蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:クッペ
これが嫁補正か……
~ワユside~
大将が『正の女神』アスタルテを倒してから暫くが立ち、大将は一人旅に出た。
あたしも強い人を求めて各地を転々としている。そして疲れたらグレイル傭兵団の砦で羽休めをし、また各地を転々としていく。
確かに行く先々で強い人たちと手合わせをして、その瞬間は満たされるのだが終わってからが悶々としてしまう。これじゃない感がどうしても出てしまう。
やっぱり一番は大将だ。しかしその大将は旅に出てからというものの、グレイル傭兵団の砦には一度も帰ってこない。
今日も各地を転々としている日々。今日はベグニオン帝国、導きの塔があるテリウス大陸最大規模の帝国に立ち寄った。
ベグニオン帝国を当てもなく彷徨う。皇帝サナキ様がいる城の付近に来ると突然声をかけれた。
「あら?ワユさんですか?お久しぶりですね」
「シグルーンさん、久しぶり!」
王室親衛隊隊長シグルーン。皇帝サナキ様のそばに控えている筈の彼女がどうしてこんな所にいるのだろう?
「ワユさん、ちょうどよかった。今少しお時間よろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫だけど。何かあったの?」
「ほんの数刻前から宝物庫に飾ってある『神剣エタルド』独りでに輝きだしまして……それだけならよかったのですがカタカタと揺れ始めたのです」
「え?それって心霊現象?」
「そして配下の話によると、揺れ出したのは本当に少し前。ワユさんがここに近づいてきた時なのです」
「ふーん」
「ワユさんは導きの塔の戦いで『神剣エタルド』をお使いになられてましたよね?何か心当たりはありませんか?」
導きの塔で大将は大将の因縁の相手、漆黒の騎士を一騎打ちで下した。その後漆黒の騎士のエタルドと大将のラグネルが共鳴し出したらしいのだ。そして大将はエタルドをあたしに渡した。
その場で満足にその剣を使えるのがあたしともう一人、デイン王国のエディという剣士だけだったのだが、エディはソーンバルケという剣士から借り受けたヴァーグ・カティという剣を使っていたため、エタルドはあたしが使うことになった。
「うーん、エタルドを使ってたって言ってもほんの少しの間だし、あんまり心当たりはないかな?ごめんね、力になれそうにないや」
「それなら、少しエタルドを見ていただけませんか?サナキ様の許可は既に頂いているようなので」
シグルーンさんの配下の騎士がシグルーンさんにサナキ様の意向を伝えていた。
「分かった!じゃあお言葉に甘えさせて貰おうかな!」
「はい、ではご案内いたします。こちらです」
シグルーンさんの案内で宝物庫に向かう。宝物庫には見たことのないお宝、なんだろう。あんまりそういうのに興味ないから全部がガラクタに見えてしまう。
その中で一番目立つ場所に『神剣エタルド』は飾られていた。
エタルドを見た瞬間、ドクン!と鼓動を感じた。まるで運命の相手にあった女の子のように……こんなこと言ってるけど、全部ミストの入れ知恵だ。
エタルドは確かに輝いており、カタカタと揺れている。私が宝物庫に入った瞬間、より一層輝きは増し、エタルドそのものがショーケースを突き破りこっちに向かってきた。
反射的に手を差し出す。するとエタルドの柄は私の手にすっぽりと収まってしまう。
元あった場所に戻そうとするが、エタルドを置いたところでまたこちらに飛んできてしまう。
そう言えば大将もラグネルが自分から離れてくれないって言ってたっけな……あれ?つまりこれって、あたしが……?
「……ワユさん、申し訳ないのですが、今からサナキ様と謁見していただけますでしょうか?エタルドは持ったままで」
「え、う、うん」
皇帝の執務室に案内される。皇帝の部屋の前で「サナキ様、シグルーンです。御入りしてもよろしいでしょうか?」とシグルーンさんが聞くと中から「うむ、構わんぞ」とサナキ様の声がした。
「失礼します」
シグルーンさんが一礼し部屋の扉を開ける。あたしもそれに倣い一礼して部屋へと入る。大将はこういうお辞儀とか出来ないみたいだけど、あたしは最低限ならできる。
「サナキ様、突然の来訪お許しください。早急に対応しなければならない事態が発生しました」
「おお!ワユではないか!久しぶりじゃな」
「お久しぶりです、皇帝」
「うむ、してシグルーンよ。その早急に対応しなければならない事態というのは、先程のエタルドの件についてか?」
「はい。エタルドがワユ殿を主として選びました。ラグネルがアイク殿から離れないように、エタルドもまたワユ殿から離れなくなってしまいました」
「ふむ……」
「ゼルギウス将軍が無き今、このエタルドを使えるのはアイク殿とワユ殿の両名でございます」
「ならば話は早いじゃろう。もともと国宝として置かれ直したのは三年前のデインとの戦争が終わってからなのじゃ。その時でさえエタルドはそこになかったしのう、今更無くなった所でさして影響はあるまい。ご先祖様には申し訳ないがな」
それに、と続けるサナキ。
「それに剣のことは埒外じゃから分からんが、国宝として奉られているよりも、剣は剣として生きて行った方がそのエタルドも喜ぶのではなかろうか?エタルドがワユから離れない時点で、どんなに建前を述べたところでどうしようもないのだがな」
「つまりエタルドをワユ殿にお渡しする、ということでしょうか?」
「それしかないじゃろう。してワユよ、受け取ってくれるな?」
「え、ええっとぉ……本当にいいんですか?」
「構わんよ。もとよりただの置き物みたいなものじゃ。そのまま腐っていくよりも、そなたのような剣士が使ってくれる方がエタルドも喜ぶじゃろう」
「は、はあ……分かりました。……返せませんよ?」
「良いと言っているじゃろう。してシグルーンよ、話はそれで終わりか?」
「はい、突然の来訪失礼しました。ワユ殿を城の外まで送ってまいります」
「う、うむ……ワユよ、少しわしの話し相手になる気は――」
「ではサナキ様、お仕事頑張ってください」
「……」
がっくりと項垂れるサナキ様。机の上には大量の書類が乗っかっていた。恐らくあれをすべて処理してしまわなければならないのだろう。
本当、しが無い傭兵で良かったと思う瞬間だね。あんな大量の書類とにらめっこしなくちゃいけないって考えただけで頭が痛くなってくる……
「ワユ様、態々ご足労頂きありがとうございます」
「う、うん。これ本当に貰っちゃっていいの?」
「サナキ様がよろしいと仰られていたではありませんか。それに先ほど試した通り、エタルドはワユ様から離れたくないようですしね」
「分かった。じゃあ遠慮なく貰っていくね!じゃあまたねー!」
* * * * * * * * * *
思いがけない宝物を手に入れてしまった。このままいろんな国に行ってもいいんだけど、折角だから傭兵団の皆にこのことを自慢しに行こう!
でも今日中に帰るのは無理そうだ。しかも中途半端に国から出っちゃってしばらく歩いてきたから戻るに戻れそうな距離じゃないし……
仕方がないから今日は野宿だ。ミストがあんまり女の子がそういうことするものじゃないって言ってたけど、あたしはあんまり気にしたことが無い。
あたしを襲ってきた連中は返り討ちにすればいいだけだし、食料も何とかなるからね。
その辺で捕まえた野生の兎を潰してナイフを使って捌く。木を集めてきて火を起こす。こういう時に魔法が使えれば便利だと思うのはあたしだけなのだろうか?
さらにとって来た枝をナイフを使って削り串を作る。その串にうさぎの肉を突き刺したき火の炎に当て焼いていく。
火が通ったところで少しのスパイスをかけてがぶりとかぶりつく。
全て平らげ、まだ寝るのには早いと思い、何をするでもなく夜空を見上げる。久しぶりに見た夜空はとても綺麗だと思った。
すると突然目の前が青く淡く光り始める。その光はだんだんと輝きを増し、やがてあたしを包み込む。
思わず目を腕で庇う。光が収まったかと思うと、あたしは見たこともない場所に転移させられていた。
「あれ……?ここは、どこ?」
ワユがオラリオに来るまでの話です
実際はあんなに軽くエタルド渡してもらえるはずありません、国宝をあんなにあっさり渡すとか頭おかしいだろ!って思うかと思いますが、そこはご都合主義を貫き通させていただきます。