蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:クッペ

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この話がどう落ち着くか?そんなの俺も分かりませんよっと


第五話

 

~アイクside~

 

『豊穣の女主人』にて

 

「こいつ何もんニャ!どんだけ食えば気が済むニャ!?」

 

「ああ!こっちの皿もう空です!次の料理お願いします!」

 

「まだ食べますよね?」

 

「当然だ。肉があればもっと食いたいな」

 

「まだ食べられるの……」

 

「見てるだけでお腹一杯になってきそうなんですけど……」

 

「ここの料理はうまいな、オスカーの作った料理の次位にうまい。そして一皿がこの量だ。気に入った」

 

「シル、あなたが連れてきた大食漢の冒険者とは彼の事ですか?」

 

「違うよ!私が連れて来たのはあの人と一緒に座ってる白髪の方!」

 

「カオスやな……」

 

 この店でダンジョンから帰還した祝いと俺が『ロキ・ファミリア』入団の祝いということで宴会が開かれたが、始まって暫くして主賓であるはずの俺は追い出された。俺と一緒だと飯が食えないだとかなんとか。

 俺も周りに遠慮して食う量を減らすようなことをしたくなかったからその提案を受け入れて、一人で座っていた白髪赤眼の少年と相席させてもらい、なぜだかついてきたアイズと三人で飯を食っている。

 そう言えばアイズがこっちに来たとき『ロキ・ファミリア』を含む男の冒険者たちの目線が一気にこっちを向いてきた。特に狼のラグズ?のあいつの目線は鋭かった気がするが。

 代金はファミリアの方で出してくれるとあって遠慮せずに食べ続けている。最初は興味深げにこっちを見ていた連中も、暫くするとこっちを見ようともしていなかった。

 テーブルの上にある飯をある程度平らげて皿を裏に下げてもらって次の料理が来るまでの間手持ち無沙汰だ。

 

「あ、あの!」

 

「ん?どうした?」

 

「あの、今日は助けていただき、ありがとうございました。僕ベル・クラネルって言います」

 

「ああ、どこかで見たことがあると思ったらあの時の少年か。あれはもとはと言えば俺の所為だ、こちらこそすまなかった」

 

「いえ、あの……お名前をお伺いしてもいいですか?」

 

「アイクだ」

 

「へー、暁の女神に出てくる英雄と同じ名前なんですね」

 

「同じ名前も何も、本人なんだがな」

 

「……はい?今なんて――」

 

「お待たせいたしましたー……」

 

 料理が運ばれてきた。俺は会話を打ち切り食べることに集中する。

 

「ベル……って呼んでもいい?」

 

「え、あ、はい。ヴァレンシュタインさん」

 

「アイズ」

 

「へ?」

 

「私の仲間はみんな私をアイズって呼ぶ」

 

「分かりました、アイズさん。それで、この人が本人というのは……?」

 

「そのまんまの意味。気が付いたらダンジョンにいたんだって」

 

「えええ――ムグッ!」

 

「あまり大きな声出さないで。あんまり騒ぎにしたくない」

 

「おかわり」

 

「ニャに!?もう一皿平らげてるニャ!もうちょっと味わって食えニャ!」

 

「ちゃんと味わってる。オスカーの作った料理の次位にうまいな」

 

「ほう、うちの料理よりもうまい料理を出す奴がいるなんてね」

 

「俺の傭兵団のシェフをなめるな」

 

 ゴゴゴゴ……という音でも聞こえてきそうな雰囲気を発しながらも食事を続ける。

 

「そうだ!今日ダンジョンでおもしれえ出来事があったんだけどよお」

 

 『ロキ・ファミリア』の宴会が行われているテーブルの方で何やらラグズの青年が叫んでいる。

 

「帰る途中逃げたミノタウロスいただろ?あの最後に一匹倒したのも自称英雄のあいつなんだけどよお、あいつが倒したミノタウロスの返り血が襲われてた冒険者にぶっかかってトマトみてえになってんたんだよ!ははは!今思い出しても笑えるぜ!」

 

 自称じゃなくてお前らが勝手にそう呼んでるだけだろ。

 そんなことを考えていたが、ふと目を隣にやると隣でベルが俯いて震えていた。放っておくとそのまま飛び出していきそうなほど。

 ベルのようなタイプはこういった場合言われた相手を怒るのではなく、自分に怒りを覚えるタイプだ。俺も昔親父が殺されたときは自分の弱さが恨めしかった。

 とうとう限界を超えたのか、立ち上がってその場を走り去ろうとする。俺は腕をつかみその場に止めさせる。

 

「放してください!」

 

「自分の弱さから目を背けるな。自分が弱いことを、弱かったことを風化させるな」

 

「何を……言って――」

 

「自分が弱かった時のことをいつまでも頭に入れておけ。そうすれば、今よりもずっと強くなれる。俺だって今のお前みたいな時期があった」

 

「……え?」

 

「俺は親父を目の前で殺された。俺がもっと強ければ、親父を守れたかもしれない。あの時の弱い自分を思い出すと腹が立ってくる。でも、あの時弱い自分がいたからこそ今の俺がいる。だから今は弱くてもいい。今すぐに強くなれなくてもいい。お前は冒険者だろ?ゆっくりと強くなっていけばいい」

 

「僕は……強くなれますか……?」

 

「強くなりたいと願うものは必ず強くなれる。俺がそのいい例だ」

 

 言いたいことを言って俺は食事を再開する。何やら静まり返っているが気にすることではないだろう。

 

「アイクって、そういうこと言う人なんだね」

 

「何のことだ?」

 

「なんかアイクって、なんでも放っておく人だと思ってたから」

 

「あのなあ……俺はグレイル傭兵団の団長だったんだぞ?」

 

「うん、知ってる……ねぇアイク、私も強くなれるかな?」

 

「さっき言ったとおりだ。強くなりたいと願うものは、必ず強くなれる。自分を信じろ」

 

「うん、そうする。あ、これ貰うね」

 

「おい、自分で注文しろよ。俺から肉を取るな」

 

 ここは飯屋なんだから自分で注文すればいいだろう、全く。

 

「よっしゃー!今から宴会恒例飲み比べ大会やー!優勝賞品はリヴェリアのおっぱいをもむ権利をくれたるわ!」

 

「俺もやるっす!」「俺も!」「当然参加するぞ!」

 

 なんか下らない事が始まったな。こっちで飯食っててよかったな。

 

「はぁ……下らん」

 

 そんなことを言いながらリヴェリアもこちらの席に移動してきた。

 

「いいのか、止めなくて」

 

「私が止めたところで何も変わらん。お前は参加しないのか?」

 

「あいにく、俺は食うことで口が忙しくてな。あ、おかわり」

 

「まだ食うのか……」

 

「だから食うの早すぎるニャ!」

 

 待っている間、大分前からおいてあった酒を少し飲む。あまり酒は飲まないが、たまにはいいものだ。

 酒を飲んでいる俺をじっと見つめてくるアイズ。

 

「なんだ、飲みたいのか?ほら」

 

「いいの?」

 

「飲みたければ飲め」

 

「ありがとう」

 

 ジョッキに口をつけ酒を飲み始める。何故か『ロキ・ファミリア』の面々がギョッとしている。

 

「おい馬鹿、やめろ!」

 

 アイズからジョッキを引っ手繰るリヴェリア。その表情には鬼気迫るものがあった。

 

「何かいけないのか?」

 

「アイズは極度の酒乱なんだ。この間飲んだ時はロキに馬乗りにしてボコボコに殴っていたが……」

 

 突然向かいに座っていたアイズが拳を握りこちらに殴りかかってくる。普通に受け止めるが突然のことで状況がうまく理解できない。

 

「何のつもりだ?」

 

 問いかけるが何も答えずうつろな表情のまま掴まれて無い手を手刀の形にして切りかかってくる。腕で受け止め受けて、拳を受けてめていた手を放し手刀を放ってきた腕をつかみぶん投げる。

 酔っぱらっておりうまく受け身を取れなかったのか、背中から地面に思い切りたたきつけられアイズは気を失う。

 

「女将、すまない。今日はこれでお暇させてもらう。リヴェリア、黄昏の館までの道を覚えていないから案内してくれないか?」

 

「あ、ああ……分かった」

 

 アイズを横に抱きかかえ店を後にする。店を散らかした迷惑の詫びを兼ねて、また明日来るかとのんきなことを考えながら。




アイクはスクリミルと同じくらい食べる

二人で野営している軍の食事を全部食いかねないほど

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