蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:クッペ
気が付いたら知らない場所にいた。辺りを見回すと薄暗い屋内、何やら石みたいなのが大量に転がっており、その傍には白髪の少年も転がっていた。
「ねぇ君、大丈夫?」
少年の傍らにより、肩を揺すりながら問いかけてみる。少年の方は何も反応をせず倒れたままだ。
ざっと少年を見て外傷がないことを確認した後に顔に手を持って行き呼吸の有無を確認する。呼吸は正常に行われているところから、ただ眠っているだけなのだろう。
そのまま少年を置いて少し歩き回ってみようと思った矢先、壁にひびが入り何やら手足のようなものが生えてくる。
珍しい光景にまじまじと見つめていると壁から何やら異形の化物が出て来た。
すると突然、異形の化物はワユに向けて拳を振り下ろしてきた。腰に差したエタルドを抜き化物をすれ違いざまに切る。
化物は姿を灰に変え何やら石のようなものを落とした。その後も壁からはピキピキと音が鳴り、次々と怪物は生み出される。
傍で倒れている少年を見殺しにするのは寝覚めが悪すぎる。どうやら倒せば姿を灰に帰ると分かった。
エタルドを抜いて向かってくる怪物を次々と切り伏せていく。
「あーもう!後で絶対報酬貰うからね!」
* * * * * * * * * *
生み出された化物をすべて倒し終える。少年のそばに座り、少年が目覚めるのを待つ。そう時間がかからないうちに少年は眼を覚ました。
「う…ん……あれ?ここは……僕生きてる?」
「あっ!起きた!」
「え!?えっと……あなたは?」
「あたしはワユ。ねえ、どうしてこんなところで倒れてたの?」
「えっと……魔法を新しく覚えられたので試し打ちをしていたら急に意識が遠のいて……あれ?さっきよりも魔石が多い?もしかしてあなたが?」
「うん、眠りこけてる君を守りながら戦ったけど……そうだ!」
手をポンと叩き名案が思いついたと言わんばかりだ。
「ねえ、あたしは君を守ったよね?」
「え?あ、はい」
「ということは君はあたしに然るべき対価を払う必要があると思わない?あたし傭兵だし、依頼は無かったけど……」
最後の一言を少年に聞こえないようにボソッと呟く。
「そ、そうですね……僕はあなたに何をすれば――」
「というわけだから、君にはあたしの質問に全て答えてもらう!それが今回の君があたしに払う報酬だ!」
* * * * * * * * * *
~ワユside~
少年の名前はベル・クラネル。ここは迷宮都市オラリオ?っていうところらしく、そこのダンジョン?っていうのに潜っていたようだ。
今あたしはベルと地上に向かっている。
「ねぇベル、テリウス大陸ってどこにあるか分かる?できれば明日までに帰りたいんだけど?」
「テリウス大陸?何言ってるんですかワユさん、テリウス大陸はお伽噺の中の話じゃないですか」
「へ?お伽噺?テリウスが?」
「ワユさん、『ファイアーエムブレム・暁の女神』っていうお伽噺知らないんですか?蒼炎の勇者アイクが女神アスタルテを倒して世界を救うお話なんですけど」
「ぶふっ!けほっ、けほっ!」
え!?お伽噺!?大将がアスタルテを滅ぼしたのってお伽噺だったの!?そんなはずないじゃん!アスタルテを滅ぼしたのはついこの間だよ!?
というか大将、なんでそんなお伽噺の主人公なんかになってるの……
「だ、大丈夫ですか、ワユさん?」
「う、うん……大丈夫、大丈夫……」
な訳がない!頭が追いつかない!え?つまりここってテリウスどころか、あたしがいた世界じゃないの?
そう言えばオラリオなんて聞いたことないな。
「あ、ワユさんってどこのファミリアなんですか?」
「ファミリア?」
「あ、ファミリアっていうのはですね、地上に降りてきた神様たちが『神の恩恵』っていうのを下界の人に刻んで、その恩恵を刻んでくれた神様を主神、神様と冒険者の集まりをファミリアっていうんですけど」
「いや、気が付いたらここに居たんだよね。だからそのファミリア?っていうのにも、『神の恩恵』?ってやつも知らないんだ」
「え!?じゃあ身寄りがないんですか?」
「そうなるね」
「じゃあ僕のホームに来ませんか?今日助けてくれたお礼ってことで」
「確かに……他に行く当てもないし、そうさせてもらおうかな」
* * * * * * * * * *
ベルに案内されたホームと呼ばれた場所は廃教会だった。
この廃れ具合が傭兵団の砦を彷彿とさせるなあ。その廃教会の前に誰かが立っている。
「ベル君!どうしてこんな時間にダンジョンに潜ったんだい!?それに後ろにいるのは女じゃないか!」
「ごめんなさい、神様……どうしても発現した魔法が気になってしまって……あ、神様。この人が倒れていた僕を助けてくれたんですよ。ワユさんっていうんです」
「ふーん……」
え?これが神様?あたしが知ってる神様はユンヌとアスタルテだけだけど、少なくともアスタルテの方は神々しかったけど……ユンヌの方は子供っぽかったから神様と言っても色々あるんだろうね。
「まあお礼を言っておくよ。『僕の』ベル君を助けてくれてありがとう」
「神様、ワユさん気が付いたらこの世界にいたらしくって、身寄りも恩恵もないらしいんです」
「ん?それはどういうことだい?」
「なんか青い光に包まれたと思ったらダンジョンにいたんだ」
「つまり君はまだファミリアに入っていないと……?」
「あれ?気が付いたらいたことに関しては無視なの?」
「そう言う難しいことはあんまり考えても仕方がないじゃないか!それよりも、君はどこのファミリアに所属していないんだね?」
「うん」
「『僕の』ベル君に色目を使わないなら!僕のファミリアに入らないかい?まだ眷属は一人しかいない零細ファミリアだけど……」
「え、いいの?」
「そっちが良ければ」
「ありがとう!えっと……」
「僕はヘスティア!気軽にヘスティア様とでも呼んでくれ」
「うん。よろしく。ヘスティア、ベル」
* * * * * * * * * *
廃教会の隠し扉を通ると地下室のようなものが広がっていた。そこには最低限生活できるものが揃っていた。
なんかこの狭さとかやっぱり砦を彷彿とさせる。こういうところの方が落ち着くな。
「じゃあワユ君、早速恩恵を刻もうと思うんだけど、良いかい?」
「どうすればいいの?」
「とりあえず上を脱いでそこのベッドにうつ伏せになってくれ」
「分かった」
早速上に脱いでいる鎧を外し、ローブを脱ぎ上半身を露わにする。
「う、うわわわわ!?」
「べ、ベル君!?君は外に出ててくれ!ワユ君、なんでベル君の前で急に脱ぎ始めるのさ!?」
「え?ヘスティアが脱げって言ったからだけど?」
「君には恥じらいっていうものが無いのかい!?」
別にいいんじゃない?減るもんじゃないし。まあボーレとかガトリーが覗いて来たらしばき倒してるんだろうけど。
「はあ、じゃあ刻むよ」
針を指先に刺し、背中を軽くなでる。何か変な感覚が身体を駆け巡った。
「はああああぁーー!?君一体何者なのさ!?」
「うん?どうかしたの?」
「何で恩恵刻んだばっかりでレベル7なのさ!レベル7ってフレイヤの所の『猛者』と並んで世界最強じゃないか!」
* * * * * * * * * *
ワユ
Lv.7
力:F 317+
耐久:G 256+
器用:E 405+
敏捷:E 409+
負の女神の加護 E 剣士 SS
≪スキル≫
【待ち伏せ】
・後の先を取りやすくなる
【流星】
・高速の五連撃を放つ
【神剣に選ばれしもの】
・神剣エタルドを装備可能
・装備時耐久のステータスに+補正
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「神剣エタルド……?どこかで聞いたことがあるような……まあよくはないけどいいや。ワユ君、明日ギルドに行って冒険者登録をしてきてくれ。このステータスの写しも一緒に出してね。スキルの欄とか詳しく聞かれても答えなくてもいいから」
「はーい」
「ベル君も、彼女にスキルやレベルに関しては黙っててほしい。君は根が素直過ぎるから嘘を付くのが苦手かもしれないけど、こればっかりは隠し通してほしい。彼女が他の神々に目を付けられないようにしてほしい」
「は、はい。分かりました」
次の日、ワユとベルはともにギルドに行きベルの担当冒険者のエイナ・チュールにお願いし冒険者登録をした。
その際多少眉を動かしたものの、そこまで表情の変化が無かったのは、アイクという前例があったからに他ならない。
これで閑話の方は一旦終了です
ステータスは上限値を10倍して端数は適当に書いてます