雪色狐姫と陰陽師 作:ツキノギ イオリ
逢魔時。空が茜に燃えるこの時間。とある村落から程近い荒れ野に、トウヤと空狐の姿があった。
今朝方、烏の死骸を漁る小妖を村の子供たちが見たんです
立ち寄ったそこの村長から、そんなことを聞かされたのが、その日の昼頃のことだった。
二人は顔を見合わせて、二、三話し合い、早めに危険の芽は摘むべきだと、その依頼を受けてここにいた。
辺りを見渡しトウヤは、凪いだ瞳を僅かに細める。
「この辺りだな……」
呟きからは普段の柔らかさが失せ、代わりに鋭さを帯びている。
その様子に、空狐はコクリと頷いた。
主人に呼応するように、彼女も静かな戦意を纏う。平時の頼りなさは、すでになりを潜めていた。
カサリ
枯れ草の擦れ音に、空狐の耳がピクリと動く。
音の出所は、ほぼ真後ろの草むら。大人の腰ほどの高さはあるだろうか? 次いでそこから、草を踏みしめるような音がいくつか聞こえた。
姿は未だ見えない。よほど背丈が低いのか、はたまた獣の類なのか……。しかし、子供と言うには強くただの獣と言うには醜悪な敵意が、草の隙間から滲むようにトウヤは感じた。
「!……くるぞ」
「はい!」
トウヤの声に空狐が応えたその瞬間、数体の異形が躍り出た。
即座に二人は、振り向き動く。
トウヤは懐から紺瑠璃の扇子を取り出しパッと広げ、空狐は右手を前に翳すと、青白い霊気を棒状に組み上げる。
炎の様なそれが弾けて、絢爛豪華な長槍が現れ、彼女はそれを掴み取る。
構えた二人に小鬼の群れが迫る。
それを見てとったトウヤが、扇子を真横に薙ぐように振る。
小さな風が彼の術により増幅され、途端に突風となって敵を押し戻す。
風に耐えきれず崩れた群れに、空狐は倒れ込むように駆け出した。
かろうじて風を逃れた二体が彼女へ飛び掛かる。
絢爛豪華な槍を手に、空狐はトッ、と地を踏み跳ねる。
敵の片割れを跳び越えて、そのまま宙で身を捻れば、勢いのまま穂先を振るった。
風を斬り裂いたその後には、両断された小鬼が残るだけだ。
その骸も一瞬の間をおいて、黒い塵となり空気に溶ける。
それを視認する間も無く、躱した一体を加えた三体が新たに彼女へ突撃を仕掛ける。
右足を軸に独楽のように身を回転させ、その三体を薙ぎ払う。そこへ後方から追撃の鎌風が飛来した。
トウヤの術だ。
目に見えない刃は死に体の敵を仕留め、更に槍の間合いの外の小鬼を次々と斬り裂く。
空狐は、機動力を奪われた群れの中から一足に跳び退く。そして駄目押しとばかりに自らも術を放つ体勢へ移った。
氷結地獄
静かな言霊を空間に響かせながら、両の手で槍を持ち、その石突で地を叩く。
キィイン
瞬間、澄んだ音が鳴る。
石突を起点に冷気が溢れ、氷柱の波が群れを呑んだ。
残らず凍り付いた群れは、ガラスのように砕け散り、妖退治は幕引きとなった。