蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:クッペ
黄昏の館に到着しアイズを探す。中庭に行くと剣を二本持って待ち構えいた。
「待たせたな」
「うん。はい、これ」
「これは?刃引きされているようだが」
「訓練用の剣。普段使ってる剣で事故でも起きたら大変だから」
「軽いな、だがいいだろう。準備はできているか?」
「うん」
「じゃあ、本気で来い!」
その一言が開始の合図となり、アイズは剣を構えて特攻してくる。普段使いしている剣が細剣に近いものだからか、突きの動作が多い。
アカネイア大陸にこのような剣術を使ってくる剣士はいなかったが、対処できないスピードでもない。
突いてきた剣の横から剣をあて、ベクトルをずらして自分は身を翻して躱す。あえて躱せるように剣を大きく振る。アイズは後ろに大きく飛んで距離を取る。その様子に眉を顰める。
「距離を取り過ぎだ」
「……え?」
「なぜ俺の剣をそんなに距離を取って躱す?俺が剣を振った後、懐ががら空きだっただろ、なぜそこを攻めてこない?それと俺は本気で来いと言ったはずだ。本気というのは、殺す気で来いと言うことだ。手加減をしているようでは意味が無いぞ」
「……『目覚めよ』」
アイズは魔法の詠唱をして身に風を纏う。先ほどとよりも速く、重い剣戟をアイクに叩きこむが、アイクは片腕でそれを受け止める。
「先ほどよりもスピードと威力が増している。それが本気か?」
「はぁっ!」
剣を何度もアイクの剣に当てる。アイクからはまだ攻撃を受けていないが、それはアイズの高速の剣戟に怯んでいるのではなく、防御に徹しているためだ。
(攻め切れない……!)
焦ったアイズは普段彼女がしないような大振りをしてしまう。それを苦もなく躱され隙だらけになってしまう。
「焦ったな、隙だらけだ」
アイクは掛け声とともにアイズを剣で薙ぎ払う。アイズは地面を転がりながら距離を取り衝撃を外に逃がしていく。剣を構え直し剣にも風を纏わせる。
「リル・リファーガ!」
アイズ必殺技、風の力を利用しての渾身の突き技。アイクは腰を落とし迎え撃つ。アイクの顔にはかすかな笑みが浮かんでいた。
* * * * * * * * * *
「リヴェリア、邪魔するぞ」
リヴェリアの私室の部屋を蹴り飛ばしあける。マナーは全くなっていないがアイクは全く気にした素振りを見せない。リヴェリアは顔を少し顰めていたが……
「アイクか……いきなり……!アイズ!?」
アイクは口から血を流し気絶しているアイズを抱きかかえたいた。
「アイズの治療を頼む。俺には治療の杖なんかは使えないからな」
「……一つ聞かせてくれ。ここまでやる必要はあったか?」
回復の魔法を唱えながらアイクに訊ねるリヴェリア。リヴェリアは吐血させて気絶させる必要性を全く感じないようだ。
「逆に聞くが、手加減をした訓練に意味なんてあるのか?死なないように威力を制限する、寸止め。そんなものに本当に意味なんてあるのか?」
「いくら何でもやり過ぎだ!訓練で死んだら元も子もないだろ!?それが分からないとは言わせないぞ?」
「随分と過保護だな」
「は?」
「俺は戦争を生き抜いてきた。目の前で死んでいく同じ軍の仲間たち、俺がもっと強ければ守れたかもしれないと、何度思ったことか。強くなるためには生ぬるい訓練では意味が無い」
「それでも――」
「リヴェリア、人は簡単に死ぬ。首を切られる、頭を潰される、心臓を貫かれるのは勿論、それ以外でもすぐに死ぬ。明日生きているかどうかも分からない状況下の中で、そんな生ぬるい事をしていて生きて行けるのか?」
「だが……それでも――」
「冒険者だって同じだろ?ダンジョンというモンスターにいつ殺されるか分からない。殺す相手が人かそうでないか、違いはそれだけでしかない。それに、こいつはまだまだ強くなれる。『神の恩恵』とやらを抜きにしても、ここには伸びしろがある奴がたくさんいる」
「んっ……あれ?ここは?」
怪我の治療が終わり、アイズは目を覚ました。
「起きたか。それで、まだやるか?」
「アイク?私負けちゃったの?」
「ああ、俺に勝とうなどまだまだ早いな」
「もう一回、良い?」
「俺は構わん。行くか」
「待て」
「リヴェリア……?どうしたの?」
「私も着いて行く。また突然担ぎ込まれたらたまったものではない」
「リヴェリアも、アイクと戦ってみる?」
「お断りだ。魔法職が物理兵、しかも私よりもレベルが高いんだ、戦うだけ時間の無駄だろう。回復の方に専念させてもらう」
* * * * * * * * * *
「あれー、リヴェリア、何やってるの?中庭にいるなんて珍しいね?」
「ティオナか。あいつらの訓練の監視だ。先ほどアイズが運び込まれたのでな、アイクは手加減という言葉を知らないらしいからな」
「うっわー、何あれ?アイズなんて魔法まで使ってるじゃん。あれを受けて平然としてられるアイクも人間辞めてない?」
アイズが風を纏いアイクに攻撃をし続けている。風を纏って力と敏捷を強化している今のアイズに対応できるのはレベル6以上の冒険者だけだろう。少なくとも同じレベル5、それ以下の冒険者ではまず対応できない。
アイクはレベル8、それを抜きにしてもアイクの表情にはまだまだ余裕があるが、攻めているアイズの方は表情の余裕がなさそうだ。
「一撃が軽い、お前の売りは確かにその速さと正確さなのだろうが、もう少し一撃一撃の威力を上げてみろ。それだけでもかなり変わる」
「せぁっ!」
「はぁっ!」
次々と剣戟の音が中庭に鳴り響く。魔法を使い続けているアイズは精神力の限界が近付いているのか、焦りが出始めている。
アイクの薙ぎ払いを後ろに飛んで躱し溜めを作る。その勢いと風を利用して渾身の技を打ち込む。
「リル・リファーガ!」
さっきの手合わせよりも早い。しかし突き技の弱点は動きが直線的だということだ。動きさえ見えれば躱すことはたやすい。
風の範囲を考えやや大きめに身を翻すことによってアイクはアイズの攻撃を回避する。かなりの勢いを持って繰り出され突き技だ、急には止まれない。
「隙だらけだ。もう少しタイミングというものを考えろ」
がら空きの背中に上段切り、アイクの攻撃の勢いと自分の攻撃の勢いが重なりアイズは中庭の端まで吹き飛ばされ、壁に激突することでようやく止まった。
壁には大きなひびが入っており頭から血を流して気を失っている。
「やり過ぎだ馬鹿者……」
「あっちではいつもこんな感じだったんだがな」
「被害者が可哀想になってくるな」
「向こうからいつも挑んできているんだ、承知の上だろう」
リヴェリアはアイズの元へと走っていく。傍らに座り杖を掲げて呪文を唱える。アイズが負った傷はたちまち塞がっていき血が止まる。
顔に付いた血をを綺麗な布で拭い、横たわらせる。
「ねえねえ、アイク。次、私とやらない?」
「ティオナか。構わないぞ。最も、約一名はこっちを睨んでいるがな」
「気にしない気にしない、うちのママはなんだかんだで治してくれるから」
「誰がママだ」
「武器はその剣でいいのか?」
「うーん、いつも使ってる剣よりは軽いし形状も違うけど……ちょっと待ってて」
ティオナはその場から走り去りどこかへ向かっていった。恐らくは訓練用の武器が置いてある部屋に自分が使いやすい武器を取りに行ったのだろう。
数分が立ち、いろいろな武器を携えて戻ってくるティオナ。
「お待たせ!私はこれを使うけど、アイクはどうする?色々持ってきたけど」
ティオナが手に取った武器は大双刃剣。アイクが手に取ったのはアイズとの手合わせに使ったものよりも大きい両手剣だ。
それを片手で軽々と振り回し感触を確かめる。
「俺はこれで行く。どこからでも来い!」
「はあああぁーー!」
上段から切りかかって来たものを剣で受け止める。そのまま下からの攻撃が来た。それをバックステップをして躱す。
「戦いづらいな、そんな武器を使っている奴は初めて見たな」
「まだまだ行っくよー!!」
上段、横薙ぎ、時折挟んでくる体術。最初は対応しきれずに距離を大きくとっていたアイクも慣れ始めた。最小限の動きで剣を躱し、体術には腕や足で受け止め隙をついて攻撃を加える。その攻撃はティオナの剣に阻まれたが、ティオナは大きく後ろに吹き飛ばされる。
着地した瞬間を狙って切り上げる。ティオナは大きく後ろに飛び着地した勢いのままアイクに切りかかる。
「力任せに剣を振り過ぎだ。もう少し技の正確性を磨いてみろ」
「ふぅっ!はぁっ!せい!」
ティオナは攻撃を続けるが動きを完全に見切ったアイクに掠りもしない。ティオナはアイクの足を狙い姿勢を低くしアイクの足元を刈り取る。アイクは飛んで躱しそのままティオナに空中から切りかかる。
ティオナはアイクの斬撃を受け止めるが、アイクの力と空中から落ちてくる力を加えた斬撃にティオナの武器は耐えられずに砕け散る。
武器を失ったティオナに袈裟切りを喰らわせる。刃引きされた剣なので切れることは無いが、衝撃に吹き飛ばされる。
「参った……」
戦闘シーンの描写がクソなのは今に始まったことではない
そして上達の傾向があまり見られないのはもうどうしようもないと猛省中……