俺、相川歩です。あと、ゾンビっす。
ベルトルさんとライナー、姿はみてはいないが恐らく、いや、確実にこの街の中に潜伏しているアニの戦士たちが侵略してきて、月日が流れた。
船から降りたあとの話だが、俺の父さんが仕事で使っていた家がウォール・シーナにあったことを思い出しそこに住むことにした。
鍵も父さんからもしもの時に使えと言って鍵の隠し場所も教えてくれたのでこの時はいなくなった父さんに感謝した。シーナにある家に着いたのだが、中はものけのからだった。もしかしたら、父さんはこっちの家にいるのではないかと淡い期待を抱いていたんだけどそんなあまくはなかった。いつか、少なくとも俺が訓練兵になるまでにはこっちに顔を出すだろうと思ったが、一度として現れることはなかった。
ほんとうにどこにいったのだろうか?情報も収集してはみたが、誰ひとりとして見たものはいないらしい。エレン父もだ。結局この歳になっても何一つとして目撃したという情報は手にすることはできなかった。
そして、まだ子供ということで入れてもらえなかった、調査兵団になるため訓練学校は今年やっと入学できる歳になった。
俺、エレン、ミカサが巨人を倒すために調査兵団になるといったときのエレン母の顔は悲痛な表情で何度も「いかないで・・・」と言って行くことを賛成してはくれなかった。
でも、俺たちも折れることはなく何度も説得し、声を震わせ涙で頬を濡らしながら条件を言ってきた。
その条件とは、
絶対に死なないこと
無茶はしないこと
大方こんなものである。こと細かな条件もあったが、エレンたちを死なせなければいいわけだ。俺はゾンビだから死のうにも死ねないから別に困ることはないから安心だ。でも痛いもんは痛いからできるだけ力を使うことは控えることにしよう。
それで、俺たちはいま、男の人からもらった制服をきて決められた配置に着き手を後ろに組み足を肩幅まで開いて声がかけられるのを待っていた。
その姿勢を保つこと数分。空から光り輝く忌々しいまでにサンサンと地上を照らす太陽を浴びながらまだかまだかと待っていると肌が褐色で頭は、歳のせいか毛が一本もない教官が胸を張ってこちらにやってきた。
「ただいまより、第四期訓練兵団の入団式を行う!私が運悪くキサマらを監督することになった、キース・シャーディスだ!」
大きく張り上げた声が周囲に広がっていく。喋るたびにみんなの緊張が走る。
「キサマらを歓迎する気は毛頭ない!いまのキサマらは精々巨人どもの餌になることしかできないただの家畜だ!いや、家畜以下の存在だ!そんなクソにも役に立たんキサマらを我々が3年かけて鍛え上げる。巨人どもと戦う術を叩き込んでやる。そして、三年後、キサマらが巨人の前に立ったときただの餌のままか?あるいは王を守るため名誉ある壁となるか?または、巨人どもを駆逐する栄光ある兵士か?それは貴様達が決めろ!」
こういう話は大抵一人は居眠りする奴や、ぼーっとするやつがいるはずだがここにいるみんなは真剣に教官の話しを聞いていた。もし、寝ていたら何しに来たんだ?となってしまうだろう。
こういう天気が良くて太陽が顔を出していて、俺に日光が当たるようならば本来なら干からびてしまうところだが、俺をこの世界に送り込んだ者にデメリットをなくすように頼んだため、干からびることはない。ほんとうにありがたい。もし、干からびることになったらみんなどういう反応するのか少し興味はあるが、ここから追い出される可能性があるし、最悪、人体実験とかされるかもしれないのでやはりデメリットをなくして正解だ。
そんなことを考えていたらいつの間にか教官のありがたくて長い話は終了し、次は一人一人自己紹介の時間だ。ミカサは普通にスルーされ、エレンのほうも華麗にスルーされ、次の人に移った。エレン母が死ななかったおかげで駆逐駆逐と言わないエレンはもしかしたら教官に絡まれるのではないかと心配になったが、何事もなく終わってよかった。・・・そういや、エレンはエレン母の死によって教官の絡みは免れることになったわけだが、なんで今回もなかったんだろうか?俺の知らないところでなにかあったのか?
そんなことを考えていたら、いつの間にか俺の番になっていた。組んでいた右手を握り締め左胸に置く。
「シガンシナ出身、アユム・アイカワです」
「・・・」
俺の名前を言ったら目の前に立つ教官は一瞬だが眉がピクっと動いた。だが、その反応をしてから俺の目をじっと見つめる。逸らしてしまったら負けだと思い、目を逸らさずじっとこっちも見つめ返す。
目の奥がなにか言っているような気がしなくもないが、俺にはそれがよくわからなかった。
原作の記憶がもう薄れてしまって曖昧だが、エレン父と教官は知り合いのような描写がしてあったはずだ。・・・あったよな・・・?いつあったか、どういう経緯があって知り合ったかなんて知らないがもしかしたら、この人は俺の父にも会っていたのではないだろうか?聞かないとわからないけど。
俺の体内時計では結構な時間経っているような気がするんだがいい加減次の人に行ってもらえないだろうか?この姿勢結構辛いんだぞ?、と心の中で愚痴をぶちまけるが顔には出さない。表情のほうはいつになく真剣にだ。
教官は無言で次の人に向かっていった。やっと終わった・・・内心で安堵し、この列は俺が最後のようで俺の自己紹介が終わると後ろに向くように指示された。
もう俺はやることもないので、教官の餌食になっている人の様子をただ見守ることにした。絡まれる人の中にはアルミンもいた。ご愁傷様です。
ジャンの憲兵団に入って楽したいという理由を教官に言ったら数秒の沈黙後、頭突きを繰り出しあまりの痛さにジャンは悶絶しながら目尻に涙が浮かんでいた。
コニーはやはりアイアンクローで顔がひどい形になってしまっている。やはり某明久と同じ声だからあんな仕打ちを受けるのだろうか?と少し笑ってしまった。
「パクパク・・・モグモグ・・・」
「・・・」
やはり見つかってしまったサシャの盗み食い。圧力というレベルを超えた殺気とも言うべきプレッシャーが半端ない教官を前にしてよく食べるペースを落とさないものだと思う。いや、まずよくこんなところで食べようと思ったな。普通のやつならそんなことは絶対にしないだろう。みんな唖然としてるし、あまりの異常さに教官も呆然としていた。
「貴様・・・。なにをやっている?」
「・・・?」
サシャは教官のほうを見て大きな瞳をパチクリさせて周りをキョロキョロさせ、視線を前に戻して手にあるふかし芋(?)をひとかじり。あいつの食欲というか度胸に感服だよ。あいつは大物になるんじゃないか?教官はコニーを地面に落としてサシャのもとへ。
「貴様だ!貴様に言っている!!何者なんだ貴様は!?」
サシャの行動、態度に教官は怒鳴り散らした。やばい・・・耐えろ・・・。ここは笑うべきじゃない・・・。ここで笑ったら俺は終わってしまう・・・。サシャは口に含んでいた芋を急いで飲み込み胸に手をやり敬礼し、自己紹介した。
「・・・サシャ・ブラウス・・・貴様の持っている右手にあるものはなんだ?」
「蒸した芋です!調理場に頃合のものがあったものでつい持ってきてしまいました!」
堂々というもんじゃねーだろ。もう少し申し訳なさそうな顔ぐらいしろよ。
「貴様盗んだ・・・のか?なぜだ・・・なぜいま芋を食べていた?」
「冷めてしまっては元も子もないので、いま食べるべきだと私は判断しました」
「いいや・・・なぜだ。なぜ貴様は芋を食べた?」
サシャは眉をひそめて怪訝そうな顔をした。こんな長く脱線したのサシャが初めてなんじゃないか?つうか、入団式に芋をパクパク食べてる奴自体いないだろうけど。
「・・・それは何故人は芋を食べるのか?ということでしょうか?」
またもや時間が止まった。教官からブチッと聞こえてはいけない音が聞こえたような気がした。
「ブフッ・・・。や、やべぇ・・・あいつやべえよ・・・」
「お、おいアユム。我慢しろって。教官に聞こえるぞ?」
後ろにいるエレンから小さな声で注意が入ってしまった。これは仕方ないと思うんだ。こんなコントみたいな入団式他に絶対ないって。普通なら爆笑もんだから。
俺が耐えていると、エレンはサシャのほうに視線を戻した。俺も視線を戻してみたらサシャが食べかけの芋を半分にしようとしているところだった。結果、芋は8:2に分かれてしまった。肝の小さいやつならすぐに大きいほうを渡すだろう。俺ももしサシャの立場なら即効ででっかいのを献上する。
まあ、やはりというべきか、サシャは小さいほうを渡した。教官は彼女の顔と渡された芋を見て、芋を手にとった。
「ふー」
彼女はいいことしたと言わんばかりにドヤ顔を教官に向けた。
「おい、あの芋女まだ走ってるよ」
「すごいな。5時間もよく走り続けてるよ。でも、あいつ、死ぬ寸前まで走れって言われた時より飯抜きって言われたときのほうが悲壮な顔したよなぁ」
「そりゃそうだろ?5時間走り続けるか、夕飯抜くかどっちか選択しろって言われたら、少なくとも俺は5時間走り続けるぞ」
「アユムはでしょ?僕はご飯抜いたほうがいいかな・・・」
「俺は走るほうを選ぶぞ。もっと特訓してアユムより強くなるんだ!」
拳を握って目標をたてているエレン。俺より強くなる以前にミカサより強くなれよ・・・。お前ミカサと喧嘩して一度も勝ったことないだろ。喧嘩の強さ的に言ったら俺>ミカサ>エレン>アルミンだ。ミカサは同世代で喧嘩の強さはトップクラスだ。女の子であんな強いとか、男だったらどんだけ強かったんだろうと興味は沸くけどもしかしたら俺より強いのではないかという不安もある。転生してチートももらってんのにチートなしのやつに負けたら俺の立場って・・・。女で良かったと心の底から思う。
「さて、そろそろ飯の時間だ。食堂に行こうぜ」
「待てってエレン。俺たちも行く」
俺とエレン、アルミンは飯が用意されている食堂に向かった。
「んー、やっぱ味は変わらないのかぁ」
「そりゃあそうだろ。ここは訓練場だぞ?憲兵とかじゃないんだからうまいもんなんてでるわけないだろ」
「でも、エレンの気持ちもわからなくもないけどね」
食堂に着き、俺たち三人はいま夕食を食べていた。ミカサも誘って一緒に食べようと思ったのだが、姿が見えなかったのでまだ宿舎でのんびりしているのだろう。ちなみに夕食は味気ないパンと味の薄い小さく刻まれている野菜スープだ。質素すぎて涙がこぼれちゃう。だってゾンビだもの・・・。
「いつになったら肉とかパンとか腹いっぱい食えるようになるんだろうな」
「それは俺たちが巨人どもを全滅させるまでだろ?いまの俺にはまだ巨人どもを倒す力はないけど、現時点のアユムでも倒す力があるのは羨ましいよ」
「エレン、まだ俺にはそんな力はないって。あの時はたまたま倒すことができたが、もう一度やれと言われたらできる自信はないぞ?」
予想以上に俺の評価が上がっているエレンに肩をすくめてそういった。たしかに素手でも倒すことは出来るが、それは1対1での話だ。もし囲まれて1対複数の状況になってしまったらいくら身体能力が人間離れしている俺でも負ける可能性の方が高いのだ。そう、負けるだけだ。だけど死にはしない。ここ重要。