空から女神が降ってきた 作:バナナを食べるナマケモノ
その日はいつもと変わらない日常だった。
孤児院の子供たちは元気で、アクセルの街はのどかで、俺ことシリウスも元気だった。
少し違うところと言えば、今日は雲1つない快晴だということだろう。
こんな日には子供たちは散歩に行きたがる。
しかし、掃除洗濯お昼ご飯の用意など、俺はやることが山積みだ。
なので、たかりの相手を探すために歩いていたダストにお札握らせて、子供たちの散歩の護衛を任せた。
あいつはあれで救いようもないクズだが、子供を見捨てるようなことはしないと思うので、大丈夫だろう。
おかけで洗濯物に集中できる。
最近雨が続いていたので、洗濯物が貯まりに貯まっているのだ。なので今日の内に洗濯をすべて終わらせてしまいたいのだ。
俺は、庭の物干し竿に洗濯物を詰め詰めにかけていた。
そんな時だった。
ーーきゃああああああああ!
「な、何だ何だ」
どこからともなく女性の叫び声が聞こえてきた。その声は、断続的に聞こえてくる。それも天から。
まるで空から落ちてきて……いるようだった。なんと見上げると女神のように美しい衣をまとった女性が、圧力で変顔になりながら落下中だった。意味わからん。
しかしあのまま地面に落下すればまず命はない。助けなければ!
「『トルネード』!」
俺が放ったのは風の上級魔法。
本来ならその竜巻のような風の威力で敵を粉砕する魔法だが、威力を調整することでクッションのような使い方も可能なのだ。
だから女性も受け止めることができた……が。
「ふぎゃあ!?」
落下の威力が強すぎてうまく包み込めなかった。反動の少ないトランポリンのように、ポンと跳ね上がった女性は顔から地面に落ちていった。
まぁ、死ななかっただけましだと思おう。
俺は心を切り替えて、顔を押さえてもんどりうってる銀髪の女性に近づく。
「大丈夫か?」
「はい。あなたの魔法のおかげで、大したケガではありません。……いたた」
口元もうったのか、喋ると痛むようだ。
「口が痛むのか? 痛みに効く薬が部屋の中にあるから、そこで手当してけ」
「いえ大丈夫です。……『ヒール』」
緑色の光が女性を包み込む。するとみるみるうちにケガは治っていき、最後には傷跡もなくなっていた。
回復魔法を使えるということは、彼女の職業はプリーストらしい。
確かに服装もプリーストぽい。
しかも回復魔法を使ったのに疲れが一切見えない。
彼女は相当腕がいいプリーストのようだ。
そんな彼女は、ケガを治し終わると、俺の方に頭を下げてきた。
「改めまして、助けていただきありがとうございました。あなたが魔法を使わなかったら、私の命はなかったでしょう」
「まぁ、それはいいんだけどよ。何で空から落ちてきたんだ? グリフォンにでも捕まったのか?」
「…………して」
モゴモゴと話すので聞こえなかった。
「悪い。よく聞こえなかったから、もう一回頼む」
「……バナナの皮で滑りました」
「もう一回」
「バナナの皮に滑りました」
「パードゥン?」
「何回聞くんですか!? 絶対聞こえてるでしょう!」
そう言われてもなぁ……。
「空から降ってきた人が、バナナの皮に滑ったんですとか言っても……ちょっとねぇ……」
「何ですか? ハッキリと言ってください!」
「ふざけてんのか」
「ですよね……」
女性は死んだ魚の目になって項垂れた。
その姿はとても哀れに見えた。
俺としても出来るだけ信じてあげたいのだ。
しかし、空から落ちてきました、原因はバナナの皮です。……うん、無理、信じられない。逆にこれを聞いて、本気で大変でしたね、なんて言えるやつを俺は見てみたい。
だけどこの人、嘘言ってる風には見えないんだよなぁ。信じてもらえなくて当たり前の前提で話してきたのだ。 そして案の定の結果でへこむ。まるで真実の話しているようだ。
うむ。ここは、無理矢理でも信じるべきだろうか。
元々、この人がどっから落ちてきたとか、どうでもいいよな。
「信じるよ」
静かにそう言うと、女性は目を大きく見開かせた。
「……えぇ!? ほ、本当ですか……? む、無理しなくていいんですよ! 正直、自分でもふざけた話だと思います……し……」
言ってて悲しくなったのか、だんたんと言葉がしょぼんで最後には死んだ魚に戻っていった。
お気の毒に。
どんな状況でそんなふざけたことが起きたのかは知らないが、心底同情した。
「はい。状況はまったく想像がつきませんが、あなたが嘘を言っているようには見えません。なので、なにかしら特殊な事情が重なって、そんな惨事になったのだと理解しました」
気を使いすぎて、使い慣れない敬語になってしまった。
だが、そんなことは気にしてない女性は、感極まったように涙目だった。おそらく信じてもらえるとは、毛ほども思ってなかったのだろう。
「あ、ありがとうございます! ……じ、実は私、もう1つもの凄い秘密がありまして……」
「それは他言できないことですか?」
「はい。特にアクシズ教徒とエリス教徒にバレたらまずいです」
アクシズ教徒に知られたくないってのは何となく分かるが、なぜエリス教徒にまで知られたくないんだ?
エリス教徒は、いつもうちの子供たちに勉強を教えてくれるイイ人たちだぞ。
問題なんて、ないと思うが?
「ずいぶん限定的ですね。そんなにすごい秘密なんですか?」
そうなんですと前置きしたあと、女性は顔を赤くして緊張気味に。
「じ、実は私!」
ーー女神エリスなんです!
…………………自称・女神エリス様は、俺の方をチラッチラッと期待した視線を向けていた。
俺は、満面の笑みで。
「なめんな」
「あれっ!?」
裏切られたような声が、孤児院に響いた。
しかし、この反応が当然だと思う。
シリウス (20)
茶髪のロング
職業……アークウィザード。
備考……昔は王都で名を轟かせた魔法使い。現在は引退して、平和なアクセルの孤児院でのんびりと暮らしている。
親は紅魔族の母と、アークウィザードだった父。