかな!?そ、そもそも、先人達が練り上げた完璧な呪文を省略するなんて先人達を愚弄してるよね!別にできないからそう言ってるわけじゃないけど!」
「できないのね………」
フィーベルさんはグレン先生をジト目で見ていたが、気を取り直したように言った。
「とにかく、決闘は私の勝ちですから、明日からは授業を真面目に 」
「え?なんの事だっけ?」
「はい?」
「俺お前となんか約束したっけ?全く覚えてないな〜」
(マジか………)
どうやらこの人は、フィーベルさんとの決闘をなかった事にするつもりのようだ。流石のフィーベルさんもこの展開は予想出来なかったようで半ば呆然としている。
「まさか……先生、魔術師同士で交わした約束を反故にするつもりですか!?それでも魔術師ですか!?」
この問いに、先生は当たり前の事を言うように答えた。
「だって俺、魔術師じゃねーから。魔術師じゃねーのに魔術師のルール押し付けられてもなー」
「な……、何を言ってるの……!?」
「まあ、今日のところは引き分けで勘弁してやるよ!」
そう言い残し、先生は身体のところどころを痙攣させながら周囲の事など意にも介さず去っていった。
ティンジェルさんが半ばぼんやりとしているフィーベルさんに歩み寄り、声を掛けている様子を見ていると、隣にいたカッシュが頭を振りながらぽつりと呟いた。
「なんなんだよ、あの馬鹿」
その言葉を皮切りに、クラスメイト達がグレン先生を愚痴りだした。
「【ショック・ボルト】の一節詠唱すら出来ないなんて……」
「教師の風上にも置けない人だ」
「何故あんな人がこの学院の教師に」
クラスメイト達の酷評は、当分止みそうもなかった。
話をどこで区切ろうか迷ってしまい、少し長めになってしまいました。