蒼炎の勇者がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:クッペ
ワードに全部コピーしてまとめて直せるんで手間ではないんですが少々面倒
まあ俺のミスなんでしょうがないのですが
「歓楽街ってどんなところだ?」
シルとリューの二人にそう尋ねると、部屋の空気がピシッ!と固まった気がした。
「あの、アイクさん……それ本気で私たちに聞いてます……?」
シルなんかは信じられないようなものを見たような表情を浮かべ、リューなんかは汚物を見るような目で見てくる。
「そうだが、何か拙かったか?」
「い、いえ……そういうわけではないのですが……」
「貴方の傭兵団は碌な人がいないのですか?戦闘狂の剣士だったり、女神殺しの貴方だったりと今まであった貴方の傭兵団に碌な人がいらっしゃらない気がするのですが」
「ちょっと待て、何であんたが俺が傭兵であることを知っている?」
「……気が付かないのも仕方がないですね。私はこの間の『戦争遊戯』の『ヘスティア・ファミリア』の助っ人冒険者です。その時に貴方の傭兵団の自称貴方のライバルを名乗る剣士の方がいらっしゃいまして。グレイル傭兵団はお伽噺では有名ですし、貴方の所の剣士が嘘を付いていないのは神ヘスティアに確認が取れていますので」
「……ちなみにそれを知ってるのはどれくらいの人数がいるんだ?」
「ワユさんが吹聴して回っていなければ『ヘスティア・ファミリア』に所属している眷属と私だけです」
その事実に胸をほっと撫で下ろす。折角ギルド側には情報を規制してもらってるのに、同じ傭兵団の団員に裏切られて事実が広まったとなると間抜け過ぎて言葉が出ない。
「それでアイクさん、なぜ歓楽街のことを私たちに聞くのでしょうか?新手のセクハラですか?」
「違う、今日ワユに話を聞いてな。生憎、向こうにはそんななぞの施設が存在しなかったものでな。ベルが歓楽街に行ってヘスティアに怒られたらしい」
「……へぇ、そうなんですか……それで、アイクさんがなぜ歓楽街のことを知りたがるのでしょうか?」
「どうもこのまま何も起こらないで済む問題ではない気がしてな。『ヘスティア・ファミリア』内で済ませれば良い問題を、なぜだか俺の所にも持ってこられそうな気がしてな」
「その心は?」
「直感だ」
「……あなたほどの手練れの戦士の直感は、意外と馬鹿にできないものがありますからね。仕方がありません、歓楽街がどんな所かお教えいたしましょう」
歓楽街は『イシュタル・ファミリア』が営んでいる。その場所では『イシュタル・ファミリア』に所属している女が、歓楽街に来た男に買われ一晩を共にするという場所だ。
買う、ということは基本的な倫理から外れなければ何をしてもある程度は黙認される。つまり淫行に耽ることもままあるのだ。
そして『イシュタル・ファミリア』の構成員は殆どがアマゾネスだ。アマゾネスはエルフと違って、潔癖なところはない。寧ろ強い男を求めて襲ってくるくらいだ。それに男に自らの身体を差し出すことにもほとんど抵抗がないものが多いらしい。
ここまでの話を聞いて、『ロキ・ファミリア』に所属している双子のアマゾネス、特に妹の方は少々特殊なのだと思った。彼女は現在強いものよりも、将来的に強くなりそうなもの、それこそベルにかなりの興味を示している。
アイクが歓楽街に入って戦闘を起こそうものならば、アマゾネスの本能の元真っ先に狙われるのだが、アイクはその可能性に至らなかったようだ。
そして話を全て聞いたところで、今までなぜ彼女たちが機嫌を傾けたのかが分かった。確かにこれは女性に聞くような内容ではなかった。
「悪かったな、お前たちに聞いていいような内容じゃなかったな」
「本当ですよ、女性に歓楽街の内容を聞くのは後にも先にもアイクさんだけかと思いますよ?」
「まあそういうことです。知らなかったとはいえ、以後気を付けることをお勧めします」
「そうはいってもな、まあ肝に銘じておく」
「ええそうして下さい。ついでに今度うちに食事に来てくれると助かります。貴方が来ると接客が大変ですが、その分給金が普段よりも弾むので」
「ふふっ、リューがそんな冗談いうなんて珍しいね」
「偶にはこういうのもいいでしょう。彼の傭兵団のメンバーにはかなりの迷惑を被ってますから」
「そろそろ俺は行かせてもらう。何か頼みごとがあったら『黄昏の館』にでも来てくれ。金を払えば可能な限り仕事を請け負うぞ」
そう言って部屋を出て行くアイク。そして部屋を出る直前に振り返り、シルに声をかける。
「そう言えば、シルの方はどこかで会ったことがあるか?俺が店に来た時以外で」
「いいえ、無いと思いますよ?」
それだけを確認して今度こそ『豊穣の女主人』を後にするアイク。帰る途中にリヴェリアに渡された買い物と、アイクの私金でリヴェリアに『新緑の宝石が埋め込まれたペンダント』を買って『黄昏の館』に到着した。
* * * * * * * * * *
次の日も『いつも通り』にワユが『黄昏の館』を訪れ、アイクとダンジョンに向かっていく。怪我をしてもいいように回復薬も多めに持って行っている。
ちなみにその回復薬は『ミアハ・ファミリア』で購入されたものであり、最近の『ミアハ・ファミリア』は彼らのおかげで少々儲けが増えてきたようだ。
そして『いつも通り』にダンジョンでワユが満足いくまで戦い、ダンジョンを出ようとした所で偶然ワユを除いた『ヘスティア・ファミリア』がダンジョンに潜るところに遭遇した。
「あれ、ベルじゃん。どうしたの皆して」
「少しお金が必要になりまして……と言うかワユさん、昨日話していたとき部屋にいましたよね?」
「昨日?なんか話してたっけ?」
「お前少しは自分の所属しているところに貢献しろよ」
「あの……ワユ殿、後ろの御仁はどなたでしょうか?」
長い黒髪を結び、和風の鎧を身につけた少女がワユに訊ねる。そしてワユそれが当たり前だという様にアイクの紹介をし始めた。
「この人うちの大将」
「おい、お前何考えてるんだ」
「え?何かいけない?」
「俺たちはこの世界からしたら異分子だぞ。それに俺たちのレベルなんかを考えたら俺たち、とくに俺を知ってる人は少ないほうがいいんだよ」
というのはリヴェリアやロキ、エイナなどに言われた受け売りなのだが、そのことをここでいう理由は無いのでここでは黙っておく。
そして今の問答はワユの言ってることが本当だという遠回しの受け答えでもあった。
「本当に彼の英雄、なのですね!自分、ヤマト・命と申します!以後よろしくお願いします、アイク殿!」
「あ、ああ」
アイクの方へと詰め寄り、自己紹介をしてくる命。目の前にお伽噺の英雄がいるとなっては興奮するなと言う方が難しいのだろうが。
「あんた、あの時の……『ロキ・ファミリア』に所属してたよな?」
「そうだな、一応な」
「ヴェルフ・クロッゾです。その剣、見せて貰ってもいいですか?」
「ワユの剣と同じでお前たちは持てないぞ?」
「構いません」
地面にラグネルを突き刺し、ヴェルフがその剣をじっくりと見回す。
そんな彼らの様子を見てベルとリリは微妙な表情をするしかない。ついこの間、『戦争遊戯』からの帰り道で襲い掛かり返り討ちにしたのがアイクなのだが、その時と使っている武器は違うし、ローブを羽織っていたためどうやら気が付かないようだ。
「ワユ様、リリ達これからクエストに行くんですけど、一緒に来てくれませんか?どうにも今回のクエスト、怪しいところが多すぎるんです」
「別にあたしは構わないけど、大将はどうする?一緒に受ける?」
「構わんが、面倒事は御免だぞ?」
「で、依頼の内容は?」
「【14階層の食糧庫で、石英を採掘して来い】、報酬は100万ヴァリスです。これだけの依頼で100万ヴァリスはキナ臭いんです。何かあった場合の為に、少しでも戦力が欲しいんです」
「そっちの金に余裕が出来たらいつか報酬せびりに行くからな」
「ありがとうございます、アイク様!」
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14階層までに向かう間のモンスターはアイクとワユが率先して討伐していった。アイクの戦いざまを初めて見る(本当は二回目)命とヴェルフは彼の戦いざまに驚愕を隠せずにいた。
すると突然、多方向からモンスターの方向が響き渡った。
「『怪物進呈』!?」
「『怪物進呈』?なんだそれは?」
「とりあえず説明は後です、一旦引きましょう」
ベル、リリ、命、ヴェルフは踵を返し殿にアイクとワユが着いて行き先ほど通った十字路で止まると別の方向からもモンスターの方向が響き渡った。
「二方向から!?」
「なるほど、ダンジョンであったモンスターの擦り付けか……ワユ、お前はもう一方の方に対処しろ。さっきの方は俺が対処する」
「了解!」
アイクとワユが方向が聞こえた道に張り付き、ベルたちはサポーターであるリリを守る陣形を取っている。
「三方向!?」
また別の方向からも『怪物進呈』がされた。そしてそのモンスターを引き連れた冒険者たちはリリを守っていたベルたち、二方向からくるモンスターに対処していたアイクとワユへと襲い掛かった。
アイクとワユは咄嗟に地面を転がり冒険者の攻撃を躱し立ち上がった瞬間襲い掛かって来たモンスターに向けて斬撃を飛ばし魔石ごとモンスターを撃破した。
しかしベルの方はそううまくは行かなかった。襲ってきた冒険者のレベルが恐らくベルと命とヴェルフで対応できるレベルであったとしても、多人数を同時に相手取る経験は不足している。
(厄介な――!)
次々と襲ってくるモンスター、隙をついて襲ってくる冒険者たちに内心で毒づき、アイクは同時に相手取るという選択肢を変えた。
冒険者の方に完全に背を向け、襲ってくるモンスターを先に討伐し、そののちに冒険者がまだ襲ってくるようならばそちらの相手を取ることにした。
モンスターが来る進路へと進み、ラグネルを振るい次々とモンスターを討伐していく。その間も後ろからの攻撃に少しの注意を払いながらも次々とモンスターを討伐していく。
やがてモンスターを討伐し終え、後ろを振り返ると二人の冒険者がちょうど武器を振り上げていた。片方の攻撃を剣で受け止めがら空きの鳩尾を左拳で殴りつけ、次いで襲ってきたもう一人の攻撃を身を翻す最小限の動きで躱しカウンターを叩きこむ。
二人の冒険者を撃退したアイクは先ほどの十字路まで引き返す。ワユが戦っていた方を見ると大量の魔石が転がっているところを見るに、ワユはモンスターを討伐し終えたようだ。しかしワユは地面に倒れている。
そしてベルたちの方も命を除き地面に倒れていた。何事かと確認しようとしたところでアイクは急激な眠気に襲われる。
ここでアイクとワユの弱点らしい弱点を説明しよう。アイクとワユはもともと冒険者ではない、つまり他の冒険者がレベルが上がった時に取れる『発展アビリティ』が取れていない。
アイクの方は『負の女神の加護E』という発展アビリティ。ワユの方はそこに『剣士SS』という発展アビリティが入ってくる。しかし両方とも『耐異常』の発展アビリティは存在しない。
そしてアイクもワユも魔法の攻撃に対する耐性は低めだ。つまり魔法による状態異常、もしくは状態異常にする攻撃をされた場合、その攻撃を躱す以外に彼らがそれらを防ぐ術はない。
そしてこの空間にはいつの間にか『怪物進呈』をしてきた冒険者のうちの誰かが放った睡眠薬が散布されていた。
命は耐異常Iを持っているため何とか起きてはいるが、それも時間の問題だろう。
そして相手の冒険者の殆どが耐異常H以上なのだろう、誰もが意識を手放そうとはしていなかった。
「ゲゲゲゲゲゲゲ」
そんな不気味な笑い声を聞きながら、アイクも意識を手放した。
アイクとワユがラグネル、エタルドを持っている間は軽くなっているっていう勝手な設定を加えさせていただきます。