蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:クッペ

30 / 48
いつの間にか三人称支点で固定されてしまっていますが最初は一人称視点で書いてましたね

今回久々に少しだけ一人称視点入れます、なお三人称視点になれると一人称視点が書きにくくて仕方がないですよっと


第二十一話

~アイズside~

 

『アイズ、君は、君だけの英雄を見つけるんだ』

 

 この言葉は私の父親の言葉だ。そして今になってなぜ思い出すのだろう?

 彼の姿がお伽噺の英雄そのものだからだろうか?彼の戦う姿に対する憧れからだろうか?それとも皆を守ろうとする彼の行動に惹かれているのだろうか?

 考えても今一つ確信を得られない。

 ただ皆を守るために誰よりも前に出て戦い、そして最後には勝っちゃう彼は、とてもかっこいいものだと思う。

 

(……ああ、そういうことか)

 

 そして突然思考が纏まる。

 私の思い描く英雄像。誰にも負けないその強さ、どんなときにも諦めない心の強さ、そしてみんなを守ろうとする思いの強さ。

 彼は私が思い描く英雄像そのものだ。

 そしておこがましいかもしれないけれど、彼には皆にとっての英雄ではなく、私だけの英雄になってほしい。

 世界を救った『蒼炎の勇者アイク』としてではなく、私にとっての英雄アイクになってほしい。

 そして彼の隣に立てるだけの、ふさわしい強さが欲しい。誰もが認める、英雄の相棒に私はなりたい。

 そのためには今ここで、敵の攻撃に負けて寝そべっているわけにはいかない。目の前の、あの程度の脅威を排除できないで、何が英雄の相棒だ!

 

 いつからだろう、彼のことを考えると心臓の鼓動が早くなる。

 

 いつからだろう、気が付いたら彼の姿を目で追っていたのは。

 

 これだけは分かる、私が思い描く強さは、彼の強さそのものだ。

 

 だからこそ、まずはあの精霊を倒し、私が彼の隣にふさわしいのだと認めてもらう第一歩にする。

 そしていつか、私はこの思いを彼に伝える……

 

* * * * * * * * * *

 

「無事、とは言えないようだな。お前達、生きているか?」

 

 女型の精霊が魔法を完成させ、その魔法が彼らを襲う直前、アイクは彼らの前に割り込み目の前に障壁を発生させ女型の精霊の魔法から『ロキ・ファミリア』の面々を守った。

 しかしその前に受けた炎の魔法により皆が皆満身創痍、リヴェリアとガレスに至っては気を失っている。生きていることが奇跡と言っても差し支えないだろう。

 

「……ア、イク……?」

 

「アイズ、立てるか?」

 

「……う、うん……!」

 

 アイズは『デスペレード』を杖代わりにし無理やりにでも立とうとするが、喰らったダメージは大きくすぐに動ける状態ではない。

 剣を地面に突き立てたまま、後ろで倒れているメンバーの傍に駆け寄り容体を確認している。

 気を失っているリヴェリアとガレスの首に指を当て脈があるかどうかの確認をした後、顔に手を持って行き息があるかのどうかの確認。

 二人とも脈は確かにあり、息もしている。どうやら生きてはいるようだ。

 その間にも食人花や芋虫型のモンスターはアイクが生み出した障壁を破壊しようと攻撃を続け、女型の精霊も触手をぶつけ続けるが、ラグネルが生み出した障壁はびくともしない。

 

「フィン、生きてるか?」

 

「アイク……うん、何とか……ね……」

 

「あいつは今ここで倒さなくてはならないほど、緊急性を要しているのか?」

 

「……何が言いたいんだい?」

 

「一旦引いて出直す、もしくは今回は討伐を諦める。どちらにせよこのままでは戦闘の続行は困難だろう」

 

「……」

 

「幸いあの障壁はあの程度の攻撃で壊れることは無いが、ずっとここで燻っているわけににもいかないだろう。お前の悲願は知っている、そのために今までやって来たことも尊重しよう。ただ、無理して敵を倒し続けることが勇気ではない」

 

「……何が言いたいんだい?」

 

 アイクの発言に若干の怒気をにじませ聞き返す。まるでここでアイクの言葉に従う気はないと言わんばかりだ。

 

「一旦引くことも勇気だ。このまま特攻するのならば止めはせん、俺もあいつを倒すことに協力しよう。ただ俺は、ここは一旦引くべきだと思う」

 

「悪いけど、ここで引くことはあり得ない。僕は僕の悲願を叶える為にはどんなことでもやると誓った。ここであいつを倒すことは、僕の悲願に一歩近づく。僕はそう信じているからこそ、ここで引くわけにはいかない」

 

「そうか、ならば俺もあいつを倒すことに協力しよう」

 

「貴方の力を借りない、と言いたいところだけど……この状況でそこまでの強がりは言ってられない。貴方の力、存分に借りさせてもらおう」

 

 フィンは動かない体に鞭打って無理やり立ち上がる。そして槍を二本持ち、そのうち一本を掲げ、

 

「君たちに『勇気』を問おう。その目には何が見えている?」

 

 アイクは剣を突き立てた場所へゆっくりと歩みを進めていく。

 

「恐怖か、絶望か、破滅か?僕の目には倒すべき敵、そして勝機しか見えていない」

 

 皆が立ち上がるのを待たずに、突き立てているラグネルの柄を握る。

 

「退路などもとより不要だ。この槍を持って道を切り開く」

 

 一息にラグネルを引き抜くと同時、障壁は消滅しアイクは大量のモンスターと対峙する。

 

「フィアナに誓って、君たちに勝利を約束しよう――着いて来い!」

 

 フィンが走り出すと同時、倒れていたティオナ、ティオネ、ベートは歯を食い縛り動かない身体に鞭を打って立ち上がる。

 アイクは障壁付近にいたモンスターをラグネルを一振り、障壁付近にいたモンスターはすべて魔石ごと砕かれ灰に帰り、次々と迫りくる女型の精霊の触手を全て切り払っていく。

 

「それとも、ベル・クラネルの真似事は、君たちには荷が重いか?」

 

 此度の遠征で目撃したベル・クラネルの『冒険』。

 レベル1の彼がレベル2相当のミノタウロス、それも強化種を一騎打ちで下した。これを冒険と言わずして、何を冒険と言おうか。

 

「――雑魚に負けてられっかッッ!!」「……上等じゃない」「私たちも冒険しなくちゃね」

 

 発破をかけられたレベル5の王権者たちは次々と立ち上がり、各々武器を構える。

 アイズも満身創痍の身体に鞭打って立ち上がる。愛剣である『デスペレード』を投げ捨て先ほどアイクに借り受けた『アロンダイト』を構える。

 

「ラウルたちは後方支援に徹しろ!僕とアイズたちで女体型に突撃する!レフィーヤ、君も来るんだ!」

 

 ベル・クラネルの名前を聞き立ち上がったレフィーヤも前線へと連れて行く。フィンが指示を飛ばしている間も、アイクは敵の進行を食い止めていた。

 

「リヴェリア、ガレス。ここで終わりかい?」

 

 いまだに意識を取り戻さないリヴェリアとガレスの元へと駆け寄り、フィンは問う。

 

「ならばそこで寝ていろ。僕は先へ行く」

 

 答えを聞く間も与えずに、フィンは前線へと向かう。

 

「あの生意気な小人め……おい、起きろ、クソエルフ!いつまで寝ている!」

 

 ガレスが意識を取り戻し、フィンを毒づき、リヴェリアを叱咤する。

 

「少し黙れ……脳筋ドワーフ……!」

 

 やがてリヴェリアも目を覚まし出会った当初のような憎まれ口をたたく。

 

『リヴェリアさん!ガレスさん!』

 

 二人の復活に後衛のサポート組は歓喜の声を上げる。

 

「お前ら、斧をよこせえええぇーーー!!」

 

「お前たち、私を守れ!」

 

 ガレスが叫び、リヴェリアの足元には巨大な魔法陣が出現する。

 リヴェリアの指示を聞いたサポート組はリヴェリアの援護をしようと思い動き出そうとするが、その必要は無いとすぐに悟った。

 

「リヴェリアの援護は任せろ、お前たちはあいつらのサポートに徹しろ」

 

 フィンが前線で次々とモンスターをなぎ倒していく。アイズは必殺の一撃を打ち込むために魔力を集中させている。

 他にも前線では第一級冒険者たちが善戦している。アイクは後ろに下がって一人でリヴェリアの援護に回ったほうが戦力ダウンは免れると判断した。

 リヴェリアはアイクの方を向き何やら言いたそうな顔をしているが、アイクはそれを一瞥する。

 

「お前は魔法の詠唱に集中しろ。お前に向かってきた敵は、俺がすべて倒す。それとも、俺一人の援護では不安か?」

 

「……いいや、むしろ頼もしすぎる!」

 

 前線では女型の精霊の魔法をレフィーヤが防いでいる。そして彼らと精霊の彼我の距離は五十メートルを切った。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ――】」

 

 リヴェリアが詠唱を始める。その魔力に反応し、芋虫型のモンスターや食人花が次々とこちらへ押し寄せてくる。

 アイクは前に出て剣を一閃、斬撃を飛ばしモンスターを次々と撃破していく。後ろからはサポーター組からの魔剣による援護があり、一定の距離からモンスターを近づけさせない。

 

「【黄昏を前に風を巻け】」

 

 後ろから向かってくる敵には椿が対応し、リヴェリアを守っている陣形は全くもって崩れることを知らない。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地、吹雪け、三度の厳冬――終焉の訪れ――】」

 

 『詠唱連結』。エルフの王族であるリヴェリアのみに許された魔法特性。彼女がステータスに発現させた三つの魔法、そのどれにも含まれている詠唱属性。

 

「【間もなく、焔は放たれる】」

 

 攻撃、防御、回復の三属性の魔法を『詠唱連結』によって使いこなし、九つの魔法を扱う彼女につけられた二つ名は『九魔姫』。

 

「【忍び寄る戦火、免れ得ぬ破滅。回戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

 【ウィン・フィンブルヴェトル】から『詠唱連結』により膨大な精神力と異なる詠唱分がつぎ込まれる。

 

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に終幕を。焼き尽くせ、スルトの剣――我が名は、アールヴ】!」

 

 迫りくるモンスターたちを殲滅していたアイクは、魔法の完成を確認した。急ぎリヴェリアの後ろまで下がり、リヴェリアは女型の精霊、それに付き従うもモンスターすべてに狙いを定めた。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!」

 

 巨大な業火は目の前のものすべてを焼き尽くす。芋虫型のモンスター、食人花を焼き払い、その業火は女型の精霊を直撃する。

 

「上出来だ」

 

 魔法の酷使による精神枯渇直前のリヴェリアの肩を抱き、その場に座らせる。

 レベル8の敏捷の全力を以って、女型の精霊に向かって特攻するアイク。その間わずか数瞬、ガレスに向かって射出された縁槍の間に体を滑り込ませ、その縁槍をすべて切り捨てる。

 全力の一撃に備えていたアイズがその場を駆けだし、アロンダイトを構え、その身を空中に踊らせる。

 身に纏った風を足場とし、女型の精霊に向けて全力で突っ込む。

 そして『彼女』は笑った。

 

『【アイシクル・エッジ】』

 

 体内で練っていた魔法陣が顕現し、空中にいるアイズに向けて氷が射出される。

 縁槍をすべてきっり払ったアイクは、瞬間その氷に向けてラグネルを投擲し、氷を粉々に砕く。

 これでアイズの剣を妨げる障害はすべて取り払った。

 

「リル・ラファーガ!」

 

 女型の精霊に向けて今まで蓄積させてきたエネルギーをすべてぶつける。直撃した女型の精霊はその姿を少しづつ灰へと姿を変えていき、やがて魔石が露呈する。

 突撃したエネルギーをそのままに、アイズはの突きは止まらない。やがては魔石をも砕き、女型の精霊は完全にその姿を灰へと変えた。




始めて4000字到達した気がする

そして後に三話で戦争遊戯に到達する。
個人的に今一番書きたいところは戦争遊戯だったりする。ワユ無双の予定ですよwww

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。