Fate/Blank Order   作:後菊院

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第十二話

 

 

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 ホームズ? ああ! あのホラ吹きで、無教養で、コカイン中毒の妄想で、現実と幻想の区別がつかなくなってる愛嬌のかたまりみたいなイギリス人か

               ――御手洗潔

 

 

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 「――なるほど」

 シャーロック・ホームズは咥えていたパイプを手に取ると座っている椅子の背もたれに体重を預ける。書物や化学実験器具が煩雑に置かれたテーブルを挟んで座る空々は膝に手を置いたまま身じろぎ一つしなかった。

 ホームズの部屋。

 煙草の臭いが充満する密室で、空々は自分の見聞きした体験をホームズに語っていた。

 否、今ちょうど語り終えた。

 ホームズは基本的に何も喋らず――稀に時刻や場所に関する質問をした以外は黙って空々の話を聞いていた。全てを聞き終え、彼は僅かな間沈黙すると、「犯人はマシュだね」と言った。

「何故そう思うんですか?」

「消去法さ。彼女以外に犯行が可能な者がいない。特に第一の事件は至って明快だ。メディア殺し――いや、正確にはキルケー殺しと言うべきか。当時彼女に毒を盛れた者はマシュ・キリエライトただ一人だ。カルデアの他の者には全てアリバイが存在し、キルケーはカルデア以外の者が用意した水を飲まないだろうからね。特に、あの屋敷の人間を信用してはいなかったはずだ。それは彼女の言動から推測できる」

「でもメディアさんが――キルケーが屋敷に戻っていることを彼女は知らなかったはずですよ」

「いや、マシュはそれを知っていた」とホームズは断言する。

「朝食の料理はティテュバが用意していたそうだが、飲み物を注いだのはマシュだろう? 彼女はキルケーの飲み物に微量の毒を仕込んだんだよ。決して死ぬほどではない、しかし万全の体調ではいられない程度の毒をね。森の中で自身の異変に気づいたキルケーは、それをティテュバの仕業だと勘違いする。そこで彼女はこう考えたのだろう。『第二の拠点を作るよりも、あの屋敷の召使いを見張っておかなければならない』と。ロビンから既に疑いの眼差しを向けられていることに気づいているキルケーは正確な理由を告げず、体調を崩したと言って屋敷に戻る。この言い訳はある意味では真実だったわけだ。キルケーが屋敷に戻ってきた頃を見計らい、マシュも屋敷に戻る。今回は運よく自分から申し出ることなく単独行動ができたが、そうでなければ自分から単独行動を提案したのだろう」

「つまり、キリエライトさんもメディアさんが偽物だということに気づいていたと」

「そういうことになるね。そして――まあ、それが犯行の動機だろう」

 ホームズは頷いた。

「屋敷に戻ったマシュは二階のベッドで寝込んでいるふりをしているキルケーのもとへ水を持っていく。今度は即死級、致死量の毒を淹れてね。ティテュバが実はサーヴァントで、ロビンが暫くの間屋敷を見張っていたことも知らなかった彼女だが、運のいいことにロビンが見張りを切り上げティテュバがそれを追いかけた時に家に辿り着いた。『使用人にばれてはいけない』と一応は警戒して動いていたマシュは、誰にも見つからずにその任務を達成できた」

「死体が消えたのは何故ですか?」

「それは私の専門外だが――彼女だけはセイレムに降り立った時『弱体化』を受けておらず、肉の器に押し込められていなかった為に殺された直後霊基が崩壊して消滅したという仮説がまず一つ成立し、私はこれを推している。もう一つ、謎の勢力――例えば君の言う地球陣が何らかの理由で彼女の遺体をあの場から盗み出したという仮説も立つには立つが、こちらは荒唐無稽すぎるね」

 空々は「そうですか」と言った。納得しているのかしていないのかよくわからなかったが、ホームズは話を続ける。

「第二の殺人――ロビン殺しは情報が少ない分どうしても想像で補わなければならない部分があるが、あれはおそらくロビンがマシュの拘束を解いた時に起こった事件だろう。サンソンがロビンは本物だと断定している。君の言う『地球陣』も、自分では自分を本物だと思い込んでいるんだろう? ロビンは自分を本物だと信じているが故に、マシュと二人で町の外から遊撃隊のように行動しようとしたのではないだろうか」

「じゃあ何で彼はキリエライトさんを一度拘束したんですか?」

「彼女が暴れたからだろう。『この男は私が犯人だと知ってあの屋敷から隔離したのかもしれない』――連れ去られた直後、彼女はそんな恐怖に襲われたはずだ。そりゃあ必死で抵抗する。だからロビンは一度彼女を拘束し、そこで自分は犯人ではないと主張して彼女へ協力を申し出る。彼女が落ち着くまでの緊急措置だ。そして彼女は第二の犯行に出る。『こいつも偽物かもしれない』と、何かをきっかけに考えたのだと思うが――そこについては何とも言えない。君の見立て通りロビンが本当に『地球陣』だったのだとすれば、言動に違和感が出ていたのかもしれないね」

 地球陣は人類を絶滅させる方向に動く。

 それは空々のサングラスを通さなくても判別することのできる基準だ。

「第三の殺人はサンソン殺し――ああいや、その前に彼女はラヴィニア・ウェイトリーを殺しているのかもしれないが、彼女の死体は見つかっていないから今は置いておく。サンソンの殺害だが、これについては大した謎も何も無いだろう。犯人はマシュで決まりなんだからね。問題は動機だが……そろそろ私にはマシュこそが『地球陣』ではないかと思えてきたよ。君はどう思う? 君のゴーグルを通して見たマシュは本物かい? 偽物かい?」

「さあ」

 空々は膝に手を置いたまま言う。

「本物か偽物かを確認できたのはロビンさんとマタ・ハリさんだけだったので――何なら今から見に行きましょうか?」

「いや、いい」

 空々の提案をホームズは断る。

「マシュに言わせれば、サンソンも『偽物』だったから殺したのだろう。これも確認はできない。彼女の言い分は正しかったのかどうか……、今となっては霧の中だ。では第四の殺人に行こう」

 ホームズは深くため息をつく。喋り過ぎて疲れたというわけではないのだろうが、それでも快調には見えなかった。この事件は彼も堪えるものがあるのだろうか。

「君たちが屋敷に戻った時、二階の客室の一番奥のベッドには羽川翼の遺体が寝かせられていて、アビゲイル・ウィリアムズの部屋のベッドにはアビゲイルの遺体が同じように寝かせられていた。羽川翼の遺体に外傷はなく、アビゲイルの胸には心臓まで深々とナイフが刺さっていた。ランドルフ・カーターの遺体は消えていた。おそらくは本来のランドルフ・カーターが体を回収しに来たのだろう。書斎が荒らされていた形跡は自分の体を使っていた者が今まで何をやっていたかを知るにカーターが調べたことによりできたものだ。ミス羽川の遺体をベッドまで運ぶあたり、彼はそれなりに分別のある人物なのだろうね。では彼がアビゲイルを殺したのだろうか? 否。アビゲイルの胸に刺さっていたナイフはサンソンを殺したのに使われたものと同じナイフだった。それは当時、サンソン殺しの証拠品として裁判所にあった筈だ。『悲鳴』に乗じてマシュは裁判所から逃げ出した。その時にナイフを持って行ったのだろう。カーターがアビゲイルを殺す為にわざわざ裁判所に保管されていたナイフを使うとは思えないから、これもまたマシュの仕業だ――そして最後の殺人。マシュ殺し」

 ホームズの声が沈む。それは空々にもわかった。

「では、マシュを殺したのは誰だろう」

「それは僕にもわかりますよ。自殺です」

 間髪入れずに空々は言う。

「処刑台で首を吊っていたんですから。殺そうと思えばもっと楽なやり方がいくらでもありますし」

「その通り」

 ホームズが言う。

「1人で絞首台から落ちるには少し工夫がいるが……これまでの自身の行いを悔いて自殺を試みたというのが最も自然なシナリオだ。彼女はセイレムの魔女として自身の終焉を受け入れた。自分自身を裁いた――だが知っているかい空々君」

「何をですか?」

 突然自分に話を振ってきたホームズに空々は質問を返す。煩雑に物が置かれたテーブルを挟み、ホームズは手に持ったパイプを弄っている。

 空々は姿勢を変えない。人形のようだった。

「魔女っていうのは大抵が冤罪なのさ」

 ホームズはさらりと言ってのけた。

 空々と視線を合わせない。彼の眼は自分の左手でクルクルまわるパイプに向けられている。

「どういう意味ですかね」

「そういう意味だよ」

 間髪入れずに答えるホームズ。

 ようやく空々と視線を合わせる。

「ひとつ教えてくれ。君はどうしてこんな事件を引き起こしたんだ?」

 

 

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 「まるで僕が全ての黒幕みたいな言い方ですね」

 少年が言う。

「僕はしがない英雄ですよ。こんな複雑で面倒くさい殺人事件の計画なんてたてられません」

「私はそこから疑っているんだよ。君は本当に英雄かい? 僕には君がただの十三歳の少年に見えるんだが」

「それはまた手厳しい」

 少年は笑う。膝の上に置いていた手をあげると、ぐいっと伸びをする。「ヒントは自分の身の上ですか?」

「そうだね。恥ずかしながら」

 紳士はニコリともせずに少年の言葉を肯定する。煩雑なテーブルにパイプを置いた。

「『初歩的なことだよ、ワトソン君』……」

 少年が独り言のように呟く。

「ちょっと露骨過ぎたんじゃないですか。鹿撃ち帽といい、決め台詞と言い……シャーロキアンに怒られても知りませんよ」

 シャーロック・ホームズを相手にまわし、互角以上に立ち回った犯罪者はごくわずかだが存在する。

「仕方ないだろう。彼を演じるには彼よりも彼らしくならなければならない。キャラ付けの極端化は二次創作で日常茶飯事だ。君こそ途中から自分のキャラを忘れていた風に思えるけれど」

「やっぱりそうですか? 演じすぎは良くないと思ったんですけどね」

 最初に挙げられるのは何と言ってもジェームズ・モリアーティ教授だろう。犯罪界のナポレオンと呼ばれた彼は、かの探偵と同等の頭脳を有する悪のカリスマである。

「まあ、教授の眼を欺く手腕には感心しますよ。推理能力まで完全に模倣してのけるとは」

 他には、ホームズの天敵――宿命の女、アイリーン・アドラー。

「推理というのはいかにして犯罪者の気持ちに同調するかにかかっている。私のようなコソ泥にこそ、最も向いている仕事なのだよ」

 そしてもう一人。

 たった一度だけの勝負。

 かの名探偵の捜査を掻い潜った泥棒がいる。

「まあ、私の話はいい。今は君とセイレムの話だ。改めて聞かせてもらう。どうして君はこんな事件を引き起こしたんだ?」

「……おっしゃる意味がわかりません」

「ではもっと具体的に聞こう。セイレムについてから最初の朝食で、何故君は君とメディアのコップを入れ替えた?」

「……」

 少年は何も言わない。

「マシュ・キリエライトが殺そうとしていたのはメディア――キルケーではない。当初の予定では、彼女は君を殺そうとしていた」

「……」

「裏切りの魔女に微量の毒を飲ませたところで体調を崩す筈が無い。魔術を使えば一瞬で回復してしまう。わざわざ屋敷に戻ってくる可能性は本来ならばゼロだ――しかし君なら話は別だ」

「……」

「現代の英雄である君ならば毒を盛られては満足に動けない。合理的な空々空の行動基準に照らせば、君は体調不良を感じたらすぐに屋敷に戻った筈だ。そこに毒入りの水を運ぶというのがマシュの本来の殺人計画だった」

「杜撰ですね」

「ああ杜撰極まりない。君が誰かと一緒に屋敷に戻る可能性をこれっぽちも考えていないし、犯行予定時刻に自分が単独行動をとれると信じ切っているのが駄目だ。『空々が屋敷に戻るのはイレギュラーな出来事』と錯覚させるのがこのトリックの肝だが、こんなものは別にホームズじゃなくても解ける。体調不良を起こす毒と殺害に使う毒を同一の種類にすることで検死を誤魔化すなんて目論む前に、もっと他の要素を考慮すべきだと私は思うね。殺意を君に気取られるべきではなかった」

「……」

「ロビン達と同じように、君はあのメディアが偽物だと見抜いていた。そしてあの場で彼女に毒を回せばこの状況が作り出せることもわかっていた。魔力を温存するためにキルケーがベッドの中で変身を解くことも、彼女の体格が君とあまり変わらないこともわかっていた。故に君はキルケーに毒を回し、マシュに彼女を殺させた。しかし何故そんなことをさせた?」

「……」

 少年は答えない。

「答えろ少年。何故マシュ・キリエライトを利用した?」

「……」

「何故サンソンの検死報告を偽った?」

「……」

「彼はこう言ったはずだ。『あれはロビンだった――そして、彼は自殺だった』と」

「……」

「何故だ」

「……」

 

「答えろ少年。()()()()()()()()()()()?」

 

 

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 空々空という少年の言うことなら何でも信じられる。

 空々のことなら何でも知っている。

 空々と俺は一心同体だ。

 空々は俺を理解してくれる。

 空々は俺を受け入れてくれる。

 つまるところ、俺は空々にどうしようもなくいかれているのだ。

 俺は空々を愛している。

 愛している。死ぬほど愛している。

 空々には俺の全てを捧げてもいい。

 あの時――俺を英雄と呼んでくれたあの時から。

 俺は空々のものになった。

 誰にも内緒のまま、俺は空々の所有物になった。

 人類の奴隷だった俺を、あいつは解き放ってくれた。

 本当、大好き。

 大好きで大好きで、大好きなんかじゃ俺の気持ちは言い表せない。

 空々は全て正しい。

 空々が白って言ったら黒でも白だ。

 空々が黒って言ったら白でも黒だ。

 空々が偽物って言ったら、例え本物でも偽物なんだ。

 だから殺した。

 ロビンは俺が殺した。

 あれは偽物だ。だからさっさと殺した方が良い。

 令呪で自害を命じた。誰にも見られない時に。

 本当は森の中で直接死ぬのを確認しながら殺したかったんだけど、それは無理だった。

 日付が変わる直前。令呪が減ってるのが他の皆にばれないように。

 マシュ? ああ、あいつはいいんだよ。

 俺が空々にいかれてるように、あいつは俺にいかれてんだ。告発なんかするわけない。

「『マシュは大切な後輩だった。でも空々君の方が大切だった』――」

 紳士は煙草を吹かす。

「ロビンが自害する様子を見たマシュはそれがミス藤丸の仕業であると瞬時に理解しただろう。さて次に彼女はどうするだろうか。サンソンやマタ・ハリにこのことを打ち明ける? 否。彼女はミス藤丸に惚れている。あの感情は恋愛を通り越して依存や妄信の域にまで達している。そんなことは絶対にしない。寧ろ、ミス藤丸の罪を被る方向に動くだろう」

 先輩は私が守るんです。

 全ての罪を被り――首を括る。

 立香を守るために。

「本当なら他殺の偽装工作を施した後、土に埋めるか海に沈めるかでもしたかっただろうが、生憎そんな時間は無かった。森の中には憲兵がいたからね。おちおちしてはいられなかった。精々顔を潰して捜査を混乱させるのが関の山だった。ロビンの死因はわからないが――毒を煽ったと考えるのが自然だろうけど、自分の首を絞めたのかもしれない。真相は闇の中だ。首を絞めた痕から目を背けさせるための顔面殴打と考えれば納得できるから、この可能性が一番高いかな。そして次の日、彼女は検死の結果を報告されないように法医学のスペシャリストであるサンソンを殺した。第一の犯行で君を狙ったのはまぎれもなく嫉妬の感情だろうね。最後、悲鳴が響いた後も彼女は君を殺す為に動いたはずだ。もっとも、そんな簡単に殺されてあげる君でもなかったわけだが――」

 何故そこまでミス藤丸を自身に依存させた?

 紳士は落ち着いた口調で問う。

「特に目的なんかありませんよ」

 少年は訥々と応答する。

「僕の行動原理はいつだって変わりません。囲われた世界を打破する為、僕は僕にできる些細なことをせっせと積み重ねるだけですよ」

「……」

 今度は紳士が黙る番だった。

「正直、君には戦慄している」

 紳士は椅子に座りなおす。テーブルに置いたパイプを手に取っては置きなおし、再び少年を見つめる。

「今回だけで四人の脱落者が出た――今まで一人も欠けることのなかったカルデアのサーヴァントが四騎も死んだ。マシュと羽川翼を合わせれば六騎。これは非常に恐ろしい結果だ。何の力も持たない十三歳の少年にここまで掻きまわされるなんて想定していない。君はカルデア史上最悪の敵だ」

「最悪ですか。それはそれは……僕には過ぎた称号です」

 紳士が立ち上がる。それと共に複数人の戦士が姿を現した。少年を取り囲むように――ゆらりゆらりと幻影を払い、一人また一人とその場に顕現する。

 朱槍の猛犬。

 絡繰りの忍。

 カウボーイハットのガンマン。

 そして、万能の天才。

「空々……」

 レオナルド・ダ・ヴィンチは憤怒の感情を隠そうともせずに少年を睨む。

「君は……君が何をしたのか、わかっているのか?」

「僕は何もしていませんよ。探偵役も犯人役も被害者役も、全部他の誰かに任せましたから」

 少年は椅子から動こうとしない。もっとも、少しでも動けば四方から即死の攻撃が殺到するので、動きたくても動けないというのが本音だろうが――それにしては彼はひどく落ち着いていた。

「そう殺気立たないでくださいよ。僕は挨拶に来ただけです――こんなのただのジャブ程度のノリだったのに、冗談が通じないなあ」

 そう言いながら少年はテーブルに一枚の紙を置く。手裏剣と弾丸が喉元を掠めるが、特に気にしない。

「僕の名前は串中弔士(くしなかちょうし)。名前に一本筋の通った男と御記憶ください。それではまた――」

「待て!」

 クー・フーリンが朱槍を突く。

 加藤段蔵が双拳を飛ばす。

 ビリー・ザ・キッドが引き金を引く。

 レオナルド・ダ・ヴィンチが退路封鎖の結界に集中する――だがしかし、そのどれもが虚しく空を切り、串中弔士を捉えた者はいなかった。

「くそぉ!」

 クー・フーリンが惜しげもなく悔しさを露わにして部屋の壁を叩く。ダ・ヴィンチはすぐさま管制室に追撃の指示を飛ばすが、その表情は苦かった。

 ホームズは串中が置いた紙を拾う。

「罠かもしれませぬ」段蔵が横からそれを諫めようとするが、ホームズは「大丈夫」と彼女を制する。葉書サイズの紙に印刷されているのは人の名前のようだった。

 

 一里塚木の実

 右下るれろ

 澪標高海

 澪標深空

 真庭喰鮫

 萩原子荻

 ふれあい

 バゼット・フラガ・マクミレッツ

 青崎橙子

 間桐慎二

 ラヴィニア・ウェイトリー

 串中弔士

 

 以上、『十三会談』。

 お見知りおきを。

 西東天。

 

 

    4

 

 

 セイレム。

 丘の処刑場。

 首を吊りかけたマシュは誰かに引き止められた。

「マシュ」

 笑う。

 誰だろう。顔が見えない。

 知っている声だ。

 誰だろう。

 思い出してはいけない。

 彼女との記憶を取り出せば、死ねなくなる。

 彼女の為に死ねなくなる。

 何かを手渡される。

「マシュ、これ忘れてったでしょ」

 それは眼鏡。

 自分のものだった。

「先輩……」

 眼鏡をかけて、愛しい立香の顔を見あげる。

「もう大丈夫。全部終わったから」

 立香の笑顔だ。

「ありがとう」

 ああ……。

 そうだ。

 この一瞬の為に私は生まれたんだ。

「こちらこそありがとうございました。先輩」

 レンズが割れているから立香の笑顔が歪んで見える。

 でも気にしない。立香は立香だ。

 さようなら。

 今までありがとうございました。

 …………

 ……

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――かはは、この絵面は流石に傑作だ」

 

 運命は終わらない。

 

 

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