蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:クッペ

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他のやつどうしたかって?言うな


第十九話

 50階層に到着した翌日、遠征チームの選抜メンバーはまだ見ぬ未到達階層に向けての進軍を開始した。

 

「51階層は正規ルートを進む!新種の接近には警戒を払え!」

 

 51階層から57階層までは迷路のようになっている。フィンの指示のもと、彼らは正規ルートを進んでいく。

 彼らは幾度かの戦闘をし、52階層へ至る階段の前で小休止を取っていた。

 

「ここから先は補給ができないと思ってくれ」

 

 言外にここで補給しろと伝えてくるフィン。しかしここまで無傷の彼らはただ緊張感を共有するのみに止めた。

 各自が準備完了の旨をフィンに視線で伝える。それを確認したフィンを先頭に52階層への階段を下っていく。

 52階層に到達するや否や早速戦闘になる。しかしここに居るメンバーはこの階層で後れを取ることは無い。

 

「おおっ、ドロップアイテム」

 

 戦闘の際に落ちたモンスターのドロップアイテムを我先にと回収しようとする椿の腕をアイクが掴みとめさせる。

 

「む、なぜ止める?」

 

「ここで回収するのは多分いい結果に繋がらない」

 

「何故だ?」

 

「勘だ」

 

 するとそのドロップアイテムがあった場所に火柱が咲く。

 

「これは……!」

 

「ヴァルガング・ドラゴンの階層無視攻撃!」

 

「止まるな!狙撃されるぞ!」

 

 フィンの号令のもとその場を突っ切り先に進もうとする。

 しかし後ろにいた後衛隊に少々の遅れが生じている。先程の階層無視攻撃によってダンジョンの地面が崩れてしまった。

 

「きゃあああぁあーーー!」

 

「レフィーヤ!」

 

 運悪くその穴にレフィーヤが落下してしまう。そして不運は続くもの、落下した先にはヴァルガング・ドラゴンと思わしき眼光がギラリと光っている。

 

「【ヴェール・ブレス】!」

 

 52階層にいたメンバー全員にリヴェリアから防護魔法が掛けられる。

 その効果を確認する前に、アイクはレフィーヤが落下した穴へと飛び降りる。

 

「アイク!」

 

 制止の声が聞こえるがもう遅い。空中で落下する速度を速めると落下中のレフィーヤに何とか追いつき空中で肩に担ぐ。

 

「無事か?」

 

「アイクさん!?」

 

「話は後だ。このままでも魔法の詠唱はできるか?」

 

「は、はい!」

 

「狙いはあの竜。着地と同時に放ってくれ」

 

 それだけを伝え肩に担がれたレフィーヤは魔法の詠唱を開始した。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり――】」

 

 落下かつ早口の並行詠唱。落下中のアイクたちを狙って一匹のヴァルガング・ドラゴンが照準を定め口を開く。アイクは『アロンダイト』を抜いて口を開いたヴァルガング・ドラゴンへと剣を投擲する。

 口から身体にかけて縦に切られたヴァルガング・ドラゴンの魔石は『アロンダイト』によって切断されヴァルガング・ドラゴンその姿を灰に変える。

 

「【穿て、必中の矢】!」

 

 レフィーヤの魔法の詠唱が終わると同時、ヴァルガング・ドラゴンの待ち構えていた階層に着地するアイク。その衝撃に地面には巨大なクレーターが出来上がった。

 

「【アルクス・レイ】!」

 

 その魔法は待ち構えていたヴァルガング・ドラゴンに多大なダメージを与えた。

 

「上出来だ」

 

 手負いになったヴァルガング・ドラゴンに向けて剣戟を飛ばし次々と撃破していく。

 だがこれで終わりではなかった。その階層に新しく生み出されたモンスター。飛竜が大量にこちらへと押し寄せて来た。

 アイクはラグネルを再度構え、肩に担いだレフィーヤを落とさないようにしっかりと抱え直す。

 次々と襲ってくる飛竜の攻撃を身を翻すことによって回避し、すれ違いざまにラグネルを振るう。

 飛竜たちは次々と姿を灰に変えていく。しかし数が多く、減っている気配は感じられない。

 暫く剣舞を演じていると肩に担いだレフィーヤが、

 

「アイクさん、魔法が来ます!離脱しましょう!」

 

 と言ってきたため前方から来た飛竜の群れに突っ込み剣を横薙ぎに振るう。

 前から来た群れはすべて姿を灰に変え突破口が開かれた。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

 この階層に到達したリヴェリアが魔法を放つ。群がっていた飛竜を一掃し、新しく生まれてくる気配もなさそうだ。

 担いでいたレフィーヤを地面に下ろすとフィンを始めとしたメンバーがこちらに向かってくる。

 

「レフィーヤ大丈夫!?」

 

「怪我とかない?」

 

 ティオナとティオネがレフィーヤの身を案じ声をかけている。

 

「はい、大丈夫です……アイクさんが守ってくれました」

 

「あのヴァルガング・ドラゴン、全部アイクがやったの?」

 

「そんなわけないだろう。レフィーヤが魔法で削ってくれたおかげだ」

 

「へー、やるじゃんレフィーヤ!」

 

 ティオナはレフィーヤの肩を遠慮なしにバンバンと叩きながら賛辞を贈る。叩かれているレフィーヤの方はかなり痛がっているが。

 ズンズンと音が聞こえてきそうな剣幕でリヴェリアがアイクの元へと向かってきた。正面に立つと腕を振り上げアイクの頬を平手打ちする。

 パァン!という音が響き全員がこちらに一斉に注目する。

 

「なぜあのような無茶を一人でしでかした……?」

 

「理由が必要か?仲間が目の前で死ぬかもしれないという状況で助けに入ることに何を躊躇う必要がある」

 

 少し赤くなった頬を抑えることもせず、真っ正面からリヴェリアの瞳を見据えアイクは言葉を発する。

 そしてアイクは気付く。リヴェリアの瞳から一筋の涙が零れ落ちたことに。

 

「頼むから、頼むから……一人で無茶をしないでくれ……!私だって、目の前で仲間を失うかもしれないと思うと……」

 

 一度決壊したダムは脆い。そして一度爆発した感情を抑えることは困難だ。

 涙を流し続け、子供のように癇癪を起した彼女は止まらない。

 

「仲間を失いたくないのはここに居る皆が同じことだ!お前が一人で穴に飛び込んだ時、もう駄目かと思った……頼む、一人で、遠くに行かないでくれ……」

 

 誰も言葉を発することが出来ずにいた。リヴェリアが泣いていることがあまりにも衝撃的過ぎたからだ。

 ただ一人を除いては。

 

「俺は誰かを置いて先に死ぬつもりはない。俺を待っててくれる仲間がいるのならば、俺はそこに帰る。これじゃダメか?」

 

 泣いているリヴェリアの頭を自分の胸に抱え込む。その行動にギョッとする者もいるが、リヴェリアはそれを振り払うことはしなかった。

 

「……その言葉、忘れてくれるなよ?」

 

 そのままの姿勢でアイクだけに聞こえるようなかすれた声でポツリと漏らす。アイクの胸に頭を預けたまま、暫く涙を流し続けた。

 

* * * * * * * * * *

 

 58階層で敵が湧いてこないことを確認すると、集まって来たメンバーは未到達階層である59階層に向けての準備、補給などを各自行っていた。

 あるものはポーションを飲んだり、武器の調子を確かめたり、武器の簡単な整備を行ったりなどだ。

 団長であるフィンは次の階層につながる階段前で佇んでいた。

 

「フィン、どうかしたか?」

 

「ん?アイク……いや、次の階層についてなんだけど」

 

「まだ未到達階層なのだろう?」

 

「うん、そうなんだけど……昔『ゼウス・ファミリア』が59階層に到達したことがあって、その時の記録では『氷河の領域』らしい」

 

「氷河?」

 

「簡単に言えば大量の氷でできた大地だ。でも、妙だと思わないかい?」

 

「何がだ?」

 

「僕たちが立っているのは59階層につながる階段の目の前だ。なのにどうして、全くもって冷気が伝わってこない?」

 

「さてな。『ゼウス・ファミリア』とやらの記録に間違いがあったか、それ以降にダンジョンの中身が作り替えられたかだろう」

 

 そのアイクの言葉をフィンは黙考する。少し待っても何の反応も無い。

 

「何なら、少し見てくるか?」

 

「君はさっきリヴェリアに言われたことをもう忘れたのかい?それを抜きにしても、未到達階層に一人で行かせることなんて出来ない」

 

 会話を打ち切り後ろを見回す。見るとメンバー全員が準備万端だと言わんばかりにこちらを見ていた。

 

「これより59階層に乗り込む。これから先はまだ誰も、神々ですら見ていない領域だ。心してかかるように!」

 

 59階層、『ゼウス・ファミリア』の記録では氷河ということだったが、見渡す限り見えるのは緑一色。氷など欠片も無く、見渡す限りの密林が広がっていた。

 

「これは……どういうことだ?」

 

「この音は……?」

 

「……前進」

 

 フィンの号令で歩き始める。歩けども歩けども見えるのはやはり森でしかない。

 

「これって24階層の……?」

 

 レフィーヤがひとりごとのように呟く。近くを歩いていたベートはその呟きが聞こえたようで、わずかだが反応してた。

 数分歩き続け、広場のような場所に出る。そこで目に飛び込んできたものに驚きを隠せずにいる。

 

「何……あれ?」

 

 樹林が姿を消し、灰色の台地が広がる空間。

 荒野と見紛う空間には、夥しい量の芋虫型のモンスターとそれを食らう食人花のモンスター。

 その大群が群がるのは女型のモンスター、そして少し離れたところには人影が見える。

 その人影を見た瞬間、アイクが前へと踏み出した。

 

「まさか、こんなところにいるとはな」

 

 背中のラグネルを抜き、今にも飛びかからんという姿勢だ。

 

「お前の正体、見極めさせてもらうぞ」

 

 その人影は37階層でアイズがウダイオスを倒した直後に出現した漆黒の鎧に深紅のマントを翻した、アイクの因縁の相手。

 そのアイクを皆が見つめているのか、アイクが叫ぶ。

 

「漆黒の騎士!」




年齢=彼女いない歴の俺にラブコメ的な何かを書くのは不可能だと思うんだ……ラブコメは勿論無理だけど、されもどきすら書けないんだよ……

何が言いたいかというと、今回のが若干精一杯みたいな?

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