蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:クッペ

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ベルのお話です

ロキ・ファミリアの面々はあまり出てきません。


そして予想外の長さに前後編に分けることになりました……


閑話
閑話~ベル・クラネル~前編


 

~ベルside~

 

 あの日の僕は調子に乗っていた。ダンジョンの三層で出てくるモンスターでは物足りないと感じ、エイナさんや神様の言いつけを無視して僕は五階層まで降りて行ってしまった。

 そしてその行動に罰が当たったのだろう。本来だったら中層にいるはずのミノタウロスがその日に限って何故か浅層である五階層にいたのだ。

 

「ブモオオオォー!」

 

「うわああああぁーーーーー!!!」

 

 ミノタウロスのレベルは2相当。僕は現在駆け出しのレベル1。ミノタウロスと戦っても勝てるわけもなくただただ逃げているだけだった。

 後のことも考えないでただひたすら走った。そしてついに行き止まりに追い詰められてしまう。

 

「ブモオオオォー!」

 

 追い詰めたと言わんばかりに咆哮を上げるミノタウロス。その様子に足が竦んでしまい、その場にへたり込んでしまう。

 

(神様、すいません……僕はここまでみたいです。おじいちゃん、やっぱりハーレムなんて僕には無理だったよ。)

 

 圧倒的な死が近付いてくる。僕は抵抗するでもなく心の中でただ独白を続けていた。

 

(ああ、僕にはやっぱり英雄も、ましてや勇者なんて程遠い存在だったんだ。なろうとするのも、憧れるのも恐れ多い。なりたいと思っていてもなれないとは心のどこかで思っていたさ)

 

 この世界で有名なお伽噺、『ファイアーエムブレム・暁の女神』。下界の子供たちならば誰でも憧れる、世界を救った勇者。『蒼炎の勇者』アイク。

 そのものは国を救い、過去の大戦の英雄を相手取り勝利し、最後には世界を救ってしまった。

 おじいちゃんはこの話をあまり好きではなかったみたいだけど、僕はこのお話が大好きだった。憧れだった。そして自分もそうなりたいと何度も思った。彼の勇者のように、誰にも負けない強さが欲しいと思った。

 それが蓋を開けてみればこれだ。目の前に迫ってくる死を粛々と受け入れようとしている。仕方ないじゃないか……レベル1はレベル2には敵わない。

 ミノタウロスが武器を振り上げ僕に向けて振り下ろそうとしたとき、突然一筋の剣筋が見えた気がした。

 ミノタウロスは血をまき散らし絶命する。僕は返り血を浴びてしまったがこの状況を受け入れられずにただ固まっていた。

 

「すまん、こちらの不手際だ。大丈夫か?」

 

 ミノタウロスを倒したであろう男性は彼の勇者にそっくりだった。青い髪に黄金の剣。かなりの重量があるであろうその剣を片手で軽々と振り回す様は、まるで彼の勇者、『蒼炎の勇者』と同じだ。

 

「すすす、すいませんでしたああああぁーーー!!!」

 

 情けない悲鳴を上げながら僕はその場を走り去ってしまう。お礼の一つも言えずにその場を走り去ってしまった。

 

* * * * * * * * * *

 

 彼との再会は次の日の夜に実現してしまった。彼はオラリオ屈指の大手ファミリア『ロキ・ファミリア』の団員らしく、ダンジョン遠征終了の宴会を『豊穣の女主人』で開催していた。

 彼は一人で黙々と食事をしている。運ばれてきた料理を彼一人で全て平らげかねないほど。

 宴会の席にいた狼人が彼に文句を言うと彼もまたその宴会の席を後にして空いている席を探す。しかし今日は店側も繁盛しており、空いている席はどこにもなかった。

 

「すまない、相席をしてもいいか?」

 

 僕が座っていたテーブル席は僕が一人で座っていたため相席をすることは可能だった。昨日言い損ねたお礼を言いたかったので相席の申し出を受け入れる。

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「私もこっちで食べていい?」

 

「え、あ、はい」

 

 『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン、『ロキ・ファミリア』の宴会の方の席ではなくなぜか彼に着いてきた。そのせいでこっちのテーブルに向けられる視線が痛い……特にさっき文句を言ってた狼人の男声と山吹色の紙をポニーテイルにまとめたエルフの少女からの視線が鋭すぎる……睨みつけるというよりもガンを飛ばすの方が正しいレベルに。

 そして彼が席に着き料理の注文をすると、そこからが凄かった。

 

「こいつ何もんニャ!どんだけ食えば気が済むニャ!?」

 

「ああ!こっちの皿もう空です!次の料理お願いします!」

 

「まだ食べますよね?」

 

「当然だ。肉があればもっと食いたいな」

 

「まだ食べられるの……」

 

「見てるだけでお腹一杯になってきそうなんですけど……」

 

「ここの料理はうまいな、オスカーの作った料理の次位にうまい。そして一皿がこの量だ。気に入った」

 

「シル、あなたが連れてきた大食漢の冒険者とは彼の事ですか?」

 

「違うよ!私が連れて来たのはあの人と一緒に座ってる白髪の方!」

 

 運ばれてくる料理を次々と平らげて行き、それでもなお注文をしている。その様子に従業員の方は嬉しいはずだが絶叫しており、他の席で食べていたお客さんはこちらを化物を見るように見ており、同じ席に座っている僕とヴァレンシュタインさんはそれだけで満腹になりそうだ。

 彼が出てきた料理を粗方平らげ、次の料理が来るまでまだ時間がある。

 

「あ、あの!」

 

「ん?どうした?」

 

「あの、今日は助けていただき、ありがとうございました。僕ベル・クラネルって言います」

 

「ああ、どこかで見たことがあると思ったらあの時の少年か。あれはもとはと言えば俺の所為だ、こちらこそすまなかった」

 

「いえ、あの……お名前をお伺いしてもいいですか?」

 

「アイクだ」

 

「へー、暁の女神に出てくる英雄と同じ名前なんですね」

 

 彼の親が青い髪を見て彼の勇者に憧れつけた名前なのだろうと勝手に解釈していたが、その時アイクさんがとんでもない発言をする。

 

「同じ名前も何も、本人なんだがな」

 

「……はい?今なんて――」

 

 言われたことを素直に受け入れられなかった。というよりも何を言っているのかが分からなかった。

 

「お待たせいたしましたー……」

 

 新しく料理が運ばれ、アイクさんは食事を再開する。

 

「ベル……って呼んでもいい?」

 

「え、あ、はい。ヴァレンシュタインさん」

 

「アイズ」

 

「へ?」

 

「私の仲間はみんな私をアイズって呼ぶ」

 

「分かりました、アイズさん。それで、この人が本人というのは……?」

 

「そのまんまの意味。気が付いたらダンジョンにいたんだって」

 

「えええ――ムグッ!」

 

 とても信じられない!あの物語の勇者が目の前で大食いをしていると言われても全く信じられない!

 思わず絶叫しそうになった僕をアイズさんの手が僕の口をふさぐ。

 

「あまり大きな声出さないで。あんまり騒ぎにしたくない」

 

 目の前で起こっていることを意に介さず、アイクさんは食事を続ける。

 

「おかわり」

 

「ニャに!?もう一皿平らげてるニャ!もうちょっと味わって食えニャ!」

 

「ちゃんと味わってる。オスカーの作った料理の次位にうまいな」

 

「ほう、うちの料理よりもうまい料理を出す奴がいるなんてね」

 

「俺の傭兵団のシェフをなめるな」

 

 ゴゴゴゴ……という音でも聞こえてきそうな雰囲気を発しながらも食事を続ける。

 

「そうだ!今日ダンジョンでおもしれえ出来事があったんだけどよお!」

 

 突然『ロキ・ファミリア』の宴会がなされている方から声が上がる。

 

「帰る途中逃げたミノタウロスいただろ?あの最後に一匹倒したのも自称英雄のあいつなんだけどよお、あいつが倒したミノタウロスの返り血が襲われてた冒険者にぶっかかってトマトみてえになってんたんだよ!ははは!今思い出しても笑えるぜ!」

 

 その冒険者は十中八九僕のことだ……僕は僕が情けなくなってくる。思わず机をたたきその場から逃げ出そうとしてきたところでアイクさんが僕の腕をつかみ引き留めて来た。

 

「放してください!」

 

「自分の弱さから目を背けるな。自分が弱いことを、弱かったことを風化させるな」

 

 何を言っているのか理解ができない。弱い自分なんて早々に忘れ去りたい忌まわしい記憶でしか無いはずだ。

 

「何を……言って――」

 

「自分が弱かった時のことをいつまでも頭に入れておけ。そうすれば、今よりもずっと強くなれる。俺だって今のお前みたいな時期があった」

 

「……え?」

 

「俺は親父を目の前で殺された。俺がもっと強ければ、親父を守れたかもしれない。あの時の弱い自分を思い出すと腹が立ってくる。でも、あの時弱い自分がいたからこそ今の俺がいる。だから今は弱くてもいい。今すぐに強くなれなくてもいい。お前は冒険者だろ?ゆっくりと強くなっていけばいい」

 

 その言葉が胸に重く響いた。誰だって最初は弱い。その弱さを、悔しさを糧にして努力をし続けることに意義があるのだと。

 

「僕は……強くなれますか……?」

 

「強くなりたいと願うものは必ず強くなれる。俺がそのいい例だ」

 

 言いたいことは言い終えたという風に、彼は食事を再開した。彼の言葉はここに食事に来ているお客さん、従業員たち全員が聞き入っていた。

 

「アイクって、そういうこと言う人なんだね」

 

「何のことだ?」

 

「なんかアイクって、なんでも放っておく人だと思ってたから」

 

「あのなあ……俺はグレイル傭兵団の団長だったんだぞ?」

 

「うん、知ってる……ねぇアイク、私も強くなれるかな?」

 

「さっき言ったとおりだ。強くなりたいと願うものは、必ず強くなれる。自分を信じろ」

 

「うん、そうする。あ、これ貰うね」

 

「おい、自分で注文しろよ。俺から肉を取るな」

 

 アイズさんは強い。レベルアップの最速記録保持者だ。そのアイズさんでも今の現状には不満なのか、アイクさんにそんなことを言っている。

 

「よっしゃー!今から宴会恒例飲み比べ大会やー!優勝賞品はリヴェリアのおっぱいをもむ権利をくれたるわ!」

 

「俺もやるっす!」「俺も!」「当然参加するぞ!」

 

『ロキ・ファミリア』の宴会でまた何か盛り上がってる。というかおっぱいって……そんな、女性の胸を揉む権利だなんて……

 考えただけで恥ずかしくなってきた僕は俯いて赤面した表情を隠す。何やらもう一人この席に来たようだ。

 

「はぁ……下らん」

 

「いいのか、止めなくて」

 

「私が止めたところで何も変わらん。お前は参加しないのか?」

 

「あいにく、俺は食うことで口が忙しくてな。あ、おかわり」

 

「まだ食うのか……」

 

「だから食うの早すぎるニャ!」

 

「なんだ、飲みたいのか?ほら」

 

「いいの?」

 

「飲みたければ飲め」

 

「ありがとう」

 

 ジョッキに口をつけ酒を飲み始める。何故か『ロキ・ファミリア』の面々がギョッとしている。

 

「おい馬鹿、やめろ!」

 

 アイズさんからジョッキを引っ手繰るリヴェリアさん。その表情には鬼気迫るものがあった。

 

「何かいけないのか?」

 

「アイズは極度の酒乱なんだ。この間飲んだ時はロキに馬乗りにしてボコボコに殴っていたが……」

 

 顔を赤くしたアイズさんは拳を握り突然アイクさんに殴りかかる。アイクさんはその拳を平然と受け止めている。酔っているとはいえレベル5のアイズさんの拳をいとも簡単に受け止めるアイクさんはレベルいくつなのだろうか?

 

「何のつもりだ?」

 

 問いかけるが何も答えずうつろな表情のまま掴まれて無い手を手刀の形にして切りかかってくる。腕で受け止め受けて、拳を受けてめていた手を放し手刀を放ってきた腕をつかみぶん投げた。

 酔っぱらっておりうまく受け身を取れなかったのか、背中から地面に思い切りたたきつけられアイズさんは気を失う。

 

「女将、すまない。今日はこれでお暇させてもらう。リヴェリア、黄昏の館までの道を覚えていないから案内してくれないか?」

 

「あ、ああ……分かった」

 

 あまりの出来事に呆然としながらも何とか再起動を果たし、僕も自分の飲食代を払い店を後にした。




書いてて思ったけど宴会イベントは遠征から帰ってきた次の日でしたっけ?もう原作あんまり知らないからどうしようもないミスを犯している。

というわけでこちらで次の日ということにして既に投稿したものの修正を入れます。

申し訳ありません

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