冒頭
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僕の思い通りになったら許さないからね?
——堕落王
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コツコツと無機質な複数の足音がカルデアの廊下に響く。外界を覗く窓は左右のどちらにも存在せず、薄暗い。特段、カルデアが電力危機に陥っているというわけでもないのだが、この廊下には不吉な空気が溜まっている。
向かう先はカルデアの監獄室。トレーニングルームや居住区画から離れた場所に設置されている。サーヴァントや職員でもここに来ることはほとんどない。今この道を歩いている彼らは、久方ぶりの来客だった。
「……本当にこんなところにいるのか」
先陣を切って歩く――しかしその割にはこの廊下の雰囲気に怯えた様子を隠さない恰幅の良い金髪の男性が、少し後方を歩く女性――レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画、「モナリザ」がそのまま現実世界に飛び出てきたような絶世の美女に尋ねる。
「うん。彼女はこの先にいる」
少しも笑わずモナリザは言った。その答えには妙な迫力があった。金髪の男性はごくりと唾を飲み込む。歩調が少し遅くなる。
「どうしたんですかカルデア
モナリザの後方を歩く、眼鏡をかけたピンク髪の女性が媚びた声で金髪の男性に話しかける。あからさま馬鹿にしていたが、緊張の極致にある金髪の男性にとってはそんな言葉でも救いになったらしく、「う、うむ。そうだな」と何度も頷く。
だがそれ以上減速こそしないものの、元の速さには戻らない。
「さっきも話したし報告書にも書いたけれど、彼女は精神が非常に不安定だ。ここに収容されてから、カルデアの人間及びサーヴァントが彼女とのコミュニケーションに成功したことはない――会話自体は成立するけど、まともな会話は望めない。それでも良いのかい?」
金髪の男性の隣に進み、歩調を合わせながらモナリザは彼の顔を窺う。怯えているのは簡単にわかった。「ううむ……」と唸り、一度歩みを止めかける彼だったが、ぶるぶると首を横に振り、闇に包まれた廊下の前方を睨む。
「いや! 彼女とは一度話をしなければならない――話をしようとしたと私が努力した記録は残さねばなるまい。正気を喪っているとは言え、所長がマスターと一度も顔を合わせないというのは無しだ」
今度は思い切り歩調を速める。もはや半ば走っていた。「私に続け~!」と、特攻隊長のようなセリフを叫びながら。その場を歩く誰一人として、自身のあとを追って来ていないのを確認する余裕はなさそうだ。
モナリザはやれやれとため息を吐く。
「臆病なのか勇敢なのかわからない人だね」
「臆病なだけですよ……。自分が勇敢でない事実を直視するのが怖いだけ」
先ほど猫なで声を出していたピンク髪の女性は辛辣な毒を吐く。彼に毛ほども魅力を感じていないのは明白だった。
ピンク髪の女性の後には三名の兵士。見るからに手練れ。無機質で陰鬱なこの廊下が、これ以上なく似合っている者どもだとモナリザは思う。
「彼らに出番が回ってくるような事態はこの先にあります?」
モナリザの視線を咎めたピンク髪の女性が聞いてくる。「無いよ。彼女は厳重に拘束されている。暴れ出した彼女を取り押さえるなんてシナリオは万が一程度の可能性しかない」
「万が一はあるのですね」
「可能性の話さ」
その時は頼りにしているよ――と、モナリザは心にもないことを言う。
「その場合は生け捕りがお望みですか?」
ピンク髪の女性の問いにモナリザは沈黙する。僅かなタイムラグの後、彼女は「――いや」と答えた。
「生死は問わない」
彼女は何かを諦めたような顔をしていた。