突然の光景にそれを見ていた誰もが驚愕する。逃げ遅れていたと思っていた一人の少年が、突然姿を変えた。オペレーター達が告げる報告に、特異災害対策機動部二課の司令官、風鳴弦十郎は我が目と耳を疑った。
「アウフバッヘン波形・・・確認できません!」
「聖遺物では、シンフォギアではないということか!?ならば、アレはいったい・・・」
尽きない疑問と驚愕を隠す余裕などなく、誰もが一瞬という刹那の時に身動きを止める。
『・・・あれ?俺、どーなったんだ・・・・?』
視線を落として手を見る。明らかに人の肌ではない色。手の甲、掌、そして今度は顔。足元に落ちていたガラスの破片を覗きこめば、そこに見えたのは自分ではない何者かのおどろおどろしい姿。大きく、人間で言えば額の辺りまではあろう青く輝く眼のような物。全体的なフォルムとイメージから連想するのは・・・グレイ。よくオカルト雑誌やテレビの特番などで観る宇宙人のイメージにほぼ近い。躰は銀と赤、そして黒の三色で、胸元には特徴的な青いランプのような物。今の自分を自覚すればするほど、人間ではないということを理解していく。
そして、それと同時に今どういう存在なのかも。
あっけにとられているマリア、切歌、調の三人。彼女達に外部から指示が飛ぶ。
《三人とも聴こえますね》
聞こえていても、否と言いたくなる男性の声。この男から直々に連絡してきたという事は、それほど今が想定外の出来事だという事だろう。
《アレは非常に危険なものです。我々の今後の活動にも大きく障害となることでしょう。風鳴翼よりも最優先で対処してください。残りの装者達に合流されても面倒ですからね。今からノイズも動かします。くれぐれも、タイミングを見誤らないでくださいね》
念を押すかのような言い方に少しムスッとしながらも、切歌と調も戦闘の為ギアを纏う。
「行くよ、切ちゃん」
「デース!なんだかよくわからないデスけど、私達の邪魔になるっていうなら・・・容赦はしないデスッ」
歌が、聴こえてきた。それにハッとなってリクは咄嗟にその場から跳躍する。直後、ガキンと地面にめり込む刃。鋭く刀身を緑に輝かせるそれは、先ほど出逢った幼い少女二人からの物だと気づく。
『何するんだ!それに、その姿・・・きみ達はいったい――――』
「知る必要はないデースッ!」
切歌の声の後に調が頭部のパーツを展開して鋸を放つ。さながらマシンガンでも撃たれているようなほどに降り注ぐそれを何とか掻い潜ると、その先にはノイズが。しまったと心の中で溢すも、その後に頭に流れ込んできた情報により拳を突き出す。そうすれば、相手の体は炭素と化して消えて霧散していった。この躰は、普通とは違う。戦う為に構成されたもう一人の・・・・いや、
「ノイズを――――」
「————殺した、デスか!?」
驚愕する二人。楽勝だと思いつつも、やはりこうすることに抵抗はあったが、それでもやると決めた以上はやる気でいた。しかし結果は対象の健在と手駒であるノイズの消滅というなんとも真逆な結果に驚愕する。切歌、調同様にマリアも驚きはしたがすぐに思考を切り替え槍をその手に携え二人の下へと向かおうとする。が、その行く先を翼が遮った。彼女の前へと躍り出て、刃を交える。
「行かせはしない!」
「クッ・・・!」
風鳴翼。日本の所有する聖遺物第二号である〝
回避・・・だめだ、間に合わない!
「そうは問屋が卸すかよッ!」
直撃を覚悟したリクの耳に、独特な口調と声が響く。間髪入れずにまるで矢の如く紅色の光が二人の間に走った。マリアは舌うちをしつつすんでのどころで槍の切っ先を地面に触れさせ、体をひねって回転しつつその光弾を躱す。無理な体勢の変え方をしたためにギアの拒絶反応の痛みと同時に骨が軋んだような感覚を覚える。着地はなんとかしてみせたものの、土壇場でのこんな動きはできればしたくはないものだ。だがマリアとは違い、リクの方は目の前に降り立った少女二人の背に見入る。一人はなんとなくではあるが記憶にある。しかしもう一人、銀髪の癖っ毛を二つに結んだ彼女の、つい数時間前に送り出した後ろ姿があることに驚愕する。
『クリス・・・?』
「・・・・ッ」
『クリス・・・どうして、クリスがここに?』
「・・・・細かい説明は後回しだ。やれるか」
顔をこちらに向けることはせずに言葉のみを投げかけるクリス。それに戸惑いながらも肯定の意を示すと、二人はそれぞれ桃と緑のギアを纏う少女の下へと駆けた。
『何が、どうなって・・・』
尽きない疑問。だが、クリスが言った通り今はそれを問うだけの余裕などない。邪魔されはしたが、マリアも再びリクに襲い掛かる。振りぬかれた槍をバク転で躱し、構える。
『なんなんだよ急にッ!』
「貴方に恨みはないわ。でもね、これはやらなくちゃいけないことなのよ・・・悪く思わないでちょうだい」
一方的な言葉にそれまで抱いていたマリアへの印象が瓦解する。訳の分からない状況に巻き込まれ、揚句殺されかける。こんな理不尽に、屈するものか。戦う意志を示すようにリクは構える。そしてその横には翼の姿が。
「一人では無理だ。私も手伝おう」
『いや、この人は俺一人でやるッ!』
「お、おい!?」
翼の言葉も聞かずに駆けるリク。繰り出されるマントによる距離を選ばないトリッキーな攻撃をその強靭な皮膚で覆われた腕で弾きつつ、距離を強引に詰めていく。やがてその間があと一歩と迫った瞬間に、今度は槍が目の前に迫っていた。
『————ッ』
切っ先が眉間に触れるか触れないか、そんな間合いでなんとか上体を後ろに反らして躱す。そして相手の腕の伸びきったところでそのままの勢いで再びバク転し、蹴り上げる。防ぐことも敵わず、槍を手から放してしまったマリアはリクの蹴りを諸に受けて後退。なんとか腕でガードしたようだが、それでもダメージはあるようでグッと奥歯を噛んだ。
「無茶をするな。独りよがりでは勝てんぞ」
『そうは言っても、戦わなきゃこっちがやられるじゃないですか。だったら、先手必勝でしょ』
好戦的な彼を見てこれ以上はマズイと翼は直感する。完全に頭に血がのぼっている今では僅かでも付け入る隙を与えてはならない。響とクリスはノイズと相手の装者で手が離せない。それどころか、響に至っては戦意が案の定薄い。元々争い事は好まない性格だ、ましてや相手がノイズではなく言葉の通じる人間。戦う理由などないと語り掛けるも、その言葉に応じる姿勢は微塵もない。それどころか切って捨てるような反応を受けてしまっている。
このままでは・・・そう思ったその時、マリアが膝をついた。
「チッ・・・LINKERの限界時間ね。調、切歌ッ!」
マリアが2人を呼び戻す。隣に並び、二人と交戦していた響とクリスも駆け寄る。
「この続きはいずれ・・・」
「待ってッ!」
引き上げようとする三人を響が呼び止めた。
「どうして戦うの?命の奪い合いなんて、する必要ないよ!私達は、ノイズとは違う。言葉が通じる人間同士なんだよ!?何か事情があるなら言ってほしい。きっとお互い手を取りあえ――――」
「————何も知らないくせに」
「え・・・・?」
「手を取り合える?何も知らないで、温かい場所で生きてきたアナタに何がわかるっていうの・・・・」
「ちがっ、私はただ・・・」
「それこそが偽善ッ!」
ぴしゃりと言い放つ調。その剣幕に圧倒されなにも言えずに言い淀んでしまう響。そんな響を見て、リクは調を見据えて言う。
『・・・よくわからないし、きみ達がどんな目的があってここに来たのかはこの際いいよ。でもさ・・・そっちだって、何も知らないじゃないか』
「なに・・・?」
『・・・きみ、立花さんでしょ?中学の時、同じクラスだった』
「そう、だけど・・・?————もしかして、リッ君!?」
頷くリク。
『俺はこの子がどれだけ傷ついたかを知ってる。でも、きみはそれを知らない。俺もきみ達のことを何も知らない。だから必要なんじゃないか?話し合うってことが・・・』
もっとも、あれだけ殴る蹴るしてしまった自分が言えたことでもないが。そんな風に自嘲しつつも調に言葉を投げる。しかしリクの言葉は、彼女に更なる苛立ちを与えるばかりであった。今にも飛び出しそうになる自分をグッとこらえつつ、調はその場にとどまる。
「・・・これ以上話しても無駄ね。最期の幕引きは・・・・こうしましょうか」
パチン、とマリアが指を鳴らす。それと同時に現れる大型のノイズ。身長はゆうに8mはあろうという巨体だ。
「おいッ、まち――――クソ、トンズラこきやがった!」
「・・・致し方あるまい。立花、雪音。今はこのノイズを片付けるぞ!」
「・・・・はい」
『俺も手伝います』
「できんのかよ?」
『・・・やってみせるさ。ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!』
「リッ君・・・・うん、やろう。みんなでッ!」
響達三人と別れ、リクは現れたノイズの群れへと挑む。これを処理しなければ、彼女達のやろうとしていることができないと思ったからだ。そしてその考えはおそらく当たっている。行動を開始してから、幾度となく三人で何かをやろうとしているがその度にノイズの妨害が入って思うように動けないでいる。自分がなんとかしなければ、そう思いたったリクの脳内に浮かび上がるのは、この姿でできる一番の高火力を持つ攻撃。足を肩幅より少し広く開き、腕をさながら地面からエネルギーを吸い上げるようにして前でクロスさせる。そうすれば周囲のエネルギー・・・フォニックゲインが彼の体を駆け巡る。それを集め、腕へと収束させる。そこから腕を十字に組み、放たれる光線。
『レッキングバーストォッ!』
高出力の光の本流はノイズを瞬く間に呑み込み、炭素へと返す。そのままの勢いを保ちつつ、リクは扇型にその光線を照射していく。途中、胸のランプがさながら警告を発するかのように赤く点滅しだしたが、今はそんなことはどうでもいい。少しでも、彼女達の役に立てるのなら・・・・。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!』
全て薙ぎ払った後にダメ押しと言わんばかりに巨体のノイズにも光線を当てる。それにより動きが止まったことで、チャンスが生まれた。
手を繋ぎ、歌が奏でられる。その歌はどこか儚くて、切なくて・・・・でも、力強い生命の力を感じる。不思議と心に響く歌を最後に聞きながら、リクは疲労によりその場に倒れて意識を手放したのであった。