屁理屈同好会。本日の議題は――   作:不皿雨鮮

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――『努力』

「私、努力って嫌いですの」

 ダーン! という文字が現実に見えてきそうなくらい豪快に扉を開けて、少女は宣言する。

 イライラのピーク、といったところらしく、ヅカヅカと部屋の中に入って、自分の定位置にドスン、と座る。

「早速、議論開始ってか? 熱心だな、お嬢様?」

 からかい半分に笑いながら、少年が声を掛ける。机の上に足を掛け、椅子の前足を浮かせてグラグラとさせている。不良という程でもない、単に態度の悪い生徒といった感じ。彼の名前は大宮啓、言動と性格、そしてたまの奇行のおかげで不人気ナンバー一の生徒だが、成績はトップなのが玉に瑕だ。

「逆じゃねぇか?」

「何がですの?」

「なんでもねぇよ」

 部屋の中には他にも三人いるが、少女に何があったかを誰も尋ねないのは、そうなると愛好会の本質が揺らぐからであり、面倒臭いからだ。

 お嬢様、というのは単純に少女の立場のことを言っている。ここ、私立真光学園の理事長の孫。それが彼女なのだから。名前は、須藤宮子。成績優秀、容姿端麗、所謂高嶺の花。

「とにかく、今日のお題は「努力」ですわ! それでいいかしら?」

 高嶺の花らしからぬ物言いに誰も口を出さないのは、宮子がそういう人間だと知っているからだ。二面性という訳ではなく、公私をちゃんと分けている。私、つまり素を出すのは幼い頃から世話役兼幼馴染を務めているとある少年の前か、ここだけだ。

「へいへい。んじゃ、意見ある人は、手を挙げてー」

 言うと、ちらほらと手が上がる。というよりも、全員手が上がっている。

「んじゃ、議題提案者から」

「では。まず、基準値がないところが理不尽だと思いますわ。どこまでが努力で、どこまでが努力じゃないのか全く以って不明。努力って何なのか分かってる方この中にいらっしゃいます?」

 宮子の問いに挙手したのは、啓だ。

「当事者間の有価値の事象に浪費する時間、ってところだろうな」

「と言いますと?」

「努力ってのは、まず相手から認められる必要がある。でなければ無用な、無駄な努力と断じられてしまうからな。で、次に努力っていうのは、不要なまでにそれらをし続けることを指す。部活動なんざもそうだ。よほどの熱血教師でもいない限りは、個人が結果を望まない限りは、血の滲むような努力なんていうのは誰もしない。それでも、大会前になれば言うだろう? これまでの努力の成果を見せてみろ、ってな」

「なるほど。浪費というのは強制的にやらされていたことでも、数に入るからですのね」

「なんか難しいね。好きなことを好きなだけやって、よし、上手くなった! って思ったらそれが努力なんじゃないの? 他人のことなんか気にする必要ないじゃん」

 言って笑うのは矢割有。純粋無垢、悪く言えば騙され易い方で、この同好会と兼部でテニス部に入っている。テニス一筋でその分の実力も持った、テニスバカだ。女子だが男子の制服を着ている。

「お前の考えはシンプルでいいよな。世の中もそんな風になればいいんだがなぁ」

「もー、啓はまたなんか煙に巻こうとしてるー。ホント隠し事好きだよね、啓って」

「おかげさまで」

「……? どゆこと?」

「知らねぇ方がいいさ」

 なんて会話から察せる人は察しているだろうが、彼らは幼馴染だったりする。家が隣で家族ぐるみの仲なのだ。

 次いでおずおずと、手を上げた少年。気弱で気弱で、気弱な少年。このグループの常識枠。無理やり連れてこられて今に至るそういう可哀想な経歴の少年。名前は田中裕二と典型的で普通な名前だ。

「えっと、ごめんなさい。努力って、その、無駄なことなのですか?」

「ああ、無駄さ。無意味無価値無用の産物だと俺は思うぜ」

「私もそう思いますわ」

「えー。努力ってすればするだけ自分に返って来るし、いいものじゃないの?」

「お前の場合はな。なんでか、テニスに関しては天才的だしな。天才と凡人様を同列で語るのはやめてくれ」

「天才じゃないよー!」

「まぁともかくだ。尊ばれる努力ってのは、その果てに得る質の良し悪しなんかじゃない。そりゃ勿論、質が上がれば褒められるだろうけど究極的には、違う。努力ってのは、そこに浪費した時間の量だ」

「だから根性論とか歴による力関係とかができるんですのね」

「ああ。体育会系の阿呆が尊ぶ年功序列がな。だけど、まぁ、俺は努力ってのは結構好きだぜ」

「……やっぱり貴方とは最後の最後で意見が食い違うようですのね」

「みたいだな。まぁお前は良い評価を常に他者から求められる。自己満足ならぬ他者満足をさせなければならない。くだらない勉強も運動も、なにもかもを満足させなくちゃならない。その辺りの差だろうな。期待ってのは無責任で無言の命令だ。お前はその命令に律儀に答えようとしてるって訳だ。馬鹿正直にな」

「……まぁ、そういうことになりますね」

 ほんの少しの間を開けて啓は言う。

「いいじゃねぇか」

「へ?」

「どうせ大人になりゃ、仕事仕事仕事もう一つ仕事して仕事、みたいに仕事に追われることになんだ。だったらその間に、何でもかんでもできることはしてしまえばいい。言ったろ? 努力ってのは他者が有価値だと認めたものに浪費する時間って。ならそれで獲得できる技術は基本的に有価値だ。いつか必要になることがあるかもしれない。だったら努力をしちまえばいいんだよ。案外、楽しかったりするぜ、「あー! これ今無駄なことしてんなー!」って思いながら何かをするってのは」

 




努力って何がいいんでしょうね。軽率に努力努力ほざいてる先生を見ると冷めるタイプです。
努力なんていう曖昧なものよりも研究と対策じゃね、と。

あ、「〜するように努力します」っていう逃げの言葉は好きですよ。いかにも日本人っぽくて。
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