空から女神が降ってきた   作:バナナを食べるナマケモノ

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この小説のエリス様は、まだダクネクと会うために降りて来てません。なのでアクセルの地理には詳しくないことにしてます。


意外に女神は何もできない

女神が降ってくるという何ともおかしな事件が起こってから、1日が経った。

最初はただの頭のおかしい人かと思っていたが、何度も何度も必死に信じてと言ってくるので、頭の打ち所が悪かったのだと理解した。

そして彼女は行くところがないらしく、さすがに文無しの女性を馬小屋に行かせるのも忍びなく、頭を打ったのは俺にも原因があり同情心が生まれたので、うちの孤児院の部屋を貸すことにした。

エリスは最初遠慮していたが、元々部屋が余っていたので遠慮はいらないと言ったら渋々折れた。よっぽど追い込まれていたと見えた。

 

そして今日も快晴になり、俺は昨日の騒動のせいで干しきれなかった洗濯物に取り掛かっていた。

世話しなく子供用のパンツやら寝巻きなどを干していく。

その時後ろから背中をとんとんと叩かれた。

後ろを振り向くとエリスだった。

昨日着ていた羽衣姿でなく、俺が貸した寝巻き姿だった。男性用なので少し生地が余っている。特に胸元が何だか寂しい……。

 

「……何か私に言いたいことがありますか?」

「いや、何も」

 

笑顔に殺気を感じたので、否定しておく。

おそらく気のせいだな、うん。昨日より胸が小さくなってるなんてあり得ないよな。

「それよりも何か用か? お腹すいたか? 何でも好きなもの作ってやるぞ」

 

分かりやすく話を変えると、エリスのジトーとした目が痛い。

コホンと1つ咳をしてから、俺は綺麗に頭を下げた。

失礼なこと考えてマジすいません! 人間見た目じゃなくて、中身で勝負だよね。

 

「まぁ、その話はいいです。私も女神だから心が広いですし。シリウスさんは胸なんて気にしませんよね」

「どちらかというと大きい方が……いえ、何でもありません!」

 

もう一度ビシッと頭を下げた。

女神は心が広いって話はどこいった! って言いたいけど、そんなこと言わせないほどにエリスの笑顔は怖かった。

やっぱり胸のこと気にしてるじゃないか。

「ふん。いいですよー。別にシリウスさんが脂肪好きだからって私にはなんの関係もありませんしー。……それよりも洗濯物干すの私も手伝います」

「お、おお。ありがとう、助かるよ」

「はい。まぁ、どうせシリウスさんは胸が大きい人が好きなんでしょうから、あまり関係ないんでしょうけど」

 

……どんだけ気にしてんの胸のこと。

アクシズ教徒がエリスの胸はパッド入りって言い触らしてエリス教徒にしばかれてる見たことがあるが、あながち真実かもしれんな。

少ししつこさを感じるエリスのすね具合に、俺は苦笑するしかなかった。

「それじゃあ俺は残りの洗濯物取ってくるから、残りの篭に入ってるのを干しておいてくれ」

「はい。お安いご用です」

 

朗らかな笑顔でエリスは承諾した。

そうして俺は残りの洗濯物を取りに戻った。

 

数分後。大きな篭を肩に担いで戻ってくると、目を疑う光景が広がっていた。

なんと物干し竿が真っ二つに折れて、洗濯物が地面に散雑に落ちていた。

……何があった。

 

「うぅ……。シリウスさん、ごめんなさい」

 

イタズラが親に見られて言い訳できない子供のように涙目になって謝った。

正直何が起こったのか分からないので、謝られても反応に困る。

「あ、ああ。何があったんだ?」

「竿が折れました」

 

うん。見れば分かるよ。

 

「そうでなくてな、何で竿が折れたんだ?」

「洗濯物を干したらバキッと音を立ててこの状態に……」

 

どんな状況やねん。

……おかしいなぁ。この竿を買ったの一月前くらいなんだが。疲労にしても早すぎる。

でも壊れたのは事実だ。

俺は悩みながら答えをひねり出した。

 

「うーん。まぁ、運が悪かったとしか言えないなぁ」

「はうっ!? うう、運が……悪かった……運が……」

 

ショックのあまり地面に両手をついて、うわ言のように運がと繰り返していた。

よっぽどショックだったらしい。ああ、自称幸運の女神エリス様だもんね。そりゃ傷つくわ。

哀れに思えてきた俺は何とか立ち直らせようと、他の仕事を提案した。

 

「ま、まぁ! 洗濯竿はあとで丈夫なの買っとくからさ! 今は他のことを頼むよ。そうだなぁ、掃除を頼もうかな!」

 

と言うと、エリスは勢いよく立ち上がって拳を握った。

 

「はい! 次こそ汚名挽回してみせます!」

 

それを言うなら名誉挽回な。汚名を挽回されても困るぞー。

 

 

しかし、結論から言うと汚名挽回で間違っていなかった。

 

掃除の場合。

 

「シリウスさん助けてえええ! なんか集めたゴミが襲ってくるんですよおおお!」

「な、何で十万に一回しか現れないと言われるレアモンスター、付喪神がいるんだあああ!?」

 

滅多に現れないレアモンスターが出現した。

 

 

料理を任せ場合。

「シリウスー。何で今日のご飯こんなに黒いの?」

「それはね。なぜか火が強くなってフランペみたいになったからだよ」

「ぐす……ごめんなさい……ごめんなさい」

 

火が暴走して昼御飯が丸焦げになった。

 

買い物に行ってもらうと。

 

「シリウスお兄ちゃーん! さっきね道で遊んでたら、エリスお姉ちゃんが涙目で名前呼んでたよー!」

「助けてあげようぜそこは!」

「だってあんな子供みたいに泣いてる人に話しかけたくないよ。恥ずかしいもん」

「……子供ってドライだなぁ」

地図は渡したはずなのに、なぜか迷子になって子供たちも呆れていた。

 

結果。エリスは何も出来ない駄目な子だと判明した。

 

 

 

 

 

 

 

「納得いきません!」

 

エリスは机を力強く叩いて憤慨した。

子供たちの散歩にダストを付かせて、現在孤児院には俺とエリスの二人っきりである。

なのでこんな面倒そうな彼女の話を俺が聞いてあげるしかないのだ。

俺は読んでいた本から目線を外し、気が進まないがエリスの叫びを拾った。

 

「何が納得いかないんだ?」

「私が駄目な子扱いされてることですよ! 今日だって本当なら散歩には私が付いていこうとしたんです! そしたら子供たちから『エリスお姉ちゃんは頼りないから嫌だ』って……。しかもあんなチンピラを連れていって……。何でですか! 何であんなチンピラがよくて、私が駄目なんですか!」

「落ち着けって。……ダストはたしかに信用も信頼も出来ない欲の権化みたいなやつだが、何だかんだ高レベルの冒険者だからな。前に子供たちの槍術の指導を頼んだこともあるし、だからあいつらもダストを尊敬してるんだよ」

「わ、私は……?」

「いや、掃除洗濯料理全部出来なくて終いには迷子になる自称女神を誰が尊敬するんだって…………危ねぇ! てめぇ、このダガーどっから取り出した!」

 

涙目でダガーを振り上げて襲ってきた狂犬女神を、俺は咄嗟に手を取って防いだ。

本当のこと言われてキレるくらいなら、ちゃんと与えられた仕事ぐらいこなせよ。

今羅列したの七歳の子供でも出来ることだぞ。

俺は、呆れながらダガーを奪い取る。

 

「たく……。なら、子供たちが尊敬しそうな特技を1つぐらい見せればいいだろ。そうすれば少しはあいつらの見る目も変わるだろう」

「……と、盗賊とか」

「やってもいいが、その場合ここから追い出されるのを覚悟しとけよ。犯罪者はここにはいらん。子供の教育に悪い」

「嘘です。私は清廉潔白の女神です」

 

今無性に嘘をついたらチーンってなるベル借りてきたい。超面白そう。

つうか女神を名乗ってるのに特技が盗賊ってどうよ。

せめて奇跡とか、花を咲かせるとか女神っぽいことしようよ。

そんなくだらない会話をしていたら、時計は四時を指していた。夕飯の買い物の時間だった。

 

「そろそろ夕飯の買い物行くか。エリス、荷物多そうだからお前も手伝ってくれ。俺も行けばさすがに迷わないだろ?」

「当たり前ですよ! そ、それに前の迷子の件も地図をネロイドに奪われてしまったせいです! 私のせいではありません! それにそのあとからはちゃんと買い物をこなしているじゃないですか!」

「この前買い物行ったときに、お菓子で釣ってアユミに案内させたって聞いたが?」

「何のことだがさっぱり。さぁ! ぐずくずしていないで買い物に行きましょうか! 子供たちもお腹を空かせて帰って来るでしょうし!」

 

……おい。

 

 

 

 

 

色々と納得いかないところもあるが、それでもつつがなく買い物は終了したその帰り道。

エリスが妙に得意気な顔をして、うきうきとしているのだ。

さっき買ったあげた棒アイスのアタリでも出たのだろうか?

 

「どうしたんだエリス? そんなにはしゃいで」

「ふふーん。実はですね、さっき買い物をした八百屋の奥さんに余った福引券を頂いたんですよ! しかも一等は旅行券ですよ! これが喜ばずにいられますか!?」

「いや、それって当たればの話だろ?」

「ふふ、シリウスさん。私を何の女神だか忘れてるんじゃありませんか?」

 

……俺は数瞬考えて。

 

「ドジっ子女神様だろ?」

「ちっがいますよ! 幸運です! 幸運の女神ですよ!」

「俺が見る限り、お前が幸運に恵まれたところをまだ見たことがないんだが?」

 

さっきの棒アイスもはずしたようだし。

俺の言葉に、エリスは狼狽えながら。

 

「そ、それはですね。まだこちらの世界に来て日が浅かったので本調子じゃなかったんですよ! でもこちらの空気にも慣れましたし、今なら一等だって余裕で引けますよ!」

 

その根拠のない自信はどこからくるんだと言いたかったが、これ以上言っても聞かないと判断したので、黙って見守ることにした。

そしてついに来た福引所。

あの回すとガラガラ言う魔道具から金色が出れば一等らしい。

チャンスは三回。

 

「じゃあお嬢ちゃん。どうぞ回して」

「はい! ……うおおお!」

 

力強く高速で魔道具が回っていく……壊れないよな? そんな心配は杞憂に終わり、小さな球が1つ出てきた。

色は……白だった。

 

「残念、ポケットティッシュだね!」

「ああああああああ……」

 

まだ一回目なのにエリスはすべてが終わったように落ち込んだ。

 

「まだ2回あるんだろ? そんなに落ち込むなよ」

「シリウスさんはわかってません。私は幸運の女神なんですよ。なのに残念賞を引くなんて……ぐす、プライドがズタズタです」

 

そんなくだらんことでズタズタになるプライドなど捨ててしまえ。

 

「こうなったら……『ブレッシング』!」

「お前……!? それは反則だろ……」

 

エリスが使ったのは幸運のステータスを上げる支援魔法だ。要するに使うと運が良くなる。この状況では当りが引きやすくなるのだ。

完全にずるだな。

「なに言ってるんですか、ここのルールに支援魔法禁止なんて書いてませんよ! なのでこれは合法です! 問題ありません!」

「そりゃ支援魔法使ってまで当り引こうとするやつ、普通はいねえよ」

「聞こえません! なので無視します!」

 

聞こえないのに無視するという矛盾。

つっこむのも面倒になった俺は、今度こそ黙って見ていることにした。

店員は「え、止めろよ!」って顔してるがな。すまん、俺にはこの駄女神を止めるのは荷が重いんだ。

そしてエリスは再度魔道具の持ち手を回した。

 

「うおおおおおおあ! きてます! 当りがびんびんきてますよおおおおお!」

 

もしこんなのが本物のエリス様でも、俺は信じたくないな。

カランと言う音と同時に、球の色を確認する。

色は……白だった。

 

「えぇと……ざ、残念賞ポケットティッシュです。……いりますか?」

 

支援魔法使ってまでやったのに外した女神に、店員は精一杯気を使っていた。なんかすいません。俺は何にも悪くないのに、なぜか物凄い罪悪感に襲われた。

反則して外した女神エリスは、白く燃え尽きていた。まさに球の色と同じだった。ここまで来るとあれだな、哀れだな。

 

「あーと。なんかすいません。連れが騒いじゃって」

「い、いえ。……あの、もう一回回せますがどうしますか?」

「おいエリス。もう一回引けるってよ。……エリス?」

「私女神なのに。支援魔法まで使ったのに。私女神なのに…………」

 

聞こえていない。すでに廃人のようだ。

 

「引かないみたいなんで、代わりに俺が引きます」

「はい。分かりました」

 

店員さんは今のは見なかったことにしたようだ。よく教育された人である。

俺は持ち手に手をかけてゆっくりと回した。

出ていた球は……銀色だった。すると店員は目を見開かせて置いてあった鐘を鳴らした。

 

「大当たり~! 2等の幸運の指輪が当たりました!」

「あ、当り?」

「ええええ!? シリウスさん当たったんですか!? しかも2等!? 1つしかない2等ですか!?」

 

マジか……。

幸運の女神が支援魔法使って当たらないのに、何にも考えずに引いた俺が2等を当ててしまうとはな。まぁ、何事も欲をかくと駄目ってことだな。

そんなことを考えていると、笑顔の店員が小さな指輪をケースに入れて持ってきた。

 

「どうぞ。こちら幸運の女神エリス様の加護が付いた由緒ある指輪です。なんと付けているだけで幸運値が2倍になる優れものです!」

 

どうしよう女神エリスの加護って時点でご利益まったく無さそう。

まぁ当りだし、もらえるものはもらっておこう。

 

「ありがとうございます」

「みなさん! こちらの方に大きな拍手をお願いします!」

 

店員の号令に並んでいた人たちが一斉に拍手を鳴らし始めた。

おおう。当たるとこんなことがあるのね。

俺ははにかみ混じりに頭を下げながら、その場を後にきた。なんせ隣にいるエリスが、拍手の間ずっと苦虫を潰したような顔をしているからね。

 

 

 

 

 

 

 

指輪をもらった帰り道。

 

「納得いきません!」

 

なんかデジャブな言葉をエリスは叫んでいた。

 

「納得いかないって、仕方ないだろ。結果は結果だ。俺が当たって、お前はずるしてまでスカだった。これは幸運の女神の称号剥奪だな」

「むぐぐぐぐぐ……」

 

下唇を噛んでとても悔しそうである。だが、その悔しさ自業自得な部分があるから同情できない。

俺は1つため息をついて、ポケットに入れていた指輪のケースをエリスに差し出した。

エリスは戸惑っていたので、俺はすかさず。

 

「やる」

「い、いらないですよ。それはシリウスさんが当てたものですから、私がもらう理由はありません」

「元々お前がもらった福引券だろう。それで当てた物なら、お前が使うべきだ」

「……何ですか。哀れんで気を使ってるんですか?」

「お前にはすでに哀れむ気持ちも湧かないよ。どうせ俺が持ってても使わないし、指輪なら女の方が使うだろうからな。それに少しはその悪すぎる運が改善されるかもしれんぞ」

「………………仕方ないですね」

こいつ運がよくなるって所に惹かれたな。

反応で分かりやすすぎる。

エリスは顔は渋々だが、手はスムーズに箱を受け取った。

そして箱から指輪を取り出して、付けた指輪を俺に見せてきた。

 

「どうです、似合いますか?」

「……まぁ、それなりに似合うんじゃねえの?」

何で左手の薬指に付けているのか気になるところだが。

しかし、エリスの白い細指に銀色の指輪はよく這えていた。誰がどう見ても似合うと言うだろう。

エリスは歩きながら、指輪を付けた手を胸元で抱いて。

 

「私、人からプレゼントもらうなんて初めてです」

「奇遇だな。俺も人に物をあげるなんて初めてだよ」

「ふふ。なら私はシリウスさんの初めてをもらっちゃったんですね」

 

何だその言い方。ちょっと照れるじゃねえか。

 

「ま、まぁそういうことだな。せっかくの俺のあげたものだ。大事にしろよ」

「はい。一生大事にしますよ」

「いや、そんなに気負わなくていいんだが……」

「嫌です。一生大事にします」

「はぁ。勝手にしろ」

「はい」

 

と返事して、エリスはまた指輪を大事そうに抱えていた。そんなに運がないことを気にしていたのか。なぜだろう、目から汗が……。

後日、孤児院に帰ったら、子供たちに指輪のことを弄られて赤面するエリスがいたのだった。

だから左手の薬指はやめとけと……言ってないか。なんかごめん。

 

 

 




子供たち。

ゲンタ(7)
太った子供。

ミツヒコ(7)
頬にそばかすがある。

アユミ(7)
意外にドライなませた子。頭に赤いリボンをつけているも

名前はシリウスがつけようした名前を全力で拒否られたので、近所の黒髪のおっさんに頼んでつけてもらった。有名なタンテイとやらの仲間の名前らしい。


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