戦姫絶唱シンフォギアGEED   作:tubaki7

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PROLOGUE

 人にはそれぞれ、描いている理想の自分がいる。勉強ができる、運動ができる、人気者・・・・。色んな夢や希望を抱きながら、日々を過ごしている。

 

「今日は、念願のライブ当日だーッ」

 

 鼻歌混じりに自宅のリビングを歩くこの少年もまた、そんな夢や希望を抱いて生きている。櫻井リク。17才。家族は母親と、その関係者(・・・)であるこの如何にも不機嫌そうな顔でテレビを眺める銀髪の少女だ。

 

「るっせーぞリクッ!だいたいなんだよそのへなちょこな歌は」

「むっ・・・そりゃクリスに比べたらヘタだけどさ・・・今日はね、なんと風鳴翼のライブの日!しかも、あのマリアとのコラボだぜ!?生きててよかったーッ」

 

 なんだそんなことかと溜息を吐きつつソファから立ち上がる。

 

「あれ、今日バイトだっけ」

「ん・・・ああ」

「クリスも働き者だよな。今思えば、半年前にいきなり母さんから連絡きて一緒に住むようになってさその後はいきなり連絡も無しに何ヶ月もどこかに行っちゃうし、帰ってきたと思ったら急にリディアンに通いだすだろ?出逢った当初はまるで借りてきた猫みたいに懐かなかったあのクリスが――――」

「だあああもうッ!あたしゃ動物じゃねぇっつうの。そもそもここに来たのだってフィ・・・・」

 

 言いかけて、クリスは黙り込む。その名を持つ人物は、もうすでにこの世にはいない。自分達が世界を守るという大義名分で倒してしまったから。・・・・いや、殺してしまった、と言い換えてもいいかもしれない。実際していたのは、命のやり取りだったのだから。最期はどうであれ、戦ったことには変わりない。だから〝ルナアタック〟の後、帰還が許された後も前も、リクにどう伝えるべきか悩みに悩んだ。その末に出した答えが、事故死。それを聞いた時の彼の顔は、今でも覚えている。それを今思い出して、尚の事言葉が出てこなかった。

 

「クリス?」

 

 名前を呼ばれてハッとなる。

 

「・・・帰りは少し遅くなるかもしんねーから、飯はいらない」

「そっか・・・最近忙しいもんね。わかった、いってらっしゃい」

「ああ・・・行ってきます」

 

 行ってきます。そんなことを誰かに言える日が来るなんて夢にも思ってなかったから、最初は少し戸惑った。でもリクと接していく内にそれが嬉しさに変わり。今は・・・少し、辛い。そんな複雑な感情を胸に抱えたまま、クリスは玄関で下足に履き替えて出て行った。彼女の背中を見送ると、リクも自室で準備を始める。

 

「えっと、サイリウムよし。飲料水よし、代えのシャツよし。携帯よし、財布よし。あとは・・・・」

 

 と、部屋の隅に置いてある少し大きめの段ボールへと目を移す。つい最近送られてきた、差出人不明の小包。その中に何が入っているかは、もう既に知っている。しかしそれが何に使うべきものなのかははっきりしていない為、そのままに放置されていた。宛名はしっかりと自分の名前がある為配達業者に送り返すわけにもいかず持て余していたが、今日になってやけにその中身の事を気にかけてしまう。胸にモヤモヤとしたものを抱えながら、リクは閉じられている蓋を開けた。

 

 赤い、見た目だけで言えば健康グッズかのようにも思える。しかし一緒に付属されている黒く細長い物と何かの絵柄の描かれているカプセルのような物から察するに、普通のものではないという事が見て取れる。一体これが何なのか。不気味な異様さを放つそれは、リクにとってちょっとした悩みの種でもあった。以前クリスに相談した時は何かの間違いで届いたわけではないなら、差出人のミスかなにかだろうとあしらわれてしまい、結果今に至る。持って行くべきか、そう頭の隅によぎった時には、リクの腕がそれを拾い上げてバッグの中へとしまっていた。

 

「もしかしたら、こういう時に使う物かもしれないしね。ジーッとしててもどうにもならないし」

 

 悩んで立ち止まるより、まずは行動。考えるのはそれからでも何とかなるとは、中学の時の同級生だった友人の談。

 

「さて、行きますか」

 

 バッグを背負い、リクも家を出た。

 

  誰でにでも、描いている理想の自分がいる。勉強ができる、運動ができる、人気者・・・・少年の理想の自分。それは、ヒーローになることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪

 

 

 

 

 

 

 

 時間にして、およそ午後19時。会場はこの世紀のコラボを一目見ようと壮絶なチケット獲得争いに勝利した猛者という名のファンでごった返していた。その上チケットを変えなかった人の為に外部配信なんてやるものだからさらに人は増える一方である。都心部とはいえ郊外で生活するリクとしては、この人混みはどうも苦手だ。辺りをキョロキョロと見回しながら歩き、なんだか落ち着かない様子で会場内を歩く。やっとの思いで物販にてグッズを購入。この日の為に溜めてきたお小遣いをほぼ使い、いよいよ中へと入って行く。普段はスポーツの試合などに使われるこの場所は、今回はその様をガラリと変えて様々な機械と熱気で満ちている。一歩足を踏み入れれば、心臓が飛び出しそうなほどにワクワクがこみ上げてくる。もうすぐ、夢のような時間が始まる。その時まで、誰もがリクと同じく心躍らせていた。その数時間前、一方でクリスはというと。

 

「うぅ・・・ちょっと酔った」

 

 慣れない電車の揺れに少し気持ち悪くなった同僚の背中を仕方なくさすっていた。

 

「ったくだからあんなに喰うなっつったろ?」

「だってぇ・・・あのお弁当美味しかったんだもん・・・そもそも、配給されたお弁当だけでも美味しいのにクリスチャンの持ってたお弁当がこれまた美味しかったのが悪いんだよッ!」

「あたしのせいだってのか!?」

「そーだよ。あでもクリスちゃんがこんなに料理上手だったなんて知らなかったなぁ・・・誰に習ったの?友里さん?」

 

 響の疑問に先を歩いていた友里あおいが「私じゃないわよ?」と答える。マズい、と内心思いつつそれを表情に出さぬよう努めながら冷静に対処する。・・・あくまでも、冷静にだ。

 

「ど、独学だよ独学!あたしはお前みたいにずぼらじゃねーからな。それに一人暮らし(・・・・・)だしこれぐらいったりめーだ」

「へぇ、じゃあ後で私もクリスちゃんにお弁当作ってもらおうかしら」

 

 うまく切り抜けた。そう安堵しかけたのもつかの間で、こんどは思わぬところからの伏兵に一瞬パニックになる。落ち着け雪音クリス。ここであのバカと住んでいるのがバレたら絶対ネタにされる。そうなったらもう表を歩けない。ここはなんとしても誤魔化すんだ。

 

「そ、その内な!」

「やったー!じゃあ私も」

「ハァ?おまえには小日向がいんだろーが」

「えぇ!?私だってクリスちゃんの手料理食べたいッ」

「やかましい!だいたいさっきあたしの分まで食べたろうが」

「だってそれは今ダイ――――」

「それ以上言ったら鉛弾のバーゲンセールだぞ?」

 

 威圧とはこのことで、響は「ア、ハイ」とだけ言って押し黙る。しょぼんとする後ろ姿には若干悪い気がしないでもないが、これでも乙女心というものくらい持ち合わせている。クリスとしてはその先にある言葉を言ってほしくないという一心でのことなので、自分は悪くないと正当化することで一時のピンチを乗り切る。

 

 そんな二人の会話を聞いていた・・・いや、正確には聴こえていた白衣の男は小さく笑う。

 

「立花 響さん、そして雪音クリスさん・・・あの終末の魔女であるフィーネが起こした月の落下を食い止めたルナアタックの英雄がどんな人間なのかと思っていましたが・・・いやはや、可愛らしい方たちですね」

「年頃の子達ですから。それからウェル博士?女の子の会話に聞き耳とは、感心しませんよ」

「おやおや、これは失礼しました。何分位置的に聞こえてしまいましてね・・・っと!?」

 

 突如列車に衝撃が走り車体が揺れる。バランスを崩しそうになるのを何とか堪え、友里が状況確認をする。しかしそれよりも速く後ろの二人は事の顛末がどのようなものかを瞬間的に勘付いていた。少し間をおいて、二人の予想通りの結果が返ってくる。

 

「ノイズよ」

「来たか・・・ッ」

「友里さん、博士をお願いします」

「了解。二人とも、気を付けて」

「はいッ!」

「ちゃっちゃと片付けて、とっとと戻る。遅れんなよッ!?」

 

 二人が別車両に避難したのを確認した響とクリスはそれぞれの胸に浮かんだ歌を口ずさむ。声が木霊し、やがてその身を戦う為の姿へと変えていく。奏でるのは、戦歌(いくさうた)。死を振りまく異形の脅威を振り払う為、二人の少女は戦いの歌を歌う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♪

 

 

 

 

 

 

 ライトが暗転する。それが開始の合図だった。それまで騒がしかった会場が一気に静まりかえったかと思いきや、演奏が流れると同時に歓喜の声に包まれる。リクもまた、その演奏に心躍らせた。正面の大スクリーンに世紀のコラボを果たした若きトップアーティスト二人が映れば、その熱気はさらに高まる。日本を代表する歌姫、風鳴 翼と彗星の如く現れ瞬く間にその名を世界にとどろかせた、マリア・カデンツァ・ブナ・イヴ。企画が発表されると同時にチケットの販売は3分でソールドアウトしたとの話もあるほどにこの二人のユニットはとてつもない話題を呼んだ。それこそ、不慮の事故(・・・・・)で解散を余儀なくされた〝ツヴァイウィング〟以来だろう。そんな二人のライブ。これで興奮しない方がおかしいというもので。リクも他の観客たちと一緒にペンライトや合いの手をいれてそのパフォーマンスを余すことなく楽しんでいる。

 

「母さんとクリスにも見せたかったなぁ・・・そもそも二人とも仕事人間すぎるよ。どうしてこう・・・」

 

 いけない。そう思いリクは首を振る。せっかくのライブじゃないか、苦労して手に入れたチケットを無駄にしたくない。

 

 ————薄情だよなァ、女ってのはよ。

 

 聞こえてきた声に心の中で「うるさい」と返す。

 

 ————そーかい。ま、せいぜい楽しむこったな。

 

 それ以降、声は聴こえなくなり、リクは意識を戻す。そこでふと、今度は別の何かを感じ取った。ぶるりと背筋を震わす不快な感覚。それは徐々に、リクの頭に警鐘を鳴らす。

 

「・・・、トイレっ」

 

 緊張のあまり開始前に飲んでしまったスポーツドリンクがここにきて尿意を連れてきた。幸いな事に曲も終わりMCに入ろうというところ。リクは貴重品のみを持ち、その場を離れてトイレへと向かった。

 

「・・・・ふう、スッキリした。これで心置きなく楽しめるっ」

 

 席に戻ろうとするリク。しかしそこで、小さな背中を二つ目撃する。明らかに向かっている方向がトイレとは違う方面だった為、後を追って走る。すると徐々に観客席とは離れた方へと移動していることに気が付く。どう見ても迷子になったとしか思えないと感じだリクは暫く行ったところで声をかけることにした。

 

  というか、女の子の後ろを付けるなんてどこからどう見ても怪しさ満点である。

 

「君たち、こっちは客席じゃないよ?」

「にゃ!?」

 

 そんな可愛らしいリアクションでこっちを振り向く金髪の少女。目はぱっちりとしていて黒と緑の服が個性的て良く似合っている。そんな彼女が隣の黒髪の少女に代わって答えた。

 

「そ、そうデスか?いやはや、道に迷ってしまったようデス・・・ね、調」

「切ちゃん、私達迷ってないよ。ちゃんと指定されたポイン――――むぐ」

 

 慌てて切ちゃんと呼ばれた少女が調という彼女の口を塞ぐ。さっきまでの自分を棚に上げるわけではないが、どうも様子がおかしいようにも見える。不審な点はあるが、それも〝友達に自分はデキる女だ〟というところを見せたいと強気に振る舞っていると思えばそう見える。どっちにしろ、ここは一般人のいていいような場所でもないし、子どもだけでこんなところをうろうろしていては危ない。

 

「迷ったなら、俺も一緒に行くよ。さ、行こう」

 

 そう言って二人の手を取るリク。半ば強引に連れていかれる二人――――切歌と調はリクに聴こえないようぼそぼそと話す。

 

「切ちゃん、どうしよう。いっそ気絶させる?」

「ダメデスよ調。マリアとマムが言ってたじゃないデスか。一般人には極力危害を加えないようにって!」

「じゃあ、どうする?」

「うぅ・・・・ドコドコされてる牛さんの気分デース・・・」

「切ちゃん、それを言うならドモドモだよ」

「ドナドナ、ね。というかさっきから二人は何話してるの?」

「うっ、な、なんでもないデース!」

 

 危うく気づかれるところだったと冷や汗をぬぐう切歌。ヘタに動いて自分達のことを勘付かれでもしたら元も子もないと調と打ち合わせてこのまま迷子のフリをすることに。

 

「さ、ここを曲がれば観客席だ・・・ってあれ?」

 

 ふと、ここで違和感に気が付く。さっきからここまで来るのにまるで静かだ。MCの声も演奏も、ましてや観客の声すら聞こえてこない。一体どうなってるんだと中に入る。そこでリクが見たものは、とんでもないものだった。会場を埋め尽くす勢いで存在する特異災害ノイズの群れ。最近は出現頻度こそ減っているものの、その存在が人類にとって脅威なのには変わりない。触れれば絶対の死が待っている死神がうじゃうじゃといるのだ。そんな地獄絵図のような光景に、リクは絶句する。しかしその向こうに目線を移せばそこにはまるで対峙するように互いを睨み合う翼とマリアの姿が。しかもマリアに至っては黒いマントを羽織ったステージ衣装とは違う姿で翼に向けて槍のようなものを向けている。訳が分からない、混乱する頭の中で、リクが選んだ行動は一つだった。

 

「二人とも逃げるんだ。今ならノイズはこっちに気付いてない」

「イヤ」

「いいから逃げるんだ。きみ達だけでも、速く!」

「えっと、それは・・・・」

「俺は大丈夫。だから、逃げて」

 

 断固として逃げない二人と逃がそうとするリク。平行線をたどる話の際ちゅうに、恐れていたことが起きた。

 

  それまでまるで糸が切れた操り人形のように動かなかったノイズ。その一部が、リク達めがけて攻撃を開始してきた。間一髪で二人を弾いて躱すが、バランスを崩したリクは階段から落ちて下へと落下してしまう。

 

「イッツ・・・・!躰の頑丈さには自信あるけど、これは・・・ッ!」

 

 幸い高さはたいしたことないものの、それでも落ちた先はノイズ達の取り囲む真っただ中。命など、ないに等しい。

 

「————ッ、貴様、一般人には手を出さないのではなかったのか!?」

「ちがッ、私は――――」

 

 何か言っている声が聴こえるが、リクには届かない。いや、そんな余裕などない。じりじりと迫りくるノイズ。逃げる・・・そんな選択肢など、この数の前ではどうしようもない。なら、死・・・・?死ぬのか、ここで?最悪の結果が頭をよぎる。しかしそこで、声が囁いた。

 

 ————死にたくないか?なら、覚悟を決めろ

 

「覚悟・・・?」

 

 ————そうだ。おまえの覚悟、試させてもらう。

 

  上着のポケットが光り出す。中に手を入れて取り出してみれば、それはあの小包の中に入っていたカプセルだった。中身がなかったそれは光が晴れると同時に絵柄が浮かび上がる。

 

 ————使い方は・・・わかるだろう?

 

「何を言って・・・え?」

 

 急に頭に浮かんだ使い方。困惑するリクとは裏腹に、彼の躰は動いていた。立ち上がり、走り出す。目指すのは自分が元いた場所。途中ノイズの妨害が入るが、それを跳躍して飛び越えて躱す。その人間離れした跳躍力に調と切歌は驚愕する。

 

「なんですかあのトンデモは!?」

「オリンピック選手もびっくり・・・」

 

 着地し、バッグの下へとたどり着けば、そこから家から持ってきたものを取り出す。手にしたものがどんなもので、どうやって使うのかが瞬時に理解できた。その事に困惑と僅かな恐怖が混ざり、狼狽える。しかしふと顔をあげれば、そこには調と切歌の姿が。ここで自分が死ねば、次はあの二人の番かもしれない。ここで自分が死ねば、クリスを独りぼっちにしてしまう。ここで・・・・。

 

「死んでたまるか・・・・ッ!」

 

 カプセルを握りしめ、立ち上がる。そして。

 

「ユーゴー!」

 

 諦めるな。

 

「アイゴー!」

 

 前を見ろ。

 

「ヒアウィーゴー!」

 

 限界を、超えろ。

 

「決めるぜ、覚悟ッ!」

 

 たとえそれが運命だとしても。

 

「ジィィィィィィィドッ!」

 

 運命を、ひっくり返せ。

 

  光に包まれるリク。そしてそれが、彼の運命の始まりだった。

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