蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:クッペ
そんない遅いですかね?まあ今回早く終わらせると暫くワユ出てこないと思うので勘弁して欲しいですね
「リリ、ヴェルフ、命さんまで!」
「久しぶりだなベル」
「お久しぶりです、ベル殿。その、後ろの御仁は……?」
「あたしはワユ、少し前に『ヘスティア・ファミリア』に入ったんだ」
とりあえず初対面ということもあって自己紹介から入る。小人族の少女はリリ、赤髪の青年はヴェルフ、黒髪を結んだ少女はヤマト・命、覆面の妖精はいまだ一言も言葉を発してはいない。
「それでヘスティア、彼女たちが今回の『戦争遊戯』の助っ人ってどういうこと?」
「言葉の通りさ。彼女たちは今回の『戦争遊戯』のために改宗してくれたんだ。まあ命君は一年間だけだけど……」
「今回のルール上問題はありません。オラリオ内の他ファミリアの冒険者は援軍として出ることはできませんが、改宗は特に制限はありませんし、ルールにも抵触していませんから」
「はぁ……それで、リューさんはどうしてここに?」
覆面を被った妖精、リューは軽くため息を吐きながらベルの問いに答える。
「神ヘスティアに頼まれたからです。それにあなたが他のファミリアに行ってお店に来なくなってしまうと、シルが悲しむ」
それと――と続けるリュー。
「クラネルさん、覆面をしているのですから、あまり本名を言わないで頂きたい。貴方がたは私を知っているからいいですが、どこで誰が聞き耳を立てているか分かりません。私はギルドのブラックリストに載っていますから」
「す、すいません……でもリューさんが参加することはルール上問題ないんですか?」
「アストレア様、私の主神様は現在都市外でひっそりと暮らしています。今回の都市外のファミリアからの助っ人は参加可能というルールの問題上、大丈夫だと思います」
「それでさ、この人たち戦えるの?」
何気ないワユの一言でピシリと空気が固まった。
リリはサポーター専門のレベル1だがヴェルフ、命はレベル2、リューはレベル4の冒険者なのだが……
「この中で一番強い人はそこの覆面の人だよね?それでも『アポロン・ファミリア』の軍勢に相手取れるの?」
別に意図して挑発しているわけではない。単に疑問に思ったことを口に出しているだけなのだが、鍛冶師だが戦える鍛冶師を自称しているヴェルフ。準零細だが『タケミカヅチ・ファミリア』の数少ないレベル2の命、現在は前線から身を引いているがレベル4のリューにはそれぞれの冒険者としてのプライドがある。
「そう言うあなたは大丈夫なのでしょうか?先ほどの話から察するに、あなたはまだ冒険者になって日が浅いはずだ。いかに『アポロン・ファミリア』の構成員の殆どがレベル1と2だからと言って、冒険者になって数か月で相手取れるほどの弱輩ではない」
「あたしは大丈夫、何ならここに居る全員相手取っても無傷で切り抜けられるよ。それに、『戦争遊戯』じゃなくて今回は本当の戦争に限りなく近い、君たちに人を殺す覚悟はあるの?」
「敵を殺さなくても、敵将さえ突破してしまえば我らの勝利です。殺めることを第一目的とするのではなく、あくまで敵将のヒュアキントスを打ち取ることを目的とすれば――」
「敵の目的はベル以外の眷属の皆殺しだ。今回のルール上、あたしたちは殺されてもヘスティアは文句を言えないし、何もできない。自分を殺そうと思ってる相手を殺さないで無力化するなんて、それこそこの世界でいうレベルっていうやつに差が1、大勢相手取る余裕が欲しければ2以上必要だ」
「ワユ君、そのあたりに――」
「君たちがなんのために戦うのかは知らないけど、殺し殺される覚悟もなしに今回の戦場に踏み込むべきじゃないと思うけど?」
突然、ヴェルフが立ち上がり床に置いていた大剣を抜き、ワユに切りかかってくる。ワユは座りながら正面からその剣をエタルドで受け止め鍔迫り合いに持ち込む。
「友のため、ベルのために戦う。あんたが何様のつもりかは知らないが、あいつのためなら、俺はなんだってしよう」
「ふぅん……」
鍔迫り合いの体勢から力を逸らし、ヴェルフをいなし、勢い余ってヴェルフは壁に叩きつけられる。いなしたかと思ったら命の刀がワユを襲う。
分かっていたかのようにその刀を受け止め、またもや鍔迫り合いに持ち込む。
「自分は、ベル殿にまだ何も返せていません。そして約束しました、今度は互いに助け合おうと。見ず知らずのあなたでも、その覚悟を証明できるのならば、ここで切り捨ててみせましょう」
「へぇ……」
そのまま命は刀を引き、袈裟切り、逆袈裟、突きと剣舞する。それを片手で防ぎ続け剣を逆手に持ち、柄の部分で命の鳩尾を殴りつける。
息が詰まりその場にうずくまる命に目もくれない。
「覆面の君は何もしてこないの?」
「私は誰かのために戦うなんて綺麗事を言える立場ではありませんから」
「……」
「私がなぜブラックリストに載っているか御存知ですか?」
「いいや、あたしは君の名前しか知らない」
「私は昔、敵対しているファミリアに自分のファミリアが罠に嵌められ、私一人を残して全滅しました」
「……続けて」
「その罠に嵌めたファミリアを、私怨で私は全滅させています。皆、この手で殺しました。敵を駆除し終え、路地裏に倒れていた私を拾ってくれたのはシルとミア母さんです。強いて誰のために戦うのかと問われたら、私はシルのために戦います」
俯いて黙って話を聞いているワユに、リューはそのまま話し続ける。
「それに私はあなたが先ほど言っている条件を満たしています。私はレベル4だ。殺さずに無力化すのにあなたが必要だと睨んでいるレベルには到達しています」
俯き、表情を窺えないワユの肩が急にプルプルと震えだし、震えがだんだんと大きくなってきたかと思ったら、急に高笑いをし始めた。
「あはははは!良いねえ!君たち最高だよ!」
「「「……は?」」」
いきなり襲い掛かり、本気で気狼てしてきたヴェルフと命を最高だという。
不謹慎ながらリューの話を聞いて最高だという。
(((この人、頭おかしい……)))
三人の考えていたことが見事に一致した瞬間だった。
「で、そこに固まってる少女ちゃんはどうなの?戦闘員じゃないんでしょ?」
「リリは、確かに戦えません。ですが、皆様のサポートは全力でやらせていただきますよ」
「それが、人を殺すことだと知っていても?」
「ただの殺人鬼に協力するつもりは毛頭ありませんが、皆さまならば是非に」
「ふふふ……やっぱり君たち最高だね……ははは!」
何が起きているのかわからないという表情を浮かべている四人に見向きもせず、おもむろに立ち上がったかと思うと、
「そう言えば、ちゃんとした自己紹介がまだだったね。あたしはワユ。今は『ヘスティア・ファミリア』でオラリオで一番レベルが高いレベル7。本当の正体はテリウス大陸のクリミア王国、グレイル傭兵団のワユ。グレイル傭兵団団長のアイクの永遠の宿敵!女神アスタルテを倒した戦いにも参加していたんだ!嘘かどうかは、そこでベルに抱き着いている神様にでも聞くといいよ」
* * * * * * * * * *
あれから五日間、再びベルとワユは二人でダンジョンに潜る、予定だったが特訓にヴェルフと命とリューも参加したいと言い出し、サポートにリリが一緒に来るという『戦争遊戯』『ヘスティア・ファミリア』全員集合になってしまった。
今回の戦いの場の『シュリーム古城跡地』まではオラリオから二日かかるため、一週間ではなく五日で切り上げることになった。
ダンジョンから帰還し、真っ先にヘスティアの元に向かい、ベル、命、ヴェルフはステータスを更新してもらった。ワユはこの『神の恩恵』があまり好きではなく、特訓してすぐに強くなるんじゃ面白くない!と更新を行わなかった。
ベルのステータスはアビリティオールSS、敏捷に至ってはSSS。ヴェルフと命もアビリティが二段階~三段階上がっているものもあった。
オラリオから馬車に乗り、戦場に向かうこと二日間、『ヘスティア・ファミリア』の眷属は『シュリーム古城跡地』に到着した。
「作戦はどっちにする?」
ここでヴェルフの言う作戦というのは速攻で蹴りをつけるか、エタルドによる障壁でただ相手が諦めるのを待つか、というかなり下種な作戦なのだが。
「勿論、早々に蹴りをつけるよ」
「ええ、正直敵が苦しむ姿を一方的に眺めているというのも悪くは無いのですが、恐らくこちらが先に飽きるでしょう」
「リュー殿も中々厳しい事を言いますね……」
「ヴェルフ様、頼んでいた者は用意できましたか?」
「用意してある、がやはり時間が足りなかった。用意できたのはこの二本だけだ」
「でしたらこの二本はワユ様とリュー様に持ってもらうことが賢明でしょう」
「ええー、あたしは要らないからリューが二本持っててよ」
「いえ、真っ先に突っ込むのが私たちなら、一本づつ共有しようじゃありませんか。こんな大きなもの、二本も持ってたら動き辛いので」
「リューさん、本当に言うようになりましたね……」
リューの性格が若干変わっているのはダンジョンの特訓が原因なのだが、ここでは割愛させてもらう。
「……そろそろ始まりますね」
リリの一言で、弛緩していた空気が一気に引き締まる。真っ先に突っ込むワユとリューは武器を抜き、後に攻めることになっているベルたちも、油断なく城を見据える。
やがて開始の合図が鳴り響き、合図と同時にワユとリューは戦場へと身を投じる。
レベル4のリューとレベル7のワユではどうしても速さに差が出てしまうため、並んで走ることは叶わない。
ワユの方が早いため、待ち構えていた敵に遭遇するのが早いのも当然ワユだ。
敵は五人、一斉にワユに向かって切りかかってくる。ワユはそのまま速度を緩めずに、敵の群れへと突っ込み剣を振るう。
敵とすれ違い、ワユが砂煙を上げ急停止する。止まると同時、ワユに襲い掛かった冒険者は皆血潮を噴き上げながら倒れ込む。
胸を切られ、内臓まで届いたものもいる。容体を確認するまでも無く、即死だった。
剣を振るい、剣に着いた血を振るう。
「よぉーし、絶好調の剣の冴え!我ながら惚れ惚れしちゃうね!」
あと二回くらいで終わっちゃうよ……
前書きでも書きましたが、戦争遊戯が終われば恐らく暫く彼らの出番はないでしょう